ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2022.7.19
  • author:山本直子

テレビでも話題!「テレイート」で味わう味覚の未来を明治大学リバティアカデミーで学ぶ

コンピュータ画面に映るチョコレートの画像を舐めたら、甘い味がする――『ドラえもん』の一場面のようなことが、すでに現実化しているのを皆さんはご存知でしょうか?

私たちはコロナ禍でもテレワークをしたり、VR(仮想現実)で仲間と会ったり、3Dプリンターで家にいながらモノを調達したりできるようになりましたが、離れていても味覚を伝達できる技術もすでにあるのです。

この「テレワーク」ならぬ「テレイート」を社会に広めようと、日夜研究を重ねている明治大学総合数理学部の宮下芳明教授のオンライン講座が『明治大学リバティアカデミー 2022年度特別企画講座』として開催されると聞き、今回は拝聴させてもらいました。

離れても、味を伝送したい。

2020年、コロナ禍で外出制限が出されると、海外はおろか、近所の行きつけの店にすら足を運べない状況になってしまいました。当時、メディアを賑わせていたのは、「テレワーク」という言葉。自宅にインターネットとコンピュータがあれば、遠隔で容易に仕事をすることができます。

一方、私たちの生活に遠隔で味覚を味わうという習慣は、まだありません。宮下先生は10年ぐらい前からその研究を進めており、研究レベルではすでに味覚を伝送する技術は存在しているのに、まだ実用化されていないのが現状です。

宮下先生は外出制限されるようになった2020年以降、「テレイート」を社会に広げるための実用的なデバイスの開発に取り組んでいます。

「味覚地図」はない!「味蕾」が受け取る基本五味

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テレイートの研究を説明する前に、まず、私たちが味覚を感じるしくみを知らなければなりません。講義スライドでは、「味覚地図」にバッテンが付いているイラストが示されています。「味覚地図」とは、舌のどの部分で甘みや苦みを感じているかを示したものです。

「今ではこうした『地図』は存在せず、舌の表面にある『有郭乳頭』の中にある『味蕾(みらい)』ですべての基本味を感知することが分かっています」(宮下先生)

昭和時代に「味覚地図」を見て育った筆者にとっては、新情報。学び続けて情報をアップデートしていくことの大切さを実感しました。

舌が味を感じる「基本五味」とは、「甘味」「旨味」「苦味」「酸味」「塩味」の5種類。「辛味」は「味覚」ではなく「痛覚」、そして「渋味」というのは口内粘膜への刺激や苦味と酸味などの味覚受容体が刺激された結果、感じるものだといいます。

ほかにも実際に私たちが飲食物を味わうときには、口内の香りや歯ごたえ、喉ごしなども含まれるほか、同じ「辛い」でもわさび、とうがらし、ショウガの辛さは違っていたり……と、かなり複雑ですが、先生の味覚研究では、この基本五味がベースとなっています。

イタリアの食材で麦茶を味わうには…?

さて、講義ではここでクイズが出されました。

「麦茶+牛乳+砂糖=?」

これらを混ぜ合わせた味は、何の味になるでしょうか?

 

正解は「コーヒー牛乳」。これは、『ハイブリッド・レシピ』(都甲潔著、飛鳥新社)という先生お気に入りの本からのレシピで、飲食物の味覚評価のための測定器である「味センサ」を使うと、「麦茶+牛乳+砂糖」と「コーヒー牛乳」は同じ値になるのだそうです。

実は麦茶とコーヒーの味は似ているらしく、宮下先生が幼少時、家族でイタリアに住んでいた当時は、料理研究家のお母様がエスプレッソの二番煎じを薄めて麦茶の代わりにしていたとのこと。「僕はそれを麦茶だと思って飲んでいました(笑)」

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筆者も講義視聴後、早速薄めたコーヒーを試してみたところ、それはまさしく麦茶の味。「プリン+醤油=ウニ」「アボカド+醤油=マグロ」などもよく知られていますが、このように異なる物質でも、人にとって同じ味として感じられるのは面白い現象です。

味のトリックとも言えるこの事象は、「味の再現」に応用されます。宮下先生がその際に使用したのは純物質です。

「塩化ナトリウムなどの純物質は、世界中どこでも手に入るし、同じ味です。これとデジタル技術を使って味を再現できたらいいな、と思いました」

電気を使って塩味増強、薄味の病院食を美味しく

味の再現には、「電気味覚」も応用されます。電気には味があることが分かっており、これはイタリアの物理学者ボルタの電池発明にも貢献したそうです。そして、1950年代に発明されたのが「電気味覚計」。何ミリアンペアの電気まで感じられるかを測ることで、その人の「味覚閾値(それぞれの味を感じさせるに必要な濃度の最小値)」を知ることができます。

これを飲食物の味を変えるデバイスに変えられないだろうか?――宮下先生がこう考えたのは約10年前。それから研究を重ね、2013年にはこのデバイスを使った塩味の増強に成功します。それを使えば、薄味の病院食も塩分を加えることなく濃い味に感じさせることが可能になります。

