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活火山がないのに有馬温泉が湧くのはなぜ?その謎を解明した、神戸大学マグマ学者に聞いてみた。

2021年1月14日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

(メイン画像のクレジット ©一般財団法人神戸観光局)

温泉は火山熱から生まれる…だけじゃないらしい

温泉が恋しい季節になった。箱根や草津温泉など関東の温泉地に思いを馳せると、活火山がセットになって浮かんでくる。しかし関西の温泉に思いを馳せると…あれっ、近畿には活火山ってないのではー?!

 

温泉といえば活火山から生まれていると思い込んでいたけれど、そうじゃない温泉もあるらしい。詳しい話を神戸大学のマグマ学者、巽 好幸教授に聞いてみた。

 

「日本の温泉のほとんどは、火山性の温泉と呼ばれる活火山の熱で温められたものです。しかしそうではない非火山性の温泉と呼ばれる温泉も、数は少ないながらあるんです」

恩師や研究仲間と“マグマ学”を提唱した巽教授

恩師や研究仲間と“マグマ学”を提唱した巽教授

 

巽教授によれば、その代表格が兵庫県の有馬温泉。「非火山性の温泉のなかでも、有馬温泉は特異な存在です。そのポイントは2つあって、ひとつは非常に高温であること。もうひとつは成分が特徴的なことです。有馬温泉は海水より塩分濃度が高く、炭酸ガスをたくさん含んでいます。さらに鉄分が多いのも特徴。それゆえ昔から《有馬型温泉》と呼ばれるほど地質学的に注目されてきました」

 

炭酸…有馬温泉に行くと炭酸煎餅の店がいっぱいあるのはそういうわけか。 塩分濃度は気づかなかったけれど、「金泉」のお湯も赤茶色で鉄の匂いがします。

定番のお土産、炭酸せんべい ©一般財団法人神戸観光局

定番のお土産、炭酸せんべい  ©一般財団法人神戸観光局

金泉。誤ってタオルをつけてしまうと茶色になってしまう… ©一般財団法人神戸観光局

金泉。誤ってタオルをつけてしまうと茶色になってしまう…  ©一般財団法人神戸観光局

 

「そんな有馬温泉ですが、《なぜ活火山がないのに温泉が湧くのか》という謎は、諸説はあっても明らかにされていなかったのです」

火山の生成条件を調べていたら、有馬温泉が湧く原因まで解明できた

そもそも巽教授の専門はマグマ学。有馬温泉が湧く原因を解明できたのは、火山研究の副産物だったそうだ。

 

「本来の研究目的は、九州と中国・近畿地方の火山分布の違いを調べることでした。九州や中国・近畿地方は、フィリピン海プレートが沈み込んでいる地帯。なのに九州には火山がたくさんあって、中国・近畿地方には活火山が2つしかありません。しかも近畿地方に絞ると活火山の数はゼロです。それなのに有馬に高温の温泉が湧くのは、プレートに違いがあるのではと推測していました」

 

プレートとは、地球の表面を覆う厚さ100kmほどの岩盤のこと。地球上に大きなものだけでも十数枚存在し、年に数センチのスピードで移動。地層を動かして隆起させたり、地震や火山が生まれる原因になっているものだ。

日本列島周辺のプレートの配置と活火山(三角)の分布。フィリピン海プレートによって西日本火山帯が形成されている

日本列島周辺のプレートの配置と活火山(三角)の分布。フィリピン海プレートによって西日本火山帯が形成されている

 

巽教授は過去のプレート運動をシミュレーションし、九州から中国・近畿地方にかけてのプレートの沈み込みに伴う熱現象について解析。その結果、 同じフィリピン海プレートでも、九州には5000万年前に生まれたプレート、中国地方には2500万年以降に生まれたプレート、近畿地方には1500万年前に生まれたかなり若いプレートと、生成年代が違うプレートが沈みこんでいることがわかったのだ。

 

でも、プレートの生成年代が違うだけで、かたやマグマがグツグツ煮立つ活火山が生まれ、かたや火山は生まれないのに有馬温泉のような特異な温泉ができるのはなぜなんだろう?

 

「そこには《プレートの温度の違い》が影響しています。プレートというものは、若いほど熱く、古いほど冷たいんです」

プレートが若いと、マグマをつくる前に温泉を放出

巽教授によれば、プレートは内部に海水由来の高温流体を含んでいる。そして地中に沈み込むなかで圧力に押され、その高温流体を地中内部に放出しているという。しかし若くて熱いプレートは軽いため地中に沈みにくく、比較的浅いところで、内部に含んでいた水を高温流体として吐き出してしまうのだ。

 

「それが、活火山がないにもかかわらず有馬温泉が湧く原因です。有馬の地下に若いプレートが沈んでおり、高温流体を噴出するポイントがあった。さらに有馬が温泉地として幸運だったのは、有馬高槻断層という断層が走っていて、他の地点より速く温泉が地上に上がってくることができたこと。有馬温泉が非常に高温の温泉であるのはそのためです」

 

またプレートの内部には、水分だけでなくさまざまなミネラル成分が含まれている。それが温泉として放出されることで、有馬温泉は成分豊富な温泉としても知られるようになったのだ。一方で古いプレートは冷たくて重いため、地中に深く沈んでから内部の高温流体を放出。それが地上に向けて上昇するなかで、マグマが生成され火山が生まれる。

 

「九州に火山が多いのはそのためです。一方、近畿地方だと浅いところで吐き出してしまうのでマグマをつくる高温流体が残らない。中国地方は近畿地方より少し古いプレートなので、マグマ生成分をつくるための高温流体が残り活火山が2つある…というわけです」

 

ちなみに、関東や東北地方に火山が多いのは、地球上で最も古いとされる太平洋プレートが沈む地域だから。なるほどー!と納得です。

九州と中国・近畿で火山数が異なり、近畿地方に有馬型高温泉が湧出するメカニズム

九州と中国・近畿で火山数が異なり、近畿地方に有馬型高温泉が湧出するメカニズム

 

プレートが老いると、有馬温泉は枯れる?!

巽教授の話を聞いて、ひとつ疑問が浮かんできた。近畿地方に沈む若いプレートは火山をつくらないが、それより古い中国地方のプレートは火山をつくった。ということは、有馬温泉を放出している若いプレートが今後老いてしまえば、九州のように火山が生まれて活発に噴火する、なんてことが起こりえるんだろうか?

有馬の代表的な温泉源、天神泉源。今は98度の湯がたぎり、白い煙がのぼっているが…  ©一般財団法人神戸観光局

有馬の代表的な温泉源、天神泉源。今は98度の湯がたぎり、白い煙がのぼっているが…©一般財団法人神戸観光局

 

「そうですね。プレートが老いれば、まず有馬温泉は枯れます。その代わり、京都の丹後半島あたりに火山がポンとひとつできて、火山由来の温泉が発生するだろうと予測されています」

 

なんと、有馬温泉は枯れてしまう!?

 

「といっても2500万年は先の話です。それよりも私たちが考えなければいけないのは、地球の恵と災害は表裏一体だということです」

 

日本列島は温泉という大いなる恵みを与えてくれた。でもその裏には、火山噴火や地震の危険が潜んでいる。「近畿地方も活火山こそありませんが、活断層が多い地域。近年だけでも、阪神淡路大震災を代表にさまざまな地震が発生。今後も南海トラフ地震や直下型地震の危機が予測されています。そうした自然災害の危機を理解し、万が一に備えておくことが大事です」

 

地球が与えてくれる恩恵はありがたく受け止めつつも、その恩恵を受けるには、試練に覚悟をもって立ち向かう心構えも併せ持たないといけないということ。備えよ常に!

