洗練された装い、中身は直球。
全国の大学が発行する広報誌をレビューする「大学発広報誌レビュー」。今回とりあげるのは、東京理科大学が発行する『東京理科大学報』です。
東京理科大学は、自然科学の教育を行う高等教育機関のうち、日本の私立大学としては最古の歴史を持つ理工系総合大学(1881年(明治14年)創立)。『坊っちゃん』(夏目漱石)の主人公が卒業した学校(東京理科大学の前身・東京物理学校)としても知られます。
『東京理科大学報』最新号(2023年10月号)
最新号の表紙は色とりどりの糸を使ったアートワーク。この号の特集テーマは「社会課題の解決に挑む」で、「いろいろな分野、視点が寄り合わさって問題解決の形になっていくことを糸かけアートで表現しています」と同大学の広報担当者。
表紙を開くと、糸かけアートの全体像が現れます。数学的な図形、または植物の断面のようにも見える?
特集で紹介されているのは、北海道・長万部キャンパスを拠点に、住民の方々と未来を構想し実践する経営学部の授業。「コ・デザインプロジェクト」というものです。
課題解決とは昨今よく耳にする言葉ですが、「コ・デザインプロジェクト」では「問題」「解決」と簡単に言ってしまわないところが面白い。ここで大切なのは「問題」や「解決」ではなく、対象に向かう姿勢や態度なのだとか。
下の見開きページでは、理工学部が「創域理工学部」と改称し、分野横断的な講義や、学科の異なる学生どうしの協働が行われていることが紹介されています。
大学の教育の特長やめざすものが前面に打ち出された特集テーマですが、過去の号でもその姿勢は共通しています。例えば前号(2023年7月号)の特集テーマは、ズバリ「教養のススメ」。
2023年7月号の特集ページ
東京理科大学では2021年に教養教育・研究のため「教養教育研究院」を設立。上の特集ページでは院長が教養教育について語っています。
「専門教育を受けてきた人にとっての教養を『知の伴走者』ととらえる」という院長のメッセージが同研究院の公式サイトに掲載されていますが、その意義がよく伝わってくるのが下の記事です。
ジェンダー、社会学を専門とする教授のインタビューで、「問題が生じた時に、それがどんなに個人的な問題に見えようとも、社会的な行動との関係において捉える力を身につけることが大切」「それによって、いたずらに自分を責めたり、自己責任論によって他者を非難して終わることは避けられるのではないか」という言葉が紹介されています。広い視野でものごとの全体像をとらえる、まさに「知の伴走者」にふさわしい内容と感じます。
2023年4月号の特集テーマは「新しい実力主義」。東京理科大学を象徴する言葉の一つが「実力主義」とされますが、「入学試験もなく、入るのは楽だけど厳しい教育を受けて一人前になって社会に出ていくというのが『坊っちゃん』の時代の実力主義」(井手本副学長)。昨今の社会情勢から新たにとらえなおした「新実力主義」について、学長と副学長が語り合っています。
2023年4月号「新しい実力主義」
教育の特色を正面から伝える特集テーマと、それを包む洗練された表紙デザイン。手に取ると、「ああ、東京理科大学ってこんな大学なんだな」と、その中身と感性の両方を感じ取ることができそうです。
学生の活動や研究紹介、卒業生インタビューなどのページも充実。2023年7月号の卒業生インタビュー(写真左ページ)で紹介されているのは、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を立ち上げた山口拓己さん。広報関係者にはおなじみのサービスです。