ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2022.9.8
  • author:谷脇栗太

【第7回】ほとゼロ主催・大学広報勉強会レポート。「研究広報」を三者三様の視点で掘り下げる

ほとんど0円大学では、2019年より大学関係者を対象として大学広報勉強会(旧『大学と社会とのつながりを考える勉強会』)を開催しています。2022年7月29日にKANDAI Me RISE(関西大学梅田キャンパス)会場とオンライン配信で開催した第7回目の模様をレポートします(勉強会レポートの一覧はこちら)。

 

今回の勉強会のテーマは、『研究広報談義~違いを知ると、何かが生まれる?~』。大学広報には大学全体のブランディングや入試広報などさまざまな側面がありますが、中でもとくに研究活動に光を当てるのが「研究広報」。一見シンプルなようでいて、人によって思い描くものが微妙に異なるためすれ違いを生みやすい言葉でもあります。そこで今回は、研究広報に携わる大学職員の方3名にお話しいただき、それぞれの「違い」を知ることから研究広報を掘り下げました。

 

・京都大学 白井哲哉さん「研究を推進するための広報活動とは」

・関西大学 舘正一さん「部署間を越えて研究広報を推進するために」

・明治大学 朝烏修平さん「大学ブランディングにとっての研究成果発信」

「研究を推進するための広報」、URAとして研究者をどう支えるか?

最初に登壇してくださったのは、京都大学学術研究支援室(KURA)の白井哲哉さん。リサーチ・アドミニストレーター(URA:大学で研究推進を行う専門職)として、今回は特に研究者からのニーズが多い「研究を推進するための広報活動」についてお話しいただきました。

スクリーンショット (44)

最初に「研究広報」の意味について確認する白井さん

 

白井さんによると、研究を推進するための広報は大きく2種類に分けることができ、それぞれに支援のポイントが異なるそうです。ひとつは資金や研究環境、協力者を得るために研究者が自ら積極的に行う広報活動。この場合、目的意識ははっきりしていますが、研究者自身は広報のノウハウを持っていないため、URAとしては具体的なノウハウを伝えることが支援のポイントになります。もうひとつは社会や国から説明責任などの意味合いで求められる広報活動。このパターンの場合は、そもそもどんな発信を求められているのかがわからず困惑している研究者も多いため、やるべきことを整理することが支援のポイントになるそうです。

 

それでは、具体的にどのように支援をしていくのでしょうか? ここで白井さんからの出題です。URAであるあなたのもとに、ある教授から次のような電話がかかってきたとします。あなたならこの依頼にどのように応えますか?

スクリーンショット (33)

 

こうした依頼があった場合、まず「冊子を作る背景にどんな目的があるのか」を確認することが重要だと白井さん。プロジェクトの資金を集めるためでしょうか? 共同研究者を募るためでしょうか? センターを宣伝したいという言外のねらいもあるかもしれません。目的を確認したら、次にそれに見合った適切な手段を検討します。本当に冊子でいいのか? ターゲットに伝わりやすい伝達手段は? 配布方法は……? このように、研究者の頭の中を整理するのを手伝いながら、全体を俯瞰した広報戦略を一緒に考えてゆくのです。

 

以上は一つの例ですが、URAが行う広報支援の方法としては、個別のケースに対するコンサルティング・アドバイス、研究者や担当者への情報提供やノウハウのレクチャー、チラシ制作・プレスリリースの発信・イベント運営など実務面からの支援の3つがあるそうです。

 

最後に、広報は研究推進における最強のツールだと白井さん。「支援の要は、広報戦略を研究者と一緒に考えることだ」と締めくくりました。

 

ほとゼロでもURAの方に取材をさせていただく機会がありますが、白井さんのお話を聞いて、研究者にとって非常に心強い存在なのだと改めて感じました。すべての土台として関係者間でのコミュニケーションの大切さを強調しておられたのも印象的でした。

