ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

年末大特集 2022年 TOP10記事発表

2022年12月29日 / まとめ, トピック

2022年もまもなく終わり。今年は大学でも対面のイベントや活動が復活してきましたね。今年「ほとんど0円大学」で人気を集めたのはどんな記事でしょう。年末恒例の年間ランキング<トップ10>をお届けします。

※年間PV数(閲覧回数)によるランキング 


10位|京都工芸繊維大の村上久先生にイグ・ノーベル賞を受賞した「人混みでぶつからずに歩ける理由」を聞いてみた。

10 イグノーベル

横断歩道の人混みの中でもぶつからずに済んでいるのは(たまにぶつかることもありますが)、どんなしくみによるのでしょう。認知科学の観点からこの問いにアプローチした先生にお聞きしました。

 

記事はこちら! 京都工芸繊維大の村上久先生にイグ・ノーベル賞を受賞した「人混みでぶつからずに歩ける理由」を聞いてみた。

9位|ウクライナ危機、大学は何を伝えられるか。龍谷大学「ウクライナ情勢を知る映画紹介とミニレクチャー」レポート

9 ウクライナ

ウクライナへの侵攻に対する抗議声明の発出や募金、ウクライナ学生の受け入れなど、全国の大学で支援が行われています。今年3月に龍谷大学が配信したレクチャーと、ウクライナ情勢を知る映画のレポートです。

 

記事はこちら! ウクライナ危機、大学は何を伝えられるか。龍谷大学「ウクライナ情勢を知る映画紹介とミニレクチャー」レポート

8位|研究者の質問バトン(5)宇宙エレベーターは実現できるの?

8 宇宙エレベーター

宇宙までエレベーターで上がっていけるのでしょうか。実現したら楽しそうですが、技術的な課題の克服とともに、人類が地上でいざこざを起こさないことが条件のようです。

 

記事はこちら! 研究者の質問バトン(5)宇宙エレベーターは実現できるの?

 

7位|平等院鳳凰堂に響く天上の音楽を聴く――京都市立芸術大学 オンラインセミナーをレポート

7 平等院

お寺や美術館の静けさの中で向き合うことが多い仏像や仏画。楽器を持つ仏のまわりには音楽があったことを想像すると、見る楽しみが広がりそうです。

 

記事はこちら! 平等院鳳凰堂に響く天上の音楽を聴く――京都市立芸術大学 オンラインセミナーをレポート

 

6位|不思議なキノコの形・生態から毒キノコまで。県立広島大学の公開講座レポート

6 キノコ

日本に生息するキノコは5000種以上。生き物につくキノコ、死んだものにつくキノコ、地味、派手、おいしい、毒、……。一度入ったら出られないキノコの世界へようこそ。

 

記事はこちら! 不思議なキノコの形・生態から毒キノコまで。県立広島大学の公開講座レポート

 

5位|絵文字によるコミュニケーションを研究する 中央大学の高橋先生に話をきいてみた

 5 絵文字

メールやSNSなど、ちょっとした表現の行き違いで誤解が生じてしまった経験をお持ちの方も多いのでは? 絵文字の伝わり方を研究する先生に、くわしいお話をお聞きしました。

 

記事はこちら! 絵文字によるコミュニケーションを研究する 中央大学の高橋先生に話をきいてみた

 

4位|琵琶湖は1年かけて「深呼吸」している? 琵琶湖の生き物を研究する滋賀大学の石川俊之先生に教えてもらった。

4 琵琶湖

湖が “深呼吸”って、どういうこと? 長ーい時間をかけて琵琶湖に酸素が循環しているしくみを、滋賀大学の先生に教えていただきました。

 

記事はこちら! 琵琶湖は1年かけて「深呼吸」している? 琵琶湖の生き物を研究する滋賀大学の石川俊之先生に教えてもらった。

 

3位|SNS発・博士のアイドルグループ!? 「PhD48(仮)」発起人・武田紘樹さんインタビュー

3 博士アイドル

記事公開時のphd48(仮)改め、現在は「博士アイドル化計画」として活動するプロジェクトの発起人、武田紘樹さんへのインタビュー。ちょっと人を食ったような活動名ですが、そのココロは?

 

記事はこちら! SNS発・博士のアイドルグループ!? 「PhD48(仮)」発起人・武田紘樹さんインタビュー

 

2位|研究者の質問バトン(4):宗教はどうして生まれたの?

2 宗教はどうして

宗教の起源には人文学的な立場から研究するのが一般的でしたが、進化生物学の流れを汲んだ学問からのアプローチや、ビッグデータを使った研究などがあるんですね。

 

記事はこちら! 研究者の質問バトン(4):宗教はどうして生まれたの?

 

 

そして、栄えある一位は…

1位|珍獣図鑑(15):水生昆虫の王者!タガメを脅かす意外な敵とその対処法

1 タガメ

体長5~6センチメートルの水生昆虫・タガメ。一見、ふつうの昆虫のようですが、自分より体の大きな獲物に口の針で消化酵素を流し込み、相手の肉を溶かして吸引するというホラー映画のようなことをします。一方、メスが産みつけた卵にオスが定期的に水をかけて世話をするなど、子ぼんのうな一面も。

 

記事はこちら! 珍獣図鑑(15):水生昆虫の王者!タガメを脅かす意外な敵とその対処法

 

* * *

 

トップは本サイトで不動の人気を誇る<珍獣図鑑>からのランクイン。このほか、さまざまな話題をお届けしてきましたが、これからも、みなさまにとってのオモシロ記事を見つけていただければ幸いです。

どうぞよき新年をお迎えください。

 

 <ご参考> 
過去のランキング

2021年版2020年版2019年版2018年版2017年版2016年版

浮世絵をグラフィックデザインの視点で読み解くと? 共立女子大学・共立女子短期大学の講座をレポート

2022年10月25日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

スマホやパソコン、印刷物や街の看板など、わたしたちの日常には広告があふれています。看板、チラシやロゴマークなど、現代の広告の元祖ともいえる宣伝媒体はすでに江戸時代に現れていました。

当時、こうした広告メディアの役割を担っていたのが浮世絵です。浮世絵といえば北斎や広重の風景画や美人画などを思い浮かべますが、浮世絵には開店やセールの告知を目的に描かれたもの、また遊びとして人気を集めた謎解きの絵などもあり、いずれも現代のグラフィックデザインや広告表現に通じるものがあるといいます。

 

グラフィックデザインの視点からこうした浮世絵にアプローチする講座「江戸の文字と絵~グラフィックデザインの視点から読み解く浮世絵~」が共立女子大学・共立女子短期大学で行われ、視聴してみました。講師は共立女子大学家政学部准教授で、デザイン学を専門とする田中裕子先生です。

