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  • date:2022.5.24
  • author:中野祐子

海藻は食の未来を担う救世主! 立命館大学の食セミナー聴講リポート

日本人にとって身近な食材である海藻。実は食糧問題や食糧危機が懸念されている今、人類の食を救うとして世界から注目を集めているのです。そんな海藻をテーマにしたオンラインセミナーが立命館大学で開催されると聞き、聴講しました。

 

今回のセミナーは、立命館大学が “世界をおいしく、おもしろく、複雑に”をコンセプトに、食で社会をよくしていくことをめざすプロジェクト「立命館ポンテ・ガストロノミコ」の公開講座として2021年度に全3回企画されたものの最終回です。
テーマは海藻。「まだ私たちは海藻を知らない—海藻が拓く食の未来」と題して、東京と、海藻食が盛んな秋田・男鹿半島の雲昌寺をつなぎ、海藻のスペシャリストが集結してのセミナー&トークセッションとなりました。

デンマークではトップシェフも海藻に注目、日本では青のりが消滅の危機!?

セミナーはコペンハーゲン大学の教授で、うまみや海藻研究を約15年前から行っているオール・モーリットセン先生のビデオメッセージからスタート。モーリットセン先生によると、海藻は食物繊維やタンパク質、ナトリウム、カルシウム、オメガ3やオメガ6といった不飽和脂肪酸など、さまざまな栄養を含む優秀な食材で、欧米でも多数の海藻が生息しているものの、食べる習慣はほとんどないとか。一方、日本は、「昆布でダシをとる」といった海藻の“うまみ”を引き出す工夫や知恵によって、食べる文化が根づいたと言います。

 

そんな中、先生は昆布と同様のうまみ成分を含有する北欧の海藻「ダルス」に着目し、研究。ミシュランガイドで星を取ったシェフと組んでダルスの調理法も開発した結果、昨今はダルスの栽培や粉末ダルスの製造などが進み、欧米に広まっていると言います。

 

北欧での海藻事情を学んだ後は、国内事情について。続いて登壇したのは、高知県室戸市で海藻養殖を通じた地域活性に取り組むシーベジタブルの共同代表・友廣祐一さんです。まず、聴講者にこう質問されました。

友廣さんは早稲田大学卒業後、全国70以上の農山漁村を訪れ、各地のくらしを学んだという

友廣さんは早稲田大学卒業後、全国70以上の農山漁村を訪れ、各地のくらしを学んだという

 

「みなさんは何種類の海藻を食べたことがありますか?」

その言葉に、ワカメ、ヒジキ、もずく、海苔、お刺身に添えられているあの赤い海藻は何という名前だったかな……と思いをめぐらす筆者。友廣さんによると「食べたことがある海藻を10種類くらい言えると、我々の中では海藻偏差値65ぐらい」なんだとか。恥ずかしながら筆者の海藻偏差値は低め。しかも10種類でも多いと思っていたのに、世界にはおよそ1万2,000種類、日本の海域には1,500種類以上もの海藻が生息し、調理や加工によって、ほぼすべてが食べられるというから驚きです。

 

「海藻食が定着する日本でも大半が手つかず。海には食の未開のフロンティアが広がっているのです」と友廣さん。一方で、地球温暖化や環境破壊、海の生物による食害、漁師の減少などさまざまな原因から海藻が喪失・消滅しているとも言います。「例えば、青のりですが、主産地の高知・四万十川では水揚げ量が激減し、2020年にはついにゼロになってしまいました」

 

こういった海藻の危機的状況を救うべく、シーベジタブルは設立されました。同社の共同代表である蜂谷 潤さんは、高知大学農学部で栽培漁業を研究し、世界で初めて地下海水を利用した陸上で海藻を養殖するモデルを確立。海藻から種を取り出す技術も持っています。シーベジタブルでは、青のりをはじめとする海藻を安定的に生産できる陸上養殖の施設を経営し、採取した海藻をオンラインで販売。地域と連携して海面養殖も進めています。

 

陸上養殖の様子。海の近くで井戸を堀ることで、水温が安定した水をかけながしで養殖することができるそう(セミナーで使用したスライドから抜粋、以下同)

陸上養殖の様子。海の近くで井戸を堀ることで、水温が安定した水をかけながしで養殖することができるそう(セミナーで使用したスライドから抜粋、以下同)


