ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2019.6.12
  • author:南 ゆかり

京大×ほとぜろ コラボ企画「なぜ、人は○○なの!?」

【第6回】なぜ、人は旅に出たがるの!?

教えてくれた先生

河野 泰之

京都大学東南アジア地域研究研究所教授

京都大学副学長[国際戦略担当]。専門は、東南アジア地域研究、農学。研究テーマは、持続型生存基盤研究、土地・水資源管理、生業転換など多岐にわたる。

旅の醍醐味は出会い

♠ほとぜろ

旅はいいですよね。とくに旅番組やガイドブックを見ると余計に行きたくなります。

♠河野先生

今どき、国内外の情報はテレビやインターネットなどを通じて、以前よりもっとリアルな形で手に入ります。なのに、観光に出かける人は増えるばかりです。それは、自分で行って見たり聞いたりすることで、テレビで紹介していないもの、ガイドブックに載っていないものを見つけることができるからです。私は東南アジアの地域研究を専門にしていますが、フィールドワークで現地に行って初めてわかることがたくさんあります。

♠ほとぜろ

先生方のフィールドワークは研究や調査のために現地を訪問するわけで、遊びに行く旅行とはレベルが違うというか、ものの見方が大きく異なるように思うのですが。

♠河野先生

いや、よく似ていますよ。旅の醍醐味は想像しなかったものとの出会いでしょ? フィールドワークはまさにそれを求めに行くんです。

 

私の研究テーマの一つに、タイ東北部・ドンデーン村の調査があります。この村は、地形的な要因もあり、天水田といって降った雨だけを使った稲作をしています。米はあまりとれないし、年による取れ高の変動も大きい。最初は農業技術を調べるつもりで行きました。田んぼの水の深さとか稲の生育具合とか、あらかじめ決めた調査項目について半年ぐらい継続的にデータを取っていきました。

 

その間、村で暮らすわけですから、データ取りの合間に、村の人の暮らしぶりを見たり聞いたりします。どんな作業をしているのか、お昼ご飯に何を食べているのか、どんな話をしているのかなど、もう、いろいろです。そこで得たことは、最初は全く研究に関係しないと思っていました。でも、そんな中から新たな発見があり、その後の研究テーマとして広がっていくことになりました。フィールドワークでは、そんな想定外の出会いがいくつもあるのです。

会話風景

旅とフィールドワークの共通点を語る、河野先生

旅はスコープを拡大させる

♠ほとぜろ

たとえば、どんなことですか。

♠河野先生

この村の調査は京大が1960年代から継続的に行っていて、私自身は1980年代半ばから参加しています。その頃は、村のお年寄りは暇そうに家の前なんかに座っている人が多かったのですが、2000年代頃からはぼーっとしている人はあまりいなくなりました。また、昔はなかった、じいちゃんばあちゃんと子どもだけで暮らしている家が増えていることにも気づきました。こういう変化があると、それがなぜ起こったのかすごく気になって、調べてみたくなります。それで、農業技術から農家の経済や農村の社会などへも研究領域を広げました。

♠ほとぜろ

お年寄りと子どもの世帯がなぜ増えたんですか?

♠河野先生

私が最初に調査に行ったのはタイが高度成長期を間近に控えていた頃で、やがて村の人たちはバンコクなどの都会に働きに出て、農業は衰退するだろうと思っていました。でも、20年後の2000年代になっても農業は続いていました。若い人は予想通り都会に出て働いていましたが、稼いだお金で農業用の機械を買い、村に残ったじいちゃんばあちゃんが農業を続けていたんです。機械を使えば体力のないお年寄りにも農作業ができます。お年寄りたちに、ぼーっとしている暇はなくなりました。

 

一方、都会で働く若い夫婦は子どもができると、子どもだけを田舎に送り返していました。手元に置きたいのはやまやまでしょうが、子どもが育つには村の環境の方がいいと判断したからです。

1980_thai

1980年代のドンデーン村。田植えは手植えだった

2000

2000年代のドンデーン村。農作業に機械が導入されている

♠ほとぜろ

でも、天水田でお米があまりとれないのに、どうしてまだ農業を続けるんでしょう。

♠河野先生

ドンデーン村からの出稼ぎ労働者を調べてみると、多くは不安定な、何かあったら最初に首を切られるようなポストに就いていることがわかりました。首になっても、村に戻れば生活できる。農業以外で儲けたお金を農業に投資することで、ショックに耐えられる社会をつくっているんです。

