東京には、六本木ヒルズ、東京スカイツリーと次々に新たなランドマークが誕生しているが、一方で明治・大正当時の面影をしのぶ風景は残り少ない。そんな中、慶應義塾大学三田キャンパスにある図書館旧館は100年以上の伝統を重ね、現在も大学のシンボルとして学内外から親しまれているという。
消失の危機を乗り越えた図書館旧館
赤いレンガ造りの図書館旧館は、慶應創立50年を記念して1912年に設立され、2015年で開館103年を迎える。ネオ・ゴシック様式と呼ばれる西洋建築の流れをくんでいるが、外国人の手を借りず、すべて日本人で仕上げたそうだ。
1945年5月の空襲により、屋根が焼け落ち、内部が炎上するという大きな被害を受けたが、終戦から4年後には補修し再建。その後、国の重要文化財に指定された。現在も図書館の書庫や会議室、研究所として利用されており、当時の姿を残す正面玄関ホールは一般にも公開している。
入口も窓もすべてアーチ形に統一されている
正面玄関右側にある八角塔
正面玄関の上部に「創立五十年紀念 慶應義塾圖書館」と刻まれている
旧館前にある慶應義塾創立者、福澤諭吉の胸像
ラテン語で記された正面大時計
ステンドグラスが後世へ伝えるもの
正面玄関から奥へ進むと、階段踊り場に見えるのが、高さ約6.5メートル×幅約2.6メートルのステンドグラスだ。教会などで見かけるステンドグラスは、中世絵画がモチーフになっているものが多いが、このステンドグラスに描かれているのは、鎧姿の武将とペンを手にした女神の姿。馬から降り立った武将が女神を迎え入れる構図は、封建の門扉を開き西欧文明の暁を示す姿であり、新時代を開こうとする慶應義塾の精神を表している。
下部には、「ペンは剣よりも強し」を意味するラテン語「Calamvs Gladio Fortior」が記されている。
正面玄関から見た内部
現在のステンドグラスは、1974年に再建されたもの
ステンドグラス下部の「Calamvs Gladio Fortior」
電灯にもペン形の校章があしらわれている
階段の欄干にも美しい装飾が
アーチ形の通路と正面入口
歴史を感じる展示の数々
その他館内には、福澤諭吉著「学問のすゝめ」の初版本(レプリカ)や旧図書館開館記念葉書など、慶應義塾に関連する展示がある。なかには、戦後発見された両腕を失った彫刻像もあり、甚大な被害をもたらした戦災のむごさを感じる。過去のつらい歴史を知ることも、先々にとって貴重な糧になるはずだ。
「学問のすゝめ」の初版本(レプリカ)
1912年発行の旧図書館開館記念葉書(レプリカ)
両腕を失った「手古奈」像
空襲で被災した玄関ホール
現在の玄関ホール
イチョウの木が点在する自然豊かなキャンパス
三田キャンパスは東京都港区に位置し、東門を出ると東京タワーが見えた。しかし、都心にあるとは思えないほど自然が豊かで、8月に訪れたということもあり、キャンパス内にはセミの声が響きわたっていた。
歴史を知り、緑に癒される“キャンパス歩き”― 毎日忙しく過ごす人にとって、時間を忘れるひと時になるだろう。
左が三田キャンパスを代表する大イチョウ