ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2019.4.23
  • author:南 ゆかり

京大×ほとぜろ コラボ企画「なぜ、人は○○なの!?」

【第3回】なぜ、人はスポーツに熱中するの!?

高嶋先生_メイン画像

教えてくれた先生

髙嶋 航

京都大学文学研究科教授

専門は「東洋史学」。身体を通して近代という時代あるいは世界を眺めている。最近は、近代アジアのスポーツをテーマにさまざまなアプローチを行っている。

利用されやすいスポーツ

♠ほとぜろ

来年は東京オリンピックの年ということで、世間は盛り上がっていますね。

♠髙嶋先生

近代オリンピックが始まって100年以上経ちましたが、当初は今からとても想像できないヨーロッパだけでやっている小規模な競技会で、それほど盛り上がりも権威もありませんでした。状況が変わってきたのは、1920年代から30年代にかけてです。第一次世界大戦が終わって国際協調の時代に入り、国力を図る一つのバロメーターとしてスポーツが注目されるようになっていった。そのなかで、オリンピックは国と国との競争の場として盛り上がりを見せるようになっていったのです。

♠ほとぜろ

平和の祭典なのに、疑似戦争的な一面があったというわけですか?

♠髙嶋先生

スポーツは、政治やイデオロギーと結びつきやすいんですよ。一見無縁なようにみえるから、逆に利用されやすい。例えばアメリカは20世紀になる直前にフィリピンを植民地化しますが、人々に民主主義の考え方になじませようと野球を奨励しました。チームとチームは対等な関係であり、決められたルールに従って試合を進めていくというところが民主主義と似通っているとされたのです。他にも、ナチス政権下のベルリンオリンピックがナチスのプロパガンダに利用されたり、冷戦時代のソ連や東欧諸国が社会主義国家の優位性を示すためにスポーツを使ったりしています。

高嶋先生_インタビュー風景

スポーツの奥深さを丁寧に説明してくれる髙嶋先生

♠ほとぜろ

今回のテーマに絡めると、人はスポーツに夢中にさせられている、ということでしょうか?

♠髙嶋先生

その側面もあるかもしれません。そもそも近代スポーツは、19世紀から20世紀の初めにかけて黄金時代を迎えた帝国主義を背景に、英米から全世界に広められた非常に新しい概念です。英米以外の国がスポーツを受け入れるには、それぞれの事情がありました。

英米が世界に広げた「スポーツ」という概念

♠ほとぜろ

スポーツは輸入品なんですね。

♠髙嶋先生

同じアジアでも、日本と中国とではだいぶ状況が違いました。日本では明治の頃に官立学校、しかも高等学校などエリート教育の場に持ち込まれましたが、中国ではなかなか受け入れられませんでした。中国では身体を動かすのは身分の低い人のやることであり、マイナスイメージしかなかったからです。

 

こんな逸話があります。中国の役人が、外国人の外交官がテニスをしているところを見て、「そんなこと、どうして召使にやらせないのだ」と言ったというのです。外国人はこれをネタに「これだから中国人はスポーツがわからない」と揶揄します。面白いのは、この中国人の部分が日本人やフィリピン人に置き換わった似たような話も残っている。「スポーツがわからない人たち」というのが、当時の英米人のアジア人に対するステレオタイプだったのでしょう。

♠ほとぜろ

ということは、日本もそれほど積極的に受け入れたわけではない?

♠髙嶋先生

日本は、武士が身体を鍛える習慣を持っていたので、まだ抵抗が少なかったようです。けれど、野球が官立学校に持ち込まれた当時、野球は学生たちが自主的にやる課外活動の位置づけでした。学校の先生からは厄介物あつかいされて、「野球なんかやっているのは不良だ」などと反対する人が多かったんです。軍隊教育と結びついた体操は重視されていたのですけれどね。

野球イメージ

明治時代、野球は不良たちの遊びだった!?

