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  • date:2021.8.3
  • author:谷脇栗太

「家族」の中の見えない関係性を、哲学と社会学で解きほぐす。立命館大学のセミナー「人間関係のデモクラシー」レポート

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一番身近な存在であるがゆえに一筋縄ではいかないのが「家族」という人間関係。かけがえのない安らぎを与えてくれる一方で、プライベートな関係であるだけに、知らず知らず負担が誰かに集中してしまうことも。

 

近年、多様な家族のあり方について議論される機会が増えてきましたが、それでも多くの人にとって家族の関係性は「選べないもの」で「変えられないもの」と思われがち。しかし、本当にそうなのでしょうか?

 

家族をはじめとする人間関係のあり方に、学問の視点でメスを入れるオンラインセミナーがあると聞き、立命館大学教養教育センター主催の「人間関係のデモクラシー−“家族”から思考する」を聴講しました。

現代フランス哲学から考える、自由と平等を実現する「代わりばんこ」

「今まさに起こっている社会問題や学生の悩みに対して、教員と学生がフラットに出会い自由に語り合う場」としてスタートした立命館大学のオンライン企画「SERIESリベラルアーツ:自由に生きるための知性とはなにか」。2021年度の第1回目となる今回のセミナーは、“家族”を起点にして哲学と社会学の視点から人間関係にまつわる問題を取り上げる内容です。

 

一人目の発表者は、立命館大学衣笠総合研究機構助教の横田祐美子さん。「自由と平等のための輪番制」と題して横田さんが注目するのは、家族というシステムです。親密でプライベートな関係性でありながら、普段は気づきにくい家庭内の序列、力関係が対外的な場面で現れると言います。

横田祐美子さん。中学生の頃から学校に提出する保護者欄に父親の名前だけを書くことに疑問を感じて、ときどき母親の名前に入れ替えていたそう

横田祐美子さん。中学生の頃から学校に提出する保護者欄に父親の名前だけを書くことに疑問を感じて、ときどき母親の名前に入れ替えていたそう

 

例えば、年賀状で家族の名前を書く順番はいつもお父さん、お母さん、子供の順番。結婚式や披露宴では、席順や挨拶の順番も新郎側の次に新婦側、父親の次に母親と厳格に序列化されています。もっと些細な場面でも、学校に提出する書類の保護者欄に書くのは大抵お父さんの名前……人によっては些細なことに感じられるかもしれませんが、こうした「当たり前」が反復されることで、家族内での権力関係が固定化されているのではないか? と横田さんは考えます。

 

この序列に小さな違和感を持っていた人、実は多いのではないでしょうか? 筆者の家庭は父親が亭主関白というわけでもありませんでしたが、だからこそ、公的な場面でいつも父親が家族の代表になる、イコール母親が一歩下がる形になることにちょっとした居心地の悪さを感じたものです。でも母親自身が不満に思っている様子もないし、結局それが「当たり前」と流してしまっていたかも……。

 

では、そんな「当たり前」をどうやったら打破できるのか? ここで登場するのが現代フランス哲学です。

 

横田さんによると、現代フランス哲学は「同じものの反復に差異を導入する」ことを試みてきたそうです。その中でも、自由と平等を実現する手段として哲学者のジャック・デリダが著書『ならず者たち』で唱えているのが「代わるがわる」。人間は時間と空間から逃れることができないため、ある人が占有している時空間に、別の人が同時に存在することはできません。それは別の人を排除しているということでもあります。だから、代わりばんこに席替えをすることでしか自由と平等は実現できないというわけ。

デリダが唱える「来たるべき民主主義(デモクラシー)」では、権力の座は回転する車輪のように輪番制になっていて、誰もがそこに出入りできる(横田さんの発表スライドより)

デリダが唱える「来たるべき民主主義(デモクラシー)」では、権力の座は回転する車輪のように輪番制になっていて、誰もがそこに出入りできる(横田さんの発表スライドより)

 

横田さんが実践しているという「代わりばんこ」のアクションは至って明快。自分の結婚式を挙げるときに、親族に「結婚式のデモクラシー」と題したマニュフェストを配ったそうです。新郎→新婦の順で進む式次第の半分を新婦→新郎に入れ替え、高砂の席順も途中で入れ替える。結婚式という家父長制が強い場面でも、「代わりばんこ」を導入することで平等を体現できることを身をもって示しました。その後も、年賀状の宛名の順番など、折に触れて「代わりばんこ」を実践し、徐々に家族や周囲に浸透してきたそう。

 

このお話を聞きながら筆者は心の中で喝采を送っていたのですが、一方で実践するにはすごく勇気がいるし、特に高齢の親族を説得するのは大変そう。黙って従っておいたほうが楽なのでは……そんな風に考える人の気持ちも正直少しわかってしまいます。

 

こんな気持ちに対して横田さんは、「相手につまずきを与え、考えるきっかけを作るのが大切。差異の到来を恐れず、とにかく一度挑戦してみて」と背中を押します。

性別二元社会から自由になるための「日常におけるレジスタンス」

後半の発表は大阪市立大学文学部准教授の平山亮さん。「家庭における役割と性差のつくられ方」と題して、ジェンダーの問題について社会学の視点から考えます。

 

役割とは何かを考えるために平山さんが挙げたのは、成人した娘に何かにつけて口を出すある母親の例。日々の行動を把握して、人間関係にまで口を出してくる……カウンセラーは「母親としての役割を過剰に身につけた結果」と診断したということなのですが、本当にそうなのでしょうか。もしこれが母親ではなくご近所さんだったとしたら、ストーカー行為になるのでは……?

