『ゲゲゲの鬼太郎』1985年© 水木プロダクション
ちょっと怖いけどなぜか親しみが湧いてくる・・・そんな「ゲゲゲの鬼太郎」に代表される妖怪漫画のほか、短編や戦記物などを生涯にわたって描き続けた水木しげる。そんな水木氏の原画、アイデアを書きためた生原稿、愛用の道具、映像作品まで、未公開作品を含む約300点を紹介した「水木しげる 魂の漫画展」が龍谷ミュージアムで開催中だ(2018年11月25日(日)まで)。
龍谷ミュージアムは、昨秋の地獄をテーマにした特別展も人気を集めたが、今回も巡回展ながら注目度が高い。水木氏ゆかりの鳥取県と龍谷大学が2010年に連携協定を結んだこともあり、展覧会が実現した。
龍谷ミュージアムは京都駅から徒歩約12分。西本願寺の向かいにある
展示は8章で構成されており、前半は幼少期から生活苦を乗り越え人気漫画家になるまでの生涯を、後半では戦記物や短編、妖怪、人物伝など、テーマ別に作品や資料を展示。特に水木氏の画業に焦点をあて、恐ろしいほど細かな背景画、大胆な構図、画面から今にも飛び出しそうな登場人物(妖怪)たちの躍動感を間近で見ることができる。非常に精緻な草花や風景は、当時の印刷技術では表現できず、漫画雑誌ではつぶれてしまっていたそう。しかしここでは、点描や筆圧といった原画ならではの迫力の筆致を感じられる。
入口のフォトスポット。水木先生とおなじみのキャラクターたち
修正のあとが残っていたり、彩色前のものだったり、原画ならではの展示に見入ってしまう
幼少期から天才と呼ばれた水木氏だったが「とても勉強熱心な方だった」というのは学芸員の村松加奈子さん。若き日のスケッチブックには、何枚も何枚も解剖画のスケッチや人物デッサンが残っており、自ら鍛錬を重ねていたことがうかがえる。
水木氏が一時紙芝居作家だったことから、紙芝居風の紹介映像もある
また特に貴重な作品が、戦時中送られた激戦地ラバウル(パプアニューギニアの都市)でのスケッチだ。原住民の素朴な表情が描かれた作品は、終戦直後、野戦病院から移送された地で何とか手に入れた鉛筆で描いたものだという。
上官や同胞が次々と亡くなり、自らも左腕を失うという壮絶な状況の中、自然とともに生きる原住民の姿に心打たれた水木氏。戦後の混乱の中でもこのスケッチを残していたということは、よほど大切にしていたのかもしれない。作品が生まれた背景を思いながらぜひチェックしてみてほしい。
NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』オープニングのモチーフになった絵の具入れの展示も
「鬼太郎しか知らない方は、こんな作品もあるのだとびっくりされるかも」と村松さんが話すとおり、私も境港の水木しげるロードや朝ドラのイメージがどうしてもあったのだが、作品の幅広さ、人柄の魅力を垣間見ることができ、さまざまな作品を読みたくなった。
会場はオリジナルグッズ売り場もあり楽しい雰囲気。会期中は、学芸員によるスペシャルトーク、「妖怪アートフリマ モノノケ市」などのイベントも予定されている。モノノケ市は日本全国の作家が集まり、妖怪をテーマにした手作りグッズを販売。ここでしか手に入らないレアものが見つかりそうだ。
さらに龍谷ミュージアム限定の作品として、水木氏が浄土や地獄を描いた作品も展示。“目に見えない世界”に興味を持ったきっかけがお寺にあった地獄絵図だったことから、水木氏のルーツといえるものだ。作品は美しい彩色が施されており、歴史資料や宗教文化、民俗学を学び、探究した深い見識が反映されているという。
「それはどの作品にも通じる。学者肌だった」と村松さん。才能を磨くだけではなく、描きたいもの、表現したいものの背景を追究し、徹底して向き合う―それが作品に反映されているからこそ、多くの人々を惹きつける。
妖怪だけではない水木ワールドをぜひ堪能しに出かけてみよう。