帝塚山大学発の大和野菜を使ったサイダー。前編では、生みの親である稲熊隆博教授(同大学現代生活学部食物栄養学科)に、その中身についてたっぷり語ってもらった。後編は、サイダーのネーミングやラベルデザインを担当した、同大学文学部文化創造学科の河口充勇准教授と学生たちを直撃。なぜ、このサイダー開発に関わることになったのだろうか?(前編はこちら)
ネーミング&デザインチーム始動
「文化創造学科は、本学が創立50周年を迎えた2014年4月に開設されました。この学科のミッションは、地元奈良に密着し、地域の魅力を発掘し、世間に発信していくこと。これが、ちょうど同タイミングでスタートしたサイダー開発のコンセプトと一致するなという話になりまして。学生の中から有志を募り、彼らにネーミングとラベルデザインを考案してもらうことになりました」と、河口准教授。
ちなみに、河口准教授が最初に声を掛けたのは、前田好美さん(文化創造学科2年)。なぜなら、彼女がまだ高校生だった時、入学前に訪れたオープンキャンパスでたまたま河口准教授と話す機会があり、その際に「地域活性化や伝統産業の勉強、商品開発などをやりたい」と話していたから。恐るべし、河口准教授の記憶力。その後も何人かの学生たちが呼び掛けに応えてくれ、最終的に文化創造学科と経営学科の学生10名が集まったという。
メンバー間では特に役割分担をするわけではなく、全員でネーミングとラベルデザインのアイデアをひたすら出し合った。
福島一輝さん(文化創造学科2年)は、「毎週のようにミーティングを重ねつつ、何かアイデアが浮かべばすぐにLINEでやりとりし合っていました。みんなでディスカッションしながら、少しずつ形にしていくのが楽しかった」と当時を振り返る。高井泰伸さん(経営学科3年)も、「お互いに刺激し合う中で、受け身ではなく、自分からどんどん考えて動けるようになりました」と、自身の成長を実感しているようだ。
(右)大和ベジサイダーについて熱く語る河口充勇准教授 (左)ネーミングとラベルデザインづくりに携わった学生たち
ベジサイダー姉妹、あかね&まな誕生
河口准教授のサポートの下、10名の精鋭たちが命名したサイダーのネーミングは「大和ベジサイダー あかね」。「大和野菜ダー」といったダジャレ的要素の強い案もあったそうだが、最終的に「大和野菜」をイマドキっぽく「大和ベジ」とするあたりが、流行に敏感な学生らしい。「あかね」は原料の「片平あかね」のことだが、実は偶然にも、大学で式典の際などに歌う祝歌のタイトルが「茜雲」であったり、春の学園祭の名前が「あかね祭」であったり、何かと「あかね」というキーワードに縁が深いことも影響している。
一方、デザインについては“幼い子どもでも手に取りやすい”ことをコンセプトに掲げ、「あかね」をキャラクター化! と言っても、決して蕪を擬人化したわけではない。「あかねちゃん」という可愛らしい女の子を、全員でイメージを膨らませながら生み出していった。また、それからほどなくして、第二弾となる「大和まな」を使ったサイダーが誕生。「大和ベジサイダー まな」と名付けられ、これまたキュートな「まなちゃん」も生まれた。
商品に込められた学生たちのこだわり
デザインに興味があってこのプロジェクトに参加したという小林由也さん(文化創造学科2年)曰く、「奈良らしい和の雰囲気を出しつつ、キャラクターは子ども受けする可愛らしさにこだわりました。みんな思い思いのキャラクターを描いて持ち寄って吟味して、その中で“二頭身の女の子”という方向性が固まり、今の形に仕上がりました」
確かに、ベースは古都・奈良をイメージさせる和風な格子柄ながら、それを背景に「あかねちゃん」と「まなちゃん」が佇んでいることで、グッと可愛らしい雰囲気に仕上がっている。
また、東恭太郎さん(文化創造学科2年)は、「『あかね』をボトル缶から瓶にリニューアルするときがけっこう大変で。ボトル缶の場合は全面を使ってたくさんの情報が掲載できたのですが、瓶の場合はラベルの面積が狭く、情報を半分ぐらいに絞らないといけなくなったんです。それに、商品化するとなると、使用するフォントとか食品表示とか、いろいろと縛りが出てきて。良い勉強になりましたね」と、思わぬ苦労を振り返ってくれた。
ちなみに、この「あかねちゃん」と「まなちゃん」は姉妹の設定。当然、先に生まれた「あかねちゃん」が姉かと思いきや、それぞれの風味の特徴から、大人しい姉=「まな」、個性の強い妹=「あかね」ということになっているので、くれぐれもご注意を。
ベジサイダーのキャラクター。個性の強い妹“あかね”と、大人しい姉“まな”
三女誕生も間近!?「大和ベジサイダー」の挑戦は続く
「大和ベジサイダー」は現在、奈良市内にある一部の土産物店や飲食店などで常設販売されている他、学園祭や地域のイベントなどにも積極的に出店している。例えば、最近では2015年6月27日に生駒市で行われたイベント「いこま環境フェスティバル」に出店。この日はネーミング&ラベルデザインチームの学生たちが売り子として活躍し、なかなかの盛況ぶりだった。
また、生みの親である稲熊教授は、さらなる販路拡大を目指して、日々自ら営業に回っている。ゆくゆくは、奈良漬や柿の葉寿司に次ぐ、奈良の新定番土産に育てたいという野望を胸に秘めて。さらに、将来的には地産地消で、奈良の水を使って奈良の工場で生産できたら……という大きな夢も抱いている。一方、稲熊教授のゼミ生たちも、実は「あかね」「まな」に続く、第三弾を企画中らしい。三女の誕生でさらに弾みをつけ、「大和ベジサイダー三姉妹」として大々的に売り出される日も、そう遠くはなさそうだ。
(上)学園祭での販売風景。およそ500本の大和ベジサイダーを販売した (下)いこま環境フェスティバルで、イベント参加者たちに大和ベジサイダーを振る舞う、河口准教授と学生たち