新型コロナの問題もあって、「家にいながら楽しめる、学べるコンテンツを探す機会が増えた」という声を耳にします。
そこでおすすめしたいのが、大学や研究機関のデジタルアーカイブ。研究機関ならではの専門性を活かして収集された貴重な資料が大量にアーカイブされ、ネット上で公開されています。見ているだけで楽しい画、あっと驚くような本、自分の育った地域の昔の写真、そんな資料も見つかるかも知れません。
ほとんど0円大学では、ぜひ一度はアクセスして欲しいデジタルアーカイブを数回にわたって紹介していきます(第1回目はこちら)。
第2回は、東京学芸大学附属図書館のデジタルアーカイブに注目。主に近代の知育玩具や教科書が閲覧できます。明治の頃の人々は、どんなビジュアルを使って教育を行っていたのでしょうか?眺めているだけでも時間を忘れてしまいそうな、インパクトのある資料をたっぷり楽しむことができます。(編集部)
※今回紹介するアーカイブでは、資料本文の表示にFlash Playerを使用しており、環境によっては閲覧できませんが、[データダウンロード]と記載されている場合、そちらからjpeg画像ファイルとして閲覧することもできます。
※トップ画像は『世進電話雙六』(東京学芸大学附属図書館所蔵)を一部改変(トリミング)
[2024.11.6追記:本記事で紹介しているデジタルアーカイブ「学びと遊びの歴史」は、現在、東京学芸大学教育コンテンツアーカイブに引き継がれています。記事内のリンクは引き継ぎ先のページに設定し直しています。また、本文中で触れられているコンテンツの一部は公開を終了しています。(編集部)]
東京学芸大学は、その前身から教育や教員養成に関する研究に長く携わってきた学校である。そうした来歴もあってか、附属図書館には教育関係の貴重な資料がわんさとある。そんな特色ある資料を誰もが自由に閲覧できるよう公開しているのが、同館のデジタルアーカイブ『学びと遊びの歴史』だ。サイト内の「資料を知る」というページによれば、資料は大きく『往来物』『明治初期教科書』『心学資料』『絵双六(すごろく)』『おもちゃ絵』の5つに分類。それぞれ資料本文のデジタル画像に加え、各資料についての概説やコラム、電子展示や翻字(読みやすい文字に改めた資料)など、理解を深めて楽しめるコンテンツが用意されている。
『往来物』とは、平安末期から明治前期まで広く使われた初級教科書のこと。もともと往復の手紙文を例文としたことから名づけられたという。同館では、2,500点を越える往来物を所蔵し、そのほとんどをデジタル化。タイトルや分類などから探しだせる。
『明治初期教科書』は読んで字の如くだが、明治初期は旧来の教科書と近代教科書の融合統一が行われた時代。アーカイブは「小学校教則綱領」が公布された1881(明治14)年以前以後に分類されていて、その変遷が科目ごとに見比べられるのも興味深い。
『心学』とは、江戸中期、商家の奉公人を務めた石田梅岩(ばいがん)が始めた思想・哲学。低く見られがちだった“商業”の社会的意義を説き、忠孝・正直・倹約などの実践を広めたことが資料を通じて語られている。
こうした資料のなかでも特にハートをブチ抜かれたのが、『絵双六』『おもちゃ絵』だ。グッとくる画像が数々掲載されているので、断片だけでもご紹介する。
やはり本物の引力は圧巻!“レトロタッチ”を凌駕する画力にお手上げ
「小學尋常科高等科修業壽語録」の袋(東京学芸大学附属図書館所蔵)
江戸時代に始まり、明治、大正、昭和にかけて印刷物として広く普及した『絵双六』は、さいころの目に従い、ふり出しから上がりまで進む「廻り双六」と、指定された場所に飛んで上がりをめざす「飛び双六」とに大別。同館が所蔵する200点近い『絵双六』からは、子どもたちが遊びのなかから何を学んでいたかが見てとれる。
