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  • date:2020.4.1
  • author:南 ゆかり

京大×ほとぜろ コラボ企画「なぜ、人は○○なの!?」

【第12回】なぜ、人はいろんなエッチが好きなの!?

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教えてくれた先生

田中 雅一

京都大学名誉教授/国際ファッション専門職大学 副学長

専門は文化人類学。南アジア民族誌。広く宗教、暴力、軍隊、ジェンダーやセクシュアリティの問題について論じる。1986年Sacrifice and Power: Hindu Temple Rituals and Village Festivals in a Fishing VIllage, Sri Lankaでロンドン大学博士(人類学)。2017年日本文化人類学会・学会賞受賞。

生殖活動から解放されるということ

♠ほとぜろ

今回は、エッチについてという、普段なかなか正面から話すことのないテーマです。エッチとはまず、生殖活動ですよね。

♠田中先生

そうなんですけど、そうでもないんですね。人間のセックスとその他の脊椎動物のセックスとの一番の違いは、人間の女性には動物のように、繁殖期や発情(排卵の兆候)が明快ではない、ということです。その理由はいろいろ言われていますが、確かではありません。たとえば、出産後メスだけで育てるのは難しいからオスをとどめておくために、いつセックスすれば子どもが産まれるかわからないようにした、という説とかね。

 

その一方で、女性は排卵する頃になると、より男らしい男性とセックスがしたくなる、という調査があります。男らしいとは、女らしさの対極にあるヒゲが濃いとか筋肉質だとかいうことを意味します。だとすると、自分や子どもの世話をしてくれるオスと子孫を残すためのオスとを区別している、という可能性もあるわけです。

♠ほとぜろ

その二つはイコールとは限らないと。

♠田中先生

はい、これらの説が確かかどうかはわかりませんが、ただ人間の女性が他の動物のメスとは違って、いつでもセックスできるのは確かです。それだけでない。閉経後でもセックスできる。つまり、人間は生殖、つまり子孫を残すためにセックスをするということから解放されているのです。人間のセックスは時間から解放されました。また、テレフォンセックスとかアダルトビデオを見ながらの自慰などを考慮すると、技術の発達はセックスを空間からも解放したとも言えます。

♠ほとぜろ

なるほど、動物とは大きな違いがありますね。

♠田中先生

同性愛は完全に生殖とは離れていますし、SMの場合はもしかしたら通常の性器的快楽からも離れてしまっているのかもしれない。このように、人間のセックスは自由に広がっていったわけです。人間のセックスは、生殖にも、性器的快楽にも限定されない「多形倒錯」だという意味で、「変態」です。ご存知のように、エッチという言葉は、この変態の頭文字に由来します。つまり、人間のセックスについて語る場合は、エッチがむしろふさわしい。

 

SMと言ってもいろいろあります。最近、Kinbakuという言葉が世界中のマニアの間で通用するようになっています。Kinbakuとは緊縛のことで、ロープで縛るSMの一ジャンルですが、一般的なSMのイメージとは少し違います。緊縛では、きつく縛って体を傷めてしまうことはタブーです。痛めつけるというよりは、拘束したり辱めることを目的にしたSMです。縛ったり吊り上げたりすればセックスできなくなってしまう可能性もあるので、そういう意味では動物的なセックスの対極にある、人間的なセックスの極致と捉えることもできそうです。

 

また、フェティシズムのように、ものや人間の部位、たとえば髪の毛などに性的に興奮する人もいます。その他、自分の飼っているペットに性愛を感じる人たち(動物性愛者)や、同時に複数の人を愛して性的なつながりも持つ「ポリアモリー」を実践する人たちもいます。

♠ほとぜろ

想像以上に自由ですね。

♠田中先生

そうですね。このような、知られていなかった新しい性のあり方を知ることは、自分自身の欲望の発見に通じます。もしかしたら、私にもこんな欲望があるのだ、と学ぶことがあるでしょう。迷っている人たちに対して一つの答えを与える可能性もある。同性愛やトランスジェンダーについての研究も自分の居場所を与えるような役割があります。私って何だろうと悩むとき、多くの人は、性とは何なのかということをどこかで考えている。私のアイデンティティと性的なアイデンティティとは密接な関係にあるからです。