 

これからは温泉に入るたびに、地球のダイナミックな変化を想像したり災害への心構えを整えたりと、思いを馳せることが多くなりそうだ。

 

ちなみに巽教授、有馬温泉にはよく行きますか?

 

「ええ、自宅から有馬温泉まで車で20分の近さなので。明日も観光協会さんから依頼された仕事で有馬温泉に行く予定があります。有馬温泉といえばやはり源泉掛け流しの金泉がおすすめ。みなさんも機会があればぜひ、地球の恩恵に感謝しながら有馬温泉を楽しんでください」

いつかゆっくり行ける日を待ちわびて・・・©一般財団法人神戸観光局

いつかゆっくり行ける日を待ちわびて・・・©一般財団法人神戸観光局

 

覆面トーク企画がアツイ!ネットが沸いた「京大100人論文・オンライン全国拡大版」

2021年1月12日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

《京大100人論文》とは、京都大学の研究者が研究テーマを匿名で掲示・意見交換を行うことで、肩書きや立場に縛られない本音での学問的対話をめざすイベントです。8回目の開催となる2020年度は、新型コロナの影響から初のオンラインでの開催に。京都大学関係者に限らず全国誰でも研究テーマを掲示できるようになりました。

 

昨年もこのイベントを取材したほとゼロとしては、果たしてオンラインでもこれまでのような研究者同士の交流ができたのかが気になるところ。企画を担当した京都大学 学際融合教育推進センターの宮野公樹 准教授に、イベントを終えての感想を伺いました(昨年のレポートはこちら)。

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昨年のリアル開催の様子。研究テーマ掲示者87名に対し、来場者は534名。書き込まれた付箋は約1300枚に及んだ

オンラインだからこそ、オンタイムでの対話が実現

《京大100人論文》は主に京都大学を会場に毎年開催されてきたイベントです。従来のリアル開催では、研究者が「生涯かけて追いかけたいテーマ」を端的にまとめ、ポスター発表のように会場に掲示。そこに来場者がコメントを書いた付箋を貼りつけていくことで、肩書に囚われない研究者同士の交流や研鑽を生み出していました。

 

しかしオンライン開催となった今回は手法を一新。バーチャルホワイトボードMiroに研究テーマが並び、ネットを通じて誰でも自由にバーチャル付箋でコメントすることが可能となったのです。これにより前回よりも付箋でのやりとりが格段に増えたと、宮野先生は言います。

 

「やってみたら100人論文は、想像以上にオンラインがぴったりなイベントでした。取り組みの本質は同じなんですが、まず参加者が九州から東北と門戸が大きく開けました。またリアル開催のときは、付箋で感想や意見を募り、希望者には後日マッチングという流れでしたが、今回はバーチャル付箋でのオンタイムでの対話が発生。勝手に線を引っ張って付箋と付箋を紐付けるなど対話を拡大する人まで出てきまして(笑)。まるで生命が生まれるかのように、主催側の意図を超えて独自ルールが発展していったのが衝撃でした」

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オンライン開催の会場となったバーチャルホワイトボードMiroの様子。2020年12月11日〜15日の5日に、研究テーマ掲示者は127名。来場者はカウントできなかったが、付箋紙はおよそ2010枚と昨年を大幅に超えた

 

数多くの学術的な研究テーマの中には、「なぜ人は化粧をするのか」という女性としては気になるテーマや、「学校で『働くこと』をどう伝えるか?」という教育者の苦悩が垣間見えるものも。またイベント自体への感想や意見を貼り付けられる掲示板には、地方参加者からの「長野です。今日は雪」というような情緒あるコメントも。全国各地から仕事や勉強の合間にMiroを開いて参加していた人が多いことを伺わせました。

 

「開催にあたってはギリギリまで試行錯誤していたので、全体的に『こういうオンラインイベントを待っていた!』という反応が多くてホッとしました。遠方の方ですとなかなか京都まで来れませんからね。『ずっとうらやましかった』とか『オンラインになったおかげで参加できた』なんて感想も寄せられ、イベントが時空を超えたように感じました」

100人論文5

掲示された研究テーマには、多くのコメントが付箋にて寄せられた。最も付箋の数が多かったのは「自死を問う:生きる理由と死ぬ理由」という研究テーマ。救急集中医療医のコメントもあり本気・本音の対話が発生

予定調和は一切なし!トークセッションでフェスのような盛り上がりに

《オンライン拡大版!》と銘打った今回の京大100人論文では、新たな取り組みとしてラジオ形式のトークセッションを同時開催。平日や深夜のオンエアがあったにもかかわらず、多くの視聴者を集めました。

 

「ライブトークを取り入れたのは、『論文を掲載するだけのオンラインイベントに人が集まるのか?』という疑問があったからです。ならば『フェスのような感じで、トークセッションをライブ配信し、それを聴きにくる人がついでに論文を見るというスタイルにしてはどうか』と考えました。僕自身がラジオ好きだったのも影響していますね(笑)。音声だけの配信なら、何か作業しながらでも聞くことができるでしょう?」

プリント

院生から学術界の大御所にジャーナリスト、企業人や省庁職員までが登場してそれぞれの視点で自由に意見を交わした《Live TALK》は5日間で6回開催された

 

プログラムに出演者が顔出しで紹介された《Live TALK》に対し、論文を発表した研究者の中から『この研究者とこの研究者が対話したら面白いのでは?』と宮野先生が出演をオファーしたのが《X-TALK》です。こちらはなんと、全員が完全に初対面での覆面対談!

 

「《X-TALK》は、顔も名前も肩書も一切出さずに学問への関心を本音で自由に語り合えるというのが良かったんでしょうね。実に面白い発言がたくさん飛び出しました。中には『この対話をやるためにこの企画をやったんだ』と思うほど、深い学問的対話が生まれた回もありました」

 

即興トークの盛り上がりを、来場者もオンラインでコメントしながら楽しく視聴。まさにフェスのような一体感が生まれた5日間だったのです。

研究の道を選んだときの初心を思い出そう!

自分の学問的関心を自由に主張できるこのイベントですが、研究テーマを受け付けるにあたり、宮野先生には譲れないポイントがありました。

 

「募集の段階では、今ある課題をなんとかしたいという課題解決型研究もいくつか寄せられていました。ですが《100人論文》が主としてやりたいのはそこではない。課題解決型研究もとっても大事なのですが、例えばその課題をなぜ僕ら人類が持っているのか、あるいはそれを解決するとはどういうことなのか。一体何をしようと何をしているのか、そしてそれは何を“していることになる”のか……、歴史や経緯、根本的な思想を踏まえてこの世を一歩引いたところからみる、つまり、自分自身の関心ごとこそをも疑うのが学問の構えであり、それを磨き合おうというのが当イベントの目的なんですよ」

 

『現代社会でのニーズが高い生産性のある研究も大事だけども、そうした世俗的な要素はいったん横におき、研究の道を選んだときの初心を思い出して、自由にピュアに語り合おう』。本イベントの公式サイトでも、宮野先生はそう発信していました。

 

そうした宮野先生の発信に呼応した人が集まったからこそ、論文や付箋のコメントからトークセッションまで熱量がものすごく、みんなで何か大きなムーブメントを作り出しているような真面目で誠実なお祭り感が、オンライン空間に生まれていたのでしょう。

 

「今回の成功体験から、来年もおそらくオンライン開催になると思います。もちろんトークイベントも継続。もしかしたら今回以上の規模になるかもしれないですね」

 

ちなみに、今回の《京大100人論文・オンライン全国拡大版》の会場は公式サイトで今も閲覧が可能(ページ中頃の「GO!」をクリック)。熱いフェスの名残を、ぜひ感じてみてください。

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5日間の開催期間中、イベント進行から問合せまでこなして大忙しだった宮野先生。イベント最終日に取材したほとゼロ取材班に、疲れ顔で丁寧に対応。本当におつかれさまでした!

