人生ゲームや野球盤など、卓上でボードやコマ、カードなどを使って遊ぶアナログゲームがコロナ禍でのお家時間が増えた今、再注目されているのをご存じですか? スマホやパソコンのゲームとは違い、自然と会話が生まれるため、家族や友人同士のコミュニケーションツールとしてもおすすめです。
せっかくだから学問のエッセンスが詰まったゲームで遊んでみたい! ということで、今回ご紹介するのは、子ども向けに作られた『こども六法すごろく』。子どもたちと実際に遊んでみました。また、教育研究者でありながら、劇団四季のミュージカル俳優や写真家といったマルチな才能をあわせ持つ開発者の山崎聡一郎氏(慶應義塾大学SFC研究所所員)にもお話しを伺いました。
遊ぶ前に、そもそも法律って何?!
遊び始める前に、「そもそも“法律”って何かなぁ?知ってるかなぁ?」と法律について、子どもたちがどの程度知っているのか質問を投げかけてみました。一人がボソッと「ルールになるのかなぁ」。他の一人が「犯罪から守るための決まりごと」と回答。うんうん、法律とは?!だなんて、大人でも難しい題材だよね。
ついでに居合わせた大人は「六法って、何から構成されていたっけ?!」という話になり、「えーっと、民法、司法、立法…。あれっ?!」「それ、三権分立と混ざってる!」と総ツッコミ。
“すごろく”と聞いて、気軽に考えていた参加者だっただけに、なんだか難しいことをやるのかも?!と少し緊張した面持ちでのスタートとなりました。
小学3年生、小学4年生に大人2人で遊ぶことに。
小学校低学年でも遊べるファーストステップ編
まずは、小学校低学年からでも楽しめるという「ファーストステップ編」で遊んでみました。遊び方はいたってシンプル。サイコロを振って、出た目の数を進み、早くゴールした人が勝ち。一般的なすごろくとは違って、法律を身近に感じられるエピソードがもりだくさんな内容。「家族で入ったレストランにはテーブルコンセントがついていた。ゲーム機を充電したかったので、お店の人にコンセントを使っていいか聞いてみた→1マスすすむ」「直接けがをさせていなくても友だちに石を投げたり水をかけたりして、こわい思いやイヤな思いをさせたら犯罪になるんだ→3マスもどる」といったように、エピソードの良し悪しで、コマを進んだり、戻ったりします。
子どもは早く進みたくて、「1マスすすむ」というところだけを読んで進もうとするので、文面をキチンと“音読する”ことをルールづけさせてみました。そのうち読むのが楽しくなってきて、「他の人のも読みたい!」なんて声も。
「お父さんとお母さんが何日もごはんを食べさせてくれなかったので児童相談所に相談してみたら、助けてもらえた→3マスすすむ」にとまった時には、「それいいなぁ」という子どもたち。えっ!? ごはんを食べさせてもらえないのに、それ本当にいいのかなぁ?!といった複雑な内容でも、子ども目線だと「3マス進む」ということだけに対して、ラッキーかどうかを感じてしまうから面白いです。
ゲームを進めていくと、人のコマを自分のコマだと間違って動かしてしまった人に対し、「それ、犯罪やで」と一喝。子どもたちの会話が、習いたての法律用語を使い出すから、子どもの吸収力の速さに大人たちは驚くのでした。
『こども六法すごろく』というだけあって、少年法といじめ防止対策推進法の内容も加わっている。カード左上の星印がポイントに。
本編のセカンドステップへ
ファーストステップの内容を経て、次はセカンドステップで遊びました。ファーストステップ同様に、サイコロをふり、出た目の数だけコマを進みます。ファーストステップと異なるのは、2マスに一度の割合で、出題される法律に関する〇×クイズに答えながらゴールを目指します。さらに10マスごとには、イベントカードと呼ばれる難問クイズにも答えます。ゴールした順番によって得点が与えられ、さらに、ゴールした時点で持っているクイズカードとイベントカードのポイントの合計が多い人の勝ちとなります。必ずしも、早くゴールしたからと言って、勝ちではないのでご注意を。
