ロングライフデザインが息づく京都の街で
ロングライフデザインをテーマにしたプロジェクトショップD&DEPARTMENTの10番目の店舗が京都に誕生した。お寺の境内という立地もさることながら、芸術大学とのコラボレーションという新しい試みに注目が集まる『D&DEPARTMENT KYOTO』。オープンから約4カ月が過ぎた2015年4月、満開の桜に彩られた同店で、仕掛人のナガオカケンメイ氏にお話を伺った。(ショップをレポートした前編はこちら)
>『D&DEPARTMENT KYOTO』はこれまでのD&DEPARTMENTとは、趣が違うように感じるのですが…
ナガオカケンメイさん(以下N):京都店は全然違いますね。我々D&DEPERTMENTのミッションとは、その土地に長く続くものを紹介する場を作ることなのですが、その意味ではD&DEPERTMENTは京都ではあまり機能してないんです(笑)。というのも、京都の人々は地元の魅力や、長く続くものを継承していく大切さをご存知だからです。京都店で取り扱いをしている商品の作り手さんの中には、学生たちとそんなに歳が変わらない方もいます。20代で老舗の何代目かを継がれていたりする。継承とは、昔からあるものを継ぐことと、新しいものを取り入れることの両方を行わなければならないのですが、京都の作り手の方々はそのことを常に考えていらっしゃいますね。日本の多くの地方が、その土地の魅力を自分たちでは理解できず、若い人たちに伝えることもできていないのですが、京都は違います。
>京都にはロングライフデザインが息づいているんですね。その中で『D&DEPARTMENT KYOTO』はどのような役割を果たしているのでしょう?
N:我々のターゲットは若い人たちなので、『D&DEPARTMENT KYOTO』をきっかけに京都の若者へ、自分たちの土地や土地のものに対しての関心を湧かせる仕組みとしては、上手くいっているのかなと思います。従来の大型バスで巡る観光でなく、違う視点で京都を見れるようになる…観光がデザインで若返ると。
また、物が大量にあることが豊かさの証しでなくなり、デザイン自体の意味が変わる時代になってきました。奇抜だったりカッコいいものを作るのがデザインではない。形の話はどうでもよくって、生活者の暮らしが豊かになるモノづくりを提案できているかが大切です。むしろ「新しいものは作らない」「継承されてきたものをさらにどう育てていくか」というデザインの世界が実はリアルにあるんですね。そこを考えるのが、これからのデザイン教育の現場に重要だと思っています。京都はまさに「デザインを育てる」教育ができる格好のステージですよね。
>2013年より京都造形芸術大学で、『D&DEPARTMENT KYOTO』を通じてデザインを学ぶ学生への指導も行われていますね。
N:京都造形芸術大学は、いち早く「デザインは育てるものだ」と宣言した学校です。といっても普通はあまりピンとこないかもしれません。でも、僕にたまたま声をかけてくれたのが京都のこの大学で、僕のやりたいこととフィットしたんですよ。京都造形芸術大学の学生はこのプロジェクトを通じて、京都の作り手さんたちが悩み葛藤している現場にお邪魔することができます。それがとてもいい刺激というか教育になっていると思います。
>単にモノをデザインするのではなく、「仕組み」をデザインすることがこれからますます各地域で必要になってくると私も感じています。その意識が高い京都にできたD&DEPARTMENTで学べる学生さんが羨ましいです。
N:でも学生にしたら、「よぉし作るぞ!」と大学に入ってきたら「作るな」「育てるんだ」って言われて、悩みますよね(笑)。…ですが、教室で生活者のためのデザインを考えるのは難しい。一方、お店に立てば「あれは使いづらい」とか「もっと良いのを出せ」とか、お客さんにいろいろ言われるリアルがある。現実を目の当たりにして初めて、何を生み出したら生活者のためにいいのかが考えられると思うんですね。
だからなるべく学生には『D&DEPARTMENT KYOTO』の店頭に立ってもらいたいと思っています。今後は、京都の作り手とコラボレーションした商品を作っていく計画なので、お客さんとの対話からヒントを得て欲しい。「売り場が生んだデザイン」が一番リアルだと思います。そういう体験を京都店で学生とできると面白いし、これから生まれる“京都セレクション”にも注目してほしいですね。
『D&DEPARTMENT KYOTO』店内で、京都造形芸術大学の学生による商品説明に耳を傾けるナガオカケンメイ氏
ナガオカケンメイさんプロフィール
1965年北海道生まれ。D&DEPARTMENT代表。47都道府県にD&DEPARTMENTをつくることをめざし、生活者と作り手が集い、その土地「らしさ」について学び、対話できる場を提供している。2013年より京都造形芸術大学教授就任。学生とともに『D&DEPARTMENT KYOTO』を立ち上げた。生活者の目線に立った「売り場でデザインを育てる」大切さを、学生に伝えている