東京藝大発!おうち時間にスマホで楽しむ新体験『ご協力願えますか』の開発の裏側を聞いてみた。

2020年7月28日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

この春から、新型コロナウイルスの影響で外出自粛を余儀なくされた私たち。今も気の抜けない毎日が続いていますが、なかには「おうち時間をいかに楽しむか」に工夫を凝らした方も多いと思います。

 

そんな皆さんにご紹介したいのが、スマホ1つで楽しめるコンテンツ『ご協力願えますか』です。

 

これは、LINE NEWSで公式配信されているちょっと変わった映像実験番組。

手掛けたのは、ピタゴラスイッチの企画制作でも知られている佐藤雅彦氏と、東京藝術大学大学院映像研究科佐藤雅彦研究室の修了生を中心としたチームです。

「得も言われぬ気持ち」を体験。

まずはスマホを手に、コチラ から『ご協力願えますか』シーズン1にアクセスを。
すると、唐突に表示される空き缶の画像。

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そして、画面の指示に沿ってスマホを握ると…。

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空き缶がメコッとなりました! 何でしょう、この得も言われぬ不思議な感覚…。

 

映像と手の感触がリンクする不思議。

この映像は、一見すると空き缶が潰れる様子を描いただけのもの。なのに何故でしょう、「スマホを握る」という動作と合わさっただけで、まるでスマホと空き缶が一体化したような、次元を超えて空き缶に触れたような気持ちが微かに湧いてきます。

 

他にも衝撃的だったのが、6本ある動画の最後に登場するリンゴの映像。

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画面の中を落ちてゆくリンゴを、スマホを動かして追い、受け止めるのですが、最後には何故か自分の手でキャッチしたような気持ちになってしまう、何とも言えない面白さです。

 

この『ご協力願えますか』は2019年夏にリリースされ、シーズン1は全4回・計24本の実験映像をLINE NEWSで楽しむことができます。

 

さらに2020年5月24日より、シーズン2『またまた、ご協力願えますか』が配信開始。自分の指が削られて(!?)かつお節になっちゃう体験が待ってますよ。

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「ご協力その1」から「その5」まで、映像やアニメで飽きずに最後まで楽しめる。

「ご協力その1」から「その5」まで、映像やアニメで飽きずに最後まで楽しめる。

 


制作者の頭の中ってどうなってるの?

視聴者にちょっと変わった協力を依頼するスタイルで、私たちがこれまで体験したことのない不思議を体感させてくれる『ご協力願えますか』シリーズ。一体全体、制作者の頭の中はどうなっているのでしょうか? ムクムクと興味が湧いてきます。

 

という訳で、『ご協力』シリーズの企画・制作をメインで担うお二人に制作の舞台裏を伺いました。

平瀬 謙太朗さん(左)/豊田 真之さん(右) 東京藝術大学大学院 映像研究科 佐藤雅彦研究室を修了し、その後、デザインスタジオ「CANOPUS」を立ち上げ。佐藤雅彦教授と共に3名で番組内容を企画し、平瀬さんがプロデュース、豊田さんが映像・音楽のディレクションを担当。

平瀬 謙太朗さん(左)/豊田 真之さん(右)
東京藝術大学大学院 映像研究科 佐藤雅彦研究室を修了し、その後、デザインスタジオ「CANOPUS」を立ち上げ。佐藤雅彦教授と共に3名で番組内容を企画し、平瀬さんがプロデュース、豊田さんが映像・音楽のディレクションを担当。

 

―『ご協力願えますか』はどのようなきっかけで生まれたのでしょう?

 

平瀬さん(以下敬称略):多くの人が使っているコミュニケーションアプリ「LINE」が、2019年から『VISION』というオリジナル動画コンテンツの配信をスタートすることになり、その立ち上げに際してご相談をいただきました。

「スマートフォン専用の動画コンテンツとして、他の動画メディアとの差別化を意識し、ただ観て時間を消費するものではなく、視聴者に気づきを提供できるコンテンツにしたい」というご相談でした。

難しいテーマですが、”スマートフォン専用の映像コンテンツ” という枠組みに新しい表現の可能性を感じ、佐藤雅彦教授と豊田に一緒に新しいものをつくりませんかと相談したのが始まりです。

 

―そうだったんですね。最初から、今のような形を想定していたのでしょうか?

 

平瀬:最初は全然違うものを相談していました。例えば、「コミュニケーション」ということをテーマにしたコント番組とか。でも、佐藤教授とは単に「面白い」だけではなく、「面白くて、実験的な新しいもの」を世の中に提案したい、という相談をしており、企画会議を延々と続けて3ヶ月ぐらい経った頃に、やっと、今の『ご協力願えますか』のアイデアの元のようなものがボンヤリと見えてきました。

撮影風景。左が佐藤雅彦教授

撮影風景。左が佐藤雅彦教授

 

―3ヶ月!新しい発想を生み出すには、やっぱり時間がかかるんですね。でも実験的すぎて、LINEに企画を通すのが難しかったのでは?

 

平瀬:視聴者に気づきを与えるために、実験的な内容にしよう、と決めた頃から、少し挑戦的なコンテンツになるという感覚がありました。だから早々にLINEの担当の方には「もしかすると、一般の人がついてこられないかもしれません」とお伝えしたんです。そうしたらLINEさんは大変懐が深くて、「いいですよ、挑戦してください!」というお返事をいただき、すかさず「言いましたね?」と。

 

豊田さん(以下敬称略):視聴者のみなさまに全く理解されない覚悟もしていたのですが、実際にローンチしてみたところ、僕らが思っていた以上にすんなりと理解・体感してくださった方が多く、ホッとしました。これは番組ナビゲーターとして登場していただいた女優の加藤小夏さんが上手く機能したことも大きいかもしれません。ティザー映像や番組内で「どういうこと?」みたいな視聴者側に立った発言をしてもらうことで、コンテンツと視聴者をつなぐ役割を果たしてくれました。

 

『ご協力願えますか』でナビゲーターを務めた加藤小夏さん。実験的な映像を抵抗感なく楽しんでもらうための案内人のような存在です。

『ご協力願えますか』でナビゲーターを務めた加藤小夏さん。実験的な映像を抵抗感なく楽しんでもらうための案内人のような存在です。

 

平瀬:番組の企画が決まってからは、ひたすら企画会議です。佐藤研究室の修了生や在学生の方々にも参加していただき、企画だけだと100本以上アイデアを出しました。そこから可能性がありそうなものを片っ端から豊田に試作してもらい、自分たちでも体験してみて良かったものを選定して番組を作っています。試作だけでも50本ほど作ってもらったかな?

 

―どんなミーティングだったのか、気になります。

 

平瀬:これは、すごく怪しいのですが、企画会議で誰かがアイデアを発表すると、すかさず他のメンバーが「ちょっと待って! やってみるから」とスマホ片手に目をつぶって、頭の中でその内容を想像します。やがて、想像の世界から帰ってきたみなが「いーねー」「面白いねー」などつぶやけば、次は試作です。集まってはそれの繰り返しでした。

 

―怪しいですね(笑)豊田さんはどんなワークを担当されたんですか?