これらの取り組みは海藻を守るだけでなく、雇用創出にも一役買っているそう。「陸上養殖の施設では、よいものをつくるパートナーとして障がいがある方、高齢の方に働いていただいています。また現在、海面養殖を行っている海藻の種類は限られていますが、その種類を増やせないか、生業にならないか、地元の漁師さんと一緒に取り組んでいます」(友廣さん)

 

陸上に置いた水槽から採れた海藻なんて、ちょっと不思議ですが、天候や環境、不漁などに左右されず収穫ができ、地域活性化や雇用確保といった好循環ももたらしているというのは素晴らしいですよね。

育てる=入口から、食べる=出口まで一貫した事業がシーベジタブルの強みという友廣さん

育てる=入口から、食べる=出口まで一貫した事業がシーベジタブルの強みという友廣さん

 

海藻からスイーツも!加工次第で料理は無限

シーベジタブルでは海藻をもっとたくさんの人に広めるために商品開発も行っています。これを担うのがシーベジタブルで料理を担当するシェフの石坂秀威さん。シドニーの有名店で修業経験があり、東京の話題店「INUA(イヌア)」の立ち上げに携わった経歴の持ち主です。

 

「海藻という食材には無限大の魅力があるのですが、使い方や食べ方が昭和でストップしたままなんです」(石坂シェフ)

 

そこで、従来の塩蔵や乾燥以外に、味噌や麹といった発酵食品と合わせたり、オイルやシロップに漬けたりと、新しい保存や加工、調味を行い、斬新なレシピを次々と生み出しています。

 

セミナーでは実際に、石坂シェフ考案の海藻料理から4品を披露。フードジャーナリストの君島佐和子さんが進行役となり、東京都内のキッチンから調理風景が実況で紹介されました。

進行の君島さん(左)と石坂シェフ(右)

進行の君島さん(左)と石坂シェフ(右)

 

1品目は「青のりの豆腐」。

セミナーでは石坂シェフが調理をしながら解説するライブ感ある展開

セミナーでは石坂シェフが調理をしながら解説するライブ感ある展開

 

シーベジタブルで栽培加工した乾燥青のりを豆乳と合わせて固め、生ハムと牡蠣からとったコンソメで仕上げます。コンソメにはクロモというもずくが入っているのですが、「これが中華料理の高級食材であるツバメの巣やフカヒレにそっくりなんです」と石坂シェフは太鼓判を押します。海藻がめったに口にできない食材に? 食べてみたいですよね。

 

2品目はシーベジタブルオリジナルの加工品「柚子ひじき」を豚ミンチや野菜と炒めてレタスに包んで食べる料理。一般的なヒジキは成長したものを鉄鍋で黒く煮てから乾燥させるそうですが、「柚子ひじき」は採れたての新芽だけをさっと茹でて塩蔵しているため、生に近いと石坂シェフ。

生のヒジキは褐色で、塩蔵し加熱すると緑色に変化するそう

生のヒジキは褐色で、塩蔵し加熱すると緑色に変化するそう

 

炒めても食感はシャキシャキで、試食した君島さんは「おいしい! 仕事を忘れそう」と絶賛。オンラインのコメント欄も「食べてみたい」「柚子ヒジキはどこで買えるの?」というコメントでいっぱいに。筆者も画面に向かってグイッと乗り出してしまいました。匂いだけでも伝わればいいのに……。

 

3品目、4品目はなんとスイーツ! 海藻が甘い味に? 美味しいの? と思っていると、板状のチョコとスポンジ、クリームの層が特徴のフランスの伝統菓子、オペラケーキからインスピレーションを得たという海藻のケーキが登場。

見た目も味も海藻がは使われているとは思えないシーベジタブル流のオペラケーキ

見た目も味も海藻が使われているとは思えないシーベジタブル流のオペラケーキ

 

チョコの代わりに、アラメというワカメに似た大きな海藻を梅のピュレに漬け込んだものを使い、フルーティーな味わいに。バタークリームには青のりが入っています。

 

4品目は茎ワカメを砂糖に漬けて水分を抜き、甘みを浸透させた一品。茎ワカメは、文字通りワカメの茎の部分を使ったもので、ピーラーで向いて調理します。最後に、リンゴのシロップを塗って完成です。

オーストラリアの「サワーワーム」という甘酸っぱいグミをイメージして誕生した茎ワカメのスイーツ

オーストラリアの「サワーワーム」という甘酸っぱいグミをイメージして誕生した茎ワカメのスイーツ

 