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2021年にはこの功績が学界から表彰され、現在はキリンホールディングス株式会社とともに、箸型の製品を開発中。その箸の先端には金属が入っていて、箸に接続された腕時計のような装置から微弱な電気を流すことで、舌についたナトリウムイオンを引き離したり寄せ集めたりするのを繰り返します。これにより、塩分を足すことなく、塩味を通常よりも強く感じられるというのです。

「もう効果は実証されているので、これを早く社会に届けたいですね」

しかし、塩味の増強だけではテレイートは実現しません。そこで先生は、「Norimaki Synthesizer(のりまきシンセサイザー)」という新たなデバイスを開発しました。

「のりまきシンセサイザー」と「味センサ」、音声・映像メディアをヒントに発展

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のりまき型のかわいいデバイス。どんな機能が盛り込まれているのでしょうか?

「簡単に言えば、5つのイオンを電気で動かすことによって、基本五味のバランスを変えるということですね。味センサを連携させて、そこで測定された値に沿った味を感じさせるように、ゲル(のりまきの“具”の部分)の中のイオンを調整する仕組みになっています」

 

先生の目標はこの製品のプロトタイプをつくるだけに留まりません。これをテレビやラジオに匹敵する「メディア」に昇華させ、社会に普及させるのが目的です。

ここで先生が参考にしたのは、すでに発展・普及している映像・音響メディアでした。マイクで録音した音がスピーカーで出たり、カメラで録画した映像がディスプレイに映ったり……というように、映像・音声メディアには、「情報入力」と「出力」のペアがありますが、先生の開発した味覚提示デバイスの場合、「いわば味センサがカメラ、のりまきシンセサイザーがテレビの関係になるわけです」

 

このペアを使ってどんなことに応用できるか?――例えば、音響では「イコライザ」で低音を強くしたりする音の調整が可能ですが、「味のイコライザ」を作って、酸味の苦手な人には酸味を抑えるなど、味のパーソナライズを可能にすることができます。

また、テレビでは音響と映像が一体化されているように、ディスプレイに映った食べ物を舐めると、その食べ物の味がするという、視覚と味覚の一体化も、複数のゲルを使って実現しました。

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しかし、これらのアプリケーションを作っている間に、「もっとシンプルなことを思いついた」と宮下先生は言います。味の伝送デバイスは、さらに進化します。

メディアを賑わせた「ドラえもん」の世界

「そういえば、液体を混合して再現する、もっとシンプルなものを誰も作っていないな、と思ったんですね。それで、2021年に『液体噴霧混合ディスプレイ』を作りました」

液体噴霧混合式のディスプレイは、さまざまな飲食物を味センサで測定し、その値をもとに、プリンターがインクを混ぜ合わせるように、スプレーで液体を混ぜ合わせて味を再現するというもの。それを人が衛生的に舐められるように、巻き取り式のシートや使い捨てトレイにプシュッと液体を噴霧する仕組みになっています。

 

宮下先生は、これを使ったアプリケーションも開発。「味見できるメニュー」「ソムリエ訓練アプリ」「味見できる料理アプリ」「味覚クイズ」などなど、楽しいアイデアがたくさん生まれています。これらを紹介した動画が放映されると、講義の視聴者からは「マジですげ~!」「感動です」というテキストや拍手の絵文字が寄せられました。

遠隔でも味覚をお届け!「ドラえもん」の世界を体現する「TTTV」(画像:YouTube動画より)

遠隔でも味覚をお届け!「ドラえもん」の世界を体現する「TTTV」(画像:YouTube動画より)

【総務省 異能vation】TTTV: 味わうテレビ、誕生。 (宮下芳明) - YouTube

 

この味覚デバイスは話題を呼び、国内のみならず海外のメディアでも取り上げられています。英BBCには動画ストリーミングサービスの「NETFLIX(ネットフリックス)」をもじって「味のサブスクリプションサービス“NETLICKS(「リック」は「舐める」の意味)”を可能にする」と紹介されました。

飲食物の「ジャケ買い」は過去の話に…?

まさに『ドラえもん』の世界を体現したこのデバイス、まだまだ使い道がありそうです。

例えば、飲食品の広告。これまでは視聴覚だけで味を表現してきましたが、そこに味覚を取り入れることが可能になります。レコードを視聴せずに買う「ジャケ買い」がほぼなくなったように、飲食物も試食・試飲せずにお取り寄せすることがほぼなくなる日が来るのかもしれません。

ほかにも宮下先生は、プロの味を再現する「調理家電」ならぬ「調味家電」の開発も進行中。私たちの未来の食生活の可能性が広がります。

 

石のお金、飛脚、かわらばん――人間の歴史をふり返ると、「昔はこんなに不便で非効率なことをやっていたんだ!」と思われることは数多く存在します。今、私たちが「普通」だと思っている食生活も、後から考えてみると笑えるのかもしれません。

「未来の人たちが今の人を見返したとき、クスッと笑うことがないかな……と、想像してみるのは、すごくおススメです!」

先生の講義で頭が耕された今、身の回りのアレコレがちょっとだけ変わって見えるようになった気がしました。

 

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