 

豊田:僕は普段はどちらかというと音楽がメインなのですが、『ご協力』シリーズでは映像もSE(音響効果)もすべて担当しました。ただ、このコンテンツに関しては、音ありきのアイデアは入れていません。スマホでは、音をOFFにして映像を見てることも多いので、音なしでも成り立つアイデアだけで構成しています。もちろん音楽も楽しんで作ったので、音をONにして観ていただけたらうれしいです。

まるで怪盗でも現れそうなサスペンス調のテーマ曲も豊田さん作。タイトル画面で流れる「ダダドゥダ・ダダドゥダ」というイントロが印象的なこの曲のタイトルは『挑戦状』。皆さん、覚えて帰りましょう。

まるで怪盗でも現れそうなサスペンス調のテーマ曲も豊田さん作。タイトル画面で流れる「ダダドゥダ・ダダドゥダ」というイントロが印象的なこの曲のタイトルは『挑戦状』。皆さん、覚えて帰りましょう。

すべてはリンゴから生まれた。

―体験して不思議だったんですが、映像に「ご協力」していると生まれる「映像と手の感触がリンクするような感覚」。これって何ですか?

 

平瀬:それこそが『ご協力願えますか』で私たちが試みている部分です。この番組で僕らが一番やりたかったのが、映像による視覚刺激によって身体表象(体から生まれる感覚や気持ち)を起こすことでした。

 

どうやって身体表象を起こすかを議論する中で、僕らは気づかずにスマートフォンからさまざまな情報を得ていることに気づきました。スマートフォンは画面からの視覚情報だけでなく、重さや手に持った時のサイズ感など、いろんな情報を持っています。そこに気づいたことで、スマートフォンという手にもてる小さな映像メディアならではの表現をつくれるようになりました。

 

豊田:きっかけは第1回のラストに登場する、「ニュートン」のアイデアが生まれたときです。リンゴを落としてキャッチするだけ、という、何かわかりやすいオチがあったりするわけではない映像ですが、そこに突き抜けた面白さがある。それを成立させているのが身体表象です。

 

平瀬:この映像では、映像の中でリンゴをキャッチしたとき、視聴者がスマートフォンの重さをリンゴの重さとして受け止める事で、「リンゴをキャッチした」という身体表象がおきています。

私たち人間は、視覚情報と触覚情報を同時に得ると、無意識の内に両者を関連づけて解釈しようとする能力があります。手の感覚(触覚情報)と、リンゴをキャッチした映像(視覚情報)をつなげて、自分がリンゴを受け止めたような気持ち(身体表象)を生み出しているんです。奥が深いです。

私たち人間は、視覚情報と触覚情報を同時に得ると、無意識の内に両者を関連づけて解釈しようとする能力があります。手の感覚(触覚情報)と、リンゴをキャッチした映像(視覚情報)をつなげて、自分がリンゴを受け止めたような気持ち(身体表象)を生み出しているんです。奥が深いです。

 

豊田:「ニュートン」は自分たちの中でも手応えがあっただけでなく、視聴者アンケートでも一番人気だったのが驚きでした。また、実は「ご協力願えますか」という言葉が最初に出たのも、このリンゴのアイデアが出た時でした。佐藤教授の「リンゴをキャッチして『ご協力願えますか』と言う文字が出てくるってどう?」というアイデアがきっかけだったので、いろんな意味で印象深い作品です。

 

―リンゴ、おもしろかったですね。「落とさないようにしなきゃ!」とどこかで思ってしまうのが不思議です。さて、セカンドシーズンが始まりましたが、内容はさらに実験的に?

 

平瀬:はい。セカンドシーズンでは、シーズン1を作るなかで私たちが気づいた「身体表象を生み出す表現のルール」を、さらに発展させたものを展開していきます。今度こそ世の中から「何これ?」と言われてしまうかもしれない、という不安も実はあるのですが、それも覚悟の上での挑戦です。

 

―実際に体験しましたが、問題なく楽しめると思いますよ!

 

平瀬:新しい表現を生み出したいと思うとき、どうしてもハイテクノロジーなメディアにその可能性を求めてしまいがちですが、実は、既存のメディアにも、まだまだ開拓されてない表現や気づかれていない新しいアイデアがあると思っています。

世の中がこんなふうになって、例えばZoomだって以前からあるものですが、面白い使い方が工夫されるようになりましたよね。

僕らが願うのは、『ご協力願えますか』をきっかけに、「スマホでこんなことができるんだ!」とたくさんの人に気づいてもらうこと。それが一番うれしいですね。

企画し、試作することを積み重ね、驚きの創造力がめいっぱい込められた数秒間ができあがる

企画し、試作することを積み重ね、驚きの創造力がめいっぱい込められた数秒間ができあがる

プラモデル…!?こちらがどんな映像になっているかはシーズン2をご覧あれ!

プラモデル…!?こちらがどんな映像になっているかはシーズン2をご覧あれ!

シーズン2へ、レッツトライ!

平瀬さんと豊田さんのインタビュー、いかがでしたでしょうか?

 

私は『ご協力願えますか』を初めて体験したとき、得も言われぬ気持ちのその先に、何かが変わりそうな予感を感じました。それって「世の中がどう変わろうと、不自由を自由に、つまらないを楽しいに変えるのは、自分の気づき次第」ということだったんだなと、お二人から話を伺って気づいたのです。

 

まだ体験していないあなた、お手元のスマホから『ご協力願えますか』へ。きっと新しい世界が開けますよ。

あり得ない「ぼかし」をつくる視覚拡張メガネを大阪大学が開発。SFの世界がまた一歩現実に!

2020年6月16日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

デジタル一眼カメラや、スマホのカメラ機能に搭載されている「ぼかし」機能。これを使うと、肉眼では見ることができない「見せたいものだけを鮮明にフォーカスした」写真が撮れますよね。大阪大学の研究チームが開発した《Illuminated Focus(イルミネイティッド フォーカス)》は、この「ぼかし」機能を私たちの肉眼で使えるようにした視覚拡張メガネ。研究に取り組んだ岩井先生に、詳しい話を伺いました。

 


岩井先生◉お話を聞いたヒト

岩井大輔 先生

大阪大学 大学院基礎工学研究科 准教授。研究領域はAR、VR、プロジェクションマッピング。学生たちと共に「熱プロジェクションマッピング」「顔へのリアルタイムプロジェクションマッピング」といったさまざまな研究プロジェクトに取り組み、世界に発表している工学博士。

 


 まずは具体的にどうボケるのか、動画を見てみました。

2020年2月に発表されたIlluminated Focus。論より証拠、ということで、その機能を紹介した動画を見せてもらうことに。

 

肉眼ではあり得ない超人的な見え方ができることが、いくつかの応用例とともに紹介されています。

肉眼ではあり得ない超人的な見え方ができることが、いくつかの応用例とともに紹介されています。

 

動画を見ていると、Illuminated Focusを装着してトランペットを演奏している男性が登場。

彼の視線の動きに合わせて、楽譜の必要な箇所のみくっきり見えている様子が紹介されています

決められたテンポに従ってくっきり見える領域が移動するよう設定されています。これでテンポをキープしながら演奏することができます

 

