新型コロナウイルス感染症の影響で、今、教育現場はこれまでにない対応を求められています。子どもたちにどのような変化があったのか?教師や保護者はどう考えればよいのか?子を持つ親なら誰もが気になるこのテーマについての講演会が、2021年2月に佛教大学通信教育課程主催で開催されると聞き、うかがってみました(2020年の講演会レポートはこちら)。
休校明けの6月、不登校生徒の「再」登校現象が
講演会のタイトルは「ウィズコロナの時代に教育現場はどう変わる?―教師・保護者の役割とは―」。当初は講演会会場での聴講も予定されていましたが、二度目の緊急事態宣言が出されたため、オンラインのみでの開催となりました。それでも500名を超える申し込みがあったといい、タイムリーなテーマに対して関心の高さがうかがえます。
講師の原清治先生は、教育社会学や学校臨床教育学、教員養成が専門分野で、ネットいじめを含むいじめ、不登校、学力低下、若年就労問題などの研究をされています。「コロナ禍で多くの子どもたちがオンラインゲームに興じていたのは皆さんもご存じの通りです。僕もやってみましたが、楽しいゲームです。ただ、一方でそのカゲに。ハゲではありませんよ。・・・笑うところです、ここ(笑)」など、時折ユーモアやモノマネを交えつつ、丁寧に語りかける様子が印象的でした。
原先生の講演は、わかりやすくて面白い
原先生によると、コロナ禍の休校期間が明けた2020年6月以降、教育現場で特徴的な現象があったといいます。入学式を迎えられなかったため、新小学生・新中学生が精神的に不安定な状態になりがちだったのですが、その一方で、不登校傾向の強い児童・生徒が「再」登校するようになったのです。その要因と思われるのは、主に3つ。マスクで半ば顔を隠す状態が当たり前になったこと、コロナ禍でも熱心に学びを届ける教師に温かみを感じたこと。そして、スモールステップによる効果です。
スモールステップとは、小刻みに目標達成しながら徐々に最終目標に近づく方法。原先生は、「今日は午前中だけ、今日は出席番号偶数の生徒だけ」などのように、密を避けて少人数ずつ登校する工夫がスモールステップになった可能性を指摘しました。
「マスクのこともあります。先生が教材をわざわざ届けてくれたという、先生に対する感謝の思いもあります。さらに、スモールステップ。要素がいくつも積み重なって、不登校の子たちが学校に登校再開できるようになった。そう考えれば、不登校の子たちの背中の押し方を考えるヒント、なぜ彼らが学校に来づらかったのかを考えるヒントを、コロナは与えてくれたといえます」。ただ、残念ながら、学校が元の状態に戻ってから、また再び学校に来られなくなったという報告も届いているそうです。
聴講者無しのオンライン配信の講演会は、原先生もはじめての経験だったとのこと
オンライン授業は個別に学びを届ける環境として有効か
原先生のお話の中で特に興味を引かれたのは、「ネットとリアルでは、どちらの方が深い人間関係が築けるか」という話題です。おそらく40代以降の人なら、ほとんどの人が「リアル」と答えるはず。早くコロナ禍が収束してリアルで飲み会をしたい、営業や打ち合わせもリアルの方が捗る、と思っている人は多いでしょう。ところが、原先生の10年にわたる研究によると、最近の子どもたちはそうした「重い人間関係」を嫌う傾向にあるとのこと。
「2年前から、ほぼリアルとネットの位置づけが一緒になってきました。そして、このコロナ禍の中で、ネットを介した人間関係の方が円滑・円満な関係性を構築できるという回答が増えてきました。正直に言ってリアルに頼ってきた我々の価値観からすると、ショッキングな出来事です。でも、子どもたちからすると当たり前なのかもしれない」
子どもたちは、ネットの方が大事というより、「リアルな人間関係は一度破綻するとおしまいと考える」と原先生。子どもたちにとって学校は非常に気を遣う場所になっているといえそうです。
また、新聞でも報道されましたが、オンライン授業で大学生の学力が上がったという報告があります。原先生ご自身も、オンライン授業の方が学生から質問や意見が出るという変化を感じているといいます。こうした背景として、画面を通して一対一でつながっている感覚、「学びを宛名づけている」環境がかかわっているのかもしれないという、京都大学の石井英真准教授の研究を教えてくれました。
もちろん、リアルな一斉授業にはその教育効果があるでしょうし、どちらか一方だけが正解ではありません。原先生は「これまでの教員養成は一斉授業が前提でしたが、これからはそれだけでなく、個別に教育を届けること、TPOに合わせた学びの個別最適化が大切」だと指摘します。オンラインで一人ひとりに学びを届けることは、リアルに本人に向き合う環境になるかもしれないのです。
大人世代はついリアル至上主義に陥りがちですが、もうリアルかオンライン(ネット)かという二者択一で考える時代ではないのでしょう。働き方や価値観を大きく変えた新型コロナウイルス感染症は、新しい教育の在り方を生み出すきっかけになると感じさせられました。