2017年7月に「京都アカデミアフォーラム」in 丸の内が東京に開設され、それを記念した「京都アカデミアウィーク」が10/3(火)〜7(土)にかけて開催されました。そこで、「京都アカデミアフォーラム」とは何か?そんな疑問と期待を胸に講演に行ってきました!
「京都アカデミアフォーラム」は東京駅からすぐの新丸の内ビル10階、京都にある大学が連携した東京における活動拠点で情報発信の場。文化・芸術・科学技術等を通じて「大学の街ー京都」の魅力や価値を高めることを目的として開設されました。
“アカデミア”なんか難しそうで高尚なイメージがあった「京都アカデミアウィーク」でしたが、プログラムをみて一安心。食べ物、観光、伝統工芸、仏教、マンガなど、テーマはとても身近で多彩です。聴講させていただいたのは、京都市立芸術大学の「京都のいいところ おつけもんの文化」。連続講座「京都の一途」の初回で、学長の鷲田先生をホスト役に京つけものの老舗「西利」の平井副会長をゲストにトーク&対談で盛り上がりました。
100名以上の方が参加して大盛況!
連続講座の第1回目なので人が集まらないかもしれない、だから友達を連れてこよう…鷲田先生が選んだのは、京都のおつけもの。なんと西利の平井副会長は小学校の同級生!なんてキュートな選択なんでしょう。鷲田先生の不安をよそに開始前からほぼ満席です。
「京都の一途」は京都の老舗を紹介していく連続講座。
鷲田先生から、ご挨拶とともに京都独特の“距離感”について。お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、京都と大阪の驚くほどの違い!大阪はグイグイ、京都は要クッション。新幹線で1駅、そんなに!?と関東人には改めての衝撃。先生は長らく大阪の大学にお勤めされていて、2つの街の違いにとても詳しかったのです。
「地域ごとに町づくり、ものづくり、商売で何を一番大事にするのかが少しずつ違っていて、手放してはダメなもの、忘れてはダメなこと、どんな価値を最優先するのか、それはそれぞれが持っているフィロソフィー」鷲田先生は京都の老舗を紹介し、それが本当に京都だけのものなのか、あるいは共有すべき大事なことなのか、一緒に考えることができればいい。そんな思いから連続講座「京都の一途」を開講されました。
「京都アカデミアウィーク」のトップバッターとして登場された鷲田先生。ちょっと緊張されているような、優しい言葉が心にスッと入ってきます。
京つけものは伝統と創意工夫、京都の風土性で培われた。
西利の平井副会長のご登場です。京つけものは、他に比べてちょっと高い。でも、その理由を教えていただいて納得。京都府知事から伝統産業として、条例により伝統食品に認定されているそうです。とにかく努力がスゴイ、種類も豊富!伝統ものから現代のライフスタイルにあったものまで、それぞれ旬の旨味が凝縮しているんですね。
「京つけものは京都の風土が育て、培われたもの。風土=自然じゃなくて、京都の人、地形、自然環境があり、人が関わることにより時代の価値観も反映されている。京都はずっと長く都であり、その風土性が脈々と培われていまに至っている。」と平井副会長。
東京では「下駄とつけものは贈り物にはしない」と知りビックリしたという平井副会長。京都では夏は奈良漬け、冬は千枚漬けが定番の贈答品だそうです。
京もの伝統食品の第一号は10年以上前に登録された、千枚漬け、すぐき、しば漬けの3つ。その後、登録されていないことを考えるととてもハードルが高い!原料の産地、漬け方、漬ける場所など細かく決められているそうです。京都のしば漬け、一般に流通しているしば漬けとは似て非なるものとか。京もの伝統食品のしば漬けは、すっぱくて歯ごたえがない昔ながらのものなので、購入の際にはご注意をとのことでした。
美しく盛られた試食コーナー。150年程前に御所の料理方が定年後に売りはじめた千枚漬け、約400年前に上賀茂神社の社家さん達が作っていたすぐき、建礼門院が命名したと言われるしば漬けも。
京つけものというのは、千枚漬けなどの伝統食品だけ?実は浅づけがメインなんです!京都のつけもの屋さんは昔からご近所さんが毎日買いにくるから手を抜けない、いつも同じものだったら飽きられてしまう。だから常に創意工夫して時代にあった新しいものを開発している。それが京都の風土性。多品目を扱うことでお商売に余裕ができ、古いものを伝統のままに残すこともできたんですね。
1日20gの食習慣、乳酸菌ラブレの3日間セットをお土産にいただきました!
