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  • date:2017.4.18
  • author:中橋 由香

誰でも参加できる研究プロジェクト「みんなで翻刻」のこれまでと今後

合宿の様子

以前ご紹介した市民参加型プロジェクトの「みんなで翻刻」。この中心となっている京都大学古地震研究会の合宿にいき、「みんなで翻刻」が誕生するまでと、今後についてお話しを伺った。

 

2016年10月に開設されたウェブサイト「みんなで翻刻」。くずし字が読める人の力で活字化されていない地震史料を翻刻していく、市民参加型研究プロジェクトだ。

今回は古地震研究会の合宿でこのサイトを使うと伺い、現場におじゃました。

 

合宿の会場ではすでに10人以上の参加者の方々が「みんなで翻刻」を使い、翻刻を進めている。

 

 

※翻刻
写本や版本などを原本通りに活字に組むなどして新たに出版すること。ここでは写本や版本に書かれたくずし字を読んで活字にしていくことを指します。

 

合宿の様子

合宿の様子

 

翻刻中の画面

 

この日翻刻作業が行われていたのは「善光寺地震聞書」という、1847年に信州の善光寺平(現在の長野県長野市を中心とした盆地)で起こった直下型地震に関する聞き書き集。
同時編集が可能な特性を活かし、全員が史料や翻刻結果をリアルタイムに確認しながら作業を行う。もくもくと作業を進めているのではなく、ひとつずつ意見を出し合い、作業が進んでいくのが印象的だった。

 

合宿の様子

 

参加者は手元のパソコンで内容を確認しながら意見を出し合う

参加者は手元のパソコンで内容を確認しながら意見を出し合う

 

くずし字は手書き文字であることがほとんどであり、ある程度の型はあっても機械的に「これはこの文字」と当てはめていけるものではない。前後の文意やその他の資料、崩し方のくせ、当時の時代背景にこの地震についてなど、さまざまな知識を駆使して文章を読んでいかなければならない。もちろん正解というものもないので、何度も検討を重ね、地道に精度を高めていく。

 

少し見学させていただくだけでも、ひとつの文章にかなりの時間がかかっているのを感じた。

 

始まりは先生たちのくずし字勉強会

くずし字を学ぶ人というと思い浮かぶのは日本文学や日本史研究者。しかし勉強会の参加者のには地震の研究や防災研究に携わる方々が多い。なかには気象庁の関係者も参加しているという。

 

京都大学大学院理学研究科 中西一郎教授

京都大学大学院理学研究科 中西一郎教授

 

「元々は私や加納先生といったごく少数で週1回、専門家の先生に協力いただき資料を解読する勉強会を始めたのがきっかけです」そういうのは京都大学大学院理学研究科の中西一郎教授。

 

大地震は数十年数百年という長い周期でやってくることから、地震研究では古い史料を扱うことも多い。しかし史料のなかで活字化されているものはごく一部だ。

 

「現在活字化されているものは、実は40年くらい前の地震研究に基づくもの。研究が進めば必要になる情報は増え、それまで活用していなかった史料を要する場面が出てきます。それまでも古い史料を読み解く時、くずし字に詳しい専門家を頼ることもありました。しかし、研究者自身が読めるようになる必要性は感じていました」と中西先生。

 

解読はもちろん、今目の前にあるものが必要な資料かそうでないか。そういった判断も実際に研究に関わる者でないとできない。資料の選定のためにも研究者自身がある程度読める力を身につけなければいけないと感じ、勉強会を始めるに至ったそう。

 

「必要な資料を読むことが目的なので、体系だった学び方ではなく、いきなり今欲しいと思っているものを読んでいきます」中西先生は、最初は大変だったと笑う。

 

京都大学防災研究所附属地震予知研究センター 加納靖之助教

京都大学防災研究所附属地震予知研究センター 加納靖之助教

 

「始まりこそ研究のためだったが、教えてもらいながら読めるようになっていくと『なるほど』と思う瞬間があり、くずし字解読そのものの快感にハマった部分もあります」というのは京都大学防災研究所附属地震予知研究センターの加納靖之助教。

もちろん資料解読が第一だが、くずし字の解読はゲームのようでもあり、翻刻そのものの楽しさも感じているという。

そんな勉強会を数年行うなかで、やはり情報技術の活用もしていかなければならないだろうという方向に自然と向かっていったそう。しかし、OCR技術を使った翻刻技術も存在しているが、まだまだ課題が多い。
そのなかで加納先生が偶然発見したのが、当時橋本雄太氏が開発に携わっていた「SMART-GS」だ。

 

京都大学大学院文学研究科 橋本雄太氏

京都大学大学院文学研究科 橋本雄太氏

 