平山亮さん。「社会学の面白いところは、今見えているものがひっくり返されること。枠組みをぶっ壊される感じが楽しい」

平山亮さん。「社会学の面白いところは、今見えているものがひっくり返されること。枠組みをぶっ壊される感じが楽しい」

 

ストーカーと見なされかねない行為が、なぜ母親のお節介の延長に見えてしまうのか。それは私たち自身が、「彼女は母親だ」という情報をもとに、その人の行動を「母親とは普通こういうもの」という母親役割と結び付けて解釈しているからだと平山さんは言います。

 

「〇〇とは普通こういうもの」という共有された考え方を、「規範」と言います。役割とは、ある立場に関する規範のこと。その中でも「女とは/男とはこういうもの」という「性役割」に着目してみると、「女性=ケアをする存在」という性役割を前提にした秩序(「性別分業」)が見えてきます。ケアとは家事や育児、介護などに限らず、「他者が必要とすること、したいことが実現できるよう下支えすること」全般を言います。

 

この世には女と男の2つの性しかない、とする性別二元社会では、女性にとっての他者は男性に当たります。したがって、性別分業とは「男性がしようとしていることを女性が支え、邪魔しない」ための秩序だと言えます。だとすれば、男子が医師になる機会を奪わないため、という名目で女子を不当に不合格にした医学部入試の問題や、結婚にともなう改姓の不利益を男性が被らないように、女性が姓を変えることを当然とする婚姻制度、そんな女性の生きづらさを訴えると「男の生きづらさにも配慮せよ」と、女が男の問題に目配せしないと「いけないこと」をしているかのように言われること……全て、「男を支えるのが女だ」……という性別分業が根底にあると平山さんは指摘します。

 

「女性の方が気配りができる」「女性の方が感情的」という、つい言ってしまいがちな言説にも注意が必要です。言うまでもなく、これらは該当しない事例がいくらでもありうる偏見です。しかし、気配りができる男性がいれば「女子力高い男子」に分類し、感情的な男性がいれば「男は乱暴な生き物だから」と別のステレオタイプに結びつけるというふうに、巧妙に例外を排除しながら「女と男はいかに本質的に異なる存在か」が語られ続けてきました。平山さんによると、「行動を性役割に沿って解釈することで、私たち自身が『女と男はやっぱり違う』というリアリティを作り上げている」のです。社会学ではこれを「“doing” gender」と呼ぶそうです。doingになぜ引用符(“ ”)が付いているかというと、これは人々が性役割に沿って行動している、のではなく、そのように行動している“ように見える”という意味を込めているからです。

「男と女はこんなに違うのだ」というリアリティを、私たち自身が作り上げてしまっている(平山さんの発表スライドより)

「男と女はこんなに違うのだ」というリアリティを、私たち自身が作り上げてしまっている(平山さんの発表スライドより)

 

「女子力高い!」なんて安易に使ってしまってなかったかな……と筆者も胸に手を当ててみます。それでは、男女で区別することを当然視する社会にどうやって抵抗していけばいいのでしょうか?

 

平山さんによると、「やっぱり男は〜だよね」とか、「女なんだから〜すべきではない」といった二分法的なものの見方・評価に対して、「それは違うんじゃないですか?」とこまめに異議を挟んでいくことが大切なのだそうです。平山さんはこれを「日常におけるレジスタンス」と呼びます。気づきの種をばら撒くことで周りの人の行動が変わり、私たち自身の“doing” genderも少しずつ変わっていくかもしれません。

 

発表の締めくくりで平山さんが言った「一人では変わらないが、ひとりでには変わらない。一人ひとりができる範囲で行動することで、少しずつ変えていくことができる」という言葉が印象的でした。 

小さなアクションの積み重ねが社会を変える

ここ数年さまざまな場面で議論されるようになったジェンダー問題。その根っこを掘っていくと、一人ひとりの意識と行動が問われているということがお二人の話でよくわかりました。そこで横田さんと平山さんが提案するのは、小さなアクションで別の見方・やり方を示すことでした。発表の後のトークセッションでは、そんなアクションに関する質問が視聴者から寄せられました。

 

「指摘したことに対して『言い方に気をつけなさい』と言われたら?」という質問にお二人は、人間関係なので失礼にならないような配慮も大切としつつも、「絶対に怒らないといけない場面では、ちゃんと怒ることが必要(横田さん)」、「怒りを表明した人を周囲の人が支えてあげて(平山さん)」とアドバイス。

 

現状を変える必要を感じていない人との向き合い方に関しては、「『あなたは積極的に変えようとしてくれなくてもいいけれど、私が変えたいと思うところを変えられる自由は保障して、私の邪魔はしないで』というコミュニケーションも時には必要なのではないか」という平山さんのアドバイスが印象的でした。

 

この他にも様々な質問が寄せられ、話題はDV、職業としてのケア労働者の待遇、哲学が抱える身体性の軽視の問題にまで広がりました。日頃から研究と実践の両方に取り組むお二人のお話は、困っている人には環境を変えるための武器に、そうでない人には気づきの種になるものばかりでした。

 

今回のセミナーのタイトルに掲げられている「人間関係」という言葉。これって「私とあなた」「私と身近な誰か」の関係性のことで、社会というものはその延長でしかないのかもしれません。家族や周囲の人と正面から対話することが、ほんの少し社会を変える一歩になるのかも……そんなふうに考えるきっかけになったひとときでした。

右から横田さん、平山さん、モデレーターの柳原恵さん(立命館大学産業社会学部准教授)

右から横田さん、平山さん、モデレーターの柳原恵さん(立命館大学産業社会学部准教授)

 

セミナーの模様はYouTubeでも配信されています。

Ritsumeikan Channel

 

「SERIESリベラルアーツ:自由に生きるための知性とはなにか」の最新情報はこちら。
立命館大学教養教育センター

 


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