ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2019.7.18
  • author:岡田 正樹

どんどん悩んで「モヤモヤ」しよう。ナレッジキャピタル超学校 対話で創るこれからの「大学」『「わからないこと」を楽しむ』レポート

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「わからないこと」、と聞いてどんな印象を持つでしょうか?「わからない」話を聞くと頭がこんがらがった感じがするし、何かが「わからない」と恥ずかしいこともある。皆が「わからない」話題は敬遠されるし、わかりやすく説明しなければならないとも言われる…。「わからないこと」はあまり良いイメージでは語られません。

大阪大学COデザインセンターナレッジキャピタルが主催する『対話で創るこれからの「大学」』第1回として開催されたイベント『「わからないこと」を楽しむ』は、「わからないこと」にまとわりついたそんなネガティブなイメージを覆すような試みでした。

超弦理論の研究で知られる大阪大学の橋本幸士教授、そして科学番組はじめとする数々のテレビ番組を手がけてきたNHKエデュケーショナルの竹内慎一さんが登壇したこのイベントへの参加レポートを、お届けします。

「わからないこと」に向き合う日々―理論物理学者の日常―

黒板を愛する理論物理学者としても有名な橋本教授(橋本教授の黒板への愛が感じられる過去のイベント・レポートはこちら)。今回のイベントのオープニングでも、橋本教授が黒板に向かって計算する姿を映した映像が流れました。

巨大な黒板に向き合う橋本教授の映像が投影された

巨大な黒板に向き合う橋本教授の映像が投影された

映像のあとは、橋本教授のプレゼンへ。「理論物理学者として日々わからないことに向き合っている自信がある」という橋本教授は、そもそも理論物学者とはどんな人たちなのかを紹介。テレビドラマや映画での理論物理学者は白衣を着て教壇に立っていることもありますが、実は「白衣はまず着ません」と橋本教授。基本的にはTシャツにハーフパンツで活動しているそうです。そういえばオープニングの映像でもまさにそんな格好でした。国際学会に行っても、多くの理論物理学者がだいたい同じような格好をしているらしく、いわゆる「科学者」のイメージとはちょっと違って意外ですね。

超弦理論の研究者が集う国際学会の様子を紹介。参加者は服装には特に気を使っていないらしい

超弦理論の研究者が集う国際学会の様子を紹介。参加者は服装には特に気を使っていないらしい

では理論物理学者は、Tシャツとハーフパンツ姿で、何をしているのでしょうか。橋本教授は、一日のうち十数時間は計算と議論を行っているとのこと。まさに、この世界の「わからないこと」と一日中向き合っているんですね。世界を規定しているさまざまな運動の法則を見つけたり、新しい現象を予測したりする理論物理学者。わからない現象があふれる中で、科学的に信頼できる方程式を探すのが仕事なのだと、橋本教授は語ります。

科学への入口を作る―アニメに、舞台に、小説に―

しかし橋本教授の活動はそれに留まりません。「数々の方程式の中でも、おそらく一番よく知られている」という、アインシュタインによるE=mc^2(エネルギーと質量は交換可能)。橋本教授は、アニメ映画『GODZILLA』の黒板シーン制作のために、アインシュタインがこの公式を導き出したプロセスを板書で再現しました。その他にも、テレビ番組に出演したり、科学小説を執筆したり、演劇に出演したり、狭義の科学者の枠に収まらない幅広い領域で活動を展開中の橋本教授。科学者のやっていることに興味はあるけど、難しいので近寄らないという人に、科学を身近に感じてほしいから、とのことです。TwitterやFacebookでも積極的に情報発信やコミュニティづくりを行っています。「これまで接することのできなかった人々に科学者の生活を伝えることができている」。そう語る橋本教授の発表は、理論物理学者って何だかおもしろそうだなあ!と思わせてくれるものでした。

アインシュタインの思考の軌跡を再現。アニメ映画に用いられた

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自分で考える番組を―わかりやすい説明の「失礼さ」―

続いて、科学番組の制作を多く手がけてこられたNHKエデュケーショナルの竹内慎一さんが壇上へ。科学の世界にもっと興味を持ってもらいたいと、番組にはさまざまな工夫を凝らしてきたという竹内さん。例えば慣性の法則を学ぶ実験として、10メートル四方のテーブルクロス引きをやってみるなど、当たり前だと思っている理論をインパクトのあるかたちで実際に試してみる番組などを制作してきました。

数多の科学番組を手がけてきた竹内さん

数多の科学番組を手がけてきた竹内さん

しかし竹内さんは、小学生向けの理科の番組などを担当する中で、テレビ番組はどうしても「すでにある知識を伝えることになってしまいがち」と感じたのだとか。そこで、「偉い人の学説を伝えるのではなく、自分で問いを見つけてもらえるような番組を作りたい」と、考えるようになったそうです。

そんなときに竹内さんが意識したのは「わかりやすく説明しすぎるのは、視聴者に『失礼』なのではないか」という点でした。見る人に余白を与えないような、わかりやすい、懇切丁寧な説明は視聴者を信用していない証だ…。そう考えた竹内さんは「あえて不親切な番組を作ってみたい。知識偏重にならず、考える技術を身につけられる企画にしたい」と、これまでに無かった新たな番組作りに挑戦しました。