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人間のエッチと動物の生殖とは違うと田中先生は語る

エッチという現象に向き合う

♠田中先生

私は、人間のセックスがここまで多様になり、マゾヒストのように痛みでさえ快楽だと思うような人が存在する理由を心理学的に、あるいは医学的に解明するつもりはありません。一般的でない性的指向を異常だと捉え、どこから「異常」が派生したのかという問いかけは最終的には正常に戻しましょうといった治療的な思考につながっているからです。そしてそこには、正常と異常という二分法が根強く残っています。しかし、「一般的でない性的指向」が時代や文化によって異なっているのは明らかです。

 

売春の研究をした時には、何でこの世界に入ったのかというような経歴を聞くことが主たる目的ではありませんでした。それによって、当事者の性癖や家庭事情などと結びつけて売春を論じることが可能になるかもしれません。しかし、同じ条件が揃っていても、すべての人が売春に携わるわけではないのです。結局のところ、そのような問いは、当事者の逸脱性を際立たせることになって、私たちとは異なる存在だという安心感を与えるだけではないでしょうか。代わりに私は、昨日とったお客はどんな人か、どんなことをしたのか、ひどい目に遭わなかったのかというような質問をしました。彼女たちがどういう仕事をしているのか、あるいは彼女らがどんな偏見にさらされているのかを聞いて、すでに存在する現象に向き合い、そこから何が言えるのかを考えようとしたのです。

♠ほとぜろ

エッチの話は、個人的なのに社会的でもあるんですね。

♠田中先生

エッチは社会の価値観と結びついています。一つ事例を紹介しましょう。1970年代ぐらいから、女性たちにとっての理想のセックスはレズビアンなんだという主張が出てきました。男女のセックスは、男性中心の考え方にもとづいた不平等なセックスだと捉え、より平等な関係を求めるとしたら女性同士が理想だと考えたのです。カミングアウトが非常に難しかった時代だったからでしょうか、自分たちは同性愛者であるとともに、反性差別主義者で、男性支配社会に抵抗しているのだという政治的な意味づけを強調しました。フェミニストたちにとって「政治的に正しい」セックスは女性同士のセックスだったのです。

 

ところが、80年代になるとレズビアンのなかにSMをやっているという人たちが出てきます。SMといえば、男性と女性の支配関係をさらに極端にしたものだという考えがフェミニストたちの間で支配的でしたから、平等だからレズビアンが理想的と言っていた人たちは動揺し、なんでそんなSMをレズビアン同士でやるのだと批判し論争が起こりました。

 

レズビアンSMをめぐる論争の論点の一つは、合意です。SMを実践するレズビアン側は、SM関係はあくまでセックスのときに限って役割を演じて楽しんでいるのであって、一般的な人間関係にまで拡大しているわけではないし、しかも合意にもとづいているので問題ないと主張しました。しかし、SMに反対するフェミニスト側は、合意とは何か、どのような状態のことなのかと、合意そのものを問題視しました。

 

この性的関係での合意は、今また、性暴力の問題として浮上してきています。セックスするには合意をとらないと暴力になる、という議論が主流をしめていますが、その場合でも合意をもっと批判的に捉える必要があると思います。今から40年前、主流派のフェミニストたちは、SMを実践するレズビアンたちが主張する合意を批判したわけですが、今は合意、合意と主張する。もっと批判的になるべきでしょう。私は、性的な合意で大事なのは、何かをやることについての合意だけではなく、それ以上に、途中であってもこれは嫌だ、これ以上は耐えられないとどちらかが感じた時にきっぱりやめられることへの合意だと思っています。

♠ほとぜろ

確かに、プロセスのどこまで合意したかというのは曖昧かもしれませんね。

♠田中先生

合意にもとづくセックスの理想は、風俗におけるオプションという考えに認められます。これは、基本プレイ以外のものを客が望めば、別料金を払わなければならないというシステムです。やりたくないNG行為はオプションから外しておく。恋人同士なら料金の支払いは発生しないかもしれませんが、厳密にはプラスアルファの行為はオプションということで合意が必要になる。実際にこんなことが実行できるのかは別問題ですけど、でもある程度はみなさんすでにやっていることだと思います。

 

