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  • date:2021.10.19
  • author:谷脇栗太

最先端科学がブラックホールの常識を覆す! 名古屋大学✕名古屋市科学館セミナーレポート

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すっかり日没が早くなり、職場や学校からの帰り道で何気なく星を探してしまう今日この頃。これから気温が下がれば空気が澄んで、一年で最も星が綺麗に見える冬がやってくる。しかし当然ながら、宇宙に存在するのはぴかぴか光る星だけではない。むしろ、目に見えない謎が宇宙の大半を占めていると言ってもいいだろう。その代表格がブラックホールだ。2019年に歴史上初めてブラックホールの姿が撮影されたことは記憶に新しい。さらに2020年には、超大型ブラックホールの研究者3名がノーベル物理学賞を受賞するなど、何かとホットな話題が多い。

 

というわけで今回は、名古屋大学と名古屋市科学館が主催するオンラインセミナー「分野横断によるブラックホールの謎への挑戦!」に参加してきた。このセミナーは「天文学の最前線」と題して1992年に始まり、毎年夏休みに高校生や学校の先生向けに開催されているとのこと。今回は名古屋大学の4名の先生方が、それぞれの分野でのブラックホール研究の最前線を発表された。約5時間にわたる濃密な内容をぎゅっと圧縮して、4つのトピックスとして紹介したいと思う。

1.星よりも先に生まれた!? 「原始ブラックホール」が注目されている!

これまでブラックホールといえば、太陽の数十倍以上の大きさの恒星が最期を迎えた姿として知られてきた(こちらの記事も参考にされたい)。しかし近年注目を集めている「原始ブラックホール」はその常識を覆すものらしい。

 

初期宇宙を研究している多田祐一郎先生(高等研究院 YLC特任助教)によると、原始ブラックホールは仮説上の存在で、見つかっていないどころか本当にあるのかどうかもわからないものだという。しかし、もし見つかれば宇宙の始まりや暗黒物質など、さまざまな謎を解き明かす鍵になるかもしれないのだそうだ。一体どういうことなのだろうか?

 

原始ブラックホールは、原始宇宙の急激な膨張(インフレーション)に関係しているという。宇宙のはじまりには量子エネルギーのミクロなゆらぎが存在した。それがインフレーションによって引き伸ばされて、大きなゆらぎとなる。インフレーション後の宇宙は、高温のプラズマで満たされた火の玉宇宙とよばれる状態になる。そこにゆらぎが作用し、プラズマが部分的に密集することによって原始ブラックホールができた…ということなのだそうだ。ううむ、ちょっと難しいが、まだできたてホカホカの宇宙で、星よりも先に生まれたのが原始ブラックホールだった(かも)という話。

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そんな原始ブラックホールには、これまで発見されている恒星由来のブラックホールとは異なる性質がある。ひとつは、原理的にどんな質量でもありうるということ。恒星に由来するブラックホールならば太陽よりも軽いということはありえないが、原始ブラックホールならばそれもありうる。そしてもうひとつは、自転していないことだ。これらの性質に該当するブラックホールがもし見つかれば、原始ブラックホールである可能性が高いということになる。

 

そこで現在注目されているのが重力波だ。重力波とは、重力によって発生する「時空のさざ波」のこと。2つのブラックホールがお互いに引き合い、合体するときには合体重力波が発生する。アメリカのLIGO、欧州のVirgo、日本のKAGRAといった施設で重力波の観測が日々行われていて、その重力波のパターンを解析することで、質量はもちろんその天体が自転しているかどうかもある程度推測することができるのだそうだ。ここ数年の間に太陽の20~40倍の質量のブラックホールが沢山見つかっていて、これらが原始ブラックホールである可能性が指摘されている。大昔にできたブラックホール同士が、現在に至って合体して重力波を出しているのかもしれないのだ。

 

さらに、原始ブラックホールは暗黒物質(こちらの記事もご参考に)の候補のひとつとしても名前が挙がっている。太陽よりもはるかに小さい、小惑星程度の質量の原始ブラックホールが暗黒物質の正体かもしれないという。小型のブラックホールが宇宙空間を飛び回っているところを想像してみるとすごく危険な気がするが、多田先生によると、存在するとしてもシュヴァルツシルト半径は数ナノメートルで、人体をすり抜けてもほとんど影響はないはず……とのこと。一安心だ。

 

このサイズでは現在の地上施設で重力波をとらえることはできないが、打ち上げ計画が進行中の宇宙重力波望遠鏡LISAによって、宇宙空間から観測が可能になるかもしれない。暗黒物質=原始ブラックホール説の検証に期待が寄せられている。

2.ブラックホールが「重力レンズ」で地球に届く星の光を歪める!?

