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  • date:2026.1.20
  • author:児嶋美彩

神戸が「おしゃれな街」であり続ける理由を神戸タータン生みの親である神戸松蔭大学 石田原弘先生に聞いた

今回お話を伺った研究者

石田原 弘

神戸松蔭大学 人間科学部 ファッション・ハウジングデザイン学科 客員教授

慶応義塾大学経済学部卒業。3年間のヨーロッパ留学後、商社、服地・服飾輸入卸商勤務を経て2000年に石田洋服店を開業。石田洋服店代表取締役を務めるかたわら、神戸松蔭大学の客員教授も務める。神戸タータン協議会会長。

海と六甲山系に挟まれた兵庫県・神戸市。異国情緒あふれる街並みや港町の爽やかな風景から、神戸と聞くと「おしゃれ」や「洗練されている」といったイメージを連想する人は多いのではないでしょうか。何度も神戸を訪れている筆者でも、歩くたびにうっとりしてしまいます。それにしても、なぜ“神戸=おしゃれな街”だという共通認識がここまで定着したのでしょうか。地域ブランディングに詳しい神戸松蔭大学・石田原弘先生にうかがいました。

始まりは「雑居地」だった

さかのぼること1858年。日本は安政五カ国条約を締結し、アメリカ・イギリス・ロシア・オランダ・フランスの五カ国と、函館・神奈川・長崎・新潟、兵庫の五港の開港を取り決めました。そして、それぞれの土地には外国人専用の「居留地」を作ることで、外国人の移住を認めたのです。ところが、兵庫だけは京都の朝廷から許可が得られず、なかなか開港されませんでした。外国人との接触によって京都の治安に影響が及ぶのではないかという恐れが理由だと考えられています。

 

結局、兵庫(神戸)港が開港されたのは条約締結から10年後の1868年でした。とはいえ、朝廷側から勅許が得られたのは開港日の半年前だったため、居留地の工事は未完成。そこで苦肉の策として神戸に生まれたのが、日本人と外国人が一緒に住む「雑居地」だったのです。

 

「東は旧生田川から西は宇治川まで、ちょうど現在の三ノ宮駅から神戸駅あたりまでのエリアが“雑居地”として、日本人と外国人の雑居が認められました。他の港では居留地として外国人が暮らすエリアは分けられていたのですが、神戸は最初から外国人の生活が身近にあったのです。神戸市民には、異文化を受け入れる寛容性もあったのでしょう」と、石田原先生。ボーリングやゴルフ、コーヒーや洋菓子などは今でこそ私たちの生活に根付いているものですが、海外から日本に最初に導入されたのは神戸なのだそう。こんな背景からも、異文化を受け入れる寛容性を持ち、それを楽しんだ当時の人々の様子を想像できます。これが、現在の「神戸=おしゃれな街」というイメージの土壌を作ったと考えられます。

 

「『海外の真似をしよう』と考えて西洋文化を取り入れたのではなく、自然とその文化が生活に馴染んでいったというのが、神戸の特徴ではないかと思います」

 

神戸のイメージを支えるのは市民の地元愛

開港以来、海外の文化やライフスタイルを取り入れて独自に発展してきた神戸は、1973年に「神戸ファッション都市宣言」を行いました。衣・食・住・遊を含む生活文化産業としてファッションを捉え、官民一体で産業振興を進めるというものです。「当時の神戸はとにかく勢いが強かった。山を削り、海を埋め立てた結果、土地は約2倍にまで広がり、こうした積極的な開発は大きな話題を集めました。『株式会社神戸市』なんて表現されるほどだったんですよ」と、石田原先生は笑います。

 

さらに1980年代に入ると神戸の女子大学生が火付け役となり、全身を高級ブランドで揃えた品のある装い「神戸エレガンス」のブームが到来。神戸松蔭をはじめとする神戸の女子大がファッションの発信地だったそう。こうして、ますます「神戸=おしゃれな街」が定着していきました。石田原先生はイメージが浸透した理由について「コンパクトな神戸の立地も功を奏したのではないか」と分析します。「都市機能が効率的に配置され、公共交通機関を使えばほとんどの主要施設に数分で移動できるのも神戸の魅力です。いわゆる“小さな大都市”なんです。だからこそ、『神戸ってこうだよね』という共通イメージが広がるのが早かったのではないでしょうか」

 

そして何より、現在に至るまで神戸のイメージを守り続けることができたのは「神戸に住む人々の存在が大きい」と、石田原先生は話します。「以前、神戸市が住民の方々にアンケートを行ったところ、『市民は神戸に誇りを持っている』という回答が85.0%を占めていたらしいんです。神戸の人って、神戸が大好きなんですよ。そして、そんな方々が神戸の一番のPR大使だと思うんです」

神戸ポートタワーの再開やバスケットボールアリーナ「GLION ARENA KOBE」の開業など、進化し続ける神戸港

 

今から約160年前、異文化と共生し、オリジナリティに富んだ文化を作り上げてきた神戸は、現在にいたるまで「おしゃれな街」としてのイメージを守り続けてきました。そこには、一人ひとりの「地元愛」があったからこそです。神戸を神戸たらしめているのは、その街を愛する人々なのだと、石田原先生の話をうかがっているとしみじみと感じます。

 

