昨年、早稲田大学内にオープンした「村上春樹ライブラリー(正式名称:早稲田大学国際文学館)」。そのおとなりの建物「早稲田大学演劇博物館」で、2022年度秋季企画展「村上春樹 映画の旅」が開催中ということで行ってきました!
村上春樹さんが映画好きなことは知っていたけれど、一体どのような展示会になっているのでしょうか?
ハルキストだけではなく、創作活動にかかわる全ての人にもおすすめの企画展をご案内します。
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館内廊下。「旅」をテーマにしているため、展示場の床には道路をイメージ白線が表示(画像提供:早稲田大学演劇博物館)
旅するように村上春樹×映画が楽しめる構成
「村上春樹 映画の旅」の第1章「映画館の記憶」では、小説家になる以前の村上春樹さん(以下、村上さん)が足を運んでいた映画館の写真や、観ていた映画の、ポスターやシナリオなどが展示されていました。
映画館の情報などは、村上さんからヒアリングしたそう(画像提供:早稲田大学演劇博物館)
1968年に早稲田大学入学を機に上京した村上さん。当時は脚本家を目指していたため、演劇博物館でよく映画のシナリオを読んでいたそうです。
そんな村上さんの卒業論文『アメリカ映画における旅の思想』の表紙(複製)も展示されていて、興味深かったです。村上さんがどれだけ映画に熱中していたかがわかるタイトルですね!
第2章「映画との旅」の壁に描かれたアメリカンなバイク
第1章エリアの角を曲がると、村上さんのエッセイや対談、紀行文などを取り上げる第2章「映画との旅」が始まります。アメリカ西海岸カリフォルニアの陽光が注ぐ、のびやかなロードをイメージ。真っ直ぐの白線と壁に描かれたアメリカンなバイクが印象的でした。
案内標識は「旅」を意識し、道路標識がモチーフ
黄色い標識を右側に折れると、第3章「小説のなかの映画」エリア。どのように小説の中に映画が登場しているか、小説の一部が引用され紹介されています。
小説に出てくる映画のポスターのほか、随所に昔の映画字幕に使われていた書体を使用したという「解説キャプチャ」がある親切設計で、小説の引用文には該当ページ数も表記。お気に入りの小説を持参しながらまわると「へえ、ここがそうなんだ!」と、また違う読み方ができるんです。
『羊をめぐる冒険』366ページに出てくる、映画『ダック・スープ』についての説明文
さらに同エリアにはブースごとにわかれた空間があって、ほんのり暗がりの中、好きなものに囲まれる幸せが得られます。小説と映画の世界に浸ると、村上さんの頭の中にすっぽり入っていくような感覚に襲われて、かなりの没入感!
企画担当者の方も、そういう思いで同コーナーをつくったそう。
映画の暗がりをイメージしたというブース(画像提供:早稲田大学演劇博物館)
第4章「アメリカ文学と映画」では、『グレード・ギャツビー』やレイモンド・チャンドラーの小説といった、村上さんが手掛けた翻訳本の中で映画化されたものが映画のポスターなどと一緒に紹介されています。
最後の第5章「映像化される村上ワールド」では、村上文学の中で映画化された作品に関する資料を展示。2021年の話題作、映画『ドライブ・マイ・カー』の衣装や、作中で繰り広げられる多言語劇中劇用のシナリオなどもありました。
展示室の左奥には、車を模した赤いブースを発見。中では映画『ドライブ・マイ・カー』に出てくる、あるシーンが鑑賞できて「そんなサプライズもあるのか!」と、貴重な展示品たちに少し驚いてしまいました。
映画『ドライブ・マイ・カー』の衣装。奥の赤いブースが鑑賞コーナー(画像提供:早稲田大学演劇博物館)
ブース横には、映画に出てくるカセットテープの展示。あの声が聞こえてきそうです(画像提供:早稲田大学演劇博物館)
「これだけの本数の映画をご覧になっていることが、一番の驚きでしたね」
そもそもなぜ今回の企画展は開催されたのでしょうか。企画担当者の方に聞いてみました。
「昨年『ドライブ・マイ・カー』が評判となったこともありますし、村上春樹さんの作品にはよく映画が出てくることも、早稲田大学時代に映画のシナリオを村上さんがよく読んでいたことも知っていました。そこで村上文学と映画について掘り下げたら面白いのではと思い、今回の企画展にいたりました。村上文学から映画、映画から村上文学など、相互的に興味が広がってくれればうれしいですね」
小説の中の映画、またはその逆を知ることで、世界が広がっていく。当展示の面白みを実感させられました。
最後に企画担当者の方は、こんなこともおっしゃっていました。
「これだけの本数の映画が頭の中に入っていることが、一番の驚きでしたね」
村上さんの作品『騎士団長殺し』では、ホラー小説ではないにも関わらず、ホラー映画の名作『シャイニング』が登場するなど、その他の作品でも異ジャンルからのセレクトが多く見られます。しかも登場する作品では、会話の途中でポンっと映画のタイトルが出てくるなど、登場の仕方も仰々しくないのです。それは頭の中に映画の痕跡があるからこそ、自然と結びつけられるもの。
素晴らしい才能のある村上さんが多くの映画を楽しんでいるのですから、平凡な筆者のような人間は、一体、どれくらいのインプットをすればいいのでしょうか。
とりあえず、映画を観よう。そう思わせてくれる企画展でした。