準備編にて、昨年の公演でのべ観客数約3, 800人という、学生主催の演劇としては驚きの動員を誇る明治大学シェイクスピアプロジェクト(以降、MSP)の準備風景をご紹介した。11月、MSP第12回公演がいよいよ本番を迎え、多くの観客が訪れて満員の公演にお邪魔してきた。
参照:古典とあなどるなかれ。息を飲む明大のシェイクスピア演劇!(準備編)
『薔薇戦争』って? まずは、簡単にあらすじをご紹介
演目となるのは、中世イングランド内乱を史劇として描いたシェイクスピアの戯曲『薔薇戦争』。薔薇戦争は、1450年代~1480年代に実際に起こった内乱で、争い合ったランカスター家とヨーク家が、それぞれ赤薔薇と白薔薇の記章を掲げていたことから薔薇戦争と呼ばれている。
MSPでは、この古典戯曲の名作を第一部「ヘンリー六世」と第二部「リチャード三世」の2部で構成。総勢100人を超える学生スタッフが主体となり、2部合わせて約3時間にも及ぶ、歴史劇の大作をつくり上げた。
第一部「ヘンリー六世」の一場面。ステンドグラス模様の美術が美しい
演者はもちろん、脚本、演出、舞台美術、音楽の全てを学生が担当
群舞、殺陣… 動きのあるシーンが見ごたえ満点
いよいよ、鑑賞スタート。最初に目を引かれたのは、第一部にある群衆ダンスで、前回の取材時にプロデューサー補佐の清水さんがイチ押ししていたシーンだった。ほぼフルキャストに近い大人数が舞台を縦横に駆け回る様子は、まるで戦争による混沌とした国や人々を表現しているかのよう。他のシーンと異なり、キャスト全員が白い衣装を身につけることで、より印象的な世界観をつくっているように感じられた。
劇中キャストが総勢30人以上という、大人数のキャストを活かしたシーンは他にもあり、ランカスター家とヨーク家の戦いのシーンも見ごたえあり。迫力ある殺陣を見ることができた。
薔薇の花びらが開くイメージを振り付けされた
ダメな王が、強すぎる王妃の魅力に彩りをそえる
第一部「ヘンリー六世」で、最も印象的だったのが王妃マーガレットの活躍。前回の取材で話を伺った永野さんの好演が光っていた。自らも戦場に赴き、王らしからぬ弱気なヘンリー六世(夫)の手を引く。さらに、敵であるヨーク公の息子を暗殺した後、絶望して涙するヨーク公に息子の血がしみ込んだハンカチを差し出すという悪女ぶりを披露。悪い、悪すぎる! それでも憎々しくならないのは、永野さんが演じるマーガレットが、どこか凛とした強さに通じる“芯”があるからだと感じた。
一方、ヘンリー六世は「私がいない方が勝利に近づくらしい」と、戦いに対してさらに弱気に。この強すぎる女性と弱すぎる男性という関係、現代にもよくあるような気がする…。王を支えながらも、マーガレットが心の拠りどころとするサフォーク公との別れのシーンもジーンとくるものがあった。本当に好きな人の前では、健気で可憐な女性になってしまう、そこもマーガレットの魅力だと感じた。
マーガレットとサフォーク公の別れのシーン
リチャード三世を女性が演じる
第二部の主人公リチャード三世を演じたのは、文学部2年生の加藤彩さん。男性役でしかも醜男というキャラクターを女性の加藤さんが見事に演じきった。MSPのFacebookページにて、公演を鑑賞した舞台関係者が「女性の演じるリチャード三世を初めて観ました。小柄な女性だからこそ、リチャードの身体的なコンプレックスをうまく表現できていたのだと思います」と評価を残している。
リチャード三世は、敵も味方も邪魔ものを次々と殺すという悪逆の限りをつくし、やがて王となる。しかし、王となったのも束の間で、再びリッチモンド伯と戦うことに…。『薔薇戦争』のラストは、このリッチモンド伯との戦闘シーンだ。敗戦の色が濃くなると、「馬をよこせ!俺の国をくれてやる!」と死に物狂いで戦いから逃れようとするリチャード三世。地位もプライドも捨て、必死で“生”にしがみつこうとするリチャード三世に、哀れな気持ちすら感じる。やがて、リッチモンド伯の兵に無残に仕留められる。欲望のままに生き抜いたリチャード三世に相応しい最後を、加藤さんが力強く演じた。
第二部のラストシーン。リチャード三世は苦痛に顔をゆがめ息絶える
学生演劇ならではの面白さ
私にとって、初めての古典演劇の鑑賞。難解な古典のセリフが、学生の感性によって分かりやすい現代の言葉で表現されていたので、役の感情を自然に理解できた。
また、構成・脚本・演技・制作・運営を学生が手掛けている日本屈指の学生演劇だからこそ、学生の力強さを存分に感じられた舞台だった。高いクオリティと力強さを合わせもつ演劇を、初心者でも身構えずに鑑賞できるのは学生演劇ならではと思う。MSPの公演を通して、学生演劇の魅力を知ることができた。