市民の「ソフトパワー」が神戸を向上させる

石田原先生は、2017年の神戸開港150年を記念して誕生したオリジナルのタータンチェック「神戸タータン」の生みの親でもあります。実は「神戸タータン」も、神戸を愛する人々のために作られたものなのだそう。

神戸タータンには、神戸を象徴する神戸の海の青、ポートタワーや神戸大橋の赤、六甲山の緑、真珠の白、街並みのグレーの5色が使われている

石田原先生が経営する石田洋服店のショーウィンドウでも神戸タータンがアクセントに

 

「観光客向けのお土産ではなく、神戸の人に愛着を持ってもらいたいという願いを込めました。神戸タータンを手に、『神戸って良い街でしょう』と、県外の人に胸を張ってPRしてほしいんです。150万人の市民全員が、神戸の広報担当ですから」。そう笑いながら話す石田原先生は、続けてこんなエピソードも紹介してくれました。

 

「小学生の男の子が『引っ越す友人に神戸タータンのハンカチを渡したい』と言って、買いにきてくれたことがありました。ハンカチにはポートタワーやイカリなど、神戸を象徴するアイコンが刺繍されているんですよ。このハンカチを見るたびにお友だちは男の子のこと、そして神戸のことも思い出してくれるだろうなと考えると、神戸タータンを作って良かったと改めて感じました」

 

石田原先生は、このように市民が街を愛する気持ちを「ソフトパワー」と表現しています。「ソフトパワー」とは、軍事力や経済力ではなく、その街が持つ独自の文化や価値観などによって他者を引き付ける力のことだそう。「この街がなくなったら寂しいと思われるような魅力がなければ、街は衰退してしまいます。だから、ソフトパワーで神戸を向上させていくことが私の目標です」

 

しかし、どれほど魅力的な文化であっても、放っておけばその魅力は時間とともに薄れてしまいます。結果、ソフトパワーもなくなってしまう可能性が高いでしょう。そこで重要になるのが、文化やデザインなど、無形の価値を保護する「IP(Intellectual Property)=知的財産」だと、石田原先生は断言します。

 

文化を未来へつなぐIP

IPとは、漫画やアニメ、ブランドのロゴデザインなど、創造的な活動から生まれた無形の財産(著作権、特許権、商標権、意匠権など)を指す概念です。近年、アニメやゲームといった日本のコンテンツが世界的な人気を集めていることから、IPをビジネスに活用する動きが活発になっています。

 

「IPを法的に保護できれば、デザインやロゴの模倣を防げますし、ブランド力を高めることもできます。ところが、日本は権利関係を法律で守るという視点があまり得意ではないんです。だから、良いコンテンツをたくさん持っていても利益につなげることがなかなかできない。特許庁への申請手続きの厳しさも、IPビジネスが根付かない要因かもしれません」

 

実は、石田原先生がプロデュースした「神戸タータン」や「神戸松蔭タータン」のデザインは、日本の特許庁に商標登録されています。日本において純粋なタータンのデザインのみで商標を登録することは極めて難しく、過去には英国発の大手アパレルブランドや日本の大手百貨店の例があるだけなのだそう。

日常使いできるタオルハンカチから機能性重視のエコバッグなど、学生たちによって企画・製作された神戸松蔭タータンのグッズ

 

こうしてデザインのIPを守ることで、商品開発やプロモーションにつなげやすくなるのはもちろん、神戸の人々にとっての誇りも大切にできます。それがソフトパワーとなって、ますます神戸の人が神戸に自信を持つことができるのです。これが、石田原先生が「IP(Intellectual Property)=知的財産をプロデュースする力」が重要だと語る理由です。そして、そんな石田原先生が客員教授を務める神戸松蔭大学のファッション・ハウジングデザイン学科には、2026年4月から「IPプロデュースコース」が新設されることになりました。

 

「このコースでは、キャラクターやデザインなどのクリエイティブと、それを守り育てるビジネスの両方を学んでもらいます。特許や商標といった法的な保護だけではなく、それをどのように発展させて、どんなメディアで展開をし、どんなビジネスにつなげられるのか。アイデアを考え、収益化につなげるまでを一貫してできる“ジェネラリスト”を育てたいと考えています」

 

授業では、欧米最高峰のトレードショーへの出展やムーミンとのコラボ企画など、実践的な活動も多く取り入れているそうです。「神戸はありがたいことに“おしゃれな街”というイメージを持っていただけていますが、実際のところ特筆するような観光名所がたくさんあるかというと、そうではないんですよ。だから、このまま何もしなかったら『神戸って何もないじゃん』ということが世間にバレてしまう(笑)。それを防いで市民のソフトパワーを向上させるためにも、神戸が築いてきた文化や魅力をしっかりと守っていけるスキルを磨いていきたいと思っています」と、石田原先生は冗談まじりにIPの大切さを教えてくれました。

 

その街の真の価値は、行政や経済力ではなく「この街が大好きだ」と胸を張る一人ひとりの市民の心にある――神戸が「おしゃれな街」であり続けているのは、街を想う人々の誇りが今も息づいているから。取材を終えて外に出ると、目の前に広がる神戸の風景が、いつもとちょっと違って感じられました。

 

 

(編集者:稲田妃美/ライター:児嶋美彩)

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