大学と社会はどうつながっているの? そんな疑問に真っ向から応えてくれるサイトが、昨年11月、立命館大学から新しくオープンした。「大学=知の殿堂」であることに改めて気づかされるお役立ちサイト。同大広報課をおたずねして、開設の意図をうかがった。
立命館大の知をあなたの力に
2018年11月1日にオープンしたサイトの名前は、「shiRUto(シルト)」。2017年夏頃の構想開始から、ほぼ1年の歳月をかけて形にした。新サイト立ち上げの狙いを、担当者の名和さんはこう語る。
「公式ホームページには、本学のことを知っている人、何らかの目的をもって本学を検索した人のアクセスがほとんどです。本学のことを知らない方が、気軽にアクセスできる入口になればと考えて作りました」。
そのような入口になるためには、多くの人の情報検索にひっかかる必要がある。そこで、話題の出来事、社会で解決すべき問題・課題、幅広い年代の関心事などが網羅されており、記事を読むことで何かの参考になったり、ひらめきにつながったりするサイトという方向性が決まった。
shiRUtoでは、ビジネス、テクノロジー、グローバル、ライフ、スポーツ、カルチャーの6つのカテゴリーに分けてコンテンツを提供している。絞り込みできるようタグが設けられているが、オリンピック、AI、eスポーツ、IoT、チーム/組織論、食、子育てなどなど、世の中の多くの人が関心を持つさまざまなテーマが取り上げられていることがわかる。
Aboutページではサイトの方向性が示されている
その記事は、読者が知りたいと思うテーマを設定し、同大の先生が解説をしたり研究成果からわかったことを述べるというスタイルが一般的。「子どもはほめて育てるのが正しいのか?」というテーマの記事では、先生が実際に乳幼児と母親を対象に行っている研究から得られた科学的事実から見解を述べる。
「日本のeスポーツはどうなる?」「ものづくりを支えるロボットシステムインテグレーターとは?」「グローバルビジネスにおけるルール・メイクの重要性」「今、正しい朝ごはんとは?」と、少し挙げてみるだけでも、さまざまな世代の多様な関心に応えていると感じる。
日本でのeスポーツの課題を示した記事は注目を集めた
2019年4月から16学部になる同大の約1,000名にのぼる先生たちは、人々の関心や社会の要請に応えて日々研究を進めている。そうした莫大な知的資産と問題解決したい多くのネット市民たちをつなごうというのが、このサイトの目的なのだ。
「一般の方にとっては、大学の研究が社会にどのような影響を与えているのかわかりづらいと思います。関心の高い身近なテーマを中心に取り上げること、文章のタッチもかなり軽めにして読み物として紹介することなどによって、研究の内容を理解してもらうのと同時に大学を身近に感じてもらいたいと考えています」(名和さん)
誰もが知りたいことを読みやすく
「タッチは軽めに」ということだが、なかなか読みごたえのある記事が並んでいる。同じく広報課の森本さんは、「しっかりと説明して、社会に知を実装するというわれわれの大学の強みを感じていただきたい。社会の課題となっているところにうちの研究はどう生かされているか、その挑戦を感じとってもらえれば」と語る。
先生だけではなく学生や卒業生も登場し、6つのカテゴリーに関連した生きる上でのさまざまなヒントを提供してくれている。
編集会議では翌月、翌々月までのテーマを決定し、月に10本を目標に6つのカテゴリーをバランスよく更新。週にすると2、3本のペースだ。テーマの選定については、メディア等で話題になったキーワードと関連する研究テーマを取り上げて注目度を高めるのが一つ。1964年の東京オリンピックを契機に整備されたインフラが老朽化し始めているという社会問題から、コンクリートに穴を開けずに、画像データ等で劣化状態を調査する研究を取り上げるといった具合だ。
良質なコンテンツへの誘導も
外部のライターが取材・執筆を行っているオリジナル記事だけでなく、リライト記事やリンク記事もある。この2種類は、立命館大学で制作している他のサイトの記事を活用したものだ。
shiRUtoの立ち上げ時に広報課が調べたところ、立命館という冠のついたサイトが100以上あることがわかったという。良質なコンテンツもあるのだが、調べてみるとあまり読まれていない。そういうサイトを吸い上げ、shiRUtoの中で展開したり、リンクを貼ることによって、良いサイトに誘導するというのも重要な役目である。
2018年4月新設の食マネジメント学部によるメディア「ガストロノミア」からのリンクも
「shiRUtoという大きな入口を活用して、それぞれのサイトを行き来しながら全体的に立命館大のことを知り、ファンになってくださる方を増やすことができればと思っています」
読者からの反応はまだこれから分析していくところだが、先生方からは好評。意見交換をしながら、より質の高い記事にしているという。「ここで紹介して認知されることで共同研究等に繋がるなどの可能性も広げていきたい」(名和さん)
キャッチフレーズ「知ると、ツナガル、ウゴキダス。」の通り、繫がるメディアでもあるわけだ。
とはいえこのサイト、パッと見て立命館大とわからない。「デザイン面では、立命館色はできるだけ薄く、ひっそりと」を肝に銘じているとか。
スクールカラーのえんじ色を使っていないのが大きい。「とはいえ、実は立命館フォントと呼ばれる文字を使っていたりはします。あくまでも、さりげなく、です」と名和さん
「今後はますます、自分の大学がどうだから、というようなことよりも、それがユーザーやステークホルダーにとってどんな価値、インパクトがあり、どう繋がるものなのかを基準に考える、という方向性が基本になっていくと思います」と森本さんはこれからの情報発信の方向性を語る。
最近は、メディアの“相互乗り入れ”も始めつつある。講談社ブルーバックス社のサイトでは、eスポーツの記事を転載した。「他のサイトに来ている人にうちの記事が読んでもらう事はとてもありがたい」と、今後とも他のサイト等との連携を進めていきたい考えだ。
「目標はあくまで高く、大学業界随一の規模を誇るメディアをめざしています」と名和さん。これからのshiRUtoに期待したい。