1928年に設立された早稲田大学の演劇博物館に行ってきました!豊富に、忠実に、そして贅沢に、さまざまな演劇の要素を次代に伝えようとする博物館。館長の岡室美奈子先生のお話とともに、その魅力を紹介します!
なぜ早稲田大学に? 貴重な演劇の資料があるのだろう…。
正式な名称は早稲田大学坪内逍遙記念演劇博物館(通称:エンパク)。世界でも数少ない、アジアでは唯一の演劇専門の総合博物館です。一般的な博物館だとご当地の演劇資料を展示しているところが多い中、エンパクでは日本の古典から現代もの、アジア、ヨーロッパまで幅広く収集。これは同大で教鞭をとった創設者、坪内逍遙の方針で、それが今なお受け継がれているからなのだそう。
現代演劇やテレビドラマの専門家、岡室美奈子館長。屋外イベントも行なわれるという建物前舞台にて
岡室館長は「博物館というのが一番メインなのですが、研究拠点、地域の文化振興の拠点など、エンパクはいろんな顔を持っています。2018年は建物前舞台にスクリーンを設置し、弁士とピアニストの生演奏付きで無声映画の屋外上映会をしたり、こどものための演劇教室などをしたりしました」。
坪内逍遙が演劇博物館の構想を抱いたのは、なんと1916年!そして1928年、逍遙の古稀とシェイクスピア全集の完訳を記念して建てられました。16世紀イギリスの劇場、フォーチュン座を模して設計され、建物の歴史的価値も高いです。
木の温もりと柔らかい照明が心落ち着く、懐かしいのに新鮮な空間
「逍遙に先見の明があって、災害に強いとされる鉄筋コンクリートで建てられています。90年も使っているから階段がギシギシいったりもしますが(笑)。近年は映像を駆使するなどヴィジュアル的に展示して、新しいデバイスやツールを使うなど、目で見て、あるいは耳で聞いて感じていただくことを重視しています」と、常に新しい技術を取り入れながら、展示を工夫されているそうです。
2018年のリニューアルで、(よりビジュアル体感的に)パワーアップ!
そんなエンパクは2018年に開館90周年を迎えリニューアルし、常設展がパワーアップしました。
リニューアル最大の目玉となったのが、1階の「京マチ子記念特別展示室」の開室です。京マチ子さんは『羅生門』『雨月物語』などの作品で知られる昭和を代表する世界的な映画女優。ここにはミニシアターが設置されており、映画や舞台映像、テレビ作品が常時上映されます。
日本の映画・テレビの関連資料のほか、京マチ子さん愛用のチェストも展示
2階にあるのは「逍遙記念室」。もともと貴賓室として作られ、逍遙が来館した時に使われていたそうです。愛蔵品の展示の他、貴重な最終講義映像を上映しており、本人の肉声を聞けるとは思っていなかったのでちょっと感動。逍遙は、自身の干支である羊グッズが好きだったそうですよ♪
来賓時に坪内逍遙が使用していたとされる部屋
天井に施されているのは逍遙の干支に因んだ羊の装飾
ここでしか体験できない! 独自ツールを常設展に導入。
常設展示室は「古代・中世」「近世・近代I」「近代Ⅱ・現代」「世界の演劇 ヨーロッパ・アメリカ」の4つのブロックに分かれています。100万点といわれるエンパクの収蔵品は、とにかく多種多様です。なかでも世界最大級を誇っているのが歌舞伎と文楽のコレクション。ファン必見です。さまざまなジャンルの舞台映像が流れているので、見応えは◎。きっと新しい発見につながります。
歌舞伎と文楽のコーナーでは映像も公開されています。
「一見、他の方から見れば不要とされてしまうようなチラシも、当館とっては貴重な資料。あらゆるものが演劇の資料になりうる。歌舞伎の台本、ドラマの脚本、舞台設計図、お面、人形、鏡台…京マチ子さんが縫った防空頭巾もありますよ」と笑う岡室館長。見学していると、その言葉を実感します。
衣裳から模型まで、大小さまざまな展示はエンパクならでは。よぉ〜く見ないと見逃してしまうかも?
エンパクの魅力は、展示だけではありません。1990年代には電子博物館構想が始まっていたというエンパク、館内には新しいツールを使ったインタラクティブな展示が充実。さまざまなアクティビティが随所に設置されているので、飽きることがありません。
さまざまなお面を3Dで回転させたり、光源の位置や明るさを変えることができる画面や、速記本の自動読み上げ、江戸時代の「くずし字」を現代文字で読めるツールなど、驚きと発見の連続です。
舞台映像(左)とお面が角度や光源によって表情が変わることを体験してもらいたいと開発された3D(右)
文字の上にカーソルを乗せると、現代文字に変換してくれます
演劇を超えた多様な芸能文化をエンパクは広く発信していく。
このような体験型の展示は、「学生や地域の人、いろんな人たちにたくさん来てもらえるようなコミュニケーションの場になればいい、と2013年の館長就任時に考えました。体験型の展示を取り入れつつ、できるだけ若い人にも親しみやすいように心がけています」とおっしゃる岡室館長。
能面を体験。視野が狭い!これで舞うとは…
さらにエンパクでは図書閲覧、AV資料の視聴も一般利用がOKです。閲覧には身分証明書(免許証、学生証等)が必要なのでお忘れなく。
「演劇博物館は、演劇好きの人を増やすというのも一つの社会的使命だと思っています。展示や、それに関連するイベントでは、“いま”につながる入り口を意識し、演劇にこれまで関わりのなかった方にいかに興味を持っていただけるかを大切にしています。しかも入場は無料です。0円で演劇に触れていただけます!人々が集う場として、いい取り組みを続けていきたいので、もっと多くの方にエンパクを知ってもらいたいですね」と岡室館長は力を込めていました。
ここに募金すると…、アッと驚くことがあります!
人気の役者絵を使用したカードやカレンダーなど、ミュージアム・グッズはリーズナブル
握手をすると英語の成績があがるなどの噂から、たくさんの受験生が訪れる坪内逍遙像。だから手だけピカピカ
2019年2月1日から9月27日まで、エンパクはバリアフリー化にともなう工事のために休館予定。今後のイベントや企画展など、スケジュールはホームページやメールマガジンでご確認ください。