京都産業大学の広報改革。新サイト「Re:世の中」オープンについて取材した前編に続き、そのルーツでもあるブランディングサイト「Re:大学」と交通広告ブランニュー戦略について聞いた。
過去最多の受験者数につながるメッセージ
「Re:大学」とは「Re:世の中」の上位に置かれているブランディングサイトだ。大学として発信しているメインメッセージは「世の中を変えたいなら、大学から、自分たちから変えていこう」。「Re:世の中」もこの一部として、社会を見直し変えていきたいと思うヒントを提供しているのだ。
「Re:大学」サイトの設置は2017年度の新学部、現代社会学部開設がきっかけだった。メイントピックは新学部の情報だったが、単に新学部の紹介に終わることなく、「人任せの社会でなく、自分たちで社会を変え、未来をつくっていこう」という京都産業大学からの強いメッセージとして発信した。
「世の中を変えたいなら・・・」のメッセージを掲載
それが高校生や受験生の心をつかみ、2017年度入試の受験者数はのべ5万5000人を超える。大学創設以来、最多の数字であり、前年度から約1万人もアップした。現代社会学部自体も、定員の20倍以上の受験者が集まった。広報部・課長補佐の増村尚人さんは、この成功を「高校生に好まれる広報をするというのでなく、本学の意志をしっかりと伝えたことが受け入れられたのではないか」と振り返る。
強力なメッセージが発信できた背景には、2015年に迎えた創立50周年を目指して行った大学のリブランディングがある。京都産業大学の創設者・荒木俊馬は、宇宙物理学者であり、大学が象牙の塔だった時代にあえて産官学の積極的な連携を推進した人。荒木が、京都産業大学の「産業」に込めた強い意思を、ブランディングテーマにすえた。
産業とは英語で言うインダストリーではなく、「むすび(産)わざ(業)」。新しい価値を産み出す大学、社会と結びついて新しい価値を創造していくことによって社会に貢献していく使命を持った大学である。それを明確にし、「むすんで、うみだす。」というスローガンも作った。”50年前から京都産業大学は変わり続けてきた大学だった。そのDNAは、今も脈々と受け継がれている。私たちは今もこれからも変わり続けていく。大学を常に再構築していく。変革の時代を生き抜く力を育てる大学として”。
「Re:大学」のそんなメッセージは、受け手の心に素直に落ちた。
現在、「Re:大学」が取り扱っているメインテーマは、2019年度に開設予定の国際関係学部、生命科学部の2学部と、再編予定の経営学部である。教育内容やカリキュラムそのものよりもむしろ、ブランディングテーマに基づいて、新しい価値の創造に向けて自ら変わる大学、という切り口で取り扱う。これからの時代に求められる価値とは、新しい時代を開拓していけるような人材とは何かを伝えることに重点が置かれている。
ホームページで大学のどこかの特徴だけを尖らせるのは難しいが、「Re:大学」のような別サイトならやりやすい。増村さんは、「今後も世界に誇れる研究分野や応援文化が根付いているスポーツなどさまざまな特色を取り上げ、新しい広報として展開していきたい」と意欲的だ。
「共感」をめざした車内広告の一大転換
Webだけでなく、交通広告についても2018年4月から大きくリニューアルした。過去10年ほど続けてきた電車の車内ポスターにおいて、学生や教員の研究など具体的事例の紹介を一新。フォトポエムに変えた。その理由を、増村さんは次のように言う。
「イメージ調査をすると、京都産業大学という名前は知っているが、どんな大学かは特にイメージがない、という残念な結果が出ました。それは、10年間、具体的事例の広告を出し続けても大きく変わらなかった。それで、考え直したんです。こんなすごいことやってるよ、すごい人がいるよ、と“ええとこ”ばかり出しても響かないのではないか。共感を得ないとイメージが浸透しないのではないかと」。
広報戦略を見直し、車内ポスターでの表現を、大学の姿勢を見せ、価値観をメッセージとして伝える方向へと大転換することになった。2000年代前半から自作の詩と写真のポストカード制作を中心に活躍する詩人で、自作をまとめる出版社の代表でもあるきむさんを起用して、在学生や高校生の夢を持って頑張る人を応援する、精一杯、背中を押すというメッセージを発信することにした。
シリーズ第一弾「初心は宝物だ」(2018年4月)
広告の印象がガラッと変わったこともあり、ツイッターでの反響は非常に大きいという。「これって京都産業大学やったんや」「朝、しんどいときにこれ見たら、いつも励まされる」「次が楽しみ」などおおむね好評。
注目度は高く、中学の先生から『授業で詩を使いたい』という問い合わせもあったという。なかには、「京都産業大学って気づかなかった」というものもあるが、「それでもいいです。その人の背中を押すことができていれば・・・。いつか気づいてくれればいい」と増村さん。確かに、共感を得られるメッセージであれば、自然に大学のイメージは浸透していくだろう。
受け手は誰か、何を伝えたいかに真正面から向き合ったのが、京都産業大学の“Re:広報”だという気がする。これからも、どんな「Re」に挑戦していくのか楽しみだ。