田中裕子先生  🄫学校法人共立女子学園

田中裕子先生   🄫学校法人共立女子学園

 

今見ても斬新 江戸の広告

200年以上にわたり平和な時代が続いた江戸時代、商工業の発展とともに多様な宣伝物が登場しました。

まずはちょっと目を引く看板をご覧ください。下は京の町の様子が描かれた『洛中洛外図屏風(舟木本)』の一部です。髪を結う人、その向こうに、クシや赤い紐のついたはさみのようなものが描かれたものが見えます(点線内)。

🄫学校法人共立女子学園

🄫学校法人共立女子学園

 

文字が一文字も書かれていませんが、「絵看板」とよばれるものです。髪結い床(理髪店)を表しています。

 

下は、大坂の薬種問屋が江戸に出店したことを知らせる引札(チラシ広告)。腹痛、のぼせなどの薬効や商品名、店の所在地などが書かれています。

🄫学校法人共立女子学園

🄫学校法人共立女子学園

 

絵の左右に、小さな屋根の下に商品名の入った看板が描かれています。店頭に柱を立てて掲げる「建て看板」とよばれるもので、遠くからでもお店があるとわかります。公道に柱を立てるため幕府の許可が必要で、メンテナンス費用もかなりかかったとのこと。この店は看板だけでは足りずに、引札を刷って宣伝していたというわけです。

 

引札はもとより宣伝を目的としていますが、中には美人画に便乗した広告もあったようです。下は『大丸屋前の三美人』(歌川国貞画)で、店の商標(ロゴマーク)が染め抜かれたのれんを背に、当時の最新ファッションの江戸小紋を着た芸者が描かれています。

🄫学校法人共立女子学園

🄫学校法人共立女子学園

 

大丸呉服店は当時の江戸を代表する大店。「店の軒下にかかる暖簾に白抜きロゴマークがきわだち、力強い書体と着物の細かい柄とのコントラストが見事」「ロゴマークと美人の重なり具合も絶妙」と田中先生。のれんのすき間からは店の奥で反物を売っている様子が見え、美人画ではありますが「実質は新商品の宣伝」(田中先生)。大丸呉服店と浮世絵の版元が提携し、制作費を折半して作られたと考えられています。

元祖・推しアイテム

浮世絵で美人画とならんで人気だったのは、歌舞伎役者の絵です。江戸時代、役者などの胸から上の部分をドーンと誇張して描いた大首絵が人気になりますが、その元となったと考えられているのが、下の「扇絵」と呼ばれるもの。歌舞伎役者の上半身が描かれています。

🄫学校法人共立女子学園

🄫学校法人共立女子学園

 

線に沿って切り抜き、扇にできるほか、屏風やふすまに貼ってインテリアとしても楽しむことができます。作者の勝川春章は葛飾北斎の師匠でもあった人。春章の扇絵はそれまで定型的に描かれていた役者の個性をとらえ、半身像として描いた点が画期的だったといわれています。

 

これに似たものとして、うちわに人気役者が描かれた「団扇(うちわ)絵」も見せていただきました。

🄫学校法人共立女子学園

🄫学校法人共立女子学園

 

現代の人が推しのコンサートに持参するうちわの元祖でしょうか。現代人と変わらぬミーハーぶりが興味深いです。

江戸のマルチクリエイター

こうした広告や推しアイテムは、浮世絵師が今でいうデザイナーやイラストレーター、戯作者(小説家)がコピーライターのような役割で制作されましたが、中には自分の店の商品やラベル、包装紙などをデザインし、店全体をプロデュースするアートディレクター兼マルチクリエイターのようなことをしていた人もいました。それが山東京伝という人です。

山東京伝は絵師でしたが、小説などの読み物を出版して人気作家となり、現在の銀座一丁目でキセルと紙たばこの入れ物を売る店を経営していました。京伝が自らデザインする煙草入れのデザイン、ラベル、包装紙やチラシなどは「京伝好み」と呼ばれ、評判のブランドだったようです。

 

たとえば下は、京伝によるチラシ(引札)です。しかし、ただのチラシではありません。絵と文字がまじった「謎絵」入りのチラシです。

🄫学校法人共立女子学園

 

さて、この意味するところは? 冒頭の読み解き方を教えていただきました。

下図の赤枠内、上の方に浮いて見える黒っぽいものは錠前、その下で煙を上げているのは香炉です。

🄫学校法人共立女子学園

 

煙の左側にレ点(返り点)がついているので、錠前と香炉をひっくり返して「口上(コウジョウ)」。一行目は「はばかりながら口上」、次の行は「まずもって おのおの様 ますますご機嫌よく…」と続きます。

書かれている内容は商売繁盛のお礼と今後の贔屓を願うものですが、これで商品を包装して客に配ったところ、引札欲しさの客が殺到したそうです。

 

18世紀の江戸の識字率は同時代の他の国の都市と比べても高く、70%を超えていたといわれます。寺子屋が普及していて文字を読める人が多かったことが、さまざまな広告があふれていた背景にあるようです。

脱力必須 「遊び絵」の世界

講座の後半は「江戸の文字絵と遊び絵」を紹介いただきました。文字絵は「へのへのもへじ」でおなじみですが、絵文字は絵で文字を表現するものです。下の参考画像では猫がいろんな恰好をして文字を形づくっています。

🄫学校法人共立女子学園

🄫学校法人共立女子学園

 

自然に描かれていて感心します。一方、人間がちょっと無理のあるポーズで表した絵文字も見せていただきましたが、それはそれで「こんなポーズ、人間にはできない」という感じで笑えます。

 

遊び絵には、なぞなぞに仕立てられたものもあります。「判じ絵」とよばれるもので、たとえば下の『江戸名所はんじもの』(歌川重宣)では、絵で江戸の地名をあらわしています。

🄫学校法人共立女子学園

🄫学校法人共立女子学園

 

いくつか読み解き方を教えてもらいました。

(図の上)カサに「あ」と「か」の字が書かれています。

(右下)輪の内側に「ふ」の字が書かれた将棋の駒。そして蚊が二匹描かれています。一匹には濁点「゛」がついています。

(中央下)葉が四枚、それぞれ濁点「゛」がついています。

 

答は、出てきた順に「あかさか(赤坂)、ふかがわ(深川)、しば(芝)」。

 

さらに力の抜けそうな判じ絵がぞくぞくと登場しました。

下も江戸の名所案内図で、真ん中の円は江戸城にあたります。

🄫学校法人共立女子学園

 

