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  • date:2022.3.24
  • author:藤原 朋

マスクで顔の魅力をアップするために知っておきたい。 北海道大学の河原純一郎教授に聞いてみた

今回お話を伺った研究者

河原純一郎

北海道大学大学院文学研究院 教授

広島大学教育学部卒業、同大学大学院教育学研究科修了、博士(心理学)(広島大学)。広島大学助教授、産業技術総合研究所主任研究員、中京大学教授などを経て、2015年より現職。
人間の行動を支える意識・無意識プロセスに関わる注意と記憶。認知機能に影響しうる要因である、魅力や疲労・ストレスに焦点を当てた研究に取り組む。

長引くコロナ禍で、マスクを手放せない生活が続いています。「この人と何度も会っているけど、そういえばマスクをした顔しか見たことがないな」なんて思うことも珍しくなくなりました。

 

「マスク美人」「マスク映えメイク」といった言葉も生まれるほど、マスクをしている時の顔の印象を良くしたいと考える人もたくさんいるようです。

でも実際に、マスクをつけることで顔の印象が良くなったり悪くなったりすることはあるのでしょうか? あるとすれば、なぜそんなことが起こるのでしょう?

マスクに関する研究に取り組んでいる北海道大学大学院文学研究院教授の河原純一郎先生にお話を伺いました。

コロナ禍の前後で、マスクによる顔の印象が変化

認知行動科学を専門とする河原先生は、コロナ禍以前からマスクの存在に注目し、研究に取り組んできました。そもそもなぜ、マスクについて研究しようと思ったのでしょうか。

 

「10年ほど前から、大学で授業をする際、花粉症やインフルエンザの時期でもないのにマスクをしている学生を見かけるようになりました。マスクをすると表情が読み取りにくく、授業の反応がわかりづらいんです。それで、なぜ彼ら・彼女らがマスクをするのか気になったのが最初のきっかけでした」

 

河原先生は2013年頃から研究をスタート。マスクによって親しみやすさや見た目の魅力がどのように変化するのか、さまざまな調査や実験を行ってきました。そんな中、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが宣言された2020年3月以降から、マスクの着用が余儀なくされる社会に。

 

「コロナ禍の直前に実験したデータを持っているのは、おそらく我々の研究グループしかいなかったので、前後で比較した研究を行うのは社会的な使命だと考えました」

 

そこで河原先生は、これまでも共同研究を行ってきた福山大学の宮崎由樹准教授や、河原先生の研究室のメンバーである鎌谷美希さんらと共に、実証実験を行いました。

 

「もともとの顔の魅力(マスクなしで事前測定)が、マスク装着によってどのように変化するかを2020年に測定したところ、もともとの魅力が高い人がマスクを装着すると魅力が低下し、逆にもともとの魅力が低い人は魅力が向上して見えることがわかりました。コロナ禍以前である2016年に測定したデータでは、マスク装着によって一様に魅力が低下していましたが、コロナ禍以降の2020年に測定したデータでは、もともとの魅力に応じて違いが見られたのです」

s-プレスリリースのグラフ

 

コロナ禍の前後でこのような変化が生じた理由について、河原先生は「遮蔽」と「不健康さ」という2つのキーワードで説明します。

 

「一つ目は遮蔽、つまりマスクによって顔の下半分が隠れて、良い特徴も悪い特徴も見えなくなることです。たとえば、肌が綺麗だとか左右のバランスが取れているといった魅力的な特徴が隠されると、その人の魅力は下がります。逆に、肌荒れや傷、左右のアンバランスさといった特徴が隠れると、魅力が上がると考えられます」

 

この遮蔽の効果を確かめるため、マスクではなくノートを使って顔の下半分を隠したところ、同じ結果が見られたそうです。マスクかそれ以外のものかは関係なく、単純に顔の半分が隠れることで、みんな魅力が近いように見えるというわけですね。

s-Kawahara_mask_20220222

「もう一つ、不健康さという要素があります。コロナ禍以前の聞き取り調査では、マスクをしていると不健康な印象を持つと答えた人が5割いました。コロナ禍以降に同じ調査をすると、不健康と答えた人は3割弱に。マスク着用が常識という社会になったので、ネガティブな印象を持つ人が減ったんですね。それによって不健康さという要素の影響は少なくなる一方で遮蔽の効果が残ったことで、もともと魅力が高い人の魅力が低下するという結果になったと考えています」

s-プレゼンテーション2

 

