明治から昭和にかけて、伝道、教育、医療、そして事業家・建築家として活躍し、日本建築史にその名を刻むウイリアム・メレル・ヴォーリズ。
滋賀・近江八幡を拠点とし、学校教育にも尽力していたことから、関西の大学にはヴォーリズが手がけた建物が数多く現存しています。
中でも関西学院大学の西宮上ケ原キャンパスはその代表格の一つといえるでしょう。
キャンパスではすべての建物がスパニッシュ・ミッション・スタイルという建築様式で統一されています。
ヴォーリズは視覚効果も計算し、正門から広大な芝生広場、時計台、後にそびえる甲山を基軸に校舎を左右対称に配置したといわれ、緑と建物が見事に融合したランドスケープごとヴォーリズの世界観を楽しめます(建物内は立ち入り禁止なのでご注意を)。
正門からまず目に入るのは、図書館として建築されたシンボル的存在・時計台。
モザイクタイルのドーム天頂、アーチ型の窓、飾り柱頭付きの細い柱が作る連続アーチなど随所に美しい意匠が施され、誰もがうっとり心を奪われるはず。
2階の窓の上には、関西学院のスクールモットー「Mastery for Service(奉仕のための練達)」の文字が
さらに内部も必見。落ち着いた雰囲気の1 階フロアから、2 階の関西学院大学博物館へと続いています。
重厚感のある時計台内部
2階の博物館は天井や窓にも注目
博物館には、1929年に移転したキャンパスの前後それぞれを詳細に再現したジオラマや、写真、映像、冊子などで関西学院のあゆみを紹介。年2回の企画展では、学院所蔵の文化財や美術品が公開されています。
関西学院発祥の地、原田の森キャンパスを再現(現在の神戸市灘区、王子動物園周辺)
また、正門から入ってすぐにあるのはランバス記念礼拝堂。
物語に登場する教会のよう
入り口上部の薔薇の花を象った窓、壁に施された繊細なアラベスク模様などが特徴です。学院のキリスト教行事のほか、卒業生の結婚式はこちらで行われます。
あたたかな雰囲気に包まれる
さらに意外と知られていないのが、外国人住宅とハミル館。
外国人住宅は現在も9棟が外国人教員の住居などに使用されています。窓や屋根、かわいらしい玄関など、細部のデザインが異なっています。見比べながら静かに見学を。
外国人住宅の1棟。こんなおうちに住んでみたい・・・!
緑に囲まれた住宅。こちらも物語に登場しそう
ハミル館は関西学院に現存する校舎の中で最古の建築物。日本メソジスト教会日曜学校教師養成所として建てられました。
八角形の塔状部が印象的な建物で、現在は総合心理学科の心理学研究室として使用されています。
献金者にちなんで「ハミル館」と命名された
訪れるたびに思うのですが、近隣の家族連れがのんびりと過ごし、子供たちが中央芝生を走り回る姿は幸せそのもの。卒業生の結婚式に遭遇できたらさらにうれしい気分になります。
統一感のあるキャンパス全体を楽しむだけでなく、ヴォーリズ建築の細部にまで注目しながら、じっくり眺めてみるのもおすすめです。
Photo by:藤岡みきこ