ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2018.8.21
  • author:尾畑 菜緒

全国でここだけ! ‘みずほのか’を使った京都学園大学の日本酒「霧美命」

全国でここだけ!‘みずほのか’を使った京都学園大学の日本酒「霧美命」

京都は亀岡。ここは、豊かな自然に育まれ、京野菜や米などを京の都へ供給する「京の台所」として知られています。この地にキャンパスを構える京都学園大学・バイオ環境学部で、何やら新しい日本酒が誕生したとのこと。どんなお酒なのか、取材に行ってきました!

1年前から始まった「霧美命プロジェクト」

お酒の名は「霧美命(きりびしょう)」。原料の米作りから醸造、商品名やラベルデザインまで、京都学園大学の学生・教員が亀岡市の酒蔵「丹山酒造」の協力で作り上げた一品なのです。

「霧美命」という名前には、冬になると亀岡市を包み込む「霧」、学生や教員が丹精を込めて整えた「美」しい田に育った米=「生命」という意味が込められている

「霧美命」という名前には、冬になると亀岡市を包み込む「霧」、学生や教員が丹精を込めて整えた「美」しい田に育った米=「生命」という意味が込められている

 

プロジェクトを担当されているバイオ環境学部 食農学科教授の河田尚之先生によると、昨年までは、亀岡市の大槻並(おおつくなみ)地区で、地域おこしのフィールドワークとして栽培した米で「大槻並」という日本酒を作っていたそう。この取り組みが一段落し、心機一転、さらなる挑戦をと2017年の春に始まったのが今回のプロジェクトなのです。

大学近くの耕作放棄地が再び田んぼに

「霧美命プロジェクト」での新たな試みの1つが、耕作放棄地の復田。「実はこの辺りも高齢の方が多くなり、水田を作れなくなって荒れてしまった耕地がたくさんあるのです。それをそのままにしておくのはもったいないので、何とかまた田んぼに戻そうと」と河田先生。そこで食農学科の1回生を中心に、大学のすぐそばにある耕作放棄地を100人がかりで整備。刈った草を運び出すだけでも3時間を要すほどの大変な作業だったそうですが、その甲斐あって3枚の水田が復活しました。

水田は大学のすぐ近くなので、学生が授業で出かけるときなど何かと便利(奥に見えるのが大学の建物)

水田は大学のすぐ近くなので、学生が授業で出かけるときなど何かと便利(奥に見えるのが大学の建物)

日本でここだけ! ‘みずほのか’の栽培

さらに、今回もう1つの試みが、‘みずほのか’という品種を使うこと。低グルテリン米と呼ばれる酒米で、タンパク質の含量が少ないのが特長です。

 

そもそも日本酒に使う米はタンパク質の含量が少ないほうが良いとされ、雑味が少なくすきっと淡麗な味になるのだとか。酒米の代表格「山田錦」は粒の周りのタンパク質が多い部分を50%くらい削って使うのに対して、‘みずほのか’は30%くらい削ればよく、効率的に日本酒ができるというわけです。さらに収量も多く育てやすいという触れ込みで、新たな品種への挑戦が始まりました。

 

ちなみにこの‘みずほのか’、10年ほど前に生まれた品種ですが、今では京都学園大学の他はどこも作っていないのだそう。つまり、‘みずほのか’のお酒を楽しめるのは「霧美命」だけなんです!

田植えの様子(左)と‘みずほのか’の稲(右)

田植えの様子(左)と‘みずほのか’の稲(右)

低グルテリン米ならでは!? ‘みずほのか’の味わい

そんな‘みずほのか’ですが、いざ収穫して醸造してみると、タンパク質が少ないという特長が故に、発酵がなかなか進まないことが発覚。麹と酵母が増えにくいことによりアルコール濃度が17%と通常より低めで、糖が残ったことにより甘みのあるお酒になったそうです。「すっきりしているけどちょっと甘く、どちらかというと女性向きかな」と河田先生。
味の細かい調整は丹山酒造の杜氏さんが手がけ、さらに今回は味にコクを出すために、通常は絞った後すぐに瓶詰めするところを、1か月くらい寝かせる工夫を行ったそうです。

