建築の目線からひもとく
新しい街の魅力。
日本全国の大学が発行する広報誌を、勝手にレビューしてしまおうというこの企画「大学発広報誌レビュー」。第11回目となる今回は、金沢工業大学が発行する散策マップ「カナザワケンチクサンポ」を取り上げます。
金沢工業大学は、名称こそ「金沢」が入っていますが、石川県野々市市に本拠地を置く工業大学。「教育付加価値日本一の大学」をめざし、高い就職率を誇ることでも知られています。
今回ご紹介する「カナザワケンチクサンポ」は、金沢市と金沢工業大学による連携事業「金沢の建築文化発信事業」の一環として、建築系学科で学ぶ学生たちが制作する金沢市内の散策マップです。単なる観光案内ではなく、そこは建築を学ぶ学生らしく、歴史情緒溢れる金沢の「建築物」を切り口に、金沢市内の街歩きを提案する内容となっています。
現在までに5号が発行されており、金沢市のプロモーション事業に使われるほか、金沢駅の観光案内所等でも配布されています。
金沢の建築物を効率よく観覧するルートが提案されている
街歩きを提案する散策マップは数あれど、「カナザワケンチクサンポ」は「建築」という目線からの編集がなされており、新しい発見にあふれています。例えば一般的な散策マップに、「築約110年。明治40年に建てられた元金沢貯蔵銀行。外観は黒漆喰仕上げの塗篭土蔵造りで、腰壁には金沢の赤戸室石のコントラストが(一部抜粋)」などという文言はなかなか出てこないでしょう。
建築に疎い旅行者にも「それならひとつ見てみようか」と思わせてくれる、専門の立場から見た新しい金沢の魅力がちりばめられています。これなら一度金沢を旅したことのある方でも、ちがった目線から新しい街の表情に出会えるかもしれません。
専門目線のコアな情報が新しい発見を提供してくれる
大学にとって、学生の「地力」を正しく社会に発信するのは容易なことではありません。その点「カナザワケンチクサンポ」は、散策マップという広く一般に利用されるツールを学生が手がけることによって、金沢工業大学で学ぶ学生の知識や情報収集力、発信力といった総合的な力を伝えることができています。
学生たちにとっても形ある実績を持つことは、就職活動の際にも有効なツールとなることでしょう。世に出る前の学生たちに、学びを通してこうした自らを売り込むツールを与えてあげる。それもこれからの大学の責務のひとつとなっていくのではないでしょうか。