「このように、Illuminated Focusを応用すれば、特定の領域のみをシャープにそれ以外をぼかすことで、作業に集中させたり特定のモノに人の注目を誘導することができます。その他にも、絵画などの2D画像を立体的に浮き上がらせたり、さらには顔のシワやシミを消すことも可能です」

 

シミが消える…!? と思わず浮き足立ってしまいました。先生によれば、「カメラなどのソフトで肌をキレイに補正する技術はあれど、それを肉眼で実現するのはかなり難しい技術」なのだとか。

譜面の時とは逆に、意図したモノや場所にボケを作り出す応用法。対象をモーションキャプチャーで追跡しボケを加えるなどの活用が期待されています

譜面の時とは逆に、意図したモノや場所にボケを作り出す応用法。対象をモーションキャプチャーで追跡しボケを加えるなどの活用が期待されています

 

動く人のシミやシワをリアルタイムで消すのは大変だけど、ぼかすなら比較的簡単なのだそうです。

仕組みを聞いてみました

この発明は「超人的なぼかし機能を肉眼に実装できるデバイス」だと聞いてきたのですが…。一体どういう仕組みのものなんでしょう。

 

「Illuminated Focusは、高速にピントを合わせられるETL(電気式可変焦点レンズ)メガネと、その動きに連動したプロジェクタを組み合わせた視覚拡張システムです。

仕組みを簡単に言うと、くっきり見せたい場所とぼかしたい場所それぞれに、プロジェクタから異なるタイミングで光を当て、高速で度数変更可能な特殊なETLメガネと連動させることで、特別なぼかし効果のある視界をつくり出します。さらにそれを1秒間に60回という速さで繰り返すことで、肉眼で違和感なくリアルタイムの視界として認識できるのです」

こちらの特殊なメガネとシンクロするハイスピードプロジェクタを使って実現

こちらの特殊なメガネとシンクロするハイスピードプロジェクタを使って実現

 

なかなか文系女子である筆者には難しいお話…。つまりIlluminated Focusは、レンズの度数の強さを高速に変えている画像を、1秒間に60枚ずつ作って再生するという、パラパラ漫画やセル画アニメのようなことをしているということですか?

 

「そうです。高速で処理されているから、焦点が変化やプロジェクタからの照明でチラつかず、特定の物のみボケているように知覚されるんです」

 

ちなみにアニメだと、自然に動く映像を表現するには1秒あたり24枚程度のセル画が必要。Illuminated Focusはその約3倍の情報量をリアルタイムで処理しているんですね。

でもなぜ「ぼかす」にこだわったの?

ユニークな発明のIlluminated Focusですが、そもそもどうしてこんな一風変わったメガネを作ったのかが気になります。

 

「そもそも私はAR(拡張現実)の研究をずっとしていまして」と岩井先生。ARといえば、ポケモンGOのように、現実空間にバーチャルな映像が出てくる技術ですね。

 

「ARは、現実の空間に情報を追加していくのが基本の技術です。でもある時ふと『追加しすぎると、便利だけど煩わしくないかな?』と。そこから『情報を消していく…存在感を削るARがあってもいいのでは』と発想して生まれたのがIlluminated Focusです」

矢印や案内板などの情報も、盛り込まれ過ぎだと人を混乱させてしまいます

矢印や案内板などの情報も、盛り込まれ過ぎだと人を混乱させてしまいます

 

なるほど・・・!逆転の発想ですね。でもどうして「消す」ではなく「ぼかす」にこだわったんでしょう。

 

「消す技術はDiminished Reality(隠消現実)という、すでにある程度研究が進んでいる分野。私もプロジェクションマッピングを用いて活用法を研究してきましたが、例えば街の写真を撮る時に歩いている人だけを消す、というのがリアルタイムでできてしまう」

 

ARってそんなところまで進化してるんですか!と驚く私に、先生はうなずきます。

 

「ええ、今やARの技術はフェイクとリアルの差がどんどん縮まっています。でもだからこそ『消してしまって大丈夫?』という考えに至ったんですよ。例えば壁をARで消してしまうと、歩く人がぶつかってしまう危険性がある」

 

完全に消すのではなく、そこにあることはわかる…ぐらいにぼかして存在感を薄めた方が安全じゃないか、と先生。消すこともできるけれど、「ぼかす」にこだわったのは、その方が現実的に使いやすいからなんですね。

視覚拡張デバイスで、私たちの暮らしが変わる?!

さまざまな応用法が期待されている視覚拡張デバイスIlluminated Focus。ただ、今の段階では、プロジェクタとセットなので屋内だけの使用に限定されてしまいそう。ウェアラブルにコンパクト化することはできるのでしょうか。

 

「可能ですよ。すでに名刺サイズのプロジェクタが開発されているので、身に付けられるサイズのものは開発できるでしょう。また、室内の照明器具をプロジェクタにしてしまうことで、今回紹介した『ぼかし』への視野拡張だけでなく、モノを消したり、AR本来の用途である情報の表示まで色々できてしまう部屋で暮らす…。そんな未来もそう遠いことではないかもしれません」

 

本棚にある書籍の表紙をARでチェックできるという技術も、先生の研究室で開発された

本棚にある書籍の表紙をARでチェックできるという技術も、先生の研究室で開発された

 

まるでVR(バーチャルリアリティー)の世界に入り込んだようですね。

 

「その通りです。そもそも私たちの研究は『VRでやれることを現実世界で再現しよう』という発想から始まっています。VRはアニメやゲームの表現としては素晴らしいけれど、現実ではない仮想空間。それを実生活で体験できるようにしたいんですね」

 

バーチャルで終わらせず、現実で役に立つものを研究したいと語る岩井先生。その背景にあるのは「研究とは、地に足のついたものであるべき」という想いです。

 

「私たちの研究室から生まれた発明が、実生活を徐々にでもサポートしていくようにしていきたいですね」という先生に、科学者の誠意を感じた今回の取材でした。先生の研究室では、今回紹介したもの以外にもたくさんの研究プロジェクトに取り組まれています。AR、VR、プロジェクションマッピングに興味がある人はぜひ研究室WEBサイトのチェックを。

言語学×『もののけ姫』: 言語学者がジブリアニメを分析! キャラの言葉づかいから読み解く『もののけ姫』

2020年5月12日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

映画や小説、アニメ、漫画…サブカルの世界を研究者とともに読み解いてみたい。そんな思いから、先生方に選んでいただいた1作品を取り上げ掘り下げる新企画がスタート。
第1回目は言語学×『もののけ姫』。

 

語っていただくのは、大阪大学文学部教授の金水 敏先生。
金水先生は、《役割語》という話し言葉のジャンルを提唱し、注目を集めている日本語学者だ。

 

でも《役割語》と『もののけ姫』がどう関係あるんだろう?
まずは《役割語》について、先生にわかりやすく教えてもらうことにした。

日本語学者の金水 敏先生。子ども時代に好きだったアニメは『鉄腕アトム』

日本語学者の金水 敏先生。子ども時代に好きだったアニメは『鉄腕アトム』

物語だけの言葉づかい《役割語》 

子どもの頃から親しんできた漫画やアニメ、小説などのフィクション。その中に出てくる、

 

「それは、ワシなんじゃ」

「わたくし、料理もできましてよ」

「ウチの子は凄いんざます」

 

なんて、口調のキャラクター。

現実にはそんな話し方の人っていないよね、と思いつつ、

 

「それは、ワシなんじゃ」→年配の博士

「わたくし、料理もできましてよ」→召使がいるようなお嬢様

「ウチの子は凄いんざます」→嫌味なお金持ち

 

という具合に、すんなりそのキャラを想像できてはいないだろうか?