六法は通常、日本国憲法、刑法、民法、商法、刑事訴訟法、民事訴訟法の6つの法律を指しますが、『こども六法すごろく』では、子どもとあまり関係のない商法の代わりに、少年法といじめ防止対策推進法のクイズが用意されています。
ファーストステップ同様に、「友だちから借りたゲームソフトを20年間返さなかったら自分の物になる」「加害者はいじめていると思っていなくても、被害者が『いやだ』と思ったり『つらい』と感じたら、『いじめ』になる」といったように、子どもにもイメージしやすい法律が盛り込まれた正誤問題を出題しています。
一方で、イベントマスには、参加者で議論してポイントを分け合う「富の再配分イベント」や「法改正ディスカッション」など、大人でも考えさせられる少々厄介な内容も用意されています。
ゲームを進めていくと、「契約ってどういうこと?」「憲法は法律とどう違うの?」といった具合に、大人は子どもからの質問攻め。「憲法はそもそも…」と一人の大人が説明しだすと、「それ違うんじゃない?!」と、大人の方がヒートアップしてしまう場面も。もちろん、正誤問題だけして、サクサクとゲームを進めるのもヨシ。せっかくの機会なので、子どもたちと一緒に法律についてキチンと話すのもヨシ。結局のところ、傍にいる大人がどの程度の熱量で子どもに接するかで遊び方が変わってくるのだと実感してしまうのでした。
子どもたちが興味を持ちながら読んでいたのが印象的!
開発者に聞いた『こども六法すごろく』への思い
ひと通り遊んでみて、どんな人が作ったのか興味が湧いてきました。開発者の山崎聡一郎さんに、『こども六法すごろく』に託した思いや今後の展開について教えていただきました。
---ゲームを作ろうと思われたきっかけは何だったんでしょうか?
「もともと2019年に、いじめに悩む子どもにたくさんのヒントを与える1冊として子ども向け法律書『こども六法』を執筆しました。今回の『こども六法すごろく』は、この本の準拠教材という位置付けで開発したものになります。中学生になると、いじめの件数が急増するので、それよりも前の段階に法教育を伝えたかったので、子どもというよりは小学生に教えることにこだわって作りました」
---なるほど。他にも児童書はたくさんありますが、これまでのものと異なる点は何でしょうか?
「これまでもマナー本などは、よく見かけたと思うのですが、法律に限定した児童書というのは画期的だったようです。内容も子どもにしか通用しない子ども騙しのものにはしたくなくて、いじめの問題に悩んでいる子どもが、自分に課せられている状況が普通ではなく、非常事態なんだと大人に認識させて対応してもらうため、法律用語も正しいニュアンスで伝えながら、理解しやすい言葉に直していきました。この作業に一番骨が折れましたね。おかげで、書籍の認知度は広がり、大学の副教材としても使われるようになっています」
---たしかに。大人でも難しい法律用語がバンバン載っていて、大人が勉強させられました。では、なぜその書籍をもとに、すごろくを作ろうと思ったのですか?
「本に抵抗がある子どもに向けて、親しみやすいアナログゲームにしました。かわいいイラストを用いていますが、中身は本格的です」
---本当ですね!すごろくと聞いて油断してしまいましたが、法律を勉強するつもりで挑めば、さらに深く楽しめそうですね。今後の展開はいかがですか?
「遊びながら家族や友だちと法律を学べるんだよ、ということを広く知ってほしいですね。そのためにも、法律をただお堅いお勉強としてではなく、気軽に学んでほしくて、アプリなどのゲームにしていきたいです。その方が、勝手に子どもたちが勉強していってくれるんじゃないかと思います」
ワクワクするような仕掛けがいっぱいの『こども六法すごろく』。遊びなら法律の知識が身につく素敵なゲームを、ご家庭にいかがでしょうか。
身につけた知識をアウトプットできる日は近いかも?!
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