どんな味なんだろう……? 筆者の心配をよそに「どちらも海藻と言われなければわからない」と君島さん。配信のチャット欄は「食べたい」とのコメントでまたまたいっぱいです。

これまでにない、独創的な海藻料理を味わった君島さんからは「海藻を野菜のようにとらえるといいのでしょうか」と石坂シェフに質問が。「食べたことがない海藻は、使い方がわからないもの。海の野菜として(気軽に)試していただければ、わりと簡単においしく調理できます。勇気を持って試していただきたいですね」。石坂シェフの言葉に、家庭での海藻料理のレパートリーに可能性を感じました。

男鹿の海藻を土地に伝わる調理法で精進料理に

石坂シェフの革新的なレシピの一方で、秋田県男鹿半島の伝統的な海藻精進料理が披露されたのも今回のセミナーのユニークなところです。

 

男鹿半島は漁業が盛んで、海藻の種類も豊富。海藻料理もよく食べられてきました。また、お盆をはじめお寺の行事の際は、檀家さんが海藻を使った精進料理を作るそう。この伝統とレシピを400年以上の歴史を持つ雲昌寺では大切に保存、継承しています。

 

セミナーでは雲昌寺と中継が繋がり、それらの料理が紹介されました。こちらの司会進行は立命館大学食マネジメント学部の教授、石田雅芳先生です。

右から雲昌寺の副住職・古仲宗雲さん、石田坂先生、料理をつくった男鹿のおかあさんたち。手の込んだ海藻精進料理は、花まつりと初盆の年2回作られるという

右から雲昌寺の副住職・古仲宗雲さん、石田先生、料理をつくった男鹿のおかあさんたち。手の込んだ海藻精進料理は、花まつりと初盆の年2回作られるという

 

海藻の煮物やお吸い物など、土地の食文化や海藻の性質を活かした料理が、テーブルに所狭しと並びます。どこか懐かしい料理を味わった石田先生は「まさに生きた食の文化財です」と感動しきり。境内には古仲副住職が採取した海藻も並びました。

男鹿でしか食べられない局地的な海藻もいっぱい

男鹿でしか食べられない局地的な海藻もいっぱい

おなじみのワカメもこんなに大きいとは……!

おなじみのワカメもこんなに大きいとは……!

 

こういったお母さんたちの昔ながらの料理も、石坂シェフが作る新しい料理も、日本だけでなく、世界にも広がれば食生活や食文化はもっと豊かに、楽しくなるはずです。

どんな食材にも料理にも変身できる。海藻ってスゴイ!

最後に行われたトークセッションでは、世界の食と未来が話題になりました。

 

君島さんは、最近注目している培養肉をはじめとする代替食品と海藻の関係について言及。「培養肉は開発段階ですし、昆虫食は多くの人にとって心理的なハードルが高いのが難点。でも海藻は、食べ方を開発すれば容易に私たちの生活に取り入れられます。海藻の活用は人類の食糧危機を救うことが期待できるのではないでしょうか」と君島さん。

 

「海外ではヘルシーだから海藻を食べていますが、日本はおいしいから食べるし、文化がある。海藻文化を発信するなら日本からじゃないと、もったいない」と石坂シェフ。さらに「世界のレストランでは、昆布でダシをとることが一般的になりました。昆布は革命的な存在です。1万2,000種類ある海藻から、昆布のような存在を探すべきではないかと思っています」と語りました。

 

「食べていない、試していない海藻がまだまだたくさんあるので、私たちの技術や知見を活かして新しい海藻の発見、新しい海藻食文化を構築していきたいです」と友廣さんからは今後の抱負が語られ、「海藻という日本の食文化を誇りに思います。今回訪問した男鹿のように地域と人びとがつながり、日常食として海藻を食べる、愛情の記憶として伝えていくことが理想です」と石田先生がセミナーを締めくくりました。

 

セミナーを聴講して、当たり前の存在ゆえに、海藻について意識したことはなかったと思いました。ヘルシー、ダイエット食材なだけでなく、未来の食を救ったり、環境や社会に変革をもたらすポテンシャルを秘めていることを知りびっくり。また、「海藻を野菜として気軽に使ってみてください」という石坂シェフの言葉通り、さっそく今夜のメニューに使ってみようかと。みなさんも海藻料理はいかがですか?

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