「こんなふうに言葉遣いからキャラクターを把握する能力は、日本人に強く見られる傾向なんですよ」

 

と、自作のカルタを使いながら説明してくれた金水先生。

確かに、話し方だけでなんとなくどういうキャラがしゃべっているのか想像できるなあ…と納得!

 

金水先生は、この「特定の人物像を思い浮かべることができる言葉遣い」を《役割語》と名付けて1996年から研究している。

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役割語かるたと金水先生
役割語について詳しい解説はこちら!↓
研究社 役割語トークライブ

 

先生によれば、《役割語》を理解していれば、さまざまなフィクション作品をより深く楽しめるし、作り手の意図すら分析できてしまうという。

 

実際に先生は、いくつかのフィクション作品を《役割語》を通じて研究。その研究欲は国民的アニメ・ジブリ作品にも及び、先生が開講しているジブリアニメを分析する講義は阪大生に大人気。教室満杯の220名の学生が集まり、留学生の受講も多いとか。ジブリ人気は国境を越えるようだ。

 

「講義では、『ルパン三世カリオストロの城』から『千と千尋の神隠し』までを題材に《役割語》を解説し、キャラクターと物語の構造を分析しています」と先生。その中でもとくに「分析しがいがある」と語るのが『もののけ姫』だ。

 

「『カリオストロの城』は初期作品だけに構造が単純。ですが『千と千尋の神隠し』以降の作品、例えば『ハウルの動く城』などは登場人物の性格が複雑すぎます。『もののけ姫』も複雑な構造の物語ではあるのですが、《役割語》を通じてその複雑性を紐解くことができるんですね」と、DVDで『もののけ姫』を流しながらクールに語る金水先生。

 

この取り合わせちょっと面白いなーと思いつつ、先生の分析に耳を傾けた。

その内容を、次で詳しく紹介しよう。

『もののけ姫』を《役割語》で分析

さて、金水先生による『もののけ姫』分析の前に、簡単にストーリーを説明しておこう。

 

知っている人も多いだろうけど、この物語は中世日本を舞台にしたファンタジー。主人公アシタカはタタリ神にかけられた呪いを解くため、神が住むという深い森に向かう。そこでは製鉄のため森を破壊している女傑・エボシ御前と、彼女の命を狙う“もののけ姫”・サンが対立。アシタカは両者の立場を理解したうえで、森と人が争わずに済む道を探り始めるが、さらに森の主であるシシ神の不死の力を狙う朝廷勢力や、タタラ場の軍事力を警戒する武士たちが加わり、四つ巴の展開に…というのが大まかなストーリー。初期の宮崎駿作品と比べると複雑な物語構成となっていて、テーマも深くて難解さがある。

 

「それでも私たちは、約2時間にまとめられたアニメを通じて宮崎駿監督が伝えたい作品テーマや物語の骨子を感覚的に理解できます。監督がとても上手に《役割語》を活用していることがその一つの理由なんですね」と金水先生。

 

先生によれば、『もののけ姫』をはじめジブリアニメは、古今東西に見られる典型的な《ヒーローの旅》によく当てはまるらしい。この《ヒーローの旅》は神話の分析から始まり、ジブリはもちろん村上春樹作品まであらゆる物語の雛形となっているのだが、掘り下げると長くなるので泣く泣く割愛する。詳しくは先生の著書『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』(2003年 岩波書店)に書かれているので、ぜひ手に取って欲しい。

関西弁キャラの変遷についても紹介されていて、大阪人としては興味深い

関西弁キャラの変遷についても紹介されていて、大阪人としては興味深い

 

「ヒーローのお約束として、肉体・精神面や生育環境で『何かが欠けている』というのがあります。アシタカの場合は呪いにより村を追われたという『欠損』がヒーローの条件を満たしています。そんな彼の言葉遣いは、王族の血を引く若者という設定が伝わるよう品のあるものとなっています」

 

あれ?アシタカって王族だったの? と、うろ覚えの記憶を探った私だが、そのあたりをわかっていなくても、アシタカがリーダー教育を受けた良いところのお坊ちゃんだ、ということはアニメを通じてなんとなく理解していた。これが《役割語》の力か。

 

以下、先生による『もののけ姫』主要キャラクターと《役割語》の働きをまとめてみた。

 

◆アシタカ(主人公)

折り目正しく品のある話し方の《役割語》で表現されたキャラ。「戦闘シーンや荒ぶる神に対しては、毅然とした格の高い話し方に。それがヒーローとしての立ち位置や、王族の血を引く若者というキャラクター性を高めていますね」と先生。

 

◆サン(もののけ姫)

「戦闘美少女キャラですが、誰に対してもぶっきらぼうなタメ口で、少し片言なところがあります。そこが、社会性のなさ(もののけに育てられた捨て子)であることが伝わる《役割語》となっています」と先生。また時々、頼りなげな女性口調となるところがヒロイン性の表現となっているとのこと。

 

◆エボシ御前

威厳のある話し方を基本に、「ざまあないよ」というような砕けた言葉が混じるキャラクター。「芸能者上がりの出自を匂わせる効果のある《役割語》となっています」と先生。

 

◆ジコ坊

老人的・賢者的な物言いが、ヒーロー物語のパターンとして物語導入に現れる典型的な導き手を想起させるキャラクター。先生は「お坊さんのようで下品な言葉も使うところに、二面性が垣間見られますね。一筋縄ではいかないキャラであることを《役割語》が伝えています」と分析。

 

◆モロの君

サンを育てたメスの犬神。男性的な強さを持った成熟した女性、というヒーロー物語の典型的登場人物の役割を果たす。時代劇風の男言葉が高い品格と強さを表現。「そこに時折、母親らしい口調の《役割語》を加えることで、サンへの愛情が表現されています」。

物語の受け手が自分を重ね合わせやすいよう、主人公は標準語なことが多い。一方、登場が限られるエキストラ的キャラクターほど、田舎言葉などステレオタイプな《役割語》を使用していることが多い

物語の受け手が自分を重ね合わせやすいよう、主人公は標準語なことが多い。一方、登場が限られるエキストラ的キャラクターほど、田舎言葉などステレオタイプな《役割語》を使用していることが多い

 

以上、コンパクトにまとめたけれど、「なるほど!」と腑に落ちた人も多いのではないだろうか。私たちは《役割語》に託された、たくさんの情報を無意識のうちに把握。だから作中に説明がなくても、感覚的に物語を理解できていたのだ。

 

先生によれば、《役割語》は大衆文化やフィクションの発展とともに進化してきたもの。江戸時代にはすでに当たり前のように使われていたという。

 

「《役割語》は、受け手にキャラクターを明快に差し出すことができるため、創り手にとってとても便利なんですね。だから日本のフィクションにたくさん使われています。

またフィクションを見たり読んだりする受け手にとっても、《役割語》の使われ方をチェックすることで、キャラクター造形はもちろん、さらにはそのキャラクターがいかに物語の構成や展開に寄与しているかを知ることができるんですよ」

 

そうか、先生は《役割語》を研究することで、ご自身が興味あるフィクションを、めちゃめちゃ深く楽しんでいるわけですね!