いくつかの絵を見てみます。

🄫学校法人共立女子学園

🄫学校法人共立女子学園

 

江戸城のそばに象が描かれています。体の半分は門から出ています。

半蔵門です。

 

その少し上を見ると

🄫学校法人共立女子学園

🄫学校法人共立女子学園

 

左上の方では、板が川に浮いているようです。

その右下には、開いた本と、煙の上がる香炉が。

 

答は、順に「板橋、本郷」です。

こういった具合で、際限なく楽しめるつくりになっています。

 

こうした遊び絵は庶民の間で大流行。判じ絵など浮世絵一枚の値段はかけそば一杯分くらい(300~500円)で、版元(今でいう出版社)と関わりのある書店で売られ、町人から殿様まで老若男女が購入できたそうです。

 

今回紹介された浮世絵はメリハリの効いたデザインが小気味よく、とくに遊び絵は描く人自身が面白がって描いていることがうかがえて痛快です。インパクトがあって人を楽しませる江戸の浮世絵、そしてクリエイターの才能と遊び心に脱帽です。

 

宝塚歌劇を音楽の視点で見てみると? 元タカラジェンヌが語る 甲南女子大学の講座をレポート

2022年10月13日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

みなさんは宝塚歌劇をご覧になったことがあるでしょうか。独特の世界でファンを魅了し、コロナ前の2019年度には年間320万人の観客を動員するほどの人気ですが、音楽に焦点を当てて語られる機会はあまりないように感じます。

「宝塚歌劇の音楽」とはどのようなものか、元タカラジェンヌと演劇評論家を講師に迎えて行われた甲南女子大学のオンライン講座「宝塚歌劇特別講座 音楽の視点から」を聴講しました。

(写真左より)薮下先生、草笛さん、永岡先生

(写真左より)薮下先生、草笛さん、永岡先生

 

講師は元雪組娘役で、舞台を中心に活躍する草笛雅子さん、そして甲南女子大学「宝塚歌劇講座」元担当講師で映画・演劇評論家の薮下哲司先生。司会進行は「宝塚歌劇講座」担当講師で羽衣国際大学准教授の永岡俊哉先生です。

はじめに薮下先生より、宝塚歌劇の創立時から現在に至るまでの音楽の変遷を紹介いただきました。

プールの水を抜いて劇場に 奇抜なアイディアの深層

宝塚歌劇団を創立したのは、阪急電鉄の創業者、小林一三(いちぞう)です。当時の会社名は「箕面有馬電気軌道鉄道」で、その名の通り有馬温泉まで電車を走らせる計画でしたが、資金難などにより断念。電車の乗客を増やすため、宝塚に日本初の室内プールを開業しますが「水が冷たい」と不評で、劇場に転用したのがはじまりだったといいます。

このプールの構造が、実はかなり個性的です。『小林一三は宝塚少女歌劇にどのような夢を託したのか』(伊井春樹著)によると、室内プール開業時の宣伝に「浅い所は二尺、深い所は八尺、大人でも小児でも自由に泳げる」とあり、水深が60cmから2.4mと、その差が1.8mもあります。かなり変わった形のプールですが、劇場の客席として考えてみると、舞台に向かって適度な傾斜があって、ちょうど良さそうです。

 

当時の新聞記事には「冬期は水槽の上一面に蓋を覆いて客の座席に(中略)劇場と公会堂と混合のものに早替わりする設計」(『大阪朝日新聞』1911〔大正元〕年6月3日)と紹介されていて、はじめから劇場として使うことが意図されていたようなのです。

「プールの水を抜いて劇場にしたのではなく、逆に劇場に水を入れてプールにも用いていたのだ」と前書の著者は記しています。まったく驚きです。

温泉の余興の域を超えていた『ドンブラコ』

大正3(1914)年4月、宝塚少女歌劇(宝塚歌劇団の前身)の第1回公演が宝塚新温泉のイベントの余興として行われます。初舞台で歌劇『ドンブラコ』や舞踊を披露したのは12~17才の少女17名。

舞台経験のない彼女たちを指導するため、一三が招いた顔ぶれはそうそうたるものでした。東京音楽学校(東京芸術大学の前身)出身の安藤弘、智恵子夫妻に器楽演奏、声楽など当時の最先端の音楽指導を依頼。そのほか舞踊などにも一流の指導者を招き、「余興」「無料で見れる」と思ってやってきた観客は、思いがけず本気で鍛えられた歌と踊りに接することになります。

 

『ドンブラコ』は桃太郎を題材にした歌劇で、素朴な旋律ながらソプラノ、アルト、テノール、バスのパートにわかれたものとなっています(女声のみの場合はソプラノ2声とアルト2声)。※楽譜は下記リンク先(別ウィンドウが開きます)

『オトギ歌劇ドンブラコ - 桃太郎 - 国立国会図書館デジタルコレクション』

 

ちなみにこの頃は、男性役が男っぽく低く発声するということもなく、声域を変えずに歌い、演じていたそうです。

〈すみれの花咲くころ〉のふるさと

『ドンブラコ』から10年あまり後の1927〔昭和2〕年、日本初のレビュー『モン・パリ』が上演されます。レビューとは音楽と歌にダンスあり芝居あり、スピーディーに場面転換するショーのこと。大階段やラインダンスも出現した華やかな舞台は観客を驚かせ、主題歌は大ヒット。レビュー黄金期の幕開けとなります。

 

この頃のレビュー作品『パリゼット』(1930〔昭和5〕年)の主題歌は、今も宝塚歌劇団のテーマ曲として親しまれる〈すみれの花咲くころ〉です。もとはドイツ人作曲家による曲で、この曲をモチーフにした映画では男性俳優が気楽な感じで歌っています。

 

●参考動画(原曲が歌われている映画の一部)

『再び白いライラックが咲いたら』(原題:Wenn der weiße Flieder wieder blüht )1953年

https://www.youtube.com/watch?v=blFcpP4qzMc (別ウィンドウが開きます)

 

レビューの時代(1930年代)は現在のように男役と娘役がはっきりと区別されるようになった時代でもあり、男役が低い地声で発声するようになります。

 

戦前はこうした外国曲や既成の曲が主流でしたが、戦後になると宝塚歌劇オリジナルのヒット曲が生まれます。ブームを巻き起こした『ベルサイユのばら』(1974〔昭和49〕年)など、男役トップスターの声域を熟知した劇団専属の作曲家が、その人の声が一番よく出る音域にメロディをのせて曲を作っていたそうです。

発声方法をどうするか?

