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  • date:2020.7.7
  • author:谷脇栗太

URA が推薦する、注目の研究者

【第5回】たとえばケーキ作りのように!? 原子核から世界の成り立ちを探求する

関澤 一之

新潟大学研究推進機構超域学術院 特任助教

2010年東京理科大学理学部第一部物理学科卒業、2015年筑波大学大学院数理物質科学研究科博士課程修了。2015年4月から2017年8月までワルシャワ工科大学、2017年9月から12月までワシントン大学で研究員を勤め、新潟大学のテニュアトラック制度に応募し2018年1月より現職。専門分野は原子核物理学。ミクロな世界の物理法則を記述する方程式を駆使し、原子核の衝突、中性子星と呼ばれる超高密度天体、冷却原子気体などさまざまな量子多体系を対象とした理論的研究を進めている。

この研究に注目している人

阿部 知子

新潟大学 研究企画室 リサーチ・アドミニストレーター

若手研究者でも助教のポストとラボを持つことができる「テニュアトラック制度」による採用で新潟大学に赴任された関澤先生。原子核というミクロな世界の理論研究に携わっておられますが、難解な物理の世界を身近なものにたとえてわかりやすく教えてくれます。個人のホームページでも積極的に研究内容を発信されていて、2019年の学長賞に輝いた研究では、「スピン偏極のある超流動フェルミ気体に発現するトポロジカル励起」という耳慣れないテーマを男女が集うダンスパーティーにたとえた解説が学内でも話題になりました。科学を身近に感じさせてくれる、注目の研究者です。

Q. ご専門の原子核理論とは、どのような分野なのでしょうか?

皆さんご存知のように、私たちの身の回りの物質はすべて原子で構成されています。原子自体とても小さなものですが、その原子の大きさを東京ドームだとすると、そのまん中にあるパチンコ玉ほどの小さな粒が原子核です。こんなに小さいのに、原子自体の質量のほとんどは原子核が占めています。原子核はいくつかの陽子と中性子が結合してできていて、陽子が1つなら水素、2つならヘリウムというように、陽子の数が原子番号に対応し、原子の性質を決めています。そんな原子核の世界を紙とペンと、コンピュータを用いた数値シミュレーションによって探求するのが、私の専門である原子核理論と呼ばれる分野です。

原子が東京ドームだとすると、原子核はパチンコ玉ほどの大きさ。しかし原子の質量のほとんどを占める

原子が東京ドームだとすると、原子核はパチンコ玉ほどの大きさ。しかし原子の質量のほとんどを占める

 

世界の仕組みや成り立ちを探求する物理学の中で、原子核は実はさまざまな分野とつながっています。陽子や中性子よりもさらに小さな素粒子にも関係しますし、逆に大きな視点に立つと、天文現象にも関わっています。太陽は核融合で熱や光のエネルギーを発していますが、核融合ももちろん原子核の世界で起こっていることです。視点の持ちようによって物理学全体を横断することができるのが、原子核研究の魅力の一つですね。

Q. スケール感を想像することができました。具体的に先生がどういう研究をされているのか教えていただけますか?

原子核の世界を具体的にイメージしていただくために、ケーキを思い浮かべてください。ホールケーキのスポンジがあります。そこに生クリームをたっぷり載せていくのですが、どれだけ載せられるでしょうか。載せすぎるとクリームの山が崩れて、スポンジからこぼれ落ちてしまいますよね。

 

同じように原子核も、陽子と中性子がバランスを取ることで安定しているのですが、そこに中性子をたくさん載せていくこともできます。そうすると原子核は不安定になっていって、ついには放射線を発しながら崩壊してしまうのです。こういった不安定な原子核を、放射性同位体と呼びます。今、原子核物理学の最先端の研究では、陽子と中性子の数がアンバランスで、こぼれ落ちる寸前(ドリップラインと呼ばれています)の不安定な原子核が興味を持たれているんです。

 