ブラックホールを「見る」ことは可能なのだろうか? 恒星に由来するブラックホールの場合、引き寄せられたガスが摩擦によって電磁波(X線)を発することが知られている。2019年に観測されたブラックホールの画像もこうした周囲の物質が発する電磁波を可視化したものだ。ところが、原始ブラックホールの場合はこうした物質が周りにないため、「闇夜のカラス」状態なのだという。

 

光学望遠鏡で原始ブラックホールの証拠を探している阿部⽂雄先生(宇宙地球環境研究所 客員准教授)が注目するのが、重力レンズとよばれる現象だ。恒星や銀河など、ふたつの天体が地球から見て一直線に並んだ(つまり、ふたつの星がぴったり重なり合った)とき、地球に近い方の天体の重力がレンズの働きをして、地球に遠い方の星から地球に届く光を歪める。これによって星の光がリング状に見えたり(アインシュタインリング)、いつもよりも明るく見えたりする(重力マイクロレンズ)。阿部先生はこの重力マイクロレンズによる増光を観測することで、ブラックホールを探しているという。

 

つまり、広い星空のどこかで、光る星の前を偶然ブラックホールが通り過ぎたならば、ブラックホールそのものは見えなくても重力レンズ効果による増光を観測できる可能性があるというわけ。1936年に重力レンズ効果を予言したのはあのアインシュタインだが、彼自身、この大宇宙の偶然を実際に観測できる可能性については悲観的だったそうだ。

 

しかし科学は進歩するもので、近年はハッブル宇宙望遠鏡が遠方の銀河によるアインシュタインリングを観測している。重力マイクロレンズの観測に至っては、すでに日常的に行われている。阿部先生のチームはニュージーランドにある光学望遠鏡で銀河中心方向に狙いを定め、毎年数百の普通の星による重力マイクロレンズ現象を観測しているそうだ。この方法で次にターゲットにしているのは、 多田先生のお話にも出てきた暗黒物質の可能性がある小型の原始ブラックホール。決定的な候補はまだ見つかっていないが、解析が進めば大発見につながるかもしれない。大きな謎に今にも手が届きそうな話で、ワクワクする。

重力マイクロレンズは、星の明るさの変化の差分から検出することができる

重力マイクロレンズは、星の明るさの変化の差分から検出することができる

普通の星による重力マイクロレンズによる明るさの変化を記録したグラフ

普通の星による重力マイクロレンズによる明るさの変化を記録したグラフ

3. 観測不可能なブラックホールの内側は、数学を使えばイメージできる!

続く泉圭介先生(素粒子宇宙起源研究所 講師)の発表は、「数学的なアプローチでブラックホールの内部を見る」というもの。ブラックホールの内部は巨大な重力によって時空が曲がり、一度中に入れば光でさえも外に出ることができない……つまり、観測することは絶対に不可能だ。

 

時空の曲がりを記述する方程式はアインシュタインが考案した。たとえ話で考えてみよう。地球上のある場所からある場所へ、球面を一直線に移動したとする。それを平らな地図上に表すと、一直線のルートは湾曲して見える。この湾曲の仕方をはかることで、平面に描かれた2次元の地図から地球表面(曲がった2次元の面)の丸みを計算することが可能だ。時空の曲がりという難解な概念もこれと同じで、4次元で曲がっている時空を曲がっていない4次元時空(4次元の地図)で描きあらわすことができるらしい。

 

……というのが前置き。それでは、ブラックホールという時空の曲がりはどのように理解すればいいのだろうか。

 

まずは、時間と空間をあらわす単位を統一してみよう。このとき、一番速く移動するものを基準に時間と空間を定義するとわかりやすい。つまり、光だ。光は1mを約3億分の1秒で進む。そして、どんな物質も光より速くは進めない。

