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  • date:2023.8.29
  • author:(有)鐵五郎企画

東大駒場Ⅱキャンパスに誕生した新たな形の学食「ダイニングラボ・食堂コマニ」

東京都目黒区にある東京大学の駒場Ⅱキャンパス。新旧の建物が同居する同キャンパス内に2022年10月、「おいしい食事 × はずむコミュニケーション × ユニークな研究」をテーマにした新たな学食「ダイニングラボ」が誕生しました。この学食内で営業する「食堂コマニ」は、最近、雑誌やラジオなどさまざまなメディアにも取り上げられ話題になっています。「ラボ?」「食堂?」一体どんな学食なのか──。現地取材に向かいました。

コロナ禍を機に進んだ、学食イノベーション

施設内で迎えてくれたのは、東京大学生産技術研究所前副所長であり、食堂ワーキンググループ(WG)座長として「ダイニングラボ」の構想段階から携わってきた吉江尚子教授と、「食堂コマニ」の運営事業者兼ディレクターの玉田泉さん。早速、お二人に「ダイニングラボ」、そして「食堂コマニ」誕生のきっかけから現在の様子までを伺いました。

吉江尚子教授(右)と玉田泉さん(左)

吉江尚子教授(右)と玉田泉さん(左)

 

ダイニングラボは東京大学生産技術研究所(生研)の学食がリニューアルして生まれた施設。生研は、 教授、准教授、講師など約250人が所属し、約150の研究室を擁する日本最大規模の大学附置研究所で、国内外から1,000人を超える研究者たちが集まり、“明日の暮らしをひらく”さまざまな研究を行っています。

 

「生研は、学術的な真理を深め、極めるとともに、社会とのつながりも大切に考え、『知』の社会実装を実現するべく幅広い研究活動を展開しています。伝統的に専門分野の垣根を超えた協働にも力を入れてきました。そうした中、コロナ禍で本所の学食の運営事業者が撤退したことをきっかけに学食イノベーションの機運が高まっていきます。これを受けて、前任の副所長が発足させた食堂WGを引き継ぎ、“学内コミュニケーション活性化”を一つのテーマに新たな学食の構想が始動しました。これが『ダイニングラボ』が生まれるきっかけでした」(吉江教授)

 

その後、さまざまな大学の学食の調査結果などを踏まえながら、生研にふさわしい学食が検討されたといいます。構想の具体化を加速させたのは、食堂WGメンバーの一人である川添善行准教授のニューヨークでの体験でした。川添准教授いわく、スタートアップ界隈では、優秀な人材が会社を選ぶ基準に「健康意識の高い食事」があり、イノベーションをうたう生研にこそ、こうした「食」が必要だと感じたそうです。

コミュニケーションが生まれる新たなプラットフォームへ

ここで、学食の輪郭を形作るにあたり、伴走者として加わったのが(株)テーブルビートの佐藤俊博さんと「丸の内ハウス」統括マネージャーの玉田泉さん。東京駅新丸ビル内にある、食を通じて人が集い、憩うダイニングスペース「丸の内ハウス」を手がけたお二人で、「食堂コマニ」の運営事業者でもあります。

 

「川添先生の体験も踏まえて、食堂WGメンバーの方々と、『学食から未来が変えられたら』という話からスタートしました。最初は“日本の食文化を伝える学食”という案があがったのですが、そこから“学内コミュニケーション活性化”も含めて発展し、最終的においしく健康的なごはんが食べられるだけでなく、学食の枠に収まらない新しい形の学食を目指すことに。研究者同士や学生、さらには一般の方々も交えた交流や、ユニークな研究の話などが自然に生まれ、さまざまなイノベーションを生み出していく“ラボ”にもなればと考えました」(玉田泉さん)

 

こうして「ダイニングラボ」のコンセプトは、「おいしい食事 × はずむコミュニケーション × ユニークな研究」に決定し、建築家でもある川添准教授と松繁舞氏  (元・生研特任助教)による空間設計のもと工事が進められ、2022年10月、「食堂コマニ」とともにオープンを迎えました。

全国のこだわり食材でつくる愛情ごはん

(左上)「ダイニングラボ」の入口。画家の佐藤真生さんがデザインしたキャラクター「コマニちゃん」が迎えてくれます。(右上)入口左手の壁には楽しい絵が。オープン記念に「生研を豊かにするダイニングラボの徹底活用法」と題し教職員にヒアリングしながらフリーハンドで描かれた絵だそう。(下左右)カジュアルなキャンプチェアやローテーブル、さらに親子連れに喜ばれそうな小上がりもあり、多様な空間が共存しています

(左上)「ダイニングラボ」の入口。画家の佐藤真生さんがデザインしたキャラクター「コマニちゃん」が迎えてくれます。(右上)入口左手の壁には楽しい絵が。オープン記念に「生研を豊かにするダイニングラボの徹底活用法」と題し教職員にヒアリングしながらフリーハンドで描かれた絵だそう。(下左右)カジュアルなキャンプチェアやローテーブル、さらに親子連れに喜ばれそうな小上がりもあり、多様な空間が共存しています