部署の壁を越え、「オール関大」で研究を発信するには

続いては関西大学より、大学本部URAの舘正一さんが登壇。「部署間を越えて研究広報を推進するために」というテーマで発表いただきました。

大学全体を俯瞰してみると、組織が大きくなればなるほど研究広報は複雑になると舘さん。多岐にわたる部署それぞれが発信を行っていて、ターゲット層も多岐にわたるからです。白井さんのお話にもあったように、目的や対象が変われば情報の打ち出し方も変える必要があります。その結果として、発信される情報がある意味で煩雑になってしまう側面も。

大学が手掛ける広報の主体、ターゲットは多岐にわたる

大学が手掛ける広報の主体、ターゲットは多岐にわたる

 

そこで舘さんは、バラバラに存在する研究情報を一箇所に集約したサイト「関大研究力」を企画しました。このサイトは、知りたい情報へのアクセスを助ける百貨店の総合窓口のようなものだと舘さん。ここさえ見れば関大の研究についての情報はすべて網羅されている……というサイトをめざしているそうです。

 

さらに、先生たちに作ってもらった研究紹介動画をアーカイブする「関大先生チャンネル」を新しく立ち上げました。このサイトでは、受験生向け、学生向け、研究者向けなどといった明確な目的やターゲットをあえて設定していないそうです。研究者それぞれが目的を自由に設定したうえで映像を制作しますが、それをどう受け取るかは見る側に委ねられているのだとか。広報ではターゲティングが大切と言われますが、大学の「知」を発信するという観点では、どんな人に対しても開かれているということも同じぐらい重要なのかもしれません。

「関大先生チャンネル」を紹介する舘さん

「関大先生チャンネル」を紹介する舘さん

 

部署やターゲットといった枠組みをあえて取り払う仕組みづくりを続けてこられた舘さん。最後に、さらに画期的な取り組みを紹介していただきました。それが「ボトムアップ型研究プロジェクト」です。

 

これまでのURAの主な仕事は、研究者や組織のニーズを受けて、目的に応じた広報戦略を立てることでした。しかし舘さんは、この仕組では部署を超えて重要な研究情報を発信していくことは難しいと感じていたそうです。そこで考えたのが、URAが主導して研究プロジェクトを立ち上げ、プロジェクトを進めながら必要に応じてターゲットを整理し、メディア戦略を駆使して広く社会へ認知を広げていくという仕組みでした。現在は社会安全学部の先生を中心に、南海トラフ地震を想定した災害に強い街づくりについて議論するプロジェクトを進行中なのだそうです。

 

研究プロジェクトから作り上げてしまうという舘さんのアプローチには「そんなこともできるのか!」と驚かされました。部署を越えて、大学としてどのような発信をするべきかという大きな視点に立てばこそ持てる発想なのかもしれません。

オウンドメディアを通じて研究者のイメージを変える

三人目の発表は、東京からリモートでの登壇となった明治大学経営企画部広報課の朝烏修平さん。「大学ブランディングにとっての研究成果発信」と題して発表されました。

Meiji.netを紹介する朝烏さん

Meiji.netを紹介する朝烏さん

 

明治大学では、大学全体のブランドデザインの課題の一つとして研究に対するイメージを向上させることに取り組んでいると朝烏さん。小難しくて閉鎖的とも取られがちな研究者像を払拭し、研究者を「自分たちの暮らしている世の中を良くする方法を探している人」として伝えていくことをめざしているそうです。

 

そんななかで、10年近く前から研究者の魅力を発信しているのがオウンドメディア「Meiji.net」です。Meiji.netは主にビジネスパーソンをターゲットに2013年にスタートしました。社会テーマと研究を絡めた「オピニオン」と柔らかいテーマの「リレーコラム」を連載し、研究者の考え方や着眼点を通して研究の真髄に触れられることが特徴です。それだけでなく、「明治大学の研究者=世の中を良くする人」というイメージを前面に出したアニメーションシリーズやグローバルサイトの設置など、ブランド戦略に沿った展開にも力を入れます。

 