受講者巻き込む笑いあり、平井副会長×鷲田学長の同級生対談。
平井副会長のトークが終わり、2人の対談のスタートです。なんと2人だけで向き合って話すのは50数年ぶりだとか。そこは同級生、自然で和やかな対談でした。
鷲田学長 お話しを聞いていて関心したのが、厳しい条件の中で、こういう手法でこういう材料で作ったものしか、千枚漬け、すぐき、しば漬けとしか言わんとか。でも全国におつけもの文化はある。家で漬けるもの、ぬか漬けもあるのに、わざわざ京つけものと言うのはなぜでしょうか。
平井副会長 商売として古くから成り立ったんです。室町時代の寺子屋の教科書に香もの屋とあった。室町時代につけもの屋があったということです。京都は天皇を頂点に貴族、お寺さん、それにお使えするいろんな方がおいでになった。ずっとそういう社会、街ですよね。
つけものは普通なら家で漬けます。でも京都は昔からお金で買う文化があって、つけもの屋がずっとあるんです。それに、いろんなことができる余裕もあった。自分達が作って自分達が売りますから、例えば「あぁ、これ美味しいなぁ」ちょっと5個だけ作って売ってみようということができるんです。
鷲田学長 京都はつけものとか野菜の種類が多いですよね、それも特徴なんですか。
平井副会長 そうだと思います。当然ながら、四季折々原料が変わりますよね。ずっと商売し続けなければいけませんから。12月には、すぐきの新漬けができてきます。すぐき、しば漬けは発酵つけものです。千枚漬けはじめほとんどのものは、そこまで発酵させません。今日漬けたものを今日売って、近所の人が食べて、また明日買いにいらっしゃる。
鷲田学長 野菜の消耗が激しいから、つけものは保存食とずっと思っていました。でも、発酵のものが少なく、むしろ浅漬け。つけもの屋さんが商売として成り立つには毎月いろんなものを作らなければならない、そのために多品種を一年中用意しておかないといけない。めちゃくちゃリアルな話しです。
平井副会長 すぐき、しば漬けが伝統食として昔のまま、いま何故残っているのか?文化って時代によって変わるじゃないですか、風土性も。その中で伝統になるには、そこにその必然性があるから残っていくわけですよね。それは誰が言ったわけでもなく、理由のわからない中でなっていく。そこで伝統になる、だからすぐきもしば漬けもきっと必然性があると思っていたら、あったんです。人の健康にすごくいいんです。いま普通に言われている野菜の力と乳酸菌です。
鷲田学長 昔は懐石料理みたいなものは「ハレ」の日しか食べられなくて、京都人は節約しますから朝と晩なんかほとんどつけもの。ホテルの朝食とか、僕、いまでも最後につけもの入れてお茶をかけて洗って最後に締めるんですよ。
平井副会長 素晴らしい、すぐ僧籍が取れそうですよ(笑)。食事の基本はユネスコに登録された和食。一汁三菜と言われている。でもご飯とも、つけものとも書いていないんですよ。やっぱり、日本のベースはご飯とつけものと味噌汁、出汁に野菜なんかが入ったもの。それが一番でしょう。それで十分足りるんです、健康のもとですよ。
鷲田学長 日本酒飲むときだったら千枚漬けだけで十分ですよ。
平井副会長 千枚漬けは贅沢品ですよ(笑)。京都の料理は薄塩出汁文化、千枚漬けはまさにそのもの、昆布だから。
鷲田学長 贅沢品と言えば、沢庵をあんまり京都では食べないけど、僕の思い出はおばあちゃんが古くなった沢庵をコトコト炊くんですよ。炊いてフニャフニャにして食べなかった?
平井副会長 それは贅沢煮ですね、今日も試食コーナーにあります。塩っ辛くなって食べられないような沢庵を塩だしして、もったいないからお出汁で炊いているんですね。すごく美味しいんですよ。出汁の文化があったからできた、それこそ風土性です。そこには時間と労力がかかっています。それを贅沢という。スゴイでしょ(笑)。
大根は食材としてみなさんが食べはるものだけど、京都では沢庵にはしない。私どもも作っていません。大根をお出汁で漬けたものがありますが、京都の料理、京都の味に馴染んだ人がいるから生まれてきたんですね。伝統のものではないけど、やはり京つけものです。
鷲田学長 京つけものって京都のベーシック、普通が一番ええですね。いま、普通っていうとなんか物足りないとか、ありふれているとか、そんなイメージがあるけど、明治、大正の時代はめちゃくちゃカッコいい言葉だった。普通選挙は、制限選挙の反対でそれまで税金や貴族などの制限があったのが一人一票になった。普通教育は7歳になったら日本国民は全員学校に行ける。普通って新しい時代の象徴だったけど、最近は言葉の値打ちが下がってきた。一番普通であること、ベーシック、生活の奇をてらったものじゃない、それを正し、良質にしていく、クオリティを上げていくという、それは結構大事な文化なんですね。
平井副会長 そう思います。
鷲田学長 味って意外と知的なものなんですよ。甘い、辛い、酸っぱいとか、味わいわける。嗅ぎわけるもそうですけど、哲学も同様に吟味していくわけです。論理を仕分けて行くことも吟味だし、料理など味を味わいわけることも吟味、そこに知性があるんです。
ヨーロッパでは美術や音楽、視覚と聴覚の対象だけが芸術になっていった。香りや味の芸術は基本的にありえない。日本の場合、特に京都では香道、宗教が文化と近接感覚ですね。距離を置かないで自分が包まれる、そういうものも芸術としている。知的に研ぎすましたときに、感覚的に判断している。
例えば理解できるけど納得いかない、理解できないけど納得できる。日本人は理解よりも納得、本当にわかることに納得しますよね。納得できないということは食べることに表現が使われるんです。あんたの言うことは飲めない、それはいただけません、あいつは喰えんやっちゃ。結局、納得って腹で、味で表現することが多いです。
今日は風土性というお話しがかなり出てましたが、食べ物ってフードでしょ。ちょっと、風土性(ふうど性)とフードって、なんかできすぎのストーリー(笑)。限られた時間で申し訳ありませんでした。また第2回以降続けてまいりますのでよろしくお願いいたします。
平井副会長 今日はどうもありがとうございました。
お待ちかねの試食タイム、色とりどりの京つけものに目が釘付け。どれにしよう?どれも美味しい!
常設の「プチ京都検定」のコーナー。歴史で学んだことからレアな問題まで、ちょっと難しい!日替わり商品は匂い袋でした。
京都10大学の魅力と京都市のアンテナショップ「京都館」の常設展示コーナー。
奥の深〜い京つけもの世界、知識とお腹を満たされて今回の京都市立芸術大学の「京都の一途」は無事終了。次回はどのような老舗が登場されるのか興味津々です。そして京都の10大学がどのような公開ゼミを開催するのか?「京都アカデミアフォーラム」in 丸の内から目が離せません!