たとえば「小學尋常科高等科修業壽語録」は、尋常科一年級から始まり、各授業を受けながら高等科の卒業証書授与式をめざすストーリー。絵柄がたまらない。さらに各マスには一言コメントが添えられていて、「算術を知らないと経済の道が立たんと言われてたのか~」とか、「読書作文が最も必要な“業”だとされていたのか~」とか、「唱歌を歌うと品性が養われると言われていたのか~」とか、近代のはじまったころに、どんな風に子どもたちを教育しようとしてたのかも見えてきて興味深い。止まると戻らされる落第のマスがやたら多いのも個人的にはツボだった。ナンボほど落第するねん。ちなみに袋の絵柄も激シブで素晴らしい。
ほかにも善フェイスと惡フェイスの子どもが善悪を体現している「教育善悪子供双六」や、上がりが婚礼なあたりにも時代を感じる「女子家庭双六」といった教育チックなものに加え、広告なんだろうけど“毛のはへる香油”などいちいちキュートな「東化粧美人壽語録(すごろく)」とか、パッと見で今ならアウトだろうなと察せられる「内地雜居ポンチ壽語録」とか「婦人一代出世雙六(すごろく)」とか、ホントにもう見ていて飽きないし当時のことを知るにもうってつけだと思うので、ぜひ気になるタイトルをクリックしまくってほしい。
印刷でタイムトラベル! Enterキーを叩いてみれば、文明開化の音がする
一方、『おもちゃ絵』とは、近世後期から近代にかけて製作・出版された、図鑑的な知育玩具。おなじみ「着せ替え」や「影絵」、「あやつり人形」や「お面」などに加え、身近な事物を集めた「物尽くし」や「切り抜き遊び」、前後の形を貼ってつくる「両面合わせ」や折ると画面が変化する「折替わり」などがあり、遊びながら知識を習得したり玩具そのものとして楽しんだりされていたらしい。これらとは別に、紙細工で立体的な模型を製作する「組上げ燈籠」や「立版古(たてばんこ)」などもあり、難易度の高いものは数枚続きにもなっていたんだとか。
子どもたちの遊びを描いた「新板子供遊尽し 」(東京学芸大学附属図書館所蔵)。竹の棒を二人で担いで行われている懸垂には「たけがしなつてもだいじやうぶダヨ」と添えられているが、二人の肩が心配になる
元禄時代の女性に3種類の着物を着せて遊ぶ「教訓元禄きせかへ 」(東京学芸大学附属図書館所蔵)。髪型や小物も添えられていて、両面合わせにもなっている
うれしがって挑戦してみたところ、前と後ろの形が予想以上にバッチリ重なり感動した
※「教訓元禄きせかへ」(東京学芸大学附属図書館所蔵)のデータを印刷し作成
めちゃくちゃカッチョいい「古戦場陣取餝立 (かざりたて)」(東京学芸大学附属図書館所蔵)。こちらは厚めのコピー用紙を買ってからチャレンジしてみたい
資料のいくつかには解説も添えられていて、電子展示のページから確認すると見やすくおすすめ。たとえば「餝立武者揃(むしゃぞろい)」なら、小さく描かれているのが完成図だとわかったり、パッと気づかなかったけど義経と弁慶らだとわかったりして気持ちがいい。
眺めるだけで楽しすぎる所蔵資料の数々。そのいくつかは、A4サイズの用紙にプリントアウトすれば、文庫判または新書判の書籍に使えるオリジナルブックカバーに仕立ててくれているのも心憎い。
「教育関係資料」と聞くと、なんだかおカタそうに感じてしまうけれど、掲げられたテーマは“学びと遊びの歴史”。ニヤニヤできる資料がてんこ盛りなので、「東亰名所遊覧雙六」気分で、ぜひ巡ってきてみては。
「新版春遊子寳雙六」(東京学芸大学附属図書館所蔵)のブックカバーを、再読していた町田康さん作の『浄土』にセット。おシモな解説文言も隠れて大変かわいく変身した