人間の性が多様だからといって、みんなが相手の多様性を理解し、引き受けているわけではありません。人間の欲望が多様であっても、それを理解する、寛容になることと実施することは別の話です。多様になったからこそ、私の欲望があなたの欲望に一致する可能性が低くなったとも言えます。したがって、セックスの多様性が認められる現在こそ、ますます個別の性的行為についての合意が求められているのです。セックスと一括りにはできません。いろんなエッチがあるのです。

女らしさ、男らしさからの解放

♠ほとぜろ

先生が今、関心を持っていらっしゃることはどんなことですか。

♠田中先生

今に限ったことではないですが、基本は女性の性的主体性の問題に関心があります。この基本問題を念頭に、個別事例を扱ってきました。今なら、やはり緊縛、とくにマゾヒズムでしょうか。主体性の問題は根が深いと思います。異性愛においては女性が主体的あるいは能動的にふるまうことは否定されてきました。実際のセックスでは、ジェンダー規範に沿った女らしい従順なふるまいが求められてきました。これに対し、男性はセックスの際には女性をリードし能動的にふるまうことが期待されています。ジェンダーとは、社会的・文化的に規定された性的な役割のことですが、セックスとジェンダーは密接に結びついているのです。

 

さすがに今の時代、ミニスカートをはいたぐらいでふしだらと言われることはなくなりましたが、一方で、処女性に価値が置かれることがなくなり、恋愛が一般的になると、セクシーであることがこれまで以上に重要な要素になりました。女性は、どこまでなら貞淑でセクシー、どこからが許容範囲を超えてふしだらになるのかをつねに自問しなければならなくなりました。なかには、自分のパートナーには貞淑さを求めるのに、自分は奔放にやっても、それは男らしさだからよいと考える男性もいます。いわゆる性の二重規範です。自分勝手な基準で女性を縛るような状況を変えていかなければならないでしょう。ここで見落とされているのは、女性は、この性の二重規範のもとで、男の奔放さになびかない貞淑あるいは清純な女性と、ついついなびいてしまう都合のいい女性、つまりふしだらな女性に分けられているということです。

♠ほとぜろ

ふしだらとか貞淑とかいう分類自体をやめていくということですね。

♠田中先生

そのためには、性について自由に語れる「ふしだらな女性」が増えることです。そして性について男女で語る場をつくっていくことです。男同士で性の話をすると、女性を卑しめるような話になりがちなので、女性は積極的に入れません。反対に、性について積極的に発言する女性は「好き者」と思われて、必要以上に好奇な目にさらされてしまいます。そのような女性について男性は意識を変えていく必要があります。女性が話に加わることで、男性中心だった性の語り自体が変わっていくこともあるでしょう。女性側も、セックスはいやらしいものでもなんでもない、それを語るのは価値のあることなのだということをちゃんと理解すれば、変に恥ずかしがったり否定したりしないでもっと議論できるはずです。

♠ほとぜろ

その意味でも性の研究は重要ですよね。

♠田中先生

もちろん、性暴力を受けた人などへの十分な配慮は必要です。そのうえで、男性目線の性的な話を避けたり合わせたりするというのではなく、男性中心の性的な語りを批判するためにも女性自身が性について語れる言葉を持つということが重要だと思います。

 

一方、男性には男らしくなければならない、というジェンダーが課せられていて、能動的とかリーダーシップを取るといった役割が求められているようですが、受動的にものごとを楽しんでもいいはずです。男女わけへだてなく性について議論していけば、それぞれに新たな発見もあるのではないでしょうか。

今回の   

人がいろんなエッチが好きなのは、自らの欲望を知り、自分とは何かに気づくから!

※先生のお話を聞いて、ほとぜろ編集部がまとめた見解です

おすすめの一冊

『聖なるズー』

(濱野ちひろ著 集英社発行 2019年)

著者の濱野さんは、京都大学大学院、人間・環境学研究科において修士論文のテーマにペットと性関係をもつドイツの動物性愛者たちを取りあげました。本書では、文化人類学的調査を通じて性とは何か?動物との性的合意は可能なのか?といった根源的な問題に取り組んでいます(第17回開高健ノンフィクション賞受賞図書)。

◎特設サイトTOPページに戻る⇒こちら


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