 

研究とは、スコープ(視野・範囲)を決めてやるものです。最初に持っているスコープはとても小さいのですが、研究するうちに自分が成長し対象となる地域にも変化があって、スコープを動かしたり大きくしたりして研究を充実させていきます。この時、スコープの外も見ていろいろなピースを拾っておくと、次にどこにスコープを動かすのがいいかや、全体像をどう描くのがいいかなど、たくさんのヒントを得ることができます。

♠ほとぜろ

仕事でもそうですよね。回り道上等、ということでしょうか。人間、発見を求めて旅に出なくちゃいけないんですね。

部分ではなく全体を見ることが大切

♠河野先生

人それぞれ見方が違うのだから、現地に行って自分の目で確認してみる必要もあります。

♠ほとぜろ

SNS映えのする景色でも、実際行ってみてがっかりすることってありますよね。

♠河野先生

一面を切り取っているに過ぎないからですね。東南アジア諸国と中国の関係についてもそういうことがあります。

 

2000年代に入ってラオスと中国との国境が開き、中国人がラオスで土地を借りて中国向けに作物をつくるようになりました。ラオスにとっては大きなビジネスチャンスですが、一方で、中国人が東南アジアの村に入ってきて搾取をしているという見方もできます。実際に、中国の商売人がラオスの農民にタネと肥料とを渡し、できる頃に取りに来ると約束したのに取りに来ない、などというトラブルも起こっています。

 

私は、どんな人が搾取しているのかを知りたいと思い中国に行き、ラオスに土地を借りてゴムを栽培している中国人から話を聞くことができました。彼は、土地を借りる許可を得るために、ラオスの役人を接待してようやく事業をはじめました。しかし、しばらくたつと役人が変わってしまい、新しい役人は「そんなことは聞いてない」と許可を取り消してしまった。それでまた接待をして許可をもらって、というのを何度も繰り返したそうです。彼はいかにラオス人が契約を守らないかを力説していました。これは一例ですが、中国はラオスに比べたら圧倒的に大国とはいえ、それぞれのレベルではネゴシエーションやだまし合い、協力が繰り広げられている。単純な図式が当てはまるものではないんですね。

banana

バナナは、中国人がラオスでつくらせる農作物のひとつ

♠ほとぜろ

真実はいつも一つ、ではないと。

♠河野先生

自分の見方が、そのまま対象に当てはまるかどうかもわからないですよ。先ほどから話しているタイの村では、昔、不作が何年も続いて蓄えも食べ尽くしてしまうと、よその村に物乞いに行きました。物乞いしないといけないなんて私たちには悲惨に思えますが、村の人は決して悲惨な感じではない。それが普通というか、他の村もそういうことがあるのでお互いさまなんです。そういう現地の姿を見ないで、お米の取れ高がものすごく変動するというデータだけを見て、「この悲惨な状況を何とかしないと」というのは違うかもしれない。自分の感覚だけで対象を見ていると間違うこともあります。

♠ほとぜろ

なんだか、何をよりどころにしていいのかわからなくなります。

♠河野先生

それこそ旅の効用なのではないでしょうか。普段の自分、いつもの感覚から、一歩外に出て、ものを見るチャンスなんです。

 

もう一つ、物事を理解するには、先ほど言った全体像を描くことが大切です。部分ではなく全体を見るということです。農業技術、農民の経済、社会などというふうに、独立に存在している問題などないからです。タイの村人の視点で見れば、よくわかります。彼らは、都会でいつまで働こう、コメ作りはどうしよう、家の新築もしたいし子どもの学費も何とかしたいし、などいろいろなことを考えながら生活しています。そこには、少子高齢化やジェンダーや政策なんかも密接に関わっているでしょう。それらがどうつながっているのかを見ていってはじめて、東南アジアの村の変化を論じられるのです。

 

全体を見るなら行ってみないといけません。行ってみると、この意見はこの方向から光を当てたものだが、違う方向からも光を当てることができる、ということがわかる。こうして、光をいろんな角度からいくつも当てることで物事の本当の姿に近づき、骨太な論理になっていくのだと思います。

今回の   

人が旅に出たがるのは、想像や推測の枠を越えて、物事を広い視野で捉えたいから!

※先生のお話を聞いて、ほとぜろ編集部がまとめた見解です

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