「SMART-GS」は京都大学文学研究科の林晋教授らが人文学のテキスト研究用ツールとして開発したソフトウェアで、手書き文字を含むテキストの画像データを検索したり、マークアップやリンクを作成したりすることができる。
字形から類似の画像を検索するため、従来あるOCRとは異なり、未知の文字でも検索できることが強み。
また、画像データを見ながら読みや注釈を付けていくことができるため、わからない文字が出てきた時、画像検索で読みや注釈を参照することも可能だ。
文系と理系、それまで会う機会がなかったそうだが、偶然入試監督として林先生と加納先生が出会ったことが縁で、古地震研究会に橋本氏が参加するようになった。

 

この頃から、いろいろな人の手で翻刻を行う「みんなで翻刻」のアイディアのようなものができてきたそう。また、「SMART-GS」は学内研究でも活用され、さまざまな意見を取り入れ、ノウハウを蓄積。この時のノウハウは「みんなで翻刻」にも活かされている。

 

さらに2014年に行われた夏のくずし字学習合宿で、偶然大阪大学文学研究科の飯倉洋一教授と出会い、くずし字学習アプリ「KuLA」の配信にも結びついた。

参考:大学アプリレビューvol.10 クイズでくずし字学習ができる 大阪大学「くずし字学習支援アプリ KuLA」

 

古地震研究会の勉強会などでも、予定が合わずに参加できない人や別の場所でもくずし字を学びたいといったニーズがあったため、「みんなで翻刻」にはこの「KuLA」で使用した学習コンテンツも組み込んだのだという。

 

くずし字学習のためのスマートフォンアプリ「KuLA」(イメージ)

くずし字学習のためのスマートフォンアプリ「KuLA」(イメージ)

 

結果として「みんなで翻刻」は、参加者がくずし字を読む力を高めながら、それをスムーズに社会貢献に活かせるひとつのプラットフォームとして機能している。

 

くずし字を学ぶプラットフォームとしての「みんなで翻刻」

「みんなで翻刻」トップページ

「みんなで翻刻」トップページ

 

「みんなで翻刻」の参加者を対象にしたアンケートの結果によると、参加者は40代が36%と最も多く、次いで学生と思われる20代、30代と続く。ネットに馴染みのない50代以上の人はほぼいない。

 

従来から各地域で古文書解読の会が開かれていたり、大学の公開講座など、学びの場自体は存在している。しかしそれらは平日の開催だったりと、とくに働き盛りの若い世代が参加しづらい事情があった。
これまでそのような地域のコミュニティに参加していなかった若い世代が、くずし字を通じて「みんなで翻刻」にあつまっているのは成果だという。

 

参加者はなぜ「みんなで翻刻」に参加しようとしたのか。
「一番多いのは翻刻が楽しいという意見。社会貢献活動として参加していると答えた人もいる。また、おそらく文系の学生だろう人からは『(普段の研究から離れて)現実逃避として』というのもありました」と橋本氏。

 

同好の人とコミュニケーションをとれる、みんなで翻刻することによる一体感があることを評価する人、自分の読解度を客観的に確認できることを良さとしてあげる人もいる。

 

また「みんなで翻刻」には他の参加者に添削をお願いできる機能もある。
複数の目で「この文字は何か」を検討することで、資料の精度を高めていくことができる。利用者全体が協力してレベルアップし、より精密な翻刻ができることも期待できるという。

 

加納先生がいうには、「公開前の勉強会で翻刻できたのが15万字。しかしこのアプリができてから数ヶ月で、すでに150万字を超える翻刻ができている」とのこと。
開始直後はここまで多くの人が参加し、早く翻刻が進むとは思っていなかったそう。プロジェクトの成果は上々だ。

 

みんなで翻刻の今後

今、利用している人はインターネットに馴染みのある40代以下の人がほとんど。インターネットに馴染まない人やネット環境がない場所でもやりたいという声はある。

 

しかし、オフラインでの対応は人的リソースも必要なので、現時点では難しいそう。
「こちらは今後どのようにしていくかを検討したい」と加納先生。

 

せっかくのプラットフォームなので、なかの資料を入れ替えて地震史料の翻刻以外でも使用できるようなパッケージ化や、KuLAの「つながる」機能のように、利用者が原本をアップロードし、翻刻していく機能の追加も検討中とのこと。

 

「利用者が資料をアップロードすることでこれまで発見されなかった資料を発見することにもつながるかもしれない」と橋本さん。

 

サイト以外にも3月1日からはニコニコ動画でくずし字学習の生放送もスタート。より多くの人に裾野を広げていこうとしている。

 

これまでくずし字学習は研究者でなければ教養や趣味の範囲で活用することがほとんどだった。しかし、これからはこういった個人のもつ知識を集め、大きな研究に活かす取り組みが増えてくるのではないかと感じる。
これまで雑学、教養としてのみ評価されてきた国文学・日本語学習にもこういった活用を見出し、再評価されればという期待もある。

 

こうしている間にも日々翻刻作業は進んでいる。
登録されている資料は114点。すべてがテキスト化される日もそう遠くない。このプロジェクトがどんな風に広まっていくのか今後注目だ。


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