ここ数年、人気が再燃しているアナログゲーム。多彩なゲームシステムやデザインもさることながら、ありとあらゆる題材がゲームになっていることも魅力のひとつ。日々いろいろな大学や研究者を取材しているほとぜろとしては、学問のエッセンスが詰まったゲームを遊んでみたい!
ということで、今回ご紹介するのは「刑法ポーカー」。なんと現役の東京大学院生が開発した、遊びながら刑法が学べるポーカーなんだとか。さっそく遊んでみて、開発者にもお話を伺いました!
さっそく遊んでみた
ブラックを基調にしたクールなデザインが目を引く「刑法ポーカー」。基本的なルールはお馴染みのポーカーと同じで、5枚の手札を揃えて「役」を作るというもの。ただし、刑法ポーカーでは「最も重い罪」を作った人が勝ちとなります。
刑法ポーカー
5枚ずつ手札を配り、じゃんけんで順番を決めて、2回ずつ手札を交換。
ドン!
上の画像では「傷害致死罪」が成立! 罪の重さはというと、3年〜20年の懲役。これはそこそこの役なのでは。他のプレーヤーは役ができなかったので、このプレーヤーの勝ちです。やったぁ!?
犯罪なだけに素直に喜んでいいのか戸惑いますが、役ができるとやっぱり達成感を覚えてしまう……!
ではここでカードの説明を。犯罪を構成するカードは大きく分けて「客観的構成要件(青いカード)」と「主観的構成要件(黄色いカード)」の2種類。今回の役を見てみると、「暴行の故意」があった上で、実際に「暴行」が行われ(ここまでで暴行罪が成立)、その「因果関係」で「死亡結果」が発生した場合に傷害致死罪という犯罪が成立するというわけ。暴行罪を犯した結果、相手が死んでしまうというより重い結果が発生しているので、こういう犯罪を「結果的加重犯」というのだそう。
なるほど〜、「遊びながら学べる」ってこういうことだったのか。
こんな感じで、「暴行罪」から「強盗致死罪」(説明書によると「刑法ポーカーのロイヤルストレートフラッシュ」!)、ボーナスカードである「外患誘致罪」*までいろいろな犯罪を作って罪の重さを競います。
*外国と手を組んで日本に対して武力行使させるなど、外国に軍事上の利益を与える犯罪。量刑は死刑のみという刑法上最も重い犯罪だが、現在まで適用された例はない。
暴行罪と業務上横領罪のコンボ(併合罪)
カード2枚の「暴行罪」は比較的簡単に作れるので、上の画像のように左の2枚で「暴行罪」、右の3枚で「業務上横領罪」(※特殊カード使用)が成立することも。シチュエーションとしては、横領がバレてヤケになって誰かを殴ったということ…? なかなかどうしようもない奴だな…などと想像しつつ。
逆に、役としては強い「強盗致傷罪」や「殺人罪」は構成要件となるカードが希少だったり、カードを5枚フルに揃える必要があったりするため、滅多にお目にかかれません。
初心者でもサクッと遊べる「未修コース」のほか、刑法を学んだことがある・がっつりプレイしたい人向けの拡張ルール「既修コース」も用意されています。こちらでは客観的事実と主観的に認識した事実が食い違う状態(法律用語で「抽象的事実の錯誤」)でも役が作れるなど、ゲームとしてもさらに作り込まれている模様。
知識がなくても普通のポーカーと同じ感覚で遊べますが、刑法を勉強するつもりで挑めばさらに奥深く楽しめそう!
役と量刑の一覧は手元で確認できるよう、1枚のカードにまとめられているのでご安心を
開発者が伝授するオススメの遊び方
基本的な遊び方が分かったところで、どんな人が作ったのか興味が湧いてきました。
ということで、メールでお話を伺ったのは刑法ポーカーの開発者、伊藤誠悟さん。現在は東京大学法学政治学研究科を休学し、司法修習生として研修に励んでおられる伊藤さんに、刑法ポーカー開発の経緯やさらなる楽しみ方を教えていただきました。
——まずお聞きしたいのですが、一体なぜ刑法をポーカーにしようと思ったんでしょうか?
学部時代は慶應義塾大学法学部の刑法を研究するゼミに所属していたのですが、とにかく自由なゼミで、卒業にあたって卒業論文か卒業制作のどちらかを選ぶことができたんです。先輩の代では、刑法の判例をカルタにしたものや、刑法のクイズをアタック25形式で出題するものなどが作られていたので、それに倣って作ったのが刑法ポーカーでした。
開発にあたってはゼミの教授や刑法を学んだことがない友達にもプレイしてもらって、理論的に正しく、ゲームとして面白く、初心者でも楽しめるバランスを追求しました。
伊藤さんが卒業制作として開発した、商品化される前の刑法ポーカー
——まさかの卒業制作だったんですね。刑法を学んだことがない人が楽しむためのコツはありますか?
まずは未修コースで遊んでいただき、慣れてきたら既修コースにもチャレンジしてみてください。ルールが複雑になる分、より楽しめるはずです。
自分の手札を見て「これはどういう状況なのか」と想像してみるのもオススメです。例えば「殺人の実行行為」「殺人の故意」「死亡結果」はあるのに「因果関係」がない場合には、「殺意を持って被害者にナイフを突き刺したところ、被害者が救急車に運ばれ、その道中で事故に遭って死亡した」というケースが考えられます。
——役として成立していなくてもイマジネーションで遊べる! これはすごく面白そうです。ちなみに、重い犯罪を作って勝ちを競うことって日常ではなかなかないと思いますが、刑法ポーカーはどういう目線で遊ぶのが正解なんでしょうか?
私としては「とにかく楽しんでほしい!」と思っているので、検察官になりきって楽しむも良し、犯罪者になりきって楽しむも良しです。ぜひお好みのスタイルで遊んでください。もっとも、法教育に用いる場合には、倫理的な観点から、検察官目線でのプレイを推奨します。
検察官になりきって遊ぶなら、量刑(刑罰の重さ)を自分で調べてみるのもオススメです。六法をお持ちであれば六法を引いて、なければインターネットで検索して、自分の役の量刑を調べてみてください。
——検察官か、犯罪者か。なりきりプレイも楽しそうです。最後に、刑法ポーカーの今後の展開は?
刑法ポーカーは、いつかアプリでも遊べるようにできたら、と考えています。また、刑法ポーカーの別バージョンとして、他の犯罪を追加したものや、こども向けのもの、弁護士として無罪を目指すもの等を構想しています。さらに、刑法ポーカーの民法バージョンも、一つのアイデアとして温めています。
今後、刑法ポーカーを通して、より多くの方に刑法を知っていただけたら、それが何より嬉しいです。さらに、そこから刑法に関心を持って、刑法を学んでくださる方が現れれば、作者冥利に尽きます。今後、私も刑法ポーカーを用いて、法教育を行いたいと考えています。
——ありがとうございました!
刑法ポーカーを楽しむ秘訣は、知識もさることながら想像力にありそう。ぜひぜひチャレンジしてみてはいかが?