芸術の街、上野。多くの美術館が建ち並ぶその一角に芸術大学界のトップ「東京藝術大学」があります。そんな東京藝大の敷地内美術館にて「うらめしや~、冥途のみやげ展」が開催中。この展示は「うらみ」をテーマに行われています。
どうして「うらみ」という特殊な系譜で美術作品を展示することになったのでしょうか。展示会のレポート、そして主催である東京藝術大学大学美術館 古田 亮准教授のお話をお届けいたします。
幽霊たちが活きる展示
上野公園に入ってすぐ、美術館の展示会ポスターがずらり!
さすが芸術の街です。
平日でも多くの人で賑わう上野公園をぬけ、東京藝大へ。
大学へ着くとドーンと大きな看板がお出迎え。
実は道に迷ってしまっていたのですが、この大きな看板でなんとか到着!
夜に見ると怖そう・・・
今回の展示は展示方法にも強いこだわりがあるそう。例えば、入り口にあたるこの部分。
ぼんやりとした火の玉が現れると、次には・・・
幽霊(幽霊図 河鍋暁斎 イズラエル・ゴールドマン・コレクション(ロンドン))が!
思わず背筋がゾッとする演出です。
本展は三遊亭圓朝の幽霊画コレクションを主としており、圓朝ゆかりのものも展示されていました。
東京演芸会 ビラ
薄暗い会場の中、足を進めていくと一際大きなスペースに出ます。
お伺いしたのは、お盆明けすぐの平日。閉館間際だったにもかかわらずたくさんの人が!
薄暗い会場。幽霊画の魅力がひきたちます
掛け軸が一幅ずつライトアップされ、描かれた幽霊たちの表情がはっきりと浮き出ています
ずっと見ていると消えていってしまいそうな儚げな幽霊もいれば、今にも動き出しそうな怨念深さを感じる幽霊もいました。
「まるで生きているよう」というのは幽霊に対しての言葉として少し変ですが、わたしはそう感じました。
錦絵による「うらみ」
展示会場を進み、幽霊画の展示が終わると、会場は一気に明るくなりました。
ここからは錦絵で「うらみ」をみていきます。(錦絵とは浮世絵のなかでも精巧な多色摺の木版画のことを言います。)
幽霊画とは一変して明るい空間の錦絵展示会場
歌川国芳の作品
幽霊画とは一変、鮮やかな色使いで堂々と「うらみ」が描かれています。
今回展示されていた作品は江戸時代後半から明治時代にかけてものということなのですが、全く古さは感じられず色味もそのまま。まるで現代のポップアートを見ているようでした。
幽霊画はずっと見ている内に沸いてくる怖さがある一方、錦絵には一目見て分かる怖さがありました。
なぜ「うらみ」?
なぜ「うらみ」を系譜する展示を行うことになったのか。
ここからは主催である東京藝術大学大学美術館 古田 亮准教授にお話しをお伺いしていきます。
東京藝術大学大学美術館 古田 亮准教授
――なぜこのような展示を行うことになったのでしょうか。
大学の地域連携というものが注目されつつあるときでした。当大学でも地域連携の一貫として、大学の近くにあるお寺、全生庵の所蔵物である圓朝コレクションを展示してはどうかと。
50幅に及ぶコレクションを展示することは大学の学究的な面でもアプローチできますから。
実はこの展示は2011年の夏に行われる予定だったんです。しかし同年の3月に東日本大震災が起こり、テーマ的にもどうしようかと悩んでいたところ節電対策の話がきて。これは無理だなと。そこで一度延期というカタチをとりました。
そして4年経った今年、開催することになりました。
――今回のメインとなった幽霊画の魅力とはどのようなところにありますか。
「怖さ」と「美しさ」が同時に存在するところです。「怖さ」だけでなく、その先に美術的な美しさがある。
こうした日本美術の闇を表現した作品っていうのは、作品を見ることで見た人のこれまでの人生経験がはね返ってくるんです。どんな人間でも「失敗」や「恨みをかったかもしれない」といった負の感情は心のどこかに残っています。作品を見ることで、この感情が思い出される。それが「怖さ」なんです。怖さのインパクトがあることで、人々は作品の魅力を覚えている、伝えていくんです。
――今回の展示のターゲットはどのような方ですか。
実は決めてなかったんですよね。でも広報をはじめる段階で決めなくてはとなり、最近子どもたちに流行の妖怪の作品はないし、大人向けの展示会にしよう! と。
ところがいざ始まってみると、中学生や高校生が多いんですよ。入場料が少し安いからかなと考えたのですが、これまで行ってきた展示も同じ価格でしたが、そんなことなかったし。
今まではあまり興味のなかった子たちが来てくれて嬉しいことではありますね。でも、なんでだろう(笑)。
――古田先生のいちおしの作品はどれですか。
「生成(なまなり)」です。インパクトはあるのですが、怖がらせようという気持ちは感じられない。「怖い」ってなんだろうって問いかけてくる作品なんです。
生成・・・人の心を捨て切れていない鬼女を表している。不気味な中にもの悲しさが感じられる
「うらみ」と一言で言っても、その奥には悲しみ・憎しみ・妬みなど様々な感情があるもの。今回の展示では作品が持つ怖さはもちろん、見る側であるわたしたちの内に秘められた「怖さ」を呼び起こすことで、更なる恐怖を味わうことができます。
「うらめしや~、冥途のみやげ展」は9月13日(日)まで開催。
更に9月1日(火)からは「焔 上村松園 東京国立博物館蔵」が限定公開。ぜひ足をお運びください!