ケーキの例えに戻ってみましょう。もし、生クリームがこぼれ落ちる寸前で、クリームがシュワーッと霧状になってケーキの周りをベールのように覆ったらどうでしょうか。現実には起こりそうにないですが、原子核の世界ではこうした不思議な現象が知られていて、月の暈(英語でhalo)になぞらえて、「中性子ハロー」と呼ばれています。

 

私の主な研究テーマをケーキのたとえで簡単に説明すると、こうした不安定な状態のケーキの性質を調べたり、あるいはケーキどうしを勢いよくぶつけて、誰も見たことのない全く新しいケーキを生み出すこと、ということができそうです。

原子核をケーキに例えると……スポンジが陽子、クリームが中性子。クリームが乗るほど不安定になる

原子核をケーキに例えると……スポンジが陽子、クリームが中性子。クリームが乗るほど不安定になる

勢いよくぶつけることで、新しいケーキができる!?

勢いよくぶつけることで、新しいケーキができる!?

 

全く新しいケーキを生み出すことを、原子核物理学の言葉では「新元素合成」、あるいは「超重元素合成」と言います。数百メートルに及ぶ巨大な加速器を使って原子核同士をぶつけることで、核融合反応を起こし、さらに重たい原子核を生み出すことができます。こうした方法で自然界には存在しない、新しい元素を作り出す研究が世界中で盛んに行われています。理化学研究所が2004年7月、2005年4月、2012年8月に計3回合成に成功した113番元素についてはご存知の方も多いのではないでしょうか。これはアジア初の快挙で、2016年に「ニホニウム」と名付けられました(参考:理化学研究所による特設ページ)。人類の英知として未来永劫語り継がれる周期表に日本の名前が刻まれているって、誇らしいことですよね。

 

私は理論研究者なので、実際に加速器を使う実験に携わっているわけではなく、どんな状態の原子核をどのようにぶつければいいのかをスーパーコンピュータによるシミュレーションで研究しています。いわば新元素合成のレシピ作りですね。信頼できるレシピを発表し、それが実験で実証されれば、ニホニウムのように歴史に残る大発見になります。

Q. 昨年、学長賞を受賞された研究があるそうですね。なんでもダンスパーティーのたとえが秀逸だったと伺いました。

 フェルミ粒子と呼ばれる上向き・下向きのスピンと呼ばれる自由度を持つ粒子の振る舞いを研究したものですね。原子核の研究から少し離れてしまうのですが、原子核を構成する陽子・中性子もフェルミ粒子なので、実は密接に関わっていて、同様の手法で研究することができるんです。


こちらも一から理解してもらうのはなかなか難しいのですが、粒子の集まりを男女が集うダンスパーティーに見立てるとイメージができると思います。男女がペアになるとダンスがはじまるように、逆向きのスピンをもつ粒子どうしがペアになると超流動という現象が起こります。この時、男女の数がアンバランスだと、ダンスに参加できない人がでてきますよね。このようなときに、ペアを作った人たちとペアを作れなかった人たちがどのように振る舞うのか、ということを調べた研究です。最初はペアを作れなかった人たちがダンスホールから押しのけられてしまうのですが、ある条件が揃うと、その人たちもダンスに影響を与えるということが分かりました。

 

日常とはかけ離れた研究でも、イメージができると、感情移入すらしてしまいますよね。このダンスパーティーのたとえのおかげで、学内でも私の研究に興味を持ってくださる方が増えたように思います。

 

スピン偏極(20%)を持つフェルミ気体に対するTDSLDA計算の結果. 「ダンスパーティー」にたとえられた研究のシミュレーション動画がこちら

スピン偏極(20%)を持つフェルミ気体に対するTDSLDA計算の結果.
「ダンスパーティー」にたとえられた研究のシミュレーション動画がこちら

Q. ケーキにダンスパーティーと、たとえがとてもわかりやすいですね。研究内容を専門外の人に伝える時に意識されていることはありますか?

相手といかにイメージを共有できるかということですね。こちらが科学的に正しい表現で説明したとしても、相手に伝わらなければ意味がありません。話し手と受け手が同じ土俵に立てるように、伝えたいことの本質を、先ほどのケーキのようにお互いにイメージを共有できる身近なたとえに置き換えて話します。そうすると聞き手は「じゃあ、ケーキにイチゴが乗っていたら?」といったように、自由な発想で疑問をぶつけることもできます。その質問を私は頭の中で物理学の言葉に置き換えて解釈し直し、もう一度たとえに置き換えてお答えします。これって、専門知識の有無に関係なく、誰でも物理学の議論に参加できるということですよね。