 

「ただし《役割語》は、キャラクターの特徴を誇張させる表現手法であるので、差別や偏見と結びつきやすい側面もあります。日本語を使う私たちは、現実とフィクションの違いを理解した上で、《役割語》が豊かにしてくれる物語世界を楽しまないといけないですね」

《役割語》のクリエイティビティ

 《役割語》は日本語特有のものではない。例えば英語圏でも『ハリー・ポッター』シリーズのように、独特な言葉づかいのキャラクターが頻出する作品は存在する。ただ、「日本語ほどクリエイティブな《役割語》を持つ言語は少ない」と金水先生。例えば世界的人気作家・村上春樹の小説にも、『騎士団長殺し』の騎士団長など、特徴的な言葉づかいのキャラクターが登場し、物語に奥行きを与えている。

金水先生は村上春樹の《役割語》がどう翻訳されているのかについても注目。その研究結果は、<大阪大学リポジトリ 村上春樹翻訳調査プロジェクト>から無料で閲覧可能。 また、《役割語》に関する先生の日々の考察はこちら。<SKの役割語研究所>

金水先生は村上春樹の《役割語》がどう翻訳されているのかについても注目。その研究結果は、<大阪大学リポジトリ 村上春樹翻訳調査プロジェクト>から無料で閲覧可能。
また、《役割語》に関する先生の日々の考察はこちら。<SKの役割語研究所

 

「私たち人間は役割や他者との区別を持って生きています。日本人は、現実での言葉づかいはもちろん、フィクションの中でもそのバリエーションを発達させてきました。それは世界の文字文化・言語文化の中でも特異であり、現実と内面世界の両方で豊かな感性を持つ日本人の特性なのかもしれません。またそうした傾向が、ジャパニメーションをはじめ、日本のクリエイティビティを下支えしていると言えるでしょう」 

 

ジブリアニメや村上春樹作品をはじめ、日本のフィクションは海外でも多くの人々に愛されている。だが日本語を母国語とする私たちは、作品をとりわけ深く楽しむことができる。とりあえずこの週末は、ジブリアニメをレンタルしてみよう。

アンドロイド観音爆誕。大阪大学が仕掛けたヒトとロボットの新しい関係。【後編】

2019年5月30日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

京都・高台寺でこの春に公開されたアンドロイド観音。仏教界とロボット工学の最先端がコラボレートした背景を伺った前編に続き、このプロジェクトの研究的側面についてさらに踏み込みました。

 


◉お話を聞いたヒト

小川浩平 先生

大阪大学大学院基礎工学研究科講師。人と自然に共存することができるロボットの開発に取り組む研究者。

人酷似型のアンドロイドロボットを用いた自律システムなどを研究。

 


アンドロイド×プロジェクションマッピングの手法で般若心経をわかりやすく伝える

ほとぜろ:

このプロジェクトに取り組む上で、難しかったことはありますか?

 

小川先生:

アンドロイド観音に般若心経の教えを説かせるという挑戦だったのですが、そもそも般若心経がすごく哲学的で難しい。そこで取り入れたもう一つの仕掛けが、プロジェクションマッピングです。

 

ほとぜろ

アンドロイド観音の説法を聴きにきた聴衆の姿が、プロジェクションマッピングで展開されていましたね。

 

小川先生:

それを「バーチャルエージェント」と呼びます。バーチャルエージェントって、画面に映すだけのキャラクターなので安価ですごく使い勝手がいいし、次世代のメッセージングメディアとしてとても期待されているものなんですが、存在感が薄いのが問題だったんです。

 

ほとぜろ:

アンドロイド観音のものすごい存在感と比べると確かに…。でも、バーチャルエージェントが質問をして、それにアンドロイド観音が答えているのを見ていたら、どちらも生きている…といったら大げさですが、存在感が増してきましたよ。

 

小川先生:

そうなんです。今進めている研究として、バーチャルエージェント同士がAI(人工知能)で対話していてもTVの中のキャラクターが対話している様な感じで、人のような社会的な存在感を持つことは難しいです。しかし、アンドロイドとバーチャルエージェントが対話すると、途端にバーチャルエージェントの存在感が増してくるというものがあります。このような、実体のある存在と仮想的な存在の組み合わせが与える影響に関する研究は、今までは大学の研究室ですすめてきました。一方、高台寺のアンドロイド観音の研究プロジェクトは、一般の人を対象にした現実の場で検証することができる。これが我々にとってとても魅力的でした。

 

ほとぜろ:

般若心経の法話と聞くと眠くならないか心配だったんですが、アンドロイド観音とバーチャルエージェントの対話に聞き入ってしまいました。

 

小川先生:

アンドロイド観音の法話って25分あったんですが、意外と短く感じたでしょう?これは、壁に投影された人と実体のあるロボットのインタラクション、つまり対話を見せるコンテンツだったからです。

 

ほとぜろ:

25分を飽きずに聴くことができました。

 

小川先生:

ということは、今回の取り組みは、ある程度うまく行っているんだろうなと感じています。一方的にメッセージを伝えるのではなく、誰かと誰かが話しているのを見せた方が、その言葉をすごく受け取りやすいという、パッシブソーシャルと呼ばれる現象があるんですよ。今回はその現象を応用しました。

 

ほとぜろ:

確かに、難しいなりに伝わるものがありました。

 

小川先生:

そもそも般若心経は、観音さまが舎利子(しゃりし)という修行者の質問に答える対話が原典。なら舎利子がした質問をバーチャルエージェントにさせ、アンドロイド観音に答えさせてみよう。それが今回試みたことなんです。

あの空間には約50人のバーチャルエージェントがいたのですが、質問をしたバーチャルエージェントにアンドロイド観音が物理的な視線を向けると、バーチャルエージェントの存在感が立ち上がってくる。最終的に観客が、バーチャルエージェント50人の存在感を感じられる空間をつくろうとしたんですよ。

 

ほとぜろ:

実際に体験した方達の反応はどうだったんですか?

 

小川先生:

アンケートを200〜300人分取っていてそれを分析中です。予想とちょっと違う結果も出つつあるんですが、結果は科学論文にまとめて発表しようと思っています。

 

この日は平日にもかかわらずたくさんの人が説話に詰めかけていた(海外からの観光客の姿も)

この日は平日にもかかわらずたくさんの人が法話に詰めかけていた(海外からの観光客の姿も)

進化するアンドロイド観音は対話の夢を見るか?

ほとぜろ:

高台寺での公開は5月はじめに終わってしまいますが、次の公開はありますか?

 

小川先生:

今後の高台寺との相談次第ですが、もしかしたら期間限定でまた公開するかもですね。

 

ほとぜろ:

もしそうなったら内容は進化するんでしょうか?

 

小川先生:

般若心教以外の教えや、子どもにも、楽しんでもらえるコンテンツを作りたいですし、それを通じてさらに深い仮説を検証したいと思っています。

 

ほとぜろ:

今回はバーチャルエージェントが質問しましたが、現実の来客が投げかけた質問にアンドロイド観音が答える、といったことも将来的には実現するんでしょうか?

