2016年8月9日に大阪・フェスティバルホールで開催された、関西大学創立130周年記念「豊臣期大坂図屏風コンサート」。前回その模様をレポートしましたが、この取り組みの裏には大学の研究成果を違うアプローチで見せる工夫がなされています。
今回はこのコンサートの企画に携わった、関西大学URAの舘正一(やかたまさかず)さんにお話を伺いました。
お話を伺った関西大学URAの舘正一さん
URAとはUniversity Research Administrator の略で、文部科学省が進めています大学等において研究開発について知識があり、研究資金の調達・管理、知財の管理・活用等を行う専門職のことです。研究資金を得るためには、広く研究を認知してもらうことも必要なため、広報活動も重要な仕事になります。
舘さんは今回のコンサートでは、とくに外部への広報活動で関わっていたとのこと。
「豊臣期大坂図屏風コンサート」が開催された理由。
――さっそくですが、今回どのような経緯で「豊臣期大坂図屏風」をテーマにしたコンサートが開催されたのでしょうか。
舘さん
オーストリアのグラーツを拠点に活動するソプラノ歌手の計盛恵子さんがこのコンサートを企画し、関西大学に提案してくれたことがきっかけです。
題材となっている「豊臣期大坂図屏風」はその名の通り、16世紀、豊臣一族統治時代の大坂の様子を描いた屏風で、国内ではなくオーストリアのエッゲンベルグ城にある「日本の間」に今も飾られています。計盛さんはエッゲンベルグ城でこの屏風を目にし、今回のコンサートを企画されました。
この屏風は2008年に「関西大学なにわ・大阪文化遺産学研究センター(現・関西大学なにわ大阪研究センター)」に撮影写真が持ち込まれたことがきっかけとなり、以降、関西大学で継続して研究されています。
その縁で計盛さんが関西大学へコンサートの企画を提案。ちょうど関西大学が創立130周年を迎えるということもあり、記念事業の一つとして「豊臣期大坂図屏風コンサート」を開催するに至りました。
参考:「偶然が生んだ奇跡の屏風 関西大学「豊臣期大坂図屏風」の謎に迫る」
――コンサートを拝見しましたが、屏風絵をイメージした新曲、本当に良かったです。このコンサートを開催するにあたり、とくに大変だったのはどのようなことでしょうか?
舘さん
海外とやりとりをしなければならなかったことですね。
今回は第三部で、プロの音楽家集団であるグラーツ・フェスティバルストリングスと関西大学の学生が合同演奏を行うことになっていました。ですが、練習時間をあまり取ることができなかったので、事前に演奏について打ち合わせを重ねました。※
打ち合わせは楽譜をやりとりしながらメールで行いましたが、指揮者のタクトの振り方ひとつとっても、オーストリアと日本ではやり方に違いがあるようで、普段当たり前に行っている部分を一つひとつ確認しながら話し合いをしなくてはなりませんでした。
※グラーツ・フェスティバルストリングスは日本での公演の前8月1日にグラーツ市エッゲンベルグ城でもコンサートを開催。8月4日に来日したため、学生との練習期間は4日程度だったそうです。
また、当日配布のパンフレットにも苦労しました。
今回はオーストリアとのコラボだったため、パンフレットは日本語とドイツ語の2カ国語で作成しています。
このドイツ語ですが、ドイツで使用されているものとは少し違い、オーストリアで通じるドイツ語で翻訳しています。国が違うと言葉も変化するため、ドイツで使用されているドイツ語に翻訳するだけでは不十分です。大学外に配付する資料なので、この分野に明るい教員にしっかりと確認してもらいながら制作しました。
当日配布されたパンフレット。すべて日独2カ国語になっている
――コンサートには約2000人の方がいらしたと伺っています。当日もかなり賑やかでしたが、どのような方がいらしていたんでしょうか。
舘さん
大学関係者が6割、それ以外の方がおよそ4割来場されました。関係者以外をターゲットにした広報にも力を入れていたので、結果としては良かったと感じています。
――関係者以外への広報にも力を入れたとのことですが、何か理由があるのでしょうか?
舘さん
「豊臣期大坂図屏風」の研究自体はそれほど新しいものではなく、2006年から現在まで、継続して研究しています。もちろん研究成果は何度も発表され、研究しているセンターのファンともいえる方が一定数いらっしゃいます。
しかし逆に言うと、そのファンの方以外にアプローチができていないという課題もありました。
今回はコンサートという、これまでとは違う形での発表の機会に恵まれたので、この研究の認知を高めるために、関西大学とは縁が遠い方々へのアプローチを積極的に行いました。
――広報をするうえで気をつけられた点はどのような部分でしょうか。
舘さん
私は、広報する上で重要なのはストーリーづくりだと考えています。
ですので、音楽が好きな人に向けてはプロの音楽家によるコンサートであること、屏風についてご存じの方に向けては屏風を前面に押し出して、それぞれのターゲットに“刺さる”ストーリーを練り、新聞、ポスター、チラシ、ネット広告などのターゲットに応じた広告手法を用いました。
――コンサート当日、工夫された部分はありますか?
舘さん
屏風を研究していたことがこのコンサートにつながったと、理解してもらえるような展示を行いました。
具体的には、これまでの成果を展示するように、「関西大学なにわ大阪研究センター」に要請し、当日会場の一部に研究成果のパネルや屏風のレプリカを展示したり、屏風を超高精細に閲覧することができるタブレット端末用アプリの試作品を展示したことです。
これらの展示物は今回新たに作ったものではなく、これまで成果発表のたびに少しずつ作りためてきたもの。10年続けてきた研究の成果を来場者に見ていただくことができました。
――私も拝見しましたが、当日は多くの人が屏風のレプリカやアプリに興味をもっていましたね。
舘さん
そうですね。展示して大変良かったです。
当日展示された解説パネルと解説を眺める来場者
大学にあるシーズと世の中のニーズをいかにつなげるかが鍵
――今回のコンサートは研究発表という面では、かなりおもしろい取り組みだと感じました。このような研究成果の広報が果たす役割は、どのようなことでしょうか。
舘さん
今の大学の研究は、どのようにして大学外から資金を調達するかにかかっています。
昔であれば、先生方も研究に集中していればよかった。しかし今は、自分のやりたい研究のために、公的な機関や企業などの外部から資金を調達しなければならなくなっています。
一般論かもしれませんが、産学連携でも社会連携でも、そこには資金や社会のニーズが絡んでいます。これまで大学はシーズ(技術やノウハウ)をもっていたので、ただ外部から話が来るのをまっていればよかった。
しかし今は大学が率先して社会のニーズを掘り起こし、そこにどんなシーズを当て込めるかを考えていかなければならない段階に入っています。
ですので、世間のニーズを探るためにも研究成果を外部へ伝え、大学の持っているシーズを広く知っていただくことは大切だと考えています。そして掘り起こしたニーズと大学のシーズをどのように結びつけていけばいいのかを考えて、実行するのが、新しい職種である我々のような立場の仕事ではないかなと思っています。
――ありがとうございました。
いろいろとお話しを伺いましたが、今回のような形での研究発表は今後もありえるとのこと。大学にはさまざまな研究があり、おもしろいと思えるものがたくさんあるので、このような新しいスタイルの研究発表が今後も継続して行われていけばいいなと感じました。
今後もどんな研究発表があるかに注目していきたいです。