「宝塚歌劇の音楽に劇的な変化をもたらした」と薮下先生が指摘するのが、ウィーン発のミュージカル『エリザベート』(1996〔平成8〕年)です。こうした海外発の本格的なミュージカルの場合、実際に男性が歌っていたパートを女性がどう歌うかという課題が出てきます。

 

歌い方について、元タカラジェンヌの草笛雅子さんより詳しく解説いただきました。草笛さんは宝塚音楽学校に首席で入学し、宝塚歌劇団在籍中は雪組で活躍。宝塚歌劇を退団後、劇団四季に入団したときに、いちばん強く感じたのが発声法の違いだったそうです。

発声法を解説する草笛さん(左)

発声法を解説する草笛さん(左)

 

宝塚歌劇は地声と裏声をチェンジする(切り替える)歌唱法であるのに対し、劇団四季は低音から高音までチェンジ無しで歌う「ミックスボイス」とよばれる歌唱法。宝塚歌劇で身につけたものをいったん白紙に戻さなければならず、それがとても大変だったそうです。

草笛さんはその後ミックスボイス唱法を習得しますが、西洋人と東洋人では発声方法がちがうことに気づき、香港にわたって京劇を学びます。京劇の発声方法から、日本人が体のどの部分をどのように使って歌えばよいのか体得していったそうです。

 

そのベースには、言語や体格からくる発声方法のちがいがあります。日本語は口をほとんど開けず、表情筋を使わなくても話せるのに対し、例えばイタリア語は舌のつけ根のあたりで発語し、あちこちの筋肉を動かして音を響かせる言語。日本語を話す日本人とは大きな違いがあります。

歌い方に「これが正解」というものはありませんが、日本人に合ったミックスボイス唱法であれば、低音から高音まで無理をせずに出すことができる、という草笛さん。「宝塚歌劇でも、ぜひこうした歌唱法も取り入れてもらえたら」とのお話でした。

実演もまじえて解説

実演もまじえて解説

 

現在の宝塚歌劇ではオリジナル作品から海外ミュージカルまで、多彩な作品が上演されています。次にタカラヅカを見に行く機会があれば、楽曲や歌い方に注目してみるのも面白そうです。

 

3年ぶりの対面開催も。大学祭や一般向けイベントで楽しむ秋の自然

2022年10月11日 / まとめ, トピック

天高く馬肥ゆる秋。空と海と山へのあこがれがつのる季節です。

今回は秋の大学祭など、自然と親しめそうな催しをピックアップしました。今年は3年ぶりに大学祭を対面開催するところも多く、現地ならではの楽しみも復活しそうです。

 

「三鷹・星と宇宙の日 2022」

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国立天文台、アストロバイオロジーセンター東京大学天文学教育研究センター、総合研究大学院大学天文科学専攻が共同で開催するイベント。施設公開、ミニ講演、実験、工作など親しみやすいものから最新の研究成果の紹介など専門的な内容まで触れることができます。

現地開催は事前申込・定員制で、申込み期限は10/14(金)正午まで。興味のある方はお早めに!

・開催日時:10月28日(金)19:00~20:00、29日(土)10:00~17:00

https://www.nao.ac.jp/open-day/2022/

 

東京海洋大学「海鷹祭」

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「海鷹図鑑~海洋大の先生が大集合~」にはタコの生態を研究する先生、サバにマグロを産ませようと研究する先生などが登壇し、海洋大学ならではのお話が聞けそう。対面での開催で、事前抽選への申し込みが必要。(抽選期間:10月20日(木)12:00~10月28日(金)12:00)

・開催日時…11月4日(金)、5日(土)、6日(日)

https://umitakasai-kaiyo.net/

 

京都大学「11月祭」

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対面とWeb上でのハイブリッド開催。この時期のキャンパスは銀杏が美しく、キャンパス内の自然も一見の価値あり。対面で宇宙や平和に関する講演のほか、映画やフリーマーケット、古本、古レコード市なども。来場には事前予約を。

・開催日時…11月19日(土)~22日(火)

https://nf.la/#/

 

東京農業大学「収穫祭(世田谷キャンパス)」

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こちらも約3年ぶりの対面開催で、模擬店では野菜を始めとした即売店も。農大らしい収穫祭になりそうです。来場にはチケットが必要。申し込み期間は10/14(金)まで。

https://harvest-fes.com/

・開催日時…10月28日(金)~30日(日)

 

 「収穫祭(厚木キャンパス)」

https://www.atsugifes.com/

構内での飲食はできませんが、はちみつ、野菜、ハム、植物加工品、ハーブ、ジャムなどの即売店が出店し、おいしい農大を満喫できそうです。来場予約については、大学HPなどで確認を。

・開催日時…10月29日(土)、30日(日)

 

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酷暑から解放されて、ほっと一息。キャンパスの自然、食と文化に気軽に触れることができるイベント、近場で探してみるのもよさそうです。

事前申込み制のイベントも多いので、事前チェックをお忘れなく!

 

化粧と「触れるケア」の秘めたる効果 化粧療法の話を武庫川化粧品イノベーションセンターで聞く

2022年9月29日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

化粧をすることで気持ちが前向きになったり、「さあ、出かけよう」と気持ちが切り替わったり。外見によって気持ちにも変化が起こることは、多くの人が経験することだと思います。

メークやスキンケアを通じて心身の健康の維持・向上をめざす化粧療法のお話を、武庫川女子大学武庫川化粧品イノベーションセンター(M-COSMIC)の市民講座で聞いてきました。

 

今回の講師は武庫川女子大学客員教授の谷都美子先生です。谷先生は化粧品会社で営業、美容研究、商品開発やマーケティングなどに従事。2014年より化粧療法に取り組んでおられます。

講師紹介

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谷 都美子 武庫川女子大学薬学部 健康生命薬科学科客員教授

(一社)日本介護美容セラピスト協会代表理事、(一社)日本化粧医療学会理事、化粧医療専門士、化粧医療アンバサダー。

 

まずは、化粧療法とはどういうものか?というお話から。

化粧というと、ふだんの生活で一般の人がする化粧や、プロのメーキャップアーティストが俳優やモデルにするような化粧を思い浮かべますが、ほかにもいろいろな種類があります。

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*講座スライドをもとに作成

 

これらはすべて化粧療法に分類されるのですが、谷先生が取り組んでいるのは主に高齢者施設などで行われる介護美容です。外見を整えると自分に自信をもち、人と積極的に関わりたくなったりするのは、介護美容を利用する方も同じ。表情が明るくなり、コミュニケーションへの意欲が高まります。 

