近畿大学とUHA味覚糖の産学連携が生んだコラボ商品の歴史や開発秘話に迫る今回の取材。後編では、第8弾の商品開発に携わった学生たちの思いや、今後のコラボの展望などを伺った。(コラボのきっかけや経緯を語っていただいた「前編」はこちら)
最新作「ぷっちょ 近大キャンパスアソート」の開発秘話
2019年5月、現時点で最新作の第8弾「ぷっちょ 近大キャンパスアソート」が登場した。近大の6つのキャンパスの特色を、6つの味や香りで表現するという学生たちのアイディアを、人気の「ぷっちょ」として具現化した商品だ。
「ぷっちょ 近大キャンパスアソート」。3種類ずつ、2つのパッケージに分けて商品化
キャンパスと味を対応させるというユニークなアイディアを出した学生たちは、どんなきっかけでプロジェクトに参加したのだろうか。
経営学部の田中萌々香さんは、第5弾コラボ「マグロのめだまグミ」に衝撃を受けた。「インパクトがありました。ただ、おいしいのかな?と少し疑問もありました」と語る。しかし、「実際に買って食べてみたらおいしかったんです」。もともと「企画」というものに関心のあった田中さんは、自分も参加してみようと考えるようになったそうだ。
農学部の大谷真奈花さんは食品メーカーに関心があることに加え、普段から「つい食べてしまう『お菓子』」が持つ力の秘密に迫りたいと、参加を決めた。「お菓子の開発に関わることができたら、貴重な経験になるだろうなと思いました」。
経済学部の酒井萌衣さんと生物理工学部の久保友乃さんは、同じ高校出身で、ともに食品、お菓子の開発に興味があった。既に二人でアレルギー対応のお菓子プロジェクトを進めてきた経験もあったという。「色々と学びたいことがありましたし、多賀先生にも質問したいことがあったんです」と酒井さん。「企業とコラボできる機会を逃すわけにいかない、これはチャンスだと思いました」と久保さんも語る。
左から田中萌々香さん(経営学部)、大谷真奈花さん(農学部)、酒井萌衣さん(経済学部)、久保友乃さん(生物理工学部)
今回インタビューできなかったメンバーも含め、学年も学部もバラバラで、キャンパスも異なるため、集まりたくても集まれないこともあったとか。そんなときは、LINEを使って会議を行ったという。
KISS LABOのロゴがはいったオリジナルウエアもある
またメンバーたちは視点もタイプも違っていたが、むしろその違いをうまく活用した。「例えば絵が上手なメンバーが、企画書にイラストを加えてアイディアを可視化しました。久保さんや酒井さんのように、SDGsや環境の側面からアイディアが出せるメンバーもいて、視野が広がりました」と、田中さんは振り返る。
プレゼンの企画書。イラストが添えられ、視覚的にわかりやすく、ユニークな企画書になっている
企画書にはSDGsの話題も盛り込んだ。社会的な問題にも気が配られている
開発が進んでからもイラストを用いてアイディアを可視化
全体を統括する近大薬学部の多賀淳教授やUHA味覚糖の辻浩一さん、学生との話し合いを行うUHA味覚糖の髙瀬章吾さんなどと協力し、学生たちがそれぞれの個性を活かしてプロジェクトを進めていったのだ。
左からUHA味覚糖の髙瀬章吾さん、辻浩一さん
それぞれの得意なことを活かして開発を進めていった学生チーム
アイディアとファイナルプロダクトの狭間
結果的に商品化された今回のぷっちょは個包装タイプだが、実はプレゼンの段階ではスティックタイプとして考えられていたという。
しかし、「スティックタイプの場合、複数のフレーバーをちゃんと振り分けようとすると、手作業になってしまいます。すると価格も1本千円、2千円になりかねない。だけど、アソートとしてキャンパスを紹介するアイディアはおもしろい。近大とUHAのコラボを象徴する商品の一つになると思いました」と、髙瀬さんは振り返る。
また、近大副学長もこのアイディアを気に入った。2025年に近大創立100周年を迎えるにあたり、各キャンパスのつながりをもっと作っていきたいという考えもあったという。こうして商品化されることは決まり、学生のアイディアを、商品として可能な形に落とし込んでいった。
提案時はスティックタイプだった。ただ、味やキャンパスアソートというアイディアなど、核となる部分の多くは当初の提案が完成品にも反映された
さらにプレゼンのときは、「もう少しふざけた感じ」を前に出していたと大谷さんは語る。福岡キャンパスなら『明太子味』と書いておいて実は『あまおう苺味』にしたり、『近大まぐろ味』と書いて実はブルーベリー味にしたり、といった案である。だが、結局はストレートにフルーツ味として表記することに。ぷっちょはフルーツ味がおいしいという評価が定まっていたことに加え、突拍子もないものにするとリピートにはつながりにくい、という判断だったようだ。