 

小川先生:

将来的には可能だと思います。ただ、質問の概念理解や音声認識がまだまだ技術的に難しい。でもアンドロイド観音と同時期に、オーケストラの指揮をするアンドロイドを東大の先生と共同開発したのですが、こちらはさらに自律的に、指揮をしていると人間にしか見えてこないという、日常と非現実をつなぐ生命的なアンドロイドを実現することができました。

 

ほとぜろ:

今回のアンドロイド観音は、決められた内容をアンドロイド観音とバーチャルエージェントが演じることで観客の想像力を刺激し、自分の理想の観音さまとあたかも自分が会話しているような錯覚というかコミュニケーションを確立させた、という取り組みだったわけですが…。先生を含め、たくさんのロボット研究者の研究が進むことで、もしかしたら数十年後のお寺には、拝観者とリアルに対話しているアンドロイド観音がいるかもしれませんね。

 

小川先生:

そう思いますね。

 

アンドロイド観音爆誕。大阪大学が仕掛けたヒトとロボットの新しい関係。【前編】

2019年5月28日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

豊臣秀吉の正室、北政所(きたのまんどころ)ねねゆかりの寺として知られる高台寺(京都市東山区)がこの春、世界初の試みとしてアンドロイド観音による説法を行ったのをご存知ですか? 「アンドロイド観音爆誕」とネットを騒がせたこの取り組みに力を貸したのが、人間型ロボットの研究で知られる大阪大学の小川浩平講師。仏教界とロボット工学の最先端が、なぜコラボレートしたのかを伺いました。

 


◉お話を聞いたヒト

小川浩平 先生

大阪大学大学院基礎工学研究科講師。人と自然に共存することができるロボットの開発に取り組む研究者。

人酷似型のアンドロイドロボットを用いた自律システムなどを研究。

 


現代の仏像はアンドロイドであるべきだ!

ほとぜろ:

高台寺でのアンドロイド観音による説法。私も拝見しましたが、機械部分丸出しのボディの観音とプロジェクトマッピングが映し出す聴衆との対話で、般若心経の難しい教えがすんなりと頭に入ってきたのが面白かったです。でもなぜ、アンドロイドで仏像をつくろう、しかもそれで説話をしようということになったんでしょう?

 

小川先生:

きっかけは、高台寺の後藤典生(てんしょう)さんとの話し合いの中で、後藤さんが「今の世の中で新しく仏像をつくるならアンドロイドでしょう」と…。

 

ほとぜろ:

お寺の方がそんなことをおっしゃるとは、びっくりです…!

 

小川先生:

後藤さんが言うには、仏教って教えを伝える方法については柔軟な宗教だと。そもそもブッダの教えの口伝から始まったのがお経になり、ある時「絵にしたらもっと仏教が伝わるんじゃないか?」と考え仏画が生まれた。同じ発想で数百年後にレリーフ、そして3 Dである仏像が出てきた、といわれています。「現代の技術で新しい仏教の伝え方を考えたら、それはロボットでしょう」とおっしゃるわけです。

 

ほとぜろ:

はー、なるほど。もし現代に運慶・快慶が生きていたら、ロボットで仏像を造りたいって言ったかもしれないですよね。

 

小川先生:

高台寺の願いは「アンドロイド観音を通じて、仏教の教えをもっと世の中に広めたい」ということ。でも僕らは研究者ですから、面白いだけでは協力することはできません。今回このプロジェクトを共同研究として立ち上げる決断をしたのは、僕の研究テーマと大いにリンクする部分があったからなんです。

アンドロイド観音誕生の経緯について話す小川先生。研究室にはさまざまなアンドロイドたちもいる

アンドロイド観音誕生の経緯について話す小川先生。研究室にはさまざまなアンドロイドたちもいる

 

ほとぜろ:

先生は、人型ロボットであるアンドロイドの開発や、AIと呼ばれる自律的なロボットや人工知能の研究をされているんですよね。

 

小川先生:

そうですね。でもその目的は人間理解のためのロボット研究なのです。人間と自然に共存できるロボットやその仕組みを作ることで、人間のアイデンティティやコミュニケーションの根元にあるものを探っています。それこそ、心理学とかの知見を入れながら。そうすることでロボットが人間らしさや生命性を獲得していくんだという考え方でロボットをつくっています。

 

ほとぜろ:

人間を理解するためにロボットを…?!

 

小川先生:

アンドロイド観音を造るにあたり、機械むき出しのボディにしたり、男性・女性どちらにも見えるニュートラルな姿にしたのも、「ヒトは想像力で人と関わっている」という僕の仮説を実証するためなんです。

 

ほとぜろ:

んん…?どういうことですか?

全国のALOOK で販売!京都精華大と鯖江のコラボ眼鏡!!(後編)

2016年10月26日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

日本トップの眼鏡生産地として知られる福井県鯖江市。同地に本社を構える(株)ボストンクラブは、メディアにも度々取り上げられるアイウェアのデザインから販売まで手がける会社だ。昨年2015 年より、同社のデザイナーが講師となり学生にアイウェアデザインを教える講座が京都精華大学にて開講。受講1期生17 名のうち3 名の提案が、2016年11月11日より大手眼鏡小売チェーン(株)メガネトップが運営するALOOK、ALOOK by 眼鏡市場(一部店舗を除く)にて販売されることが決まった。ここまでの内容は前編にて詳しく紹介している。後編では、鯖江のプロたちから「商品」を作る厳しさを学んだ、学生たちの姿を紹介する。

眼鏡の聖地・鯖江のプロが、本気で指導

京都精華大学デザイン学部プロダクトコミュニケーションコースにて開講された「アイウェア・デザイン」講座。講師を務めたのは、(株)ボストンクラブの笠島博信氏(取締役・チーフデザイナー)と脇聡氏(デザイナー)だ。

同講座を企画した平田喜大先生(京都精華大学デザイン学部 プロダクトコミュニケーションコース教授)は、「アイウェアは構造が極めてシンプルなのに、身体に直接身に付けることから、人間工学や素材特性、加工技術などの広い知識がデザインする上で欠かせません。インダストリアルデザインに必要な要素が凝縮されたプロダクトだと考え、この講座を企画しました。笠島氏・脇氏は、私が毎年講師として参加している福井県のデザインセミナーを受講されてしており、そのご縁から講師を打診しました」と語る。

このとき、平田先生とデザイナー両名の間で一致していたのが「やるからには本気で教える。企業をお客様扱いしない。アイウェア科目全てを企業が運営する」という想い。このプロの覚悟を学生が受け止めたからこそ、商品化という結果につながったのだ。
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講座では眼鏡の構造から眼鏡と顔の関係、素材についてまでプロがレクチャー。鯖江市を訪れ眼鏡製造現場も見学した。授業の後半では、学生個々がフレームのデザイン案を考え、オリジナルフレームを手作り。ブランディングやプロモーションについても学び販促物も制作した

「これでは売れない」。プロデザイナーとの直球やりとり

商品化につながった「DIGNITY」をデザインした藤田さんは「眼鏡が完成するまで200 以上の製造工程があるとは、学ぶまで知らなかった。いろんな加工があり、だからこそ、商品化は難しい。販売まで、自分のやりたいことをどこまで押し通せるか…制約のなかでどこまで工夫できるか。そこが難しいけれど面白い」と講座や商品化を通じて学んだことを語ってくれた。

「結(yui)」「hanagoromo」をデザインした長谷川さん、北野さんも「商品化までのブラッシュアップで、プロのアイウェアデザイナーである講師の先生方から、何度も『これでは売れない』とダメ出しされました」と告白。売れない理由をプロに指摘される。でもアイデアを捨てたくないから修正案を考える。その熱意がプロを動かし、よりよいデザインへとブラッシュアップできたという。「大変だったけど、社会に出る前にそんな経験ができて、ラッキーでした」と笑顔を見せた。
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商品化決定から1年がかりでブラッシュアップした彼らのメガネは、2016年11月11日より全国のALOOK、ALOOK by 眼鏡市場(一部店舗を除く) にて販売される。小さな眼鏡の中に込められた、彼らの想いやストーリーを、手に取って感じてほしい。

左から、長谷川さん、藤田さん、北野さん、平田先生

左から、長谷川さん、藤田さん、北野さん、平田先生

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