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この光が進む範囲を時間と空間の座標として表すと、上の図のようになる。黄色い円錐が光速の壁だ。スタート地点から時間が進むごとに、空間の移動範囲も広くなる。どんなに速く進む宇宙船があったとしても、その移動範囲はこの光の円錐の内側に収まる。

 

さて、ここまでは大丈夫だろうか?これが曲がっていない時空での話だ。それでは、強い重力によって時空が曲がっていたらどのようなことが起こるのだろうか。答えは……円錐が傾くのだそうだ。

 

強い重力によって光円錐が一斉に大きく傾くような場所では、下の図の灰色の領域のようにどんなものも外に抜け出せない領域が発生する。これがブラックホールというわけだ。

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こうやって図にしてしてみることで、ブラックホールの仕組みが少しイメージできるようになったのではないだろうか……? さらに、ブラックホールの中心には重力場が無限大になる「特異点」が存在するということも計算によってわかっているそうだ(これはさらにややこしい話のようなので、「そうなのかぁ~」と納得しておこう)。

4. 銀河とブラックホールの超巨大な謎に迫るX線観測衛星が開発されている!

最後の発表は、物理学者でありながら観測機器の開発にも携わる中澤知洋先生(素粒子宇宙起源研究所 准教授)。仮説上の原始ブラックホールではなく、まさに今その姿が明らかになりつつあるブラックホールの話だ。

 

先ほども話に出たように、ブラックホール自体は観測できないが、近くの星から引き寄せたガスがブラックホールの周りに円盤(降着円盤)を作り、これが摩擦熱によって高温になり明るく輝いている。輝くと言っても人間の目に見える光ではなく、もっと波長の短いX線だ。そのため、ブラックホールの様子を知りたければ、X線観測で降着円盤を観測することが有力な手段となる。

ブラックホールの周りのガスは摩擦熱のためにX線を発している

ブラックホールの周りのガスは摩擦熱のためにX線を発している

 

X線観測によってどんな情報が得られるのだろうか。その鍵になるのは「鉄」だ。鉄は最も安定した元素で降着円盤にも多量に含まれているため、降着円盤が発するX線スペクトルを測ると、鉄が発する波長のスペクトルだけが突出して検出される。この性質を利用して、鉄のスペクトルのズレを測ることで、理論上は時空の歪みや降着円盤の回転速度まで計算することができるのだという。

 

ここまでが観測原理の話。それでは、中澤先生はX線観測によってどんな謎に迫ろうとしているのか?

 

中澤先生によると、すべての銀河の中心には太陽の100万倍から1億倍もの質量を持つ超巨大ブラックホールが存在しているという。そして、銀河の質量が大きいほど、その中心のブラックホールの質量も大きいことがわかっている。銀河とブラックホールが互いにどんな影響を及ぼし合って成長してきたのか、その過程は謎だらけだ。さらに最近では、超巨大ブラックホールから強烈な「風」が吹き出していることもわかってきた。光の速度の1/3にも達するこの高速の風が周囲の銀河にも影響をおよぼしているらしい。ものすごいスケールの話になってきたぞ。

 

そしてそんな超巨大な謎の数々が、X線観測によって解き明かされるかもしれないという。現在、JAXAでは宇宙空間から精密にX線を計測できる観測衛星「XRISM」の開発が進められており、2023年に打ち上げが予定されている。これによって銀河中心の超巨大ブラックホールの進化の過程や、さらには銀河の集合である銀河団というスケールでブラックホールが及ぼす影響にまで迫ることができるそうだ。

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XRISMによるX線観測で、ブラックホールの成長や周囲への影響に迫る

XRISMによるX線観測で、ブラックホールの成長や周囲への影響に迫る

 

ブラックホール研究の最先端、いかがだっただろうか。夜空の星のように輝くことはなくても、星の光をゆがめたり、X線を発したりとさまざまなシグナルを地球に送っていることを知ると、ほんの少しだけ身近に感じられた。そして、そのシグナルをなんとかとらえようとする科学の進歩にも驚かされるばかりだ。

 

頭を使って糖分が足りなくなったという方は、チョコドーナツでも食べながらブラックホールに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。


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