地道に情報発信を続けてきたことで、記事を届けるチャンネルも広がってきました。Yahoo!ニュースやスマートニュースといったキュレーションサイトと提携するようになったり、記事が国語の教科書に掲載されるという思わぬ波及効果も。また、Meiji.netの記事を受験生向けウェブサイトに自動的に表示できるようにしており、自然な形で受験生の目にとまるようにしているそうです。

 

最近のMeiji.netでは、特集記事に力を入れていると朝烏さん。明治大学の先生が業界のプロフェッショナルと対談したりゲームをプレイしたりと、大学の外に飛び出す企画を通して読者に研究を身近に感じてもらうのがねらい。対談相手から謙虚に何かを学ぼうとする様子が研究者の好感度アップにつながっているのではと朝烏さんは分析します。対談記事を通して新しいつながりができ、共同研究や産学連携へと発展しそうな動きもあるのだとか。

江戸切子の職人さんとの対談から「桃鉄」まで、意外なコラボが面白い

江戸切子の職人さんとの対談から「桃鉄」まで、意外なコラボが面白い

 

「つなげて、拡げて、発展させることが広報の醍醐味だと感じています」と朝烏さん。最後に、「Meiji.netの記事づくりを通して広報と先生との間で信頼関係を構築してきたことが、広報活動をする上でいろいろな拡がりを与えてくれている」と振り返りました。

 

10年近いコンテンツの蓄積と、それに満足せずどんどん新しいチャレンジを取り入れていく姿勢は、なかなか真似できないことではないでしょうか。朝烏さんのお話はあくまで軽やかですが、地道な取り組みに裏付けられた自信を感じました。

(さらに詳しく知りたい方は、Meiji.netについて取材させていただいた記事もご覧ください)

研究広報のターゲットをどう考えるか? 座談会でさらに掘り下げる

勉強会後半は、登壇者と編集長・花岡による座談会です。事前に募った質問をもとに色々なお話を伺った中から、ターゲットをどのように設定するのかという話題を以下に取り上げます。

座談会の様子

座談会の様子

 

朝烏さんは、研究広報ではいつもメインターゲットと“裏ターゲット”を意識しているそうです。「その研究分野に興味がない人でも別の軸なら引き込めるかもしれない。ターゲットを絞りすぎないことで、意図していなかった層に広がることもある」といいます。

 

舘さんは、産学連携や共同研究の促進を意識して作った「関大先生チャンネル」が意外にも18~20歳のユーザーによく見られていることに触れて、「年齢に関係なく、学問に興味がある人は自分からどんどん探究している。これからはそういう時代だということを意識しておくのが大切なのでは」と指摘します。これには朝烏さんも「表面的にターゲットに寄せたコンテンツを作ってしまうと、宣伝っぽさが出てターゲットが離れてしまうことに注意している」と同意。

 

この話題は広報の評価の話にもつながると白井さん。広報には、計画に沿って実行できたかという「アウトプット」と総括として良い結果を得られたかという「アウトカム」という2つの評価軸があり、ターゲットを絞らない方法はアウトカムとして評価されるべきだといいます。「広報において重要なのはアウトカムで、アウトプットができていてもアウトカムが良くなければそもそもの計画を見直す必要がある。そうしたロジックモデルを、評価する立場である執行部と共有しておくことが大切です」。しっかり狙いをもって取り組むべき部分と予測不能な広がりに委ねる部分。それらを総合してどう評価するのか……と、それぞれの視点から興味深いお話を伺うことができました。

 

今回の勉強会では、研究広報という言葉でくくられる活動の多様さを知ることができました。その一方で、どんな意味での研究広報も単なる研究成果の発信ではなく、広報活動を通じて研究者と職員、ひいては大学と社会が信頼関係を結び、結果として研究がさらに発展していくもの……という共通の側面があるようにも感じました。各大学の取り組みを今後も注目したいです。

 

座談会の後、会場では大学発のお菓子を囲んで意見交換会を実施。参加者同士の交流に花が咲きました。お菓子については後日レポート予定です

座談会の後、会場では大学発のお菓子を囲んで意見交換会を実施。参加者同士の交流に花が咲きました。お菓子については後日レポート予定です

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