ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2015.8.7
  • author:花岡 正樹

幻の小麦が生んだ京都大学×早稲田×黄桜大学の共同開発ビール「ホワイトナイル」【前編】

ホワイトナイル03

アカデミックで、ドラマチックなビール。

「ホワイトナイル」の原稿を書こうとしたとき、まずそんなフレーズが頭によぎった。

 

2004年の国立大学法人化前後から、大学と企業が協力して商品開発に取り組む事例が増えてきており、その勢いは年々増してきている。大学と企業が連携する場合、一つの大学に対して一つの企業というのが一般的で、二つの大学と企業が連携するのは稀である。そんな中、2006年に発売されたホワイトナイルは、二つの大学が、しかも国立と私立が、さらに言うと“あの”京大と“あの”早稲田が、京都の酒造メーカー黄桜とコラボレートしてつくられた。この前代未聞のコラボレートは、なぜ実現したのだろうか。

 

きっかけは、市場に出回らない幻の小麦。

「そもそもはある大手ビール会社が創立100周年事業として、早稲田大学の吉村作治先生※1の指導のもと、古代エジプトの壁画を読み解いて、当時のアルコール飲料を『古代エジプトビール』として復元しようとしたのがはじまりです」

 

取材に応じてくれたのは、京大大学院農学研究科の平井伸博教授。平井教授は当時、京大産官学連携センターで澤田芳郎教授※2 と共に、ホワイトナイル開発の中心的な役割を担った人物である。

 

「このプロジェクトでは、パンを使ってビール酵母を培養するのですが、そのためにパン職人や、パン焼き窯をつくるレンガ職人までエジプトから呼び寄せており、とにかく手の込んだものでした。それで何から何まで忠実に再現しようとしたのですが、ビールに使われていた古代小麦だけは、どうしても見つけることができませんでした」

 

古代小麦……? どことなくロマンを感じるフレーズに、にわかにテンションがあがる。即座に質問をすると、正式名称は「エンマー小麦」、紀元前8000年ごろにトルコ東南部で成立した小麦だという。そして、この小麦は、現在、市場に出回っておらず、どこで栽培されているかもわからない「幻の小麦」なのだそうだ。

 

どこにもない、と思われていたエンマー小麦だったが、奇跡的に京大の研究室※3 にあった。およそ50年前に、京大の学術探検隊がエチオピアで採集したものが保存されていたのだ。

「恐らく、国内唯一のエンマー小麦」を手にしたことで、古代エジプトビールは、見事、現代によみがえったのである。

 

「つまり、それがホワイトナイル……?」

あまりに壮大な話にくらくらしながら聞いてみると、平井教授は首を横にふる。

「いえ、これはその前段階の話で、ホワイトナイルの話はここからです」

たしかにまだ黄桜の“き”の字も出ていない。どうやらフライングしてしまったようである。

 
エンマー穂 エンマー収穫
(左)「幻の小麦」とも言われるエンマー小麦 (右)エンマー小麦の収穫風景

 

ホワイトナイル開発プロジェクト開始。

「この古代エジプトビールに、当時、京大の総長だった尾池和夫先生※4 が興味を持ち、京大のレストランで売り出せないかと考えました。それで、ビール会社に問い合わせてみると、古代エジプトビールはどうも私たちが思うビールとはまったく違うものだとわかってきました。アルコール度が低く、今でいう“どぶろく”のようなものだったようです。しかも、単価が高く、単純に同じ製法でつくると、一本当たり8万円ちかくになることがわかりました。当然ですが、これじゃとても売れませんよ」

 

いきなり頓挫してしまったプロジェクトだが、平井教授の同僚である伏木亨教授から新たなコンセプトがもたらされる。古代の製法でつくるのが無理なら、現代の製法を使って、美味しい古代小麦のビールをつくるのはどうだろうかと。

 

このコンセプトが尾池総長に承認され、さらに早稲田の吉村教授と白井克彦総長※5 からも賛同を得ることができた。ここにきて、ホワイトナイル開発プロジェクトが本格的に動きはじめることになったのである。

 

新たなパートナー黄桜との出会い。

「開発するに当たって、古代エジプトビールをつくったビール会社に相談したのですが、期待生産量が少なかったため参画は難しいという返事がきました。しかし、代わりというか、同社で栽培したエンマー小麦を1kgゆずってもらえることになりました」

 

再びパートナー企業を探すことになり、そこで白羽の矢が立ったのが黄桜株式会社だった。なんと、同社の専務取締役である若井芳則さんと平井教授は大学時代の同級生なのだという。

 

「まるでパズルのピースがはまるように、自然とはまった感じです。でも、同級生だからお願いしたわけじゃありません。黄桜は地ビールづくりの実績を持つ京都の酒造メーカーで、規模も大きく、ふさわしい企業だったからです」

カッパカントリー外観 P1000460a

(左)黄桜の直営レストラン「カッパカントリー」 (右)「カッパカントリー」内にあるビールの仕込み室

 

大学ならではの視点、多飲量特性。

「こだわったのは、いかに多飲量特性に優れたものにするかです」

 

ホワイトナイルの開発でのこだわりを聞くと、平井先生の口から思いもよらない言葉が返ってきた。……タインリョウトクセイ??

 

「そうです。お酒を多く飲める人は、飲めば飲むほど下からもよく出ますよね。この状態を長く続けられるビールが、『多飲量特性』に優れたビールであり、飲み飽きないビール、つまり美味しいビールだと私たちは考えたのです。そこで、この特性について研究する伏木先生の指導のもと実験をしました」

 

実験というのは、大麦麦芽と小麦の割合を変えたビールをいくつかつくり、何人かの被験者に飲んでもらった後、一定時間ごとに超音波を使って胃の容積を測るというもの。当然、多飲量特性に優れたビールは、じゃんじゃん下から出てしまうので、胃の容積は減っていくことになる。この結果、大麦麦芽と小麦の割合は8対2がベストだとわかった。感覚的にうまい、まずいを決めるのではなく、理論をもとにしっかりと検証をするのが、なんとも大学らしい。

 

その後、吉村教授に考古学の観点からアドバイスをもらい、「ホワイトナイル」という商品名や、古代エジプトの護符「ウジャトの眼」をデザインした商品ラベルが開発され、晴れてホワイトナイルは世に出たのである。

ホワイトナイル記者発表 IMG_0178

(左)ホワイトナイルの記者発表風景。写真手前は尾池和夫 京大総長、その右は白井克彦 早大総長(いずれも当時)
(右)商品ラベルに強い存在感を与える「ウジャトの眼」

 

だいぶ文字数がかさんでしまったため、前編はここでおしまい。後編では、ホワイトナイルの売れ行きや味、さらに現在新たにラインナップされている姉妹商品についてなど。まだまだ書き足らないホワイトナイルの魅力について紹介していく。乞うご期待!

(後編はこちら

 

 

※1 日本におけるエジプト考古学の第一人者。現在、早稲田大学名誉教授(工学博士)、東日本国際大学学長

※2 現在、茨城大学URA(University Research Administrator)

※3 正式名称、農学研究科栽培植物起源研究室。1万系統におよぶ小麦種子を保存している

※4 第24代京都大学総長。現在、京都造形芸術大学学長。京大名物「総長カレー」の生みの親としても有名

※5 第15代早稲田大学総長。現在、放送大学学園理事長、日本電信電話株式会社取締役


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