皆さんは、プラハに行ったことがありますか?
プラハは、ドイツやポーランドと接する中欧の国・チェコの首都。丘の上にそびえるプラハ城、ヴルタヴァ川にかかるカレル橋、どこまでも広がるオレンジ屋根の旧市街……「世界で最も美しい街」との呼び声も高いプラハは、ヨーロッパの一大観光地でもあります。小説家フランツ・カフカの街、というイメージをお持ちのかたも多いでしょう。
ヴルタヴァ川とカレル橋、プラハ城
でも、そんなプラハに、ヨーロッパ屈指の歴史を誇る大学があるって、皆さんご存知でしたか?普段はチェコのお隣オーストリアに住んでいる筆者。噂を聞きつけて、「中欧最古」のカレル大学(チェコ語:Univerzita Karlova)に行ってきました!
まずは大学の本屋さんへ
まずは、プラハ旧市街のど真ん中、お土産屋の立ち並ぶツェレトナー通りにある、カレル大学の本屋さんへ。日本でいう「大学書籍部」であるとともに、カレル大学出版会の直営書店でもあります。
建物正面に書かれた大学名と校章が目印
大きなランプに照らされた明るい空間に、本がところ狭しと並べられています。店員さんに写真を撮ってもいいか聞いたら、「そんなこと聞いてくれた人は今年になって初めてですよ」と快諾してくれました。
カレル大学のグッズも勢揃い
入り口を入って左手は学術書のコーナー
大学書店ということで学術書を多く取り扱っていますが、広く一般向けの書籍や絵本、英語で書かれたプラハのガイドブック、お土産にしたい文房具やポストカードなども充実しています。観光客と思われる方々も、ひっきりなしに訪れていました。
ここまで読んで、「あれ?」と思った人がいるかもしれません。——そう、カレル大学には「キャンパス」がないのです。
日本の大学には、壁や門で学外の空間と区切られた広いキャンパスがあることが一般的ですよね。一方ヨーロッパでは、日本のような意味でのキャンパスを持たない大学が多いのが特徴です。カレル大学もそうした大学のひとつで、大学の建物が街のあちこちに点在しています。プラハを歩いていると、「これもカレル大学!」「ここにもカレル大学!?」という具合に、本当にたくさんの大学施設を発見できます。
大通りに面したカレル大学教養学部
いざ、学食へ潜入!
そろそろお腹も空いてきたので、旧市街を歩いて南へ抜けて、プラハ大学の学食をめざします。
地図を見ながらたどり着いた建物は、ドアが閉まっていて、あまり人の気配もありません……本当にここに学食が……と不審に思うも、勇気を出して重いドアを押し開けると……ありました!
訪問時は12:30。お昼時で大賑わいの店内
早速モニターで今日のメニューをチェックしましょう。
英語表記もあるので安心。ベジタリアンメニューも
学外者は、先にレジで代金を支払ってからカウンターに並び、給仕スタッフにレシートを見せて注文します。チェコ語も話せず注文の仕方もわからず右往左往していた筆者ですが、スタッフの皆さんがとても優しくしてくれました。
注文したのは、ブロッコリーのクリームスープ、ミートローフのスヴィーチュコヴァー、マスのグリルとポテト。ケーキやサラダバーもありましたよ。紅茶とベリーティーは無料。お茶大国チェコならではのサービスですね。それでは、いただきます!
ミートローフのスヴィーチュコヴァー120.33チェコ・コルナ(Kč)(約780円)、スープ22Kč(約143円)
マスのグリルとポテト136.54 Kč(約890円)
おお、美味しい!見た目に反してマイルドな味付けで、嬉しい驚きです。スヴィーチュコヴァーとは、牛肉とクネドリーキにクリームソースがかけられたチェコの伝統料理。クネドリーキは写真で4枚重なっている白い添え物のことで、これまたチェコ名物の、蒸しパンならぬ茹でパン(!)です。フカフカしていて美味しいですよ。
学食とあって、値段も安いです。街中で同じものを食べる2倍近くはするのではないでしょうか。カレル大学の学生はこの値段から約3割引なので、さらにお得。安い・早い・美味いとくれば、この人気ぶりも納得です。
利用者はやはり学生が中心のようですが、教職員や、近くの地下鉄駅で働く方々もいました。観光客らしき人はいませんが、皆こちらを気にすることなく、黙々と食べています……と思っていたら、隣に座っていた学生さん2人が、「何語を話しているんですか?」と声をかけてきてくれました。聞くと、「カレル大学には食堂がいくつかあるけれど、ここが一番クールだ」とのこと。確かに、清潔で雰囲気も明るく、とてもクールな学食です!
昼下がり、大学の植物園を散歩
大満足の昼食後、今度はトラムに揺られて15分、理学部の植物園へ向かいます。
3.5ヘクタールの敷地内には大学の教育研究施設もありますが、大部分が一般に公開されています。木々がうっそうと生い茂る敷地は、植物園というよりも、広々とした公園という感じ。高低差があって、散歩がはかどります。
季節の企画展や、写生教室、野良猫の引き取り会など、一般向けのイベントも多数
植物園の設立は1775年で、ヨーロッパで最も古い大学植物園のひとつ。歴史ある貴重なコレクションを保有しており、なかには樹齢130年にのぼるヤシ、ソテツ、イチョウもあります。
訪問した当日は秋晴れで、木々が色づき始めたころ。観光客でごった返す街の中心部とはうって変わって、あたりはとても静かです。下校中の子どもたち、ベンチで本を読む若者、語り合うカップル、温室の熱帯魚に歓声を上げる親子連れ、大きな木を見上げるお年寄り……。みんな思い思いの昼下がりを過ごしていました。
公園は入園無料。温室は有料(大人100 Kč(約650円))
カレル大学の、長い長い歴史
カレル4世により神聖ローマ帝国で最初の大学としてカレル大学が創設されたのは、1348年のこと。アルプス以北・パリ以東で最初の総合大学であったことが、「中欧最古」の大学と呼ばれる由来です。長い歴史のなかで、宗教改革者のフス、理論物理学者のアインシュタイン、チェコスロヴァキア共和国初代大統領のマサリクなど、多くの歴史的人物がその教壇に立ってきました。
ハプスブルク帝国のもとで繁栄と変革を遂げ、ドイツのナチス政権により迫害され、社会主義政権により教育研究活動を統制されたカレル大学。20世紀後半に起きた「プラハの春」と「ビロード革命」では、民主化を求める大きなうねりの震源地となりました。
今回は残念ながら、大学博物館と大学本館は改修工事中で訪問できませんでしたが、プラハの街を歩いているだけで、大学の長い長い歴史の一端を垣間見ることができた気がします。
街に織り込まれ、街に溶け込み、街とひとつになった大学——カレル大学は、そんな場所でした。
カレル大学とつながりの深いクレメンティヌムの天文塔から、ティーン教会を望んで
※日本円表記は、2023年10月訪問時のレート(1チェコ・コルナ=約6.5円)に基づいて算出しています。