2014年4月からスタートした、大阪大学生協主催のイベント「ブックコレクション~教員vs学生【書評対決】」は、教員と学生団体が書評で戦う対決企画だ。阪大生協サイト上には対決予告動画がアップされていて、うーん、何かおもしろそうな雰囲気。さっそく取材にうかがった。
思わずアツくなる推薦図書企画
「ブックコレクション」は、教員と学生団体がそれぞれおすすめの5冊を選んで書評を書いてキャンパス内の書籍ショップに展示販売し、本の売り上げによって勝敗を競うという企画。対決は1か月間。阪大生協ウェブサイトと学生向けの学習支援サイトで書評が読めるほか、生協書籍ショップに加えて大学附属図書館でも書評冊子が手に入るのでそれを読んでもいい。半期で5カードの対決が行われ、2015年10月の今、すでに160冊以上の本が紹介された。
生協には特設コーナーも
「学生にもっと本を読んでもらう」ことを目的とした推薦図書企画なのだが、ミソは「対決」というところ。選書する学生たちは読書のボリュームが違う先生を相手に「勝ちにいく」というか、どうしたから勝てるのか選書にも書評にもいろいろと工夫する。
ネット上で書評が読めるのでぜひ読んでみてほしいのだが、学生らしい視点で書かれていてすっと理解できるし、古典の名著を現代の視点でコスプレしたみたいな書評もあって面白いし、読んでみたいという気持ちになる。
先生の方は、紹介する本にも書評にもどこか説教くさい「教育的視点」が入ってしまって一見不利なようだが、学生への親心的選書や熱い気持ちが伝わる書評には心を動かされる。
12月に対決予定の生命機能研究科長であり医学系研究科でも教える仲野徹教授は、書評サイト「HONZ」のレビュアーの一人でもあるが、学生向けということで「単に役立つ本というより、刺激を受ける、インスパイアされる本を選んだ」と語る。
ブログや書評サイトでの熱が入った読書レビューに定評がある仲野徹教授
現在まで16回行われた対決の勝敗は、現在対決中のカードを除くと、教員6勝、学生8勝、1引き分け。連敗すると「負けられない!」と鼻息が荒くなって逆転するので、ほぼ両者拮抗という状態。「対決」企画の狙いは、完全に当たっている。
勝敗は売上だが、図書館にも紹介された本を展示する特設コーナーを設置。生協書籍部と図書館が手をつなぐ取り組みというのは、珍しいかもしれない。法廷のソクラテスを描いたプラトン著『ソクラテスの弁明』が取り上げられた時には、毛色の変わった「関西弁訳」を展示して、読書の楽しみをアピールしたという。
予告動画撮影現場もアツかった
ブックコレクションは、生協、図書館に加え、対決のコーディネートには全学教育推進機構の先生、予告動画の制作は大阪大学のブランディングを担う大学内のクリエイター組織「クリエイティブユニット(CU)」と、強力な学内コラボプロジェクト。とくに、キャンパス内に設置されている学生対象のデジタルサイネージ「O+PUS」で流しているPR動画は、盛り上げに一役買っている。
この動画、阪大生協サイト上で見られるのでぜひ見てほしいのだが、次回の対決を予告する妙に熱い劇画調動画(って、そんなものあるのか?)になっている。「ブックコレクション」というシュッとした感じの名前とのギャップがいい味。CUの浅井和広先生は、動画に登場する先生や学生にどんどんヘンなポーズをとらせて撮影する。「まず、マジメな阪大生やおカタイ教授といったイメージを打ち壊したい。そして見た人が、なんだか面白そうだなと思って興味を持ってもらえれば」という。
12月対決の予告動画撮影現場にお邪魔してみた。カメラマンの浅井先生に「はい、そこで何か決めポーズ、ください」と呼びかけられた仲野先生は、「決めポーズ? 歌舞伎役者か」と突っ込みながらも、なかなかの乗りでオーダーに応えていた。
対決相手は、医療系サークル「TEKISHI(適志)」ということで、「師弟対決、どうですか?」と意気込みを聞くと、「敵やない、敵やない。読んでる本の量が違うよ」と余裕の発言。仲野先生が紹介するのは、医学・生物学のジャンルから「何かがなくなったらどうなるか」をテーマにした定評のある5冊である。
ノリノリでポーズを決める仲野教授
一方のチャレンジャー、TEKISHI(適志)は、将来働くことになる医療現場で進む多職種連携の動向を見据え、ともすれば縦割りで疎遠になりがちな各領域の学生相互の交流と理解を進める「医療系学部の中でも一番熱い」(自称)学生団体だ。
今回のチャレンジャーたち。チームの力で教授に挑む!
今回の選書もそんな活動とリンクして医療をテーマに医師、看護師、診療放射線技師、臨床心理士、歯科医師をめざす学生がそれぞれ選書。一般の学生向けに、医療をいろんな面から理解できるラインナップとなっている。「ブックコレクションに出ることで、僕らの活動にも関心を持ってくれればうれしい」とリーダーの医学部医学科5年山本暁大さん。選書にあたっては、医療に関係ないものも含めメンバーが推薦した70冊のなかから絞り込んだ。
映画やマンガの話はするが、小説や本の話は普段あまりしない世代。自分の好きな本を選んだことで「普段そんな本を読んでるのか」とか「○○ぽいな」とメンバー同士の理解が進んだり、「そんな本もあるのか」と盛り上がったりもしたという。
TEKISHI(適志)もノリノリ!
彼らの動画テーマは、自分たちが提案した「ゆるい巨塔」。「『白い巨塔』のイメージをひっくり返し、カジュアルさを伝えられれば」(歯学部歯学科6年・田中大貴さん)との狙いとか。この予告動画は11月から、書評は12月に公開される。勝敗も楽しみだ。
師弟対決!勝つのはどちらだ。
2014年度にはSF対決が話題になって本も良く売れ、学生の意外なSF指向が明らかになったことも。「選書