また、友達に配りやすい形状にして、会話のきっかけにできたり、つなげるとハートの形にできたりといった、遊べるデザインの提案もしたそうだ。この案も実現には至らなかったとはいえ、“誰かと一緒にお菓子を食べること”を、より楽しくしてくれそうなアイディアだ。
商品になるかどうかはともかく、こうした多彩なアイディア、考えを表現できる学生たちがいること、そしてそれを支える環境があることは、とても大切なことだ。
こういう仕掛けがあったら、友達とも一緒に楽しめそうだ
このように、もとのアイディアと、完成した商品とでは、違う部分も多々ある。しかし学生たちにとっては、この違いからも学ぶべきことが多かったようだ。
大谷さんは「自分たちの意見が全部通るわけではないことが難しい点」だったという。「予算や工場の設備の問題もあるので、どうにかしてもらえるわけでもない。だから、相談して、一緒に作っていくのが大切なんだなと。大変だったけど、そのぶん最初にサンプルができたときは嬉しくて、自分で食べずに実家に送りました(笑)」。
久保さんにとっても、思い描いていたイメージと現実の差を意識する機会になった。「もともとお菓子を作りたいと思っていたんですが、作り方はあくまで想像することしかできませんでした。開発を実際に体験することができて、勉強になりました」と語る。
また、酒井さんは、「実際にお菓子づくりを目の当たりにして、難しいことなんだな」と実感したという。「私はお菓子を通して誰かを幸せにするのが夢です。ただ、こんなに作るのが難しいということは、今まであまりわかっていなかったなと。これから生きていく上で、貴重な経験になりました」。
そして「おそらくこの機会がなかったら決してできない体験ができました」と田中さん。「自分たちで考えたデザインやアイディアが、試作品になって、目の前に出てくる。かなりの喜びでした。近大だからこそ、このコラボだからこそ味わえたことではないかと思います」。
継続的な活動の秘訣と近大マグロのまんま
ところで、コラボ商品は今回が第8弾。どうして長く継続するのか、また継続できるのだろうか。多賀教授は、産学連携を続ける魅力を語ってくれた。「学生は何かものを作って完成させるとすごく喜ぶんです。だけど、僕たちだけで商品を作ろうと思ったらベンチャーを立ち上げることになる。するとリスクを負わなきゃならないし、学生の自由度も減るし、好きな研究もできなくなる。企業とコラボを続けるからこそ、自由に研究するチャンスも増えていく」。
UHA味覚糖のチームにとって「やはり学生からのアイディアがもらえること」は非常に魅力的だという。「味覚糖は新しいものを常に探しています。ただ、社員は、すでに色々な情報がインプットされてしまっている。いろんな学部の学生が次から次へとおもしろいアイディアを出してくれて、おもしろい研究成果が生まれて。そうやって次へ次へとつながっていけたのかなと思います。何とかできるようにしようと考えることで、私たちにとっても勉強になりますね」。
学生たちが斬新なアイディアを次々に生み出す
ちなみに、商品化はならなかったが、あっと驚くようなアイディアもあった。マグロの内蔵をモチーフにしたお菓子がその一つだという。「マグロの内臓は廃棄されているんですが、とある学生から、近大マグロを有効利用するために『近大マグロのまんま』という素材菓子ができないかと提案があった」と髙瀬さんは言う。「先生と相談したら、『身はないけど、モツならある』と。それで、商品化しようとして、試作まではしました。ただ、衛生面、品質の安全面で担保できずに、断念したんです」。
「近大マグロのまんま」、いつか食べてみたいという気もする。
産学連携が目指すもの、そして次なる企画の展望
多くの斬新な商品を世に送り出してきた近大とUHA味覚糖のコラボ。現時点での目標や、次の展望とはどんなものだろうか。
「全国発売したいです。そしてちゃんと利益になる商品を作りたいですね」と辻さん。多賀教授も「できるだけ多くの学生に、近大じゃなければ味わえない体験をしてもらいたいんですが、長く続けるためにもヒット商品が出て欲しいですね」と語る。今後も活動を継続し、多くの学生が貴重な経験を積める機会を維持するためにも、さらなるヒット商品が求められている。
今後の共同研究の展望も見えている。「ヒントは海。SDGsという側面から、海洋保全にも役立つようなプロジェクトになるでしょう」とUHA味覚糖の松川泰治さん。そして多賀教授は「海藻もキーワードです。今まではゴミだったものが、貴重なものになっていく」と語る。現時点で公表できることは少ないが、どんな研究成果がもたらされるのか、そしてまたどんなコラボ商品が生まれていくのか、楽しみだ。
ヒントは海、そして海藻と語ってくれたUHA味覚糖の松川泰治さん(左)と近畿大学薬学部教授の多賀淳さん
近畿大学とUHA味覚糖の産学連携ラボ「KISS LABO」