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  • date:2026.3.3
  • author:三浦彩

珍獣図鑑(29):シェルター兼お菓子の家!?いいように利用され我々の食卓にも貢献している、クラゲに感謝を!

今回お話を伺った研究者

近藤 裕介

広島工業大学 環境学部 地球環境学科 講師

博士(農学)。愛媛県の新居浜工業高等専門学校 生物応用化学科を卒業後、広島大学 生物生産学部に進学。同大学院の生物圏科学研究科 博士課程後期を2017年に修了し、広島大学の特別研究員、生物圏科学研究科の研究員、統合生命科学研究科の助教、瀬戸内CN国際共同研究センターの特任助教を歴任。2025年4月より現職。メインのテーマは、海洋生物の種多様性や種間関係に関する研究。


普段めったに出会うことのない希少な生き物たち。身近にいるはずなのに、よく知らない生き物たち――。そんな「文字通り珍しい生き物」「実は詳しく知られていない生き物」の研究者にお話を伺う連載企画「珍獣図鑑」。

研究者たちはその生き物といかに遭遇し、どこに魅了され、どんな風に付き合っているのか。もちろん、基本的な生態や最新の研究成果も。生き物たちと研究者たちの交流が織りなす、驚きと発見の世界に誘います。

第29回は「クラゲ×近藤裕介先生(広島工業大学)」です。それではどうぞ。(編集部)


都合のいいイキモノ扱いされているクラゲ……理不尽じゃない?

水族館で見る分にはキレイ。グッズやキャラクターにされている分にはカワイイ。だけど海水浴場で刺してきたり、ちょくちょく大量発生しては漁業に被害を与えたり……と、まぁまぁマイナスイメージ優勢な気がするクラゲ。それに対し、「我々の生活にも間接的に役立っているんですよ」と擁護の声をあげてくださったのが、今回の研究者、近藤裕介先生です。なんたる光明!クラゲちゃんのちょっとイイとこ聞いてみたい!

 

「海の生態系の厄介者として扱われることがあるんですけど、よくよく研究してみると、いろんな生物がクラゲと共生関係を築いているんですよね。なかにはエビ類やカニ類、アジやタラなど私たちの食卓によく上がるような魚類もクラゲを利用していますから」

ユウレイクラゲに寄生するイボダイ。ぴったりとくっついて、優雅にクラゲと泳いでいるのがわかる(写真提供:近藤裕介)

 

共に生きると書いて共生関係!?なんだか素敵やん……と思いきや、「利用する」ってどゆこと?海の生物たちが、クラゲを都合のいいイキモノ扱いしてるってこと!?

 

「私自身の研究テーマがクラゲ類と共生生物の関係なんですけど、クラゲにとってのメリットは今のところ見つかっていないんですよね……。お相手の共生生物にばかり利益がある。クラゲに棲み着くことで外敵から身を守ってもらい、ときにはクラゲが捕ったエサを横取りしたり、さらにはクラゲ自体を食べたりすることもあるんです」

 

なんと!?すみかにしておきながら食べちゃうの!?そんなの、都合のいいお菓子の家扱いじゃないですか!

 

「とはいえ、体の表面部分をついばむぐらいのものが多いんですけどね。ただ、シマイシガニというワタリガニ系のカニのように、バリバリとクラゲを食べちゃう生物もいます。水族館の方から聞いた話なんですが、タコクラゲと一緒にカニを水槽に入れた際、ちょっと目を離したすきに食べられてしまい、真っ二つになって死んじゃっていたことがあったそうです」

 

ドクターフィッシュが角質を食べるぐらいのノリなら大丈夫そうだけど、食べ尽くすのはルール違反じゃない!?そもそもクラゲなんて、見るからに栄養源にはならなさそうな気が……。食感は良さそうに見えなくもないけど、おいしかったりするんでしょうか。

 

「ほとんどが水みたいな成分で栄養もないだろうから、エサにはなっていないだろうって、ずっと言われていたんですけど、実はそんなこともないようで。流動食のような感じで、消化にエネルギーがかからなくて吸収しやすいんじゃないか、とも考えられています。これまでの研究では生物がクラゲを食べていたとしても検出されにくかったんですが、最近だとDNAを調べられるなど研究手法が発達してきていて、水産物の重要種も実はクラゲを食べて育っているとわかりつつあります」

 

栄養源としても役立ってくれているんですね……合掌……。ちなみに意外な生き物がクラゲを食べていたり、なんてことは?

