「プリンセス・ミチコ」というバラをご存知ですか?上皇后となられた美智子様にとてもゆかりのあるバラ。その「花酵母」を使った日本酒プロジェクトを取材しました。醸造したのは、東京農大卒業生が率いる7つの蔵元。同じ花酵母を使っているのに、それぞれの個性が際立った、清らかで上質の味を堪能しました。
農大が初成功!「プリンセス・ミチコ」の花酵母。
東京農大といえば日本で唯一、醸造科学科を持つ大学。全国にある蔵元の多くに農大卒業生が携わっており、日本酒業界の基盤となっているといっても過言ではありません。今回のプロジェクトは東京農大だから実現できたことではないでしょうか。その経緯について、東京農大の事業会社である(株)農大サポートでお話をうかがってきました。
「花酵母」は、1998年、中田久保名誉教授が花から酵母を分離することに成功したことに端を発します。応用研究が進み、花酵母を使った日本酒は、30を超える酒造メーカーで発売されてきました。
そして2017年、ついに東京農大は「プリンセス・ミチコ」を使った花酵母の分離に成功。1年の時をかけて試験醸造を行い、「これは美味しい日本酒ができる!」と確信したそうです。
「プリンセス・ミチコ」は、各地の植物園やバラ園でご存知の方も多いでしょう。これは美智子上皇后が皇太子妃時代にイギリスから献呈されたもの。美しく静淑なオレンジ色、上品で柔らかな香り、優しい丸みをおびた弁が特徴のバラです。この花びらを何百枚と使ってできた花酵母なのです。
プロジェクトが始まったのは、2017年当時の天皇陛下の譲位が大きな話題になっていたとき。時代の大きな変革期に花酵母「プリンセス・ミチコ」プロジェクトは加速していきました。なお、このプロジェクトはクラウドファンディングが利用されており、支援金の一部は、北海道胆振東部地震をはじめとする自然災害被災地への義援金として寄付されました。
プロジェクトに携わった7つの蔵元とは
左から南部美人、出羽桜、秘幻、石鎚、蓬莱泉、一ノ蔵、東洋美人
平成の終幕と令和の幕開けを祝う「プリンセス・ミチコ」の花酵母で日本酒を醸造することになったのは、農大が卒業生の優秀な企業に対して贈る「東京農業大学経営者大賞」を過去に受賞した実績のある7つの企業です。
北から、南部美人(南部美人)、出羽桜酒造(出羽桜)一ノ蔵(一ノ蔵)浅間酒造(秘幻)、関谷醸造(蓬莱泉)、石鎚酒造(石鎚)、澄川酒造場(東洋美人)と、どこも日本酒愛好家から支持を得ている蔵元ばかり。
農大から指定されたのは「吟醸」(日本酒は精米割合で分類、吟醸は精米歩合が60%)以上であることと、花酵母「プリンセス・ミチコ」のロゴ・リボンをビンに貼ることだけ。平成から令和へ、記念すべき改元を祝う歴史的な日本酒です。伝統と誇りある蔵元が感じたプレッシャーはいかに強かったか…計り知れません。もちろん7つの蔵元は花酵母「プリンセス・ミチコ」を使うのは初めての経験です。
日本酒作りはとてもデリケートな作業が多く、蔵元によって環境はもちろん扱うお米も水も異なります。花酵母「プリンセス・ミチコ」について一ノ蔵の杜氏は、「調子が良いとどこまでも機嫌よく元気よく、逆に少し抑制すると急に凹んでしまう繊細な面を持ち合わせている」とクラウドファンディングの活動報告で伝えています。
誕生!花酵母「プリンセス・ミチコ」の日本酒、飲み比べ♪
蔵元の試行錯誤と努力の末にできあがった日本酒7銘柄。一足早く、クラウドファンディングの支援者への試飲イベントが2019年4月上旬に行われ、400人を超える方が集まりました。会場には各蔵元のブースが設営されていて、参加者はお猪口を持ってグルグル。
丸の内で行われた試飲会の様子。この他、世田谷代田のオープンカレッジでも有料試飲会が行なわれた
会場では蔵元の代表が、それぞれ酵母の発酵の進み方をコントロールすることに苦労したといった舞台裏を紹介しました。さらに「プリンセス・ミチコの特色を出しながら銘柄の特徴を守ることが大変だった」「美智子妃殿下(現上皇后)のイメージに近づけるのに苦労した」など、蔵元秘話も登場。
蔵元の貴重な話を聞いて飲んだ日本酒は、参加者にとってさぞ格別な味だったに違いありません。「同じ酵母なのに大きな違いがでるのが不思議。その上で、それぞれの個性を備えているのが面白い」という声が続々とあがったとか。
試飲させていただいた中から左から南部美人、出羽桜、東洋美人
さて、筆者もご厚意によりご相伴にあずからせていただきました。
日本酒には痛い思い出があったので、避けて通っていたのですが…開眼しちゃいそうです。共通して感じたのは「これぞ、プリンセス・ミチコ」と感じる豊饒でありながら爽やかな香り、そして喉越しの静淑で雑味のないスッキリ感。
南部美人をはじめとする純米吟醸グループは、洋の東西を問わずに食事に合わせたい。お酒と料理、互いの味力をきっと引き出してくれるでしょう。
出羽桜などの吟醸酒グループは日本酒感が強い。パンチが効いているので、焼き鳥などと居酒屋系でガッチリ決めたい。大吟醸の東洋美人は肴なしでもいけそうな抜群の飲み口。
「プリンセス・ミチコ」で花開いたプロジェクトの醍醐味は何といっても飲み比べしょう。携わった方々を称えたい、ほろ酔いながらそんな新鮮で深い味わいを感じました。
英国への訪問から始まった日本酒までの物語。平成から令和へ、これは日本酒の新しい可能性を広げるプロジェクトであり、新時代の安寧を祝ったお酒でもありました。花酵母「プリンセス・ミチコ」の日本酒は宮内庁に献上され、宮廷の宴席でも提供されています。
若干のストックがあるかもしれませんので、気になる方は(株)農大サポートへお問い合わせください。東京農大の次なるプロジェクトも見逃せません!