2019年5月18日、近畿大学とUHA味覚糖の産学連携が生んだコラボ商品「ぷっちょ 近大キャンパスアソート」が発売された。近畿大学が擁する6つのキャンパスの地域性や特徴を活かした全6種類の味が楽しめるという、この大学ならではのコンセプトと、人気のソフトキャンディ「ぷっちょ」が合体した商品だ。実はUHA味覚糖と近畿大学の産学連携コラボ商品は、なんと今回で第8弾となる。こんなにもプロジェクトが継続できる理由とは?コラボのそもそものきっかけとは?学生の思いとは?今後の展望は?各コラボ商品の開発秘話も含め、話題の産学連携プロジェクトを取材。前後編にわたってお届けする。
前編では、コラボのきっかけから第7弾商品の開発まで、お話を伺った。
「まじめな」共同研究をベースにした化粧品からスタート
近大とUHA味覚糖は、2016年2月に発売された第1弾コラボ商品を皮切りに、数々の商品を開発・発売してきた。デザインやコンセプトがユーモラスであることでも知られるこのコラボ企画は、そもそもどんなきっかけでスタートしたのだろうか。
「最初はとてもまじめな共同研究として始まりました」と語ってくれたのは近大とのコラボ事業に当初から携わってきたUHA味覚糖の松川泰治さん。また、やはりこのコラボのキーパーソンである近大の多賀淳教授も次のように語る。「近大マグロのあらゆる部位を無駄にしないように、何か出来ないかと。皮に着目し、コラーゲンで化粧品が出来ないだろうかと考えたんです。企業と連携したほうが早く進むだろうと思いました」。
UHA味覚糖の松川泰治さん
近畿大学薬学部教授の多賀淳さん
ともに大阪に拠点を構える組織であり、勢いのあるもの同士の近大とUHA味覚糖。松川さんと多賀教授は、そんな両者が手を組めば、勢いのある研究や商品が生み出せるのではないかと考えたそうだ。
「わからないもの同士」だからこそ生まれた成果
共同研究を進めた近大とUHA味覚糖は、近大マグロからフルレングスコラーゲンという新素材を抽出することに成功する。実はこの新素材抽出の成功には、「偶然」も与っているという。多賀教授たちは最初、よく知られているI型コラーゲンをマグロからとろうとしていた。しかし、そこにこだわらずに色々な条件で試したところ、「あるとき、めちゃくちゃ水に溶けやすいコラーゲンがとれた」と多賀教授。そしてこのコラーゲンの再現にも成功した。
「僕は化粧品の研究をはじめて間もなかった。UHA味覚糖さんは、まだ化粧品の経験が無かった。化粧品の知識が豊富だったら、I型コラーゲンに固執していたかもしれません」と、多賀教授は語る。「化粧品について、わからないもの同士だからできたのかもしれない」(多賀教授)、そんな新素材抽出だったのだ。
そして、このフルレングスコラーゲンを用いて誕生したのが、コラボ第1弾商品「リップスクラブ」と「グミサプリ」だ。文芸学部がデザイン、経営学部が販売戦略に重要なポップやキャッチフレーズを考案、多賀教授のいる薬学部がコラーゲン研究をそれぞれ担当するといったように、文理を越えた連携により、商品として形作られた。
キスラボチャレンジの始動へ
その後も、商品企画が発端となった「ぷっちょUniversity 近大マンゴー」、第1弾のリニューアル商品「リップスクラブ」と「リップエッセンス」といったようにコラボ企画は進められた。
第2弾「ぷっちょUniversity 近大マンゴー」
第3弾「リップスクラブ」
同じく第3弾「リップエッセンス」
そんな中、近大とUHA味覚糖の連携をより盤石なものとするための環境が整う。2017年に近大とUHA味覚糖が連携する公園型共創スペース「KISS LABO」が開設され、産学の共同商品開発への参加者を募る「KISS LABO Challenge the Real Production(キスラボチャレンジ ザ リアルプロダクション)」が実施されることになったのだ。このチャレンジは、企画を立て、プレゼンで勝ち残った学生たちのアイディアを商品化していく試みで、商品開発にあたっては学生チーム、教員、UHA味覚糖の社員が集まり、会議を重ねていくという本格的なものだ。
もちろんそれまでのコラボでも、担当教員の研究室レベルでは学生も参加していた。しかし、キスラボチャレンジは、より広い範囲で学生に門戸を開いた。まずは本当にこんな試みが可能なのかを見るためにも、KISS LABOに集っていた学生を中心にメンバーを募り、第4弾コラボ商品「近大発めし」を商品化。コンセプトや味の選定、パッケージデザインなどに学生が携わった。
第4弾コラボ商品「近大発めし」
目玉、グミチョコ、ミルクとハニー…学生たちの刺激的なアイディア
次のキスラボチャレンジでは、全学生に向けて公募をかけた。すると奇抜なアイディアが多く集まるようになった。「突拍子もない意見が出てくるようになりました。でもそれもおもしろかった」と、語るUHA味覚糖の髙瀬章吾さん。「いかに学生の意見を崩さず、商品に落とし込めるか試行錯誤しました」。
第5弾コラボとしてプレゼンを勝ち抜き、商品化にいたったのは、「マグロのめだまグミ」。UHA味覚糖の「コロロ」をベースとして、品名の通り近大マグロのコラーゲンを配合したこのグミは、インパクトのある名前もあって、学生の間でも話題になったようだ。
第5弾「マグロのめだまグミ」
第6弾は、近大マンゴー味のグミにチョコをつけて食べる「Dip Stick」。学生の好きなお菓子は、グミかチョコレートかで人気が二分する。「じゃあどっちも一緒に食べられたらお得なのでは」という着眼点のおもしろさが商品化を勝ちとった決め手だという。
ところが、商品化にあたっては関門をくぐらなければならなかったと、UHA味覚糖の辻浩一さんは言う。辻さんは、「Dip Stick」から近大とのコラボ事業に携わるようになった。「実はライン製造が不可能なアイディアでした。携わるようになったと思ったら、商品化できないアイディアが選ばれていた…」。結局どうしたか。なんと「手作りで作業した」のだという。UHA味覚糖本社1階に店を構え、同社が運営するショコラショップ「キャギ・ド・レーブ」にて100個限定、1,080円で販売された。「高級な手作りチョコレートを並べても不自然ではないショコラショップがあったおかげで実現できました」。
左からUHA味覚糖の髙瀬章吾さん、辻浩一さん
一方、第7弾「特濃ミルク8.2(近大ハニー)」の商品化は比較的スムーズだったようだ。近畿大学工学部が養蜂からハチミツ製品の開発まで実践している「近大ハニープロジェクト」と、UHA味覚糖の人気商品「特濃ミルク8.2」を組み合わせたキャンディである。「近大ならではのハチミツという素材と、私たちの特濃ミルクを組み合わせたら間違いないだろうと。将来性もあり、これならいけると思ってすぐに商品化しました」と髙瀬さん。学生の間でも好評だという。
第7弾コラボ商品「特濃ミルク8.2(近大ハニー)」
共同研究結果の応用からスタートし、斬新なアイディアを取り込む環境も整ってきた近大とUHA味覚糖の産学連携商品。後編ではいよいよ最新作第8弾商品について、開発に関わってきた学生たちへのインタビューも交えて紹介する。