気持ちも装う化粧は「気粧」

外見は、その人の内面にも大きな影響を与えていると言えそうですが、どのくらい気になるものなのでしょう。

65歳以上の高齢者(男女)を対象に行われた調査「高齢者が気になること」(特定非営利法人 老いの工学研究所、2017年)によると、高齢男女が気になることの1位は「身体能力の衰え」、2位が「認知症」で「外見の衰え」は5位。一方、女性だけに限定すると「外見の衰え」と答えた人は2位で、1位の「認知症」に次いで多い結果となっています。 

男性と比較すると、女性は外見を気にする人がより多く、その分キレイになったときの心の変化も大きいようです。

化粧療法の「ビフォーアフター」の写真を見せていただくと、効果は一目瞭然です。

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肌や唇の色が明るくなるだけでなく、表情が別人のようにイキイキと変化しているのに驚きます。「今さら化粧なんて」と最初はしり込みしていた方からも、実際に化粧をすると「気分がいい」「コロッと気持ちが変わる」「最高!」などの感想が聞かれるとのこと。「化粧は気持ちを装う『気粧』」という先生の言葉に納得です。 

きれいな色、香り…、化粧で楽しくリハビリ

こうした化粧は、介護や美容についての訓練を受けた資格をもつセラピストが行いますが、「すべてプロにおまかせというわけではなく、本人も考えたり手を動かしたりして参加します」と谷先生。

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口紅やチークなど「どんな色がいいですか?」と問いかけて好きな色を考えてもらい、できる範囲で手を動かしてもらうそうです。

 

突然ですが、クイズです。認知症予防に一番効果的な化粧は、次のどれだと思いますか?

①ファンデーション ②チーク ③アイメーク ④眉 ⑤口紅

 

会場では多くの人の手が「口紅」で挙がったのですが、正解は「眉」。眉を左右対称にきれいに描くには、集中力や、眉墨を持って正確に動かす指先の力が必要。思考や判断をつかさどる脳の前頭葉も活性化します(眉以外の化粧にもその効果はあります)。

日常的に化粧をすることで、たとえば容器のキャップを開けられなかった人が開けられるようになるなどのリハビリ効果も期待できるそうです。

 

調査データもいくつか見せていただきました。下図の左側のグラフは、週1回の化粧療法を3カ月間続けたときの免疫力の変化をあらわしています。

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出典:日本免疫学会発表 宇野・谷

 

免疫力が上昇するほか、食欲や睡眠の質が改善、高齢者うつが少なくなる、さらに人間関係がよくなるなどの効果もみられます。谷先生はつねづね「美容は美だけでなく、健康につながる」と主張しているそうですが、それがよくわかる結果です。

人間は中身が大事とも思いますが、人が他人と出会ったときにまず見るのは、やはり顔。顔という自分の看板に自信をもつことで何かと調子が良くなるという話を聞くと、人間って社会的な生き物なんだな、と改めて感じます。

「触れるケア」の効果に注目

化粧をするときは相手の顔に触れることになりますが、顔は他人に触れられることに抵抗を感じるプライベートゾーン。「いきなり顔に触れることはせず、抵抗を比較的感じにくい腕にやさしく触れて、心を開いてもらってから顔の化粧を行います」(谷先生)。

やさしく触れることで痛みや不安をやわらげ、気持ちを落ち着かせる「触れるケア」はエビデンスのある技術で、認知症の緩和ケア、がんの緩和ケア、障害児医療、ストレスケアなど多岐にわたり活用されているそうです。

谷先生も、東日本大震災の被災地で2012年から5年間にわたり約6400人にハンドマッサージのケアをされています。

ハンドマッサージの様子

ハンドマッサージの様子

 

ハンドマッサージを利用した人の感想は「難しいこと抜きに気持ちよかった」「心までほんわかした」「距離が縮まった」など。肌と肌のふれあいによるコミュニケーションは相手の心に寄り添い、悲しいときや傷ついたときの心の支えになります。

触れ方のコツは?

触れるケアでの気持ちいい触れ方とは、どのようなものでしょう。講座では、触れ方のコツも教えていただきました。

まずはアイコンタクト。そして、プライベートゾーンから離れた、触れられても抵抗が少ない部分に触れます。まず肩からひじにかけて触れながらコミュニケーションをとり、手や顔に触れます。

 

谷先生によると、気持ちいいと感じてもらうのに大切なのは「ゆっくりと」触れること。一秒に4~5cmくらいのゆっくりとしたスピードだと副交感神経が優位になって心が落ち着きますが、一秒に10cmの速さだと交感神経が優位になり、落ち着かなくなってしまいます。

ゆっくりと触れると、皮膚の神経線維(「C触覚繊維」とよばれる)が反応し、オキシトシンが分泌されるそうです。オキシトシンは「愛情ホルモン」「幸せホルモン」ともよばれるホルモンで、母性行動の促進、痛みや不安の軽減、愛着・愛情形成などのはたらきがあります。

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前腕や顔など産毛の生えているところにはC触覚繊維が多く、ストレスを感じたときなど、自分でなでるようにしても気持ちが落ち着くそうです。

 

小学校でも授業にハンドマッサージを取り入れているところがあり、コロナ禍でいら立っていた子どもが落ち着いたり、親子でハンドマッサージをして元気になったりという効果があるといいます。もともと元気な人でも気持ちが軽くなる効果があり、「言葉だけでなく、身体を通じて思いやりやつながりを感じられるところが大切です」と谷先生。

化粧で外見を美しくすることや、肌に触れるコミュニケーションが心身の健康につながる。ふだんの生活でも、自分自身や身近な人のためにできることが増えそうです。

 

色は世につれ、世は色につれ ファッション・カラーにみる時代の移り変わり――共立女子大学・共立女子短期大学の公開講座をレポート

2022年8月25日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

 

「歌は世につれ、世は歌につれ」ということわざがありますが、色もまた、時代を反映したものが流行し、その時代のムードが色に影響を受けることがあります。私たちに最も身近な装いの色(ファッション・カラー)を通して時代ごとの変化を視覚的に考察します。――そんなテーマで行われた共立女子大学・共立女子短期大学による公開講座『江戸・東京の色彩~ファッション・カラーにみる時代の移り変わり~』に興味をひかれ、聴講してみました。

 

講師は共立女子短期大学教授の渡辺明日香先生。渡辺先生は、1990年代よりストリートファッションの定点観測に基づく現代ファッションの研究をされています。今回の講座では、ファッション・カラーと時代の移り変わりとの関係を、江戸時代から令和の現在、そして少し先の未来まで考えます。

講師プロフィール

🄫学校法人共立女子学園

🄫学校法人共立女子学園

渡辺 明日香 共立女子短期大学生活科学科 教授

専門は現代ファッション。1994年より、ストリートファッションの定点観測に基づき研究を行う。著書に「ストリートファッション論」(産業能率大学出版部)、「東京ファッションクロニクル」(青幻舎)、「時代をまとうファッション」(NHK出版)など。

時代を映すファッション コロナ禍では?