モヤモヤを楽しんで!―『考えるカラス』という試み―

そうして出来た番組が、2013年の『考えるカラス』です。この番組の画期的な点は解説がわかりやすいこと、ではなく、解説が無い(!)こと。例えば「火のついた長いろうそくと短いろうそく。ビーカーをかぶせて密閉させると、どちらの火が先に消える?」といった問いを示します。実験を行って結果が出るところまでは見せるのですが、「ここから先は自分で考えよう」というナレーションとともに番組は終了。解説はウェブサイトにも載っていないし、次回の放送でも流れないので、何故そうなるのかは、自分たちで考えなければなりません。

竹内さんは、「苦情も多少ありましたが、おおむね皆さん面白がってくれました。家族の会話が増えたという人もいました」とのこと。確かに、気になって誰かと話をしたり、あれこれ考えたり調べてみたりしたくなってしまいますね。

『考えるカラス』はある意味で視聴者参加型とも言えるだろう。ただしリアルタイムではなく、ゆっくり時間をかけての参加だ

『考えるカラス』はある意味で視聴者参加型とも言えるだろう。ただしリアルタイムではなく、ゆっくり時間をかけての参加だ

視聴者からは「モヤモヤする」という意見もたくさんあったそう。竹内さんはその意見に対し、「モヤモヤして!」と応答します。「モヤモヤすることをポジティブに捉えることもできるはず。情報を鵜呑みにはせず、考えている証拠ですから」と語った竹内さん。日頃ネガティブに捉えてしまう「モヤモヤ」の感覚を大切にしなければな、と感じました。

「モヤモヤ」を肯定的に捉えなおす

「モヤモヤ」を肯定的に捉えなおす

「失敗」を楽しむコミュニティ

それぞれの発表のあとは対談が行われました。まず話題になったのは「失敗」について。バシバシと謎を解いているイメージの理論物理学者ですが、「実は失敗ばかりしている。例えば、『クォークの閉じ込め』という大問題は、30年、40年、誰も解けていない」と橋本教授。「では素粒子物理学者は何をやってるのか。もっと小さな問題を解いています。それだって解けないときもあります。でも科学者のコミュニティでは、失敗を許し合い、楽しむ文化ができています。失敗して、モヤモヤしている過程でおもしろいことを見つけ、問題を再設定して、論文を書いていくんです」。失敗を重ね、長い時間をかけて地道にものごとを考えることを許容する環境が、素晴らしい研究を生み出す土壌を作っていくんですね。

橋本教授のTシャツは「SORIUSHI」。反り牛、そりうし、そりゅうし…

橋本教授のTシャツは「SORIUSHI」。反り牛、そりうし、そりゅうし…

一方、「大学以外で、失敗を楽しんで受け入れるコミュニティはあるんでしょうか?」という竹内さんの問いに、「なかなか無いと思います」と語る橋本教授。「すぐに答えを出すこと」に重きが置かれていると、失敗は許しにくくなってしまうのかもしれません。じっくり自分で考える余裕があったほうがいいよね、という2人の語りに、フロアも頷いていました。

無駄話のススメ

続いて対談は、わからないことの楽しさを受け手にどう伝えるかという話題に。橋本教授は「教育学部を出たわけでもないので、教育の仕方を学んできたわけじゃない。でも教壇には立たなきゃいけない」ということで、試行錯誤を重ねてきたそうです。そんななか、講義がうまくいっている先生の授業アンケートを見て、「無駄話」がキーポイントだと思ったとのこと。科学者のちょっとしたエピソードなど、科学の背後にある人間の物語などを織り交ぜて講義することが、受け手の興味を喚起するために大切だといいます。実際、無駄話を挟むと、学生のやる気も成績もあがるそうです。竹内さんも、「科学番組も、大事なことだけを伝えようとすると、見る方も疲れる。受け入れられません。余談が必要」と語ります。

大学の授業にも科学番組にも共通する無駄話の重要性

大学の授業にも科学番組にも共通する無駄話の重要性

ところでイベント冒頭に流れていた、ハーフパンツ姿でひたすら板書する橋本教授の姿。あの映像もまさに、「人間・橋本幸士」を語る、素晴らしき「無駄パート」だったのですね!

自分の問いを見つけて、「わからないこと」を楽しもう

また、フロアを交えた質疑応答では「質問をすることに抵抗を感じる学生も多いが、どうやったら質問することのハードルは下がるか」といった質問がありました。「仕事をするとなったら問いを自分で見つけないといけない」、「小中高の段階で、自ら問いを発する技術を身につける機会を設ける必要があるのではないか」と竹内さんが語ったように、話題は科学以外の仕事や、学校教育全体の問題にも接続され、広がりのあるラストとなりました。

話題は日本の教育制度にも及んだ

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親しみやすい入口から科学の世界に人々を誘う橋本教授。あえて「不親切な」方法で番組視聴者が考える時間を作る竹内さん。一見真逆に見えるアプローチですが、どちらも、「わからないこと」に向き合って何かを考えることは楽しいんだよ!というメッセージを、より多くの人に届けるための挑戦だと感じました。すでに用意された問いに答えるばかりでなく、また、すぐに「答え」を知ろうとするのではなく、自分の問いをじっくり吟味する力と余裕。これは科学に限らず、何をするにも大切なことだと認識できた、貴重なイベントでした。

 

『大阪大学COデザインセンター × ナレッジキャピタル 対話で創るこれからの「大学」』シリーズは、第2回、第3回と今後もイベントが予定されているようです。ぜひチェックしてみてください。


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