 

ダイニングラボ内で営業する「食堂コマニ」は、教員や職員、学生だけでなく、誰でも利用が可能。地域の人にも徐々に知られてきていて、最近では親子連れなどがよく訪れているそうです。毎日利用している学生もいて、「コンビニでおにぎりを買わなくなった」「コマニで食べるようになって調子がいい」などの声も聞かれるといいます。それもうなずける食材へのこだわりを玉田さんが教えてくれました。

「できるだけシンプルに調理して素材本来の味を活かすように心がけています」と玉田さん

「できるだけシンプルに調理して素材本来の味を活かすように心がけています」と玉田さん

 

「食材や調味料は、オーガニックや無添加のものを全国各地の生産者さんから取り寄せています。例えば、お米はトンボやカエルがいるような豊かな田んぼで育てられ、天日干しされた有機栽培米。野菜は全国の契約農家さんから直送いただいています。食事を通して、生産者とつながり、郷土食をはじめとする文化や地域を知る場にもしていきたいですね」(玉田さん)

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(上)オーガニック野菜の具沢山豚汁定食(950円)、小鉢(100円)、(下)和歌山「山利」のしらす丼定食(1000円)を取材後に堪能。素材の味がしっかりとして発酵食品の旨味もたっぷり。お腹も心もすっかり満たされました

(上)オーガニック野菜の具沢山豚汁定食(950円)、小鉢(100円)、(下)和歌山「山利」のしらす丼定食(1000円)を取材後に堪能。素材の味がしっかりとして発酵食品の旨味もたっぷり。お腹も心もすっかり満たされました

 

気になるメニューの一例を紹介すると、鶏の唐揚げや焼きサバなどをメインにした「本日の定食」(1,000円)や、大きめのおむすびが2個とあおさのお味噌汁がセットになった「おむすび定食」(700円)、照り焼きやつくねなどメインが変わる「わっぱ飯定食」(1,000円)、充実の小鉢も付いた「しらす丼定食」(1,000円)など。いずれもシンプルな定食ですが、選りすぐりの食材と無添加の調味料を使い、手間暇と愛情が込もったご馳走です。

研究者同士のつながり、「人」や「知」との偶発的な出会い

(左上)「はし休めプチトーク」の告知チラシ。(右上)第三回「はし休めプチトーク」で講演した梶原優介教授。(左下)壁の棚は、研究の多様性を一覧できる生研ライブラリーに。食にまつわる書籍も並んでいます。(右下)棚にも飾られた各研究室の研究内容を紹介するクリアファイル。「はし休めプチトーク」参加者にもれなくプレゼントしているそうです!

(左上)「はし休めプチトーク」の告知チラシ。(右上)第三回「はし休めプチトーク」で講演した梶原優介教授。(左下)壁の棚は、研究の多様性を一覧できる生研ライブラリーに。食にまつわる書籍も並んでいます。(右下)棚にも飾られた各研究室の研究内容を紹介するクリアファイル。「はし休めプチトーク」参加者にもれなくプレゼントしているそうです!

 

“ラボ”機能も拡大中で、コミュニケーションの創出を目的に、教授や学生を巻き込んだ多彩なイベントを頻繁に開催していると話す吉江教授。今年1月から月1回程度のペースで続く、ランチタイムの「はし休めプチトーク」は、生研の教授による15分程度の研究紹介で、一般の方も含めてそこに居合わせた誰もが参加可能。トーク後の活発な質疑応答などを通して、交流が生まれているといいます。

「本所の所長と、同キャンパス内にある先端科学技術研究センターの所長も参加して、両研究所のメンバーが交流するティーイベントも企画中です」と吉江教授

「本所の所長と、同キャンパス内にある先端科学技術研究センターの所長も参加して、両研究所のメンバーが交流するティーイベントも企画中です」と吉江教授

 

「こうしたイベントの他にも、研究成果につながる実験的な試みも実施しています。7月末に、期間限定で、ダイニングスペースに毛細血管スコープを置いて、食事に来られる方にご自身の毛細血管を見ていただきます」(吉江教授)

 

「これに合わせて、『食堂コマニ』では、血管を強くする効果が期待されるイチョウ葉エキスとヒハツというスパイスを使ったメニューも提供する予定で、今は開発の最終段階です」(玉田さん)※取材時

 

「ここができたことで、おいしい食事はもとより異分野の研究者同士が食事しながら会話をしたり、普段は接点のない教員の話を学生や本所の事務方、さらには一般の人が聴けたりする機会が生まれています。さまざまな人が交流し、混じり合うことでこの場からイノベーションが起きることを期待しています」(吉江教授)

 

今後は、ゲリラ的なイベント開催も考えているといいます。「おいしいランチを食べに行ったら、幸運にも最先端の研究の話が聴けた」なんていう思いがけない出遭いがあるかもしれません!

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