♠ほとぜろ

最初は、野球でさえも敬遠されていたんですね。

♠髙嶋先生

だから、そういう考えに対抗する意味で、スポーツはこんなにいいものだというような議論が作られていきます。その一つが「武士道野球」。野球は精神を鍛えるという面を重視する考え方です。単に楽しんでいるだけではないという大義名分のようなものですね。

 

また、現在は、スポーツは健康にいいものという意識が根付いていますが、スポーツが入ってきた当初は、スポーツをやると身体を壊すという考えもありました。日本人女性初のオリンピックメダリストである人見絹枝さんが1931年に24歳の若さで亡くなるのですが、そのとき、この議論が盛んになりました。

♠ほとぜろ

なるほど、スポーツの効能やイメージというのは、多分に「作られた」部分があるのかもしれませんね…。ところで、なぜ日本では野球が人気になったんですか? 少し気になります。

♠髙嶋先生

いろんな人がいろんなことを言っていますが、どれが本当なのかはわかりません。例えば、バットが侍の刀のイメージと重なったからだとか、野球はチームスポーツでありながらピッチャー対バッターの個人競技という側面がある点が武道の伝統のある日本人に訴えたとも言われています。

とはいえ魅力あるスポーツ

♠髙嶋先生

野球などスポーツそのものはそれほど変わらなくても、そのあり方や人々の見方・感じ方が変わっていくのは面白いですよね。それに、スポーツとは何か、ということも変わっていくかもしれません。

♠ほとぜろ

eスポーツとかですかね?

♠髙嶋先生

そうそう。日本でスポーツというと身体を動かすことに重点が置かれますが、中国ではスポーツというとチェスなどの頭脳系のものも含むので、eスポーツはスポーツとして違和感なく受け入れられています。2022年のアジア球技大会で、eスポーツは正式種目になることも決まっていますしね。僕自身の感覚だと、なかなかあれがスポーツだとは思えないんですけどね(笑)。

多種多様なスポーツ

♠ほとぜろ

今日でだいぶスポーツのイメージが変わりました。利用されやすかったり大義名分があったり。人はなぜスポーツに熱中するかといえば、そのように仕向けられているから、ということになりますか?

♠髙嶋先生

それだけとは言えません。今までの話は、スポーツを取り囲む社会や歴史的状況を見たものでしたが、もう少しスポーツそのものに寄って見てみると、また見え方が変わっていきます。

 

たとえば、スポーツの持つ不確実性なんかは、熱中させる要素の一つだと思います。近代化は、自然のさまざまな不確定要素を、人間にとってできるだけ確実なものにしていこうとするプロセスでした。近代化するにつれて人間社会から不確実な要素が取り除かれていくのに、スポーツはなお不確実性を持っている。そんなところに、人は惹きつけられる。しかも、ルールなどによって管理された中での不確実性なので、安心安全な環境のなかで楽しむことができる。

 

もう一つは、誰もが参加でき、誰にも勝ち目があることです。最初から勝敗が決まっておらず、身分などに関係なく誰もが期待を抱くことができる。植民地でよくあったのが、支配者と被支配者の試合です。被支配者は、実世界ではとても勝ち目はありません。でも、仮想世界であるスポーツなら、対等に戦えるし勝てるかもしれない。それは熱中しますよね。支配者も、被支配者が勝って普段のうっぷんを晴らしてもらえれば、いいガス抜きになり反乱の予防になります。

観戦風景

人はさまざまな要因が重なってスポーツに熱中する

♠ほとぜろ

やはり熱中させるものを持っていたのですね。いろんな側面がありすぎて、いよいよわからなくなってきました。

♠髙嶋先生

スポーツは、そこからいろんなものが読み解けるし、人のいろんな欲望に対応できてしまう。これからも、その捉え方や概念は変わっていくでしょう。そんなに簡単には言えない、としておいた方が面白いんじゃないでしょうか。

今回の   

人がスポーツに熱中するのは、熱中させられているから(だけじゃないけど)!

※先生のお話を聞いて、ほとぜろ編集部がまとめた見解です

◎髙嶋先生が座長として登壇されるシンポジウム「アジア人文学の未来」が4月27日(土)に開催されます(詳細はこちら)。 ◎特設サイトTOPページに戻る⇒こちら

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