ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2023.9.7
  • author:ほんま あき

農業と水産業が融合する陸上養殖とは? 琉球大学の竹村先生と羽賀先生に聞いてみた。

陸上養殖

魚の養殖は海や川で行うもの…というのは、もはや過去の常識なのか、最近では山の中や都会のビル内でも養殖が行われているのをよく耳にする。とはいえ、海に囲まれた沖縄県で陸上養殖をしているはやや不思議に感じないだろうか。養殖しているのは、沖縄県では馴染みのあるミーバイ(ハタ)。クエの仲間である高級魚で、淡泊な白身が美味しく、バター焼きや鍋料理、魚汁が人気という。沖縄県で陸上養殖を行うことになったきっかけやその狙いなどについて、琉球大学の竹村明洋先生と羽賀史浩先生に話を伺った。

先生のお写真

【今回お話を伺った研究者】

◎竹村明洋(写真右)/琉球大学 理学部 教授 (水産学)

農水一体型サステイナブル陸上養殖共創コンソーシアムプロジェクトリーダー。大学院生の頃から魚類の生殖活動の仕組みに興味を持ち、現在はサンゴ礁に生育する魚類の活動リズムについて時間生物学的な観点から研究を続けている。

◎羽賀史浩(同左)/琉球大学 研究推進機構 共創拠点運営部門 特命教授。博士(工学)

同コンソーシアム副プロジェクトリーダー。自動車メーカーの総合研究所で燃料電池やリチウムイオン電池などの材料研究、人材育成、研究企画などに携わり、2019年から琉球大学へ。


「タンパク質危機」対策として陸上養殖に着目

「きっかけは、プロテインクライシスに危機感を持っている民間会社から相談を受けたことです。再生可能エネルギーを活用した陸上養殖を行いたいという話で、じゃあやりましょうかと軽く答えてしまったのがはじまりでした」。プロテインクライシスとは「タンパク質危機」ともいい、人口増加やそれによる食肉消費量増加、さらに温暖化や飼料高騰などの影響により、世界規模でタンパク質の供給量が不足すること。早ければ2025年から2030年にかけて訪れるといわれ、その解決策として代替たんぱく質や昆虫食、養殖が注目されている。

 

陸上養殖の話が具体的に進み、自治体の許可を得て養殖場所は県内の中城町に決定。一般社団法人中城村養殖技術研究センター(通称NAICe/ナイス)を設立し、陸上養殖の研究に着手したのが、5年ほど前だという。

理学部海洋自然科学科 教授の竹村明洋先生は生物成長促進研究を担当

理学部海洋自然科学科 教授の竹村明洋先生は生物成長促進研究を担当


中城村養殖技術研究センターで養殖しているのは、ミーバイの一種、アーラミーバイ(ヤイトハタ)という魚種。アーラミーバイを選んだ理由について竹村先生は「ひとつには沖縄県がミーバイを養殖対象魚種に指定していることがあります。また、アーラミーバイは成長が早いうえ病気に強く、養殖に適していたから」と語る。

 

アーラミーバイは高級魚として知られると同時に、釣りのターゲットとしても人気で、中には体長1mから2mサイズになるものもある。ただ、養殖する場合は出荷後のことも考え、一尾まるごとを煮付けや姿蒸しにして皿に盛ったときに見栄えのよいサイズを目安にしているという。「重さにすると600gから800gを目安にしていますが、そこまで育てるのに通常の養殖では1年かかります。これをなるべく早くしたい。成長を2倍早めて半年にすることが目標です。研究では1.5倍くらいまではできていて、あともうちょっと早められるかなと感じています」と、竹村先生は状況を説明する。

 

早く大きく、かつおいしく成長させることができれば、それだけ光熱費やエサ代といったランニングコストが下がり、収益性も確保できる。その実現に向け、琉球大学が中心となってさまざまな養殖技術を研究・開発しているのだ。
「生きものの特性を重視し、魚にとって心地よい環境をつくってあげて大きく育てています。魚にとって心地よい環境と、消費者にとっての安心安全。その両方が大切」と竹村先生。水温や光、色、塩分濃度を操作して魚がストレスを感じない環境に整え、エサ喰い(エサの転換効率)をよくして、早く成長するように工夫している。

 

そうして育てたアーラミーバイは、「琉大ミーバイ」あるいは県外向けには「美らハタ」というブランド名をつけ、沖縄県内のホテルやスーパーで販売したり、琉球大学の学食で提供したりするほか、通信販売も展開。例えば、オリオンビールの公式通販では、「琉大ミーバイじゅーしぃの素」「アクアパッツァじゅーしぃの素」「ミーバイ汁」を販売している。今回は「ミーバイ汁」を取り寄せ、食べてみた。
じゅわっと味わい深いミーバイの身とプリッとした魚皮、しっかりと歯ごたえのある島豆腐のバランスがよく、行儀は悪いが白ご飯にかけたらさぞおいしいだろうなと感じるお味。柔らかな白身だからかアーラミーバイの身はやや崩れていたが、その分、汁いっぱいに魚の旨味が染み渡るようだった。