 

「最近わかったものだとペンギンですね。カメラを付けて行動観察していたら、結構な頻度でクラゲを食べているシーンが撮影されていたらしくて。クラゲに共生している魚も一緒に食べているので、目印にしているんじゃないかとも考えられます」

 

おおぅ、水族館の人気者が水族館の人気者を……。ザッツ・生態系!

クラゲにつく共生生物が、共生生物をエサにしているパターンも……

ペンギンとかだと完全に捕食される側だけど、クラゲに共生することで身を守っている、ってのがおもしろいですよね。どういう時期にどれぐらいの期間、共生しているものなんでしょうか。

 

「魚類の場合、生まれて1年未満のサイズのものがほとんどだと思います。それより大きくなると自身の遊泳能力も上がってくるので、自力で捕食者から逃げるようになっているんじゃないかなと。クラゲの寿命も多くは1年ぐらいなので、ついていたクラゲが死んで海に沈むと、その体から離れて暮らし始めるんじゃないかなと思っています」

 

ううむ、やっぱり都合よく扱われている感じがする……。にしても共生生物は、どうやってクラゲを認識して棲み着いているんでしょうか。

 

「そこが今一番、気になっていて興味のあるところなんですよね。基本的には視覚に頼っているとは思うんですけど、クラゲ特有の匂いも関係してくるのではないかと」

 

なるほど。どのクラゲにも共生生物がいるのでしょうか。それぞれどんなスタイルで共生しているのかも気になるところです。

 

「あまりに小さいサイズのクラゲだと身を守ってもらえないので、共生ではなくエサとして利用されるだけかもしれませんが、ある程度の大きさになってきたらついてくるようです。暮らし方は、魚だったらつかず離れずな位置で一緒に泳いでいますし、カニやエビだったら傘の部分に乗っかっている形が多いです。共生生物が最も警戒しているのは、おそらくクラゲの武器である刺胞だと思われます。主に触手に備わっている毒針の細胞で、不用意にふれると基本的に死んじゃいますからね。そのため、彼らは毒針の少ない傘の上を陣取ったり、触手を絶妙に避けながら泳いだりしているのでしょう。ちなみに、クラゲが共生生物を積極的に攻撃することはないんですけどね」

 

共生生物に食べられることもあるのに、攻撃も捕食も積極的にしないなんて……なんだか健気な……。ところでクラゲと共生生物との組み合わせには、決まったパターンがあるんでしょうか。

 

「それはないんですが、ただ、中国の晋時代や日本の江戸時代の資料には『エビがクラゲに付着して付き従う』みたいな記述があるぐらい、クラゲとエビの関係は古くから認知されていたようです。実際、瀬戸内海で秋口ぐらいに出てくるエビクラゲは、名前の通りエビがたくさん共生しているんですよ。一つのクラゲに30~40個体ついているんです。新種記載される前から漁師さんたちもエビクラゲと呼んでいたようです。幼体だけでなく成体のオスとメスもエビクラゲにいるのが確認できていて、おそらく交尾をする繁殖場所としても利用しているんじゃないかと考えられています。エビが毎年どうやってクラゲのもとにやって来て、どういう生活をしているのかは、今後さらに研究したいと思っているテーマです」

こちらがエビクラゲ。確かに、よく見ると口腕の間に小さなエビが!(写真提供:近藤裕介)

 

それはおもしろそう!研究されているなかで、驚きの発見ってあったりしますか?