まず最近の状況に目をむけてみると、例えばファッションブランドが集積する表参道や明治通りではコロナ禍で閉店したお店も多い一方、一歩奥に入った通りには古着屋がたくさんできているそうです。古着はリーズナブルでほとんどが一点物、色彩もちょっとくすんでレトロな雰囲気のビンテージカラーが主流。ファストファッションをどんどん買ってどんどん消費するという仕組みではない、新しいファッションの装い方を若者は模索していると先生はみています。

🄫学校法人共立女子学園

🄫学校法人共立女子学園

 

コロナ禍では「消えそうな色コーデ」「カフェオレコーデ」と呼ばれる配色、また清潔を感じさせる「白」も支持されました。

色のトレンドを発信する「日本流行色協会(JAFCA)」が2020年末、来たる2021年のムードを象徴するテーマカラーとして選んだ色は「白」。白は清潔感、潔白、明るさなどともに「白紙に戻す」など、はじまりを示す色ということで選ばれました。

あいにくコロナ禍は長引いていますが、新たなはじまりへの希求は誰もが抱いているところではないかと思います。

権力に屈しない心意気 江戸っ子の「いき」と流行色

現代のファッションにはあらゆる色があふれていますが、むかしはどうだったのでしょう。

染織産業が発展した江戸時代、藍染めの藍色や友禅染などの華やかな色彩とともにこの時代の色を特徴づけているのが、茶色や鼠色などの渋い色目です。

参考:『大江戸の色彩』城一夫(青幻舎)を元に作成

参考:『大江戸の色彩』城一夫(青幻舎)を元に作成

 

上は「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃ ひゃくねずみ)」とよばれる色の一部です。四十八や百は文字通りの数ではなく「たくさん」という意味で、実際には茶系、鼠色系ともに100以上の種類があるとのこと。そのバリエーションの豊かさには驚きます。「奢侈禁止令」や「倹約令」など幕府によってたびたび出された衣服の素材や色や柄に関する規制の下で、着用をゆるされた茶色や鼠色への感覚は繊細さをきわめていったようです。

 

表地にはこのような地味な色を用い、表から見えない裏地に着用を禁じられた紫や紅色を用いるといったことも行われていました。お上の締め付けにやすやすとは屈しない、江戸っ子の「いき」です。

色とは何より生ずるや ~明治時代の色彩学教育

西洋化の波がおしよせた明治時代、洋装化が政府主導ですすめられます。鹿鳴館では洋装が推奨され、女子学生には活動しやすい海老茶袴が普及。ファッションの和洋折衷時代のはじまりです。

 

急激な西洋化政策は教育においても同じ。明治維新から間もない明治6(1873)年、色彩を学ぶ科目が小学校教則に盛り込まれます。

「問う 色とは何より生ずるや」 「答 太陽の光より生ずる」 

…といった問答形式で展開する「小学色図問答」という当時の教材では、ニュートンのプリズムによる分光などもあつかわれています。

寺子屋から改造されたばかりの小学校にこのような教育内容が導入されていたとは驚きですが、なじみのうすい科学的な理論を浸透させるのは難しかったようで、わずか 8 年後には色彩に関係する教育内容そのものが小学教則(教育課程)から姿を消し、再び教育の表舞台に現れるまでに長い年月がかかっています。

流行色を名付けていた与謝野晶子

衣料の色は長らく天然染料(草木染め)で染められてきましたが、19世紀の半ばに化学染料がイギリスで発明され、日本でも明治から大正にかけて化学染料の普及による色彩革命がおこります。

流行色命名直筆メモ 与謝野晶子 1936(昭和11)年 髙島屋史料館所蔵

流行色命名直筆メモ   与謝野晶子 1936(昭和11)年 髙島屋史料館所蔵

 

「木の間緑」「月の出色」「花あふひ」……。上の手書きメモは、歌人の与謝野晶子が流行色を命名するにあたって書いたものです。

大正2年(1913)年、髙島屋は与謝野晶子や堀口大學ら文化人を顧問に迎え、毎回テーマと流行色を提示する呉服催事を始めます。晶子は流行色を命名したり、色やきものに関連した歌を詠んだり。それがパンフレットに掲載されたりしました。

明治の後半から大正期にかけては、髙島屋や三越などの呉服店が次々と百貨店へと業態を転換していった過渡期にあたります。百貨店が自社のPR誌などを発行し、流行を創出する時代の幕開けでした。

 

下は1927(昭和 2)年、晶子が命名した春の選定色「青海波(せいかいは)」の歌です。

宣伝用とはいえさすがに香り高く、「佳き藍」と歌われるきものを手にとってみたくなります。晶子による流行色の命名は大正8(1919)年から昭和15(1940)年まで続き、その数は286色にのぼりました。

アパレル、家電製品、はてはレコードまで 流行を創出する一大キャンペーン

昭和に入り、戦時中の色を失った時代を経て、戦後は映画の影響を受けたシネモードなどが流行。昭和28(1953)年には、色のトレンドを選定・発信する日本流行色協会が発足しています。

高度経済成長期の昭和37(1962)年、日本流行色協会が発表した色は「シャーベットトーン」。

「シャーベットトーン」のカラーパレット 提供/一社・日本流行色協会(JAFCA)

「シャーベットトーン」のカラーパレット 提供/一社・日本流行色協会(JAFCA)

 

1950年代よりポリエステルやナイロンといった合成繊維の生産が始まり、1960年代に量産されるようになりますが、当時の技術では鮮やかな色には染まらず、上の画像のようにちょっとくすんだ色になっていました。それを「クール」「ひんやりがおしゃれ」と銘打ち、合成繊維メーカーを中心に、業界をまたいだキャンペーンがくりひろげられたのです。

キャンペーン参加企業は化粧品会社(シャーベットトーンの口紅)、電機メーカー(シャーベットトーンの電化製品)、百貨店(シーズンのファッションカラー)など50社以上。菓子メーカーは(本物の)シャーベットを発売し、レコード会社は「私のシャーベット」という歌まで売り出すという大々的なものでした。

 