 

実際に私も飲ませていただいたところ、まず香りはクセがなくとても爽やか。口に含むと、軽く酸味のあるまろやかな味わいに、後からふわりと甘みがやってきて口の中に広がります。とはいえ甘すぎるというわけではなく、ぐいぐいいけてしまいそう。丹山酒造の杜氏さんによれば食中酒におすすめとのこと。
ちなみに昨年までの「大槻並」も特別に飲ませていただいたのですが、こちらは麹のような独特の香りと酸味の効いた味わいが印象的でした(この味に固定ファンもついていたんだとか)。

興味や専門を活かして日本酒作りに取り組む

4月半ばの苗作りから始まり、水田の整備、田植えをして10月に収穫。脱穀して調整した米を2月頃に丹山酒造に引き渡し、搗精(精米)して3月末に仕込み、6月にようやく完成――と日本酒作りは1年がかり。

 

プロジェクトはこれらの工程ごとに、手を挙げた学生が参加するという形態で進められます。通常の授業ではないですが、だからこそ本当に興味のある学生が集まり、自分の専門を活かして自由に活動している様子。食農学科 農業生産研究室の東 世人さん(4回生)は、「お酒好きというのもあるし、先生に誘われて」と気軽に参加したそうですが、実家が米農家で自身も稲の研究をしているだけあって、先生と稲の栽培や改善方法についてざっくばらんに話す様子が印象的でした。

 

丹山酒造での仕込み作業に参加した食農学科 発酵醸造学研究室の吉筋有紗さん、吉田健司さん(ともに4回生)は、「自分で持ち運べる量を扱う大学の研究と違って、実際の仕事となると量が多くて力仕事。朝も早くてやるべきことが多いんだなと感じました」(吉筋さん)、「それだけに、作る過程を知ったからこそ、飲むときにも楽しめそう」(吉田さん)と現場での体験を振り返ります。

丹山酒造での仕込み作業の様子。麹を作り、大きなタンクに入れてかき混ぜる

丹山酒造での仕込み作業の様子。麹を作り、大きなタンクに入れてかき混ぜる

 

また、プロジェクトを自身の研究に取り入れる学生も。食農学科 農業生産研究室の濱 彰悟さん(4回生)は、稲を5種類ほど育てて甘酒を作り、加工の評価を研究しています。日本酒も途中まで同じ行程なので、田植えや米作りに参加して、卒論に活かす予定だとか。今育てている米は卒業後にできあがる来年のお酒の原料になるので、「新酒が完成したら味見しに来たいですね」と濱さん。

「霧美命プロジェクト」今後の展望

2年目の目標を河田先生に伺うと、「品種は同じ‘みずほのか’ですが、タンパク質の含量が上がるように肥料をたくさんやって、酵母の発酵でアルコール度が18%くらいまで行くようにしたい。そうすると糖が全部抜けて、さらにスッキリした味わいになるんじゃないかな」とのこと。新たな課題の改善に余念がありません。さらに、‘みずほのか’も含めて色々な酒米の品種の中で、亀岡で栽培するにはどの品種が合うのかを学生が研究中だそう。

 

お話を伺ってみて、学生が自分の興味や専門分野を活かして、耕作放棄地の整備、稲の生産、醸造の現場の体験などさまざまな形で自分の学びへ取り入れていけるのがおもしろいし、それができるのは1年間で色々な過程を経る日本酒プロジェクトだからこそなのかなと感じました。
まだ生まれたばかりの霧美命。これから1年、また1年と、学生や教員、酒蔵のコラボレーションで進化していくのが楽しみです。

お話を伺った皆さん。左から濱 彰悟さん、東 世人さん、河田尚之先生、吉田健司さん、吉筋有紗さん

お話を伺った皆さん。左から濱 彰悟さん、東 世人さん、河田尚之先生、吉田健司さん、吉筋有紗さん

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