 

「東南アジアにいるクラゲには、1個体に魚とクモヒトデとカニという3種類が共生しているものもいるんですよ。そこで、共生していたカニのお腹の中を調べてみたら、刺胞に加え、魚の骨や目玉、クモヒトデの一部まで出てきたんですよね。クラゲにつく共生生物同士の関わりについては今まで研究例がほとんどなかったので、共生生物が共生生物まで食べていたのか!と驚きました。

 

ほかにも、クラゲが集めたエサを共生関係にあるアジが横取りするところを水槽実験で観察した研究があったんですが、私が野外で採集したアジの胃の内容物を調べたところ、刺胞が絡みついたカイアシ類が見つかったんです。カイアシ類はクラゲがエサにしている小さな甲殻類なんですが、実験で観察されたことが野外でも行われていたんだと確認できる発見でした」

悪さをしようと思っているわけではなく、ただ粛々と生きているだけ

基本的には海に行ってクラゲを採取し、どういう生物がついているかを調べているという近藤先生。クラゲに刺されることはないんでしょうか?

 

「ありますあります!種類によりますが、すごく痛いですよ。一度、右腕にクラゲの触手が張り付いたときがあったんですけど、1週間毎日、経過観察の写真を撮りました。これも研究者あるあるだとは思うんですけど……ちょっと変態的ですよね」

ヒクラゲに刺された際の写真。左から1日目、5日目、22日目の状態。あの長い触手が絡みついたであろう跡が……!(写真提供:近藤裕介)

 

それは確かに変態的かも……。そういえば、クラゲに刺されたらお酢をかければいい、って、おばあちゃんの知恵袋みたいな情報を聞いたことがあるんですが……あれって眉唾なんでしょうか?

 

「クラゲの種類によっては効きます。でも、逆効果なクラゲもいるから、やみくもにかけるのは危険です。ミズクラゲとかアカクラゲとか、一般的によく知られているクラゲは、お酢をかけちゃうと逆に毒針の発射が促進されるんですよ」

 

なんと、そんな真逆な結末が!

 

「ただ、判断も難しいでしょうから、触手がまだ残っている状態だったら、まずは海水などで洗い流すのが大事です。また、ひどい痛みが続くようであれば、病院で診てもらったほうが安全だと思います」

 

そんな痛い目に遭いつつも研究を続ける魅力って、どんなところにあるんでしょうか。

 

「一番はクラゲのキレイさです。形も色も大きさも種類によって違いますし、泳いでいるシルエットも優雅だから見ていて飽きません。触手がなびかせている姿を見ていると、生命の神秘や美しさをすごく感じますね」

 

聞けばクラゲに関する研究は、クラゲが持つコラーゲンなどの有用成分を応用しよう!という研究なんかも進められていて、かなり多岐にわたるんだとか。世界的に見ても研究者は多いようなんですが、共生関係をテーマにしている研究者となると、ほとんどいないんだそう。なぜそんなニッチな分野に……?

 

「もともと海の生物に興味があって、高専の生物応用化学科から広島大学の生物生産学部に編入したんですが、研究室で提示されたなかから『いろんな生物が見られて楽しそう!』という理由で、このテーマを選びました。研究をしていくなかでクラゲと共生生物の関わり合いが実に多様だということに魅力を覚え、今も続けているんです。

 

クラゲも別に悪さをしようと思っているわけではなく、ただ粛々と生態系の中で役割を果たしているだけ。刺したり増え過ぎたりするという負のイメージばかりじゃなく、いろんな生物と関わり合いながら生きていて、水産生物を育てる側面も担っている。そのことは、より多くの人たちに知っていただきたいですね」

 

 

【珍獣図鑑 生態メモ】クラゲ

刺胞動物門に属する海生無脊椎動物で、世界中の海に広く分布する。傘状の体と触手をもち、刺胞と呼ばれる毒針を備えた細胞で獲物を捕らえる。多くは浮遊生活を送るが、生態系では他生物との関係が深く、稚魚や甲殻類、クモヒトデなどが共生。すみかとして外敵から身を守ったり、移動手段として利用されたりする共生関係が知られている。

 

 

(編集者:児嶋美彩/ライター:三浦彩/イラストレーター:谷脇栗太)

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