ミーバイ汁はレトルトパウチなので、パウチのまま熱湯で温めるだけと調理も簡単

ミーバイ汁はレトルトパウチなので、パウチのまま熱湯で温めるだけと調理も簡単


陸上養殖の先へ。めざすのは“農水一体型”の沖縄モデル確立

ところで、周囲が海に囲まれた沖縄県において、陸上養殖のメリットとは何だろうか? 素人目線では海水温の上昇といった影響を受けないことかと考えていたら、竹村先生が真っ先にあげたのは「漁業権の問題」だった。海上では漁業権を持っている漁師しか養殖ができず、さらに養殖に適した場所も内湾などに限られるうえに、エサで水が汚れて赤潮の発生につながることもある。「もう海上養殖は限界にきている」と竹村先生は言う。「その点、陸上なら漁業権は関係なく、海を汚す心配もなく、魚が心地よい環境をコントロールしやすいという利点があります」

 

陸上養殖のなかでも、琉球大学が行っているのは農水一体型の完全閉鎖循環式だ。完全閉鎖循環式というのは、飼育水を浄化しながら循環利用する方法で、海を汚すことはない。さらに「農業との親和性を持たせた閉鎖循環式にしたいと考えた」というように、農業から出る植物性残渣を魚のえさに使用し、魚から出る排泄物などを肥料にして農業に利用するなど、グルグル循環させているのが特徴。また、電気エネルギーがかかるのが陸上養殖のデメリットだが、なるべく太陽光や風力といった再生可能エネルギーを使うことによってエネルギーコストを下げるよう工夫している。「農水一体型サステイナブル陸上養殖というひとつのモデル、システムをつくることが大きな目標です」

 

農水一体型というアイデアが生まれた背景については、おもしろい話も伺った。「もともと農業や水産業、林業といった一次産業は、それぞれ別のものという考えが一般的にありました。でも、高校生を交えたワークショップで『自分たちが大人になる頃には、そんな区分けはしていないかも』と言われ、ハッとしました。農業と水産業は別々などと勝手に分けているだけで、実は一体化できるのではないかと検討しはじめたのです」

 

次世代の陸上養殖を追究するなか、若い世代の柔軟な発想によって大人の思い込みが覆され、新たな研究につながったという話はなかなか象徴的だ。一次産業、特に水産業は高齢化が進み、沖縄県では80代の人が現役漁師だったりするという。サステイナブルで収益性も高い、新しい一次産業が生まれることで、「若い人たちが魅力を感じて参入してくれれば」と竹村先生は語った。


全国の大学、企業、自治体との共同研究で変わる琉大

ちなみに、「農水一体型」に関してはまだ研究段階。ミーバイ商品をECショップで販売するオリオンビールから、ビール製造過程で出る麦芽カスなどの廃棄物を受け、魚のエサに利用にできないか研究中だ。ほかにも、さまざまな大学や企業が新しい陸上養殖システムの研究に参画している。

 

5年ほど前に始まった琉大ミーバイの陸上養殖研究は、その後、大学や県の枠を超えてさらに進化することとなった。2021年、琉球大学は「農水一体型サステイナブル陸上養殖共創コンソーシアム」を設立。当初28機関でのスタートだったが、現在は全国の大学やオリオンビールをはじめとする企業、自治体など70以上の機関が参画するまでになった。コンソーシアムの拠点ビジョンとして「私たちは農業と水産業の垣根をとりさり、世界の若者が主役として職を育て提供する循環社会を実現する」を掲げて、情報交換・交流から共同研究までさまざまな活動を行っている。

 

共創拠点運営部門特命教授の羽賀史浩先生によると、コンソーシアムの中でも共同研究を行うのは「琉球大COI-NEXTプロジェクト」参画機関のメンバーで、6つの研究課題を設けて役割分担をしながら研究を進めている。

研究推進機構共創拠点運営部門 特命教授の羽賀先生はプロジェクト成果の社会実装担当

研究推進機構共創拠点運営部門 特命教授の羽賀先生はプロジェクト成果の社会実装担当


「例えば、『再生可能エネルギー100%による電源供給』という研究では、福井大学や大阪工業大学といった県外の大学先生たちと一緒に研究していますし、『物質循環型農水一体養殖技術の開発』という研究では東京海洋大学の先生がリーダーになるなど。テーマごとに得意分野の先生たちが中心となってプロジェクトを進めています」。このように、陸上養殖技術のみならず、再生可能エネルギーやICTの活用までテーマは多岐にわたる。

 

農水一体型サステイナブル陸上養殖共創コンソーシアムは、始まって間がないが、「いろいろな人と関わりながら一つのものをつくりあげていくなかで、大学も変わってきている」と竹村先生。

 

琉球大学が陸上養殖に着手したきっかけも、農水一体型を思いついたきっかけも、さらにはオリオンビールとの共同研究も、実は「たまたま」「人との出会い」があったからという。養殖の在り方を変えようとする大きなプロジェクトのはじまりが、偶然の人との出会いだというのは印象深い。「琉大ミーバイは一つのきっかけ、シンボル。ミーバイを売るのが目的ではなく、これをきっかけに大学が変わっていけば」と話すように、開かれた大学として、さまざまな人と交流を進めてきた背景があってこそだと感じた。


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