好みが多様化した現代では想像しづらいことですが、1960年代にはこのような大規模なカラーキャンペーンが盛んにおこなわれたそうです。

未来をどんな色で描くか

🄫学校法人共立女子学園

🄫学校法人共立女子学園

 

オイルショックの影響を受け濁色が流行した1970年代、目まぐるしく流行色が生まれた1980年代をへて、バブル崩壊。1990年代はカジュアル化がすすみ、ストリートからうまれる「リアルクローズ」が登場。自分の好みで複数のブランドや色、着こなしをくみあわせるなど、多様化していきます。

2000年代は高級志向とファストファッションへの二極化がすすみ、2010年代はSNSから流行が生まれるように。そして現在のコロナ禍へと続きます。

 

未来は、どのようになるのでしょう。少し先の未来の色彩空間の一つのヒントとして、映画を一つ紹介いただきました。「竜とそばかすの姫」という2021年のアニメーション映画で、インターネットの仮想世界を舞台にした少女の成長を描いたものです。

 

参考動画

東宝MOVIEチャンネル『竜とそばかすの姫』予告2【2021年7月16日(金)公開】

https://youtu.be/KNynvdKvLc8

 

仮想世界や SNSの色彩というと、非常に鮮やかで輝度の高い色をイメージしがちですが、この映画ではやや彩度を抑えた色使いになっています。少し先の未来に対するイメージのようなものが、少しトーンダウンしているところがこの作品の特徴だと先生は見ています。

 

「身体をはなれたファッション」「アイデンティティと色彩との結びつき」も未来の色のキーワードとして挙がりました。メタバースなどの仮想空間では、自分の年齢や性別など身体の制約から解放されたファッションや色彩を楽しめるようになるというものです。

現代の日本は過去のどの時代よりも自由に色を選べる時代だと思いますが、もって生まれた肌や髪の色、気候風土や文化の影響を感じることもあります。さまざまな制限がはずれた仮想空間で、どんな色をまとうのか。案外、言葉よりもわかりやすく自分を語ってくれるかもしれません。

 

「水のような、空気のような書体を作りたい」 書体設計士・鳥海修さんの話を成安造形大学で聞く

2022年8月9日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

駅の看板やスマホ、パソコン、本や新聞など、私たちが毎日のように接している文字。ふだん意識することはないが、一文字ずつ、人の手でデザインして作られている。

これまでに100以上もの書体開発にかかわってきた書体設計士の鳥海修(とりのうみ おさむ)さんも、文字を作る人だ。

鳥海さんが開発した書体「游明朝」「游ゴシック」「ヒラギノ明朝」「ヒラギノゴシック」などはMacとWindowsの二大OSに搭載され、Webや書籍、雑誌、高速道路の看板などでも目にすることができる。きっと多くの人が、意識することなく接しているだろう。

 

ほとんど作り手の意図を感じさせないようなたたずまいで知識や情報や知恵を伝える媒介となる、そんな書体を作る人は日々どんな思いで文字と向き合っているのだろう。

鳥海さんによる講演「インフラとしての文字」が成安造形大学(滋賀県)で行われ、聴講させていただいた。梅雨が明けてまもない猛暑の日、学生と一般の方あわせて約70名が会場で耳をかたむけた。

講師プロフィール

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鳥海 修 1955年山形県生まれ。多摩美術大学卒業。79年株式会社写研入社。89年に有限会社字游工房を鈴木勉、片田啓一の3名で設立。株式会社SCREENグラフィックソリューションズの「ヒラギノシリーズ」、「こぶりなゴシック」などを委託制作。自社ブランドとして「游書体ライブラリー」の「游明朝体」、「游ゴシック体」など、ベーシック書体を中心に100書体以上の書体開発に携わる。

「活字の元」の衝撃

まずは、鳥海さんと文字デザインとの出会いのお話から。

鳥海さんは山形県遊佐町の出身。まわりに田んぼが広がる風景の中で育ち、車が好きだった鳥海さんは車のデザイナーをめざすようになる。美大のプロダクトデザイン学科を受けるが不合格となり、グラフィックデザイン学科に進学。だがグラフィックデザインには、「申し訳ないけど、まったく興味がなかった」という。

3年生のときに文字デザインの授業を選択したのも、文字デザインが好きだったからではなく1、2年生のときもやっていたレタリングで単位を取れそうだから、という理由だった。

 

文字デザインの授業では、当時TBSテレビでテレビ番組のタイトルを書いていた先生に連れられ、寄席文字を書く橘流家元の橘右近(たちばな うこん)など、文字を職業としている人たちのもとを訪れることがあった。

一番影響を受けたのが毎日新聞社だった。毎日新聞社に行くと、隅の方できれいなレタリングをしている人がいて、一文字8cmから10cmのカタカナを書いている。何をするための文字かわからず聞いてみると、「活字の元だよ」と答えてくれた。

 

今でこそ、パソコンにさまざまなフォントが入っていて活字は身近な存在になっているが、当時は鉛でできた金属活字と、写植(写真植字…ネガ状の文字を印画紙に印字する技術)しかなかった時代。金属活字や写植を扱うのは専門の業者で、一般の人が扱ったり目にしたりするものではなかった。

 

それまで新聞や本の文字が「人の手で作られている」と考えたことが無かった鳥海さんは、レタリングの文字が「活字の元」と聞いて、頭が混乱する。個性や自己主張のようなものをグラフィックデザインに感じていた鳥海さんにとって、新聞や本で目にする活字が人の手でデザインされていると知ったときの衝撃は大きかった。

 

その時、毎日新聞社に小塚昌彦という人がいた。のちに「小塚明朝」などの書体を作った人だが、その人が言ったひとことが、鳥海さんの進路を決定づけた。

「小塚さんが、『日本人にとって、活字は水であり、米である』と言ったんですよ。その言葉を聞いたときに、私は『これ、やりたい』と思ったんです。そのときから今にいたるまで、私はそれ(活字)しかやっていない」。

「落ちても入るつもりだった」文字を作る会社

誰が作ったかわからないような、読みやすくてきれいな文字を自分も作りたい。大学4年の夏、大学で文字デザインの求人を見て入社試験を受けたのが、写真植字機や書体を作る「写研」という会社だった。一社しか受けず、「落ちても入るつもりだった」という。

 

入社したとき、まわりはほとんどが高校や専門学校を卒業した人だったが、彼らにできることが鳥海さんにできなかった。烏口や溝引きとよばれる描画用具や技法を使って文字を作るのだが、線もきれいに引けないし形もうまく取れない。社内で一番字が上手な人のところに行って話を聞いたり、社内の書道部に入ったり。仕事をするというよりも勉強していたような感じだった。

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写研に勤めて10年後、同じ会社に勤めていた3名で「字游工房」という会社を設立。そこで作ったヒラギノ書体がMacとWindowsに搭載され、大日本印刷株式会社の秀英体、凸版印刷株式会社の游明朝など、日本の主だった本文書体を数多く手がけることになる。

谷川俊太郎に捧げる書体

2017年から2018年にかけて、鳥海さんは谷川俊太郎さんの詩のために専用のかな書体を作った。そのとき、いくつかの書体を試作して谷川さんに見せたところ、あろうことか谷川さんは、「文字に興味がない」と言う。自分は詩を書くところまでが仕事だから、と。

 

谷川さんを知れば知るほど、詩を読めば読むほど谷川さんという人のイメージは固定できず、「谷川さんの書体を作るなど不遜すぎる」と思うようになる。せめて谷川さんに笑われない書体を作ろうと、「谷川さんに捧げる」つもりで書体を作ったところ、なんと!「私たちの文字」という詩を書いてくれたそうだ。この書体づくりの経緯は『本をつくる』(河出書房新社)にくわしい。

『本をつくる』(河出書房新社)より

『本をつくる』(河出書房新社)より

 

この本を読むと、書体とはここまで考え抜いて作られるものか、と気が遠くなる。谷川さんが好きだという良寛(江戸時代後期の僧侶・歌人・書家)の字、谷川さんの詩や意識下にあるもの、文字の歴史、そして鳥海さん自身。すべてが数ミリ角の文字の中に詰まっていると思えてくる。

読みやすい文字は3500年の歴史の上にある

書体を設計するうえで、文字の歴史を知ることは欠かせないと言う鳥海さん。今回の講演会では、中国で生まれた甲骨文字から説きおこし、現代までの日本の文字の歴史についても解説いただいた。

日本に漢字が伝えられたのは弥生時代。飛鳥時代の終わり(六世紀ごろ)から漢字の音訓を借りて日本語の音をあらわす万葉仮名が発展し、平安時代はその一部を取り出して変形するなどアレンジされた「かな文字」があらわれる。

(※万葉仮名…「山」を「也麻(やま)」などと表す。仮名が発達する以前に用いられた表記法)

 

下は、かな芸術の頂点といわれる『高野切古今集(第一種)伝 紀貫之筆』。

『高野切古今集(第一種)伝 紀貫之筆』を解説する鳥海さん

『高野切古今集(第一種)伝 紀貫之筆』を解説する鳥海さん

 

鳥海さんらがひらがなを作るとき、「どこに帰ってくるのかというと、ここに帰ってくる」のだそうだ。「バックにこういうものがあると知っているだけで随分違う」という。

 

書体は読みやすくきれいでなければならない。個性を出してはいけないと言われるが、「人がつくる以上、個性は出る」と鳥海さんは言う。なるべく自分から出てくる形を尊重して文字を作りたい。だが、読みやすい文字は3500年の漢字の歴史の上にある。つねに歴史が下地にあり、そこにデバイスや時代の変化を加味して文字を作ることが重要だという。

 

鳥海さんが理想の文字をめざす姿勢には妥協がなく、まるで修行僧のようなのだが、講演会は終始笑顔で、受講生に「作っていて楽しいひらがなは何ですか」と聞かれると「全部楽しい。 面相筆一本で、『うおぉ!』と言う位、印象が変わったりする。そういうのが楽しい」と屈託がない。

大学3年で「活字の元」を人が作っていることを知ったときの驚き、興味、好奇心が今でも原点になっているという。

 

「文字は社会のインフラ、文化の礎」「文字は知識や情報を得たり、物語を読んで感動したりするお手伝いのためにある。『これ、鳥海が作った』と思わせてはいけない」「水のような、空気のような書体を作りたい」……。

鳥海さんが文字について語る言葉は、どれも鳥海さんが作る文字に似て控えめで、すぅっと心に届いて、根を下ろす。そんな言葉であり、仕事だと思った。

 

「色」で暑さ対策?! いろいろな「色」に関する話題まとめ

2022年7月28日 / まとめ, トピック

暑中お見舞い申し上げます。一年でもっとも暑い季節の到来です。年々暑さがヒートアップしてお疲れの方も多いと思いますが、こんなときこそビタミンカラーの野菜を食べたり、涼しげな色の蛍の光に癒されたり……と、色で元気をとりもどしませんか。今回はいろいろな分野の「色」に関する記事を集めました。

 

* * *

 

●健康にかかせない野菜パワー「抗酸化」研究を学ぶ! 摂南大 農学セミナーレポート

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多くのスーパーの入り口付近で、まず出迎えてくれるのが、色とりどりの野菜や果物。多くの植物は黄色のカロテノイドを含んでおり、毒となる活性酸素を除去、この色素は人間の病気予防にも役立つといいます。植物の色には意味がある。その鮮やかさ、ダテではないようです。

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●クローンが実物超える? クローン文化財の生みの親、東京藝大の宮廻先生に聞いてみた

左がマネの「笛を吹く少年」の立体再現、右は油彩画のクローン文化財

暑さ対策をかねて、涼しい美術館に行くという手もありますね。
こちらの記事は、クローン文化財についてのインタビューです。文化財の保護や修復に、デジタル技術とアナログの利点を活かした新しい手法が活躍。それがクローン文化財です。科学分析した絵具によるオリジナルの作品再現や、名画で使われている色の分解展示など、展覧会の様子とあわせてお楽しみください。

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●恐竜時代の「ホタルの光」を再現。中部大学・大場裕一先生に聞く、発光生物の不思議な魅力

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夏の風物詩のひとつとなっているホタル。ホタルが地球上に現れたのは約1億年前で、この時代のホタルの光を再現したという研究者へのインタビューです。人間の目にはきれいで涼しげな発光色ですが、ホタルにとっては身を守るための意味があったようです。さて、その色とは……。
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●千年続く物語――女子宮廷装束の華、京都産業大学ギャラリー企画展をレポート

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華やかさにおいて、この装束の右に出るものはそう無いのではないでしょうか。十二単など、宮廷装束に関する展示のレポートです。色の美しさに目を奪われると同時に、「重たそう」「昔も夏は暑かっただろうに」などと余計な心配をしてしまいます。
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科学、歴史、文化、と異なる視点の「色」に関する記事をご紹介しました。今回の記事にはありませんが、「色」と時代や社会といった切り口もあります。近日中にファッション・カラーに関する記事もお届けしますので、お楽しみに。

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