家森 幸男
セッション7「健康長寿のため最良の食事とは?」特別講演者
医学博士、長寿食研究者。京都大学大学院医学研究科修了。武庫川女子大学 国際健康開発研究所所長、京都大学名誉教授、兵庫県健康財団会長、NPO法人世界健康フロンティア研究会理事長などを務める。主な受章・受賞歴に、ベルツ賞(1993)、紫綬褒章(1998)、杉田玄白賞(2004)、瑞宝中綬章(2012)。
30年以上にわたる世界的調査でわかった、和食の特色。
ユネスコの無形文化遺産に登録されたこともあり、和食が健康的な食事だという認識は世界中に広まっていますが、その栄養特性は長らく判然としていませんでした。しかし我々がWHO の協力を得て、1985年から30数年かけて研究を進めた結果、和食の特色が見事なデータとして明らかになったのです。
栄養による健康効果を証明するため、まだ聞き取り調査しか行われていなかった時代から進めていったのが、まる1日分の尿を集めて分析する24時間採尿検査です。何をどれだけ摂ったかという食生活の実態は、明確な数値となって尿の中に現れます。この研究では、食生活による健康面への影響が顕著になってくる50代前半の人を中心に、世界60以上の地域に赴いて調査。マサイ族やチベット族などの特徴的な民族も含めた、およそ16,000人ものデータを集めました。
それをもとに、世界中の人々を食文化ごとに分類。魚に多く含まれるタウリンと、大豆に多く含まれるイソフラボンの摂取量を、少ない群から多い群までそれぞれ5分割してみたところ、なんと両者が最も多い群の90%近くを日本人が占めたのです。しかも両者が最低の群では0%、日本人は1人もいませんでした。すなわち、魚と大豆の豊富な摂取こそが、日本人の食生活の特徴だという結論に。また、一連の調査を通じて、タウリンやイソフラボンの摂取量が多いほど、心筋梗塞での死亡率が低いこともわかったのです。
「和食の特色を調べると、富士山のような美しい山形となった」と家森先生。
大豆や魚をしっかり摂れば、男性も女性並みの長寿になれる。
国内でも調査だけでなく健康長寿を目指す県民運動を展開しています。兵庫県下で24時間採尿検査や血液検査などを行い、循環器疾患のリスクとの関係を調べたところ、イソフラボンの摂取量が多い群は、拡張期血圧やインスリン抵抗性がより低いこと、タウリンの摂取量が多い群はHDL(善玉コレステロール)の値が高く、大豆や魚を食べると高血圧や糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、つまりは生活習慣病の予防効果が期待できるとわかりました。
さらに、大豆と魚を両方摂っている群は、両者の摂取量が少ない群に比べ、HDLが約1割も多いという結果も見られました。もともと女性は男性よりHDLが1割ほど多いため動脈硬化が起こりにくく、その影響を受けやすい心臓死につながりにくい分、男性よりも平均で6~7年も長生きです。
WHOの統計において、日本人女性の平均寿命が1986年以降、長らく世界第1位であった理由は、先進国中で心筋梗塞の死亡率が最も低かったことに起因します。女性の心臓死の率は、男性の半分程度。男女の平均寿命の差が動脈硬化の進行の差によるとものだと考えると、魚や大豆を充分に摂取することで、女性並みにHDLが上がり、およそ7年の延命効果も期待できます。
ただ問題なのは、大豆と魚の摂取量が多い群は、少ない群に比べ、食塩摂取が多いということです。塩分の摂取量が多くなれば、血圧が上がって脳に影響し、脳卒中のリスクが高まってしまいます。脳卒中は、寝たきりや認知症を引き起こす大きな原因の一つ。食塩の過剰摂取が、日本で健康寿命が平均寿命より10年以上も短い要因になっていると考えられます。
家森先生は、大豆と魚を食べることで男性も女性並みに長寿になれると説明する。
日本の素晴らしい伝統食は、食べ方次第で“健康長寿食”になる。
魚の摂取量が、世界で日本の次に多いのが地中海地域です。地中海食には、ナッツ類が多く含まれていて、それも大豆の多い日本食と共通するメリットですが、食塩過剰の共通のデメリットもあるのです。
今回の特別講演では、動脈硬化予防食としての日本食について、地中海食との共通点も含め、興味深いデータとともにご紹介するつもりです。大豆や魚を摂ってプラス7年、減塩にしてプラス3年と、「適塩和食」にすれば、世界トップクラスである日本人の平均寿命に健康寿命を近づけることは可能です。本講演では、塩分を抑える和食の上手な食べ方もお教えします。
単なる長生きではなく健康長寿を叶えるためには、長年にわたる食生活が大切です。100歳超えが当たり前になる時代が来たとき、今のように寝たきりや認知症が多くては大問題です。そうならないための食生活を、今の若い人たちに知ってもらって実践してほしいし、今後お子さんにも身につけさせてほしい。老若男女かかわらず、生涯食育はとても重要です。若い世代の皆さんが、ふるってご視聴くださることを願っています。
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