全国の大学が発行する広報誌をレビューする「大学広報誌レビュー」。今回とりあげるのは、横浜国立大学が発行する『横国刻々』です。
横浜国立大学は、教育学部、経済学部、経営学部、理工学部、都市科学部という文理にまたがる5学部すべてが1つのキャンパスに集約されています。国際貿易港として栄えた横浜という地に根ざし、実社会で役立つ「実学」を重んじている点も特徴です。さらに「実践性」「先進性」「開放性」「国際性」「多様性」といった、社会の発展に直結する教育と研究を追究し続けています。
そんな横浜国立大学の広報誌が、2017年に創刊された『横国刻々』。「よここくこくこく」と読みます。特徴は「実学」を重んじる大学の精神を、視覚的に訴えかける構成で表現している点です。特に、大学が注力する研究テーマやプログラムを紹介する巻頭特集では、毎号大胆なデザインでテーマを表現。読者が内容を直感的に理解できるように工夫されているところが印象的です。

2025年2月発行のvol.9は、各学部の実践的なプログラムを特集
最新号の特集「これからを、ここから」では、社会と連携した教育による人材育成プログラムを紹介しています。単に大学の取り組みを羅列するのではなく、各プログラムの社会的意義や将来の展望を具体的に提示している点は「実践性」だけではなく「先進性」も感じさせる内容です。
「メタ・バースやVRゴーグルを活用した不登校支援」に取り組むプロジェクトは、教員が自身の研究を活かしながら関わっており、その言葉からは、多様な子どもたちの可能性を広げるようとする希望が感じられます。

右下には学部生のインタビューも掲載。どんな思いで学びと向き合っているのか、学生の言葉で語られています
研究や教育プログラムの紹介だけではなく、教員や学生の活動を紹介する常設企画も、大学の「実践性」を一貫して伝えています。
その一つが、学生の間で評判の授業を紹介する「横浜国大の名物授業!」のコーナーです。ただ授業の内容を羅列するのではなく、授業が実社会にどのように活かされるのかが平易な言葉で語られているため、専門外の人にもわかりやすく、一般にも「おもしろそう」と思わせてくれます。たとえば「マクロ経済学」が物価水準や失業率など、私たちの生活に直結する経済活動を分析したり、人口増加や技術進歩がどう経済に影響するかを学んだりする学問であるという内容は、勉強のその先にあるものが明確に見え、学習意欲をそそられます。特に、これから大学をめざす読者にとっては、より身近に感じられる内容なのではないでしょうか。
加えて、取り上げられた授業には、担当教員からのショートインタビューも掲載されています。読んでみると「思いも寄らない質問を受ける」や「回を重ねるごとに学生がレベルアップしている」「大学に来るのが楽しくなると聞いている」といったリアルなコメントがたくさんあり、授業時の教員と学生のやりとりが目に浮かぶようです。

先生を身近に感じられるのもポイントです
学生をクローズアップする企画として印象的だったのは、学生たちのベンチャー精神に迫る「VENTURE SPIRIT」です。同企画では毎号、さまざまな学生の取り組みを紹介しています。vol.9では記録映画の自主上映とワークショップを行うイベントの実行委員を務める学生を、Vol.8では出張授業を中心に活動するサイエンスコミュニティを立ち上げた学生を取り上げていました。まさに、横浜国立大学の理念である「実学」や「実践性」が表れています。
後半は「横国生のオン&オフ事情」や「横国生のランチ事情」など、学生の日常にふれられるページも。学生の方々が楽しくキャンパスライフを送っている様子が感じ取れて、読み応え抜群です。

学生によってタイムスケジュールが異なるのも見ていておもしろい!

賑やかなレイアウトから、学生たちの楽しげな様子が伝わります
研究者の熱意、学生の挑戦、そしてキャンパスの日常が詰まった『横国刻々』。視覚にうったえてくる大胆なビジュアルと、大学の理念である「実学」「実践性」を一貫してわかりやすく伝える編集によって、読み物としてのおもしろさを加速させています。これからも横浜国立大学が刻々と変化していく様子に注目です。