顔の魅力の評価には、複雑な要素が関連

マスクによって魅力が上がる人、下がる人がいることがわかりましたが、そもそも私たちはなぜマスクを外した時にギャップを感じるのでしょう。マスクの下の顔を、私たちはどんな方法で想像しているのでしょうか。

 

「マスクの下の顔のイメージを何で補っているのか、研究の中でもまだはっきりわかっていないんです。たとえば平均的な顔で補っているのか、あるいは中程度の魅力の顔を当てはめているのか。もしマスクの下に典型的な口を想像しているとしたら、人は典型的なものを美しいと感じる傾向があるので、マスクを外した時にがっかりすることが起こりやすいのかもしれません」

 

元来人間は、自分の振る舞いを正しく予測できないものだと河原先生は語ります。

 

実際には顔を見ずに頭の中での想像で「マスクをしたら魅力があがると思いますか? 下がると思いますか?」という質問に答えるアンケート調査をした後、実際にマスクをした顔を見て評価を測定する実証実験では、回答に差が生じるケースがあります。おそらく、自分が意識でコントロールできないものを使って魅力を評価しているため、アンケートと実証実験でズレが生じているのだと思います。人はこれまで自分が経験してきたこと、言葉にならないことを総動員して、魅力の評価をしているのではないでしょうか」

 

マスクをした顔を見て好印象を持ったり、外した顔を見てがっかりしたりするのは、自分勝手だなと感じていましたが、自分のコントロール外のところで起こっていることだと聞いてなんだか腑に落ちました。

 

さらに河原先生は、海外の事例についても紹介してくれました。

 

「アメリカで行われた実験では、ちょうど大統領選の時期と重なっていたこともあり、トランプ派はアンチ・マスク、バイデン派はマスク推奨という形で、政治的な立場とマスクに対する行動に関連性がみられました。また、黒人に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が大きな問題になっていた時期という背景もあったせいか、たとえば黒人の方が布マスクやバンダナをしているとネガティブな印象を持つ人が多いなど、その人がもともと持っている人種に対する意識も関係してくるようです」

 

なるほど、政治的な立場や偏見など、さまざまな要素が関連しているんですね。マスクをすれば魅力が上がる、下がるといった単純な話ではなく、想像以上にたくさんのことが複雑に絡み合っていることに驚きます。

 マスクの色と顔の印象の関係性とは?

河原先生は、マスクの色にも着目して研究を進めています。たとえば黒いマスクに対しては、不健康だという印象を持つ人がコロナ禍以降も多いことや、ピンク色のマスクをつけると血色の良さが連想されるため魅力が上がることなどが明らかになっています。

最近は不織布マスクの色も多様化していますが、どんなマスクを選べばより魅力的に見せることができるのでしょう。

 

「色については引き続き研究を進めているところですが、マスクをつけている人の属性やイメージが影響しているのではないかと考えています。たとえば、警察の人がピンク色のマスクをつけていたら、あまり強そうには見えないですよね。花嫁さんだったら白色やかわいらしい明るい色のイメージがあるので、黒マスクをつけていたら違和感を覚えるかもしれません。このように、その人の属性や場面に相応しいと感じるマスクをつけているほうが、魅力が上がるのではないでしょうか」

 

属性や場面によって左右されるということは、自分に似合っているマスクやTPOに相応しいマスクをしているほうが、印象が良くなる可能性がありますね。マスク生活はまだしばらく続きそうなので、選ぶ時の参考にしたいと思います。

 

河原先生の今後の研究で、マスクの色による印象と属性との関係性が明らかになると、アメリカの研究で政治観や人種観が垣間見えたように、現代の日本におけるジェンダー観も見えてくるかもしれません。新しい研究結果が発表されるのが楽しみです。

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