 

ではなぜ専門外の方にわかりやすく伝える必要があるのかというと、科学者には、研究の成果を社会に少しでも還元する責任があると考えるからです。その結果として、少しでも原子核に興味を持っていただいて、研究者を目指す人が増えれば、分野の発展にもつながります。もちろん、わかりやすく伝える工夫をすることで、自分自身の考えを整理したり、理解を深めたりするのに役立っているという側面もあります。本当に理解していないと、たとえることってできないんですよね。

 

このように考えるようになったきっかけは、海外の大学で研究員の職を探していた時でした。イギリスの大学に提出する応募書類で、採用された際に市民に公開される研究紹介の文章を書かなければならなかったんです。専門用語を使わずにわかりやすく説明するという経験はその時が初めてで、受け入れ研究機関の方とも相談しながらなんとか書き上げました。なかなか骨が折れましたが、やりようによっては一般の人にも研究内容を理解してもらえるんだと気づくきっかけになりました。

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難解な学問をわかりやすく伝えることは、研究者にとってもメリットがたくさんあると関澤先生

Q. 今後、アウトリーチ活動で取り組んでいきたいと考えていることがあれば教えていただけますか?

すでにやっていることとしては、個人のホームページは日英併記で研究内容をわかりやすくお伝えするように意識しています。また、最新の成果はブログやSNSでも発信するようにしています。今後は研究をWebや動画で伝えるということはやっていきたいですね。スパコンを使ってシミュレーション結果を綺麗な動画に書き出すことができるので、そういうものがあれば感覚的に伝わりやすいのかなと思っています。また、その次の段階として、出前授業やオンライン講座にも取り組んでいきたいです。

 

と、今お話ししたのは誰もが考える「真面目な」アウトリーチなのですが、もっと力を抜いて頭を柔らかく考えたほうが、世間一般の人に伝わる本当のアウトリーチになるのではないかと考えています。

 

たとえば、理化学研究所では、核図表(横軸に中性子数、縦軸に陽子数をとった、原子核の存在範囲を表す地図のようなもの)をレゴブロックで立体的に作って一般公開しました。原子核というものを知らない小・中学生でも興味を持つきっかけになる取り組みです。また、別の例ですが、京都大学では周期表を原子核の性質に基づいて配置し直し、見た目にも面白い立体周期表として発信しています。

 

面白さとか、研究内容を伝えることももちろん大事ですけど、それ以前に、原子核物理学の存在に間接的にでも触れるきっかけを作ることが、アウトリーチとして重要なのではないかと考えています。ゲーム、アプリ、映像、歌、体操など表現方法は何でも構わなくて、一般の方が原子核の世界に接する機会を少しでも作っていきたいです。

Q. とても楽しみですね。最後に、今後の夢や目標をお聞かせください。

先ほどケーキのたとえでお話しした原子核反応の研究は、大学院時代から継続的に取り組んでいて、今では世界の第一線で分野を切り開いていると自負しています。これからも力を入れて取り組んでいきたいです。研究者としては、誰も思いもつかなかったような全く新しい発見をしたいという夢があります。そのために今は原子核だけでなく、その周辺分野にも研究の幅を広げるようにしています。他分野の領域を原子核の知識を使って開拓すれば、何か未知の発見に出会えるかもしれません。今回お話しした他にも、中性子星と呼ばれる超高密度天体の研究などにも着手していて、実は例のダンスパーティーにたとえた研究が関係してくると期待しているんですよ。

 

日常生活にはほとんど関係ないように思われる基礎物理の理論的研究ですが、かっこよく言えば「人類の叡智に資する」というつもりで取り組んでいます。さまざまな分野に展開していける原子核の強みを活かして、幅広く柔軟な視野で研究に取り組んでいきたいですね。

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