©明治大学シェイクスピアプロジェクト
過去最大の動員数4,583名を記録した明治大学シェイクスピアプロジェクト(以降、MSP)の記念すべき第15回公演に行ってきました!演目は第1回公演で上演され、MSPの原点ともなった『ヴェニスの商人』です。以前、取材したときもお伺いしましたが、古典独特の言い回しを現代風に翻訳するところから、演出、キャスト、衣裳製作、照明、広報といったすべてを明大生自らが行っています。その“情熱”あふれる舞台を観劇してきました!
学生演劇を超えたクオリティー、『ヴェニスの商人』はどう描かれるのか!?
開場前の劇場(明治大学アカデミーホール)は、たくさんのヒトヒト…。学生さん(スタッフ)に聞いてみたら「予約はブロック指定なので、席は決まっていないんです。」とのこと。なるほど!いい席をゲットするためにみなさん早めにいらっしゃっていました。偶然にも隣に並んでいた男性は第1回公演から来ているという熱烈なファン!
今回の演目『ヴェニスの商人』は400年に渡り世界中で演じられてきたシェイクスピアの代表作です。「恋愛、友情、家族、宗教…愛憎と思惑が絡み合う」と公式サイトの予告動画を見たときから期待大。登場人物が紡ぐ人間関係とは? MSPが描くシェイクスピアの世界に胸が高まります。
恋愛、友情、家族、そしてお金…。複雑に絡みあっていく多様な人間模様。
静かな群舞で始まった舞台は中世のイタリアのヴェニス。バッサーニオは一目ぼれした富豪の娘ポーシャに求婚するために、親友の商人アントーニオにお金を借りようとします。しかし、アントーニオは財産が航海中の船にあるため、悪名高い高利貸しのユダヤ人シャイロックにお金を借りにいきます。その条件は期日までに返せなければ、アントーニオの肉1ポンドを与えなければいけないというもの。
ことの発端はバッサーニオ(左)が求婚のためにアントーニオ(右)にお金を借りたこと。厚すぎる友情がたまらない?©明治大学シェイクスピアプロジェクト
シャイロックは賢くもあり、嫌みっぽく、随所に差別への反骨心を伺わせる人物©明治大学シェイクスピアプロジェクト
序盤からキャラの濃い複雑な人間模様が織りなされていきます。キャラクター描写が的確で、観客を置き去りにすることなくテンポよく展開されていきます。
観客を笑いに巻き込む、ポーシャのお婿さん候補たち。
一方、ポーシャは亡き父親から、金・銀・鉛の3個の小箱から正しい箱を選んだ者と結婚するようにと遺言が残されていました。たくさんのお婿さん候補達が登場するシーンは、マザコンがいたり、演者が客席を駆け回ったり…もう目が離せません。結婚相手が決まった瞬間、掲げられていた亡き父親の渋顔遺影が…パタッと笑顔に変わりました。不意をつかれて観客もビックリ!現代的でオリジナリティのある演出に会場は笑いの渦に。
笑いの連続となったポーシャのお婿さん候補達。盛り上がるシーンが続く中で、遺影の下でのポーシャと侍女ネリッサの演技が細かい(笑)©明治大学シェイクスピアプロジェクト
一方、バッサーニオはポーシャのヒントで正しい小箱を選択。これでハッピーエンドのはずが…アントーニオの船が沈没してしまい、借金が返せなくなったという知らせが!アントーニオがシャイロックに訴えられたと聞き、バッサーニオはお金を持って裁判に駆けつけるのです。
ポーシャ(左)のお婿さんにバッサーニオが決定!ネリッサ(右)と喜ぶシーン©明治大学シェイクスピアプロジェクト
あっという間に、舞台は佳境に!キャストにますます輝きがでてきた。
裁判はアントーニオの劣勢で進みます。そこに登場するのが、知り合いの裁判官の助けにより、若い法学者に扮したポーシャです。肉は切り取ってもいいが、血を1滴でも流せば全財産を没収する、とシャイロックに判決を下します。とはいえ、血を流さず肉を取るのは無理ですよね。さらにアントーニオの命を奪おうとした刑を免除される代わりに、シャイロックはユダヤ教からキリスト教に改宗させられ、大団円へ。
アントーニオ(右)の肉を取り出そうと襲いかかるシャイロック(左)©明治大学シェイクスピアプロジェクト
シャイロックの嫌らしさ、アントーニオの誠実さ、バッサーニオの素直さもいい。ポーシャと侍女ネリッサのコミカルなやりとりなど、キャラクターの個性が際立つ演出や学生たちの熱演には本当に驚きました。『ヴェニスの商人』は個人的に重たいイメージを持っていたので、アップテンポで爽快なMSP独自の演出に心が揺さぶられました。
苦渋のシャイロック(前)に改宗を迫る。うぅ〜ん、命を失うより厳しいのかもしれません©明治大学シェイクスピアプロジェクト
判決後、それぞれの思いが弾けたかのような躍動感あふれる群舞©明治大学シェイクスピアプロジェクト
公演だけが物語ではない、誕生からずっと続くMSPストーリー。
MSP公演のオリジナル・グッズ売場で手にとったのは、13回公演のドキュメントを中心にまとめられた一冊。ここにMSP誕生の話がありました。発端は、明大出身で特別招聘教授の俳優・原田大二郎氏が「シェイクスピアをよく知っていると言い張れる学生を作りたい、そのための活動を作りたい」という思いからだったそうです。
価格2,160円(税込)、Web書店などで購入できます。
プロの指導を受けながら、学生演劇という枠を超えた本格的な芝居に進化してきたMSP。劇そのものも大満足でしたが、最後に忘れてはいけないのが舞台を支えるスタッフです。
わかりやすい台詞は、シェイクスピア演劇という高いハードルを取り払ってくれていましたし、当時のヴェニスを彷彿とさせる美しい衣裳も圧巻でした。
さらに劇場内のおもてなしも細やかで、終演後も最後まで心が打たれました。
お疲れさま、そしてありがとう。MSPのクオリティーとホスピタリティーに、多くの観客が感激しました!©明治大学シェイクスピアプロジェクト
第16回となる2019年のMSPは『ローマ二部作』(仮)も見逃せません。ぜひ、お早めにチェックしてください!