「自由な学風」が育てる「オンリーワンの精神」
日本全国の大学が発行する広報誌を、勝手にレビューしてしまおうというこの企画「大学発広報誌レビュー」。前回は国内最高峰の国立大学、東京大学の発行する「淡青」をご紹介しました。第4回目となる今回は、東京大学と双璧を成す西の雄、「京都大学」の広報誌「紅萌(くれないもゆる)」を取り上げます。
京都大学の特徴はその「自由な学風」であると言われています。学びの面では学部を超えての履修や、専門以外の科目も幅広く学べる特徴的な学習システムを備え、学生生活の面では朝比奈隆を輩出した京都大学交響楽団をはじめとするさまざまなサークル活動が盛んです。また、現在でも学生運動の機運が息づく稀有な大学であるということからも、京都大学が育む「自由」が見てとれるのではないでしょうか。
今回ご紹介する「紅萌」にも、その自由の気風は色濃く現れています。最新号である第27号(2015年3月発行)の巻頭エッセイを執筆しているのは、卒業生であるメイクアップアーティストの内匠淳さん。在学中にはホストクラブでアルバイトをし、卒業後、司会業などを経てメイクアップの道へ進んだというユニークな経歴を持っています。文才も豊かで読みごたえのあるエッセイですが、他大学ではなかなかない人選だと思います。
巻頭エッセイを担当された内匠淳さん
続いてののタイトルは「君、青白きエリートをめざすこと勿れ!!」。実に京都大学らしいタイトル。第26代総長の山極壽一氏をはじめ、京都大学の教員や学生、5名が京都大学のありかたについて意見を交わし、思い出を語っています。
異口同音に語られるのは、やはり京都大学の「らしさ」は「オンリーワンの精神」にあるということ。中でも印象に残った山極総長の言葉を以下に引用したいと思います。
「真のエリートとはどういう存在か。驕らない、高ぶらない人です。みずからの蓄積にもとづいて、自己判断がきちんとできる人です。人の意見に左右されることなく、自分の経験と自由な発想にもとづいて、常識から少し身をおいて独自の判断をする。そういう力を身につけてこそ、世界の舞台にも立てるのです。そういう人を育てる京都大学を私はめざしたい。」
京都大学の学生を評して「変わった人が多い」と言われることがあります。よく言えば、「オリジナリティに溢れる学生が多い」といったところでしょうか。ともかく「右に倣え」ではない独自の視座を持つことを良しとする学生と大学だからこそ、そうした風評も生まれたのでしょう。
巻頭座談会「君、青白きエリートをめざすこと勿れ!!」
キャンパス風景を切り取って紹介するという表紙周りのデザインや、すっきりと読みやすくレイアウトされた本文。テキストのトーン&マナーなど、パッケージングの面では東京大学の「淡青」と大きくはちがわない京都大学の「紅萌」ですが、よく読み込めば大学ごとのカルチャーが浮き彫りになってきます。それは、京都大学が「自由」で「オンリーワン」であることを尊び、守り育てて来たということ。
時代が変われば人も大学も変わっていくものですが、京都大学の守ってきた「自由な学風」には、できることならいつまでも変わらずにいてほしいと願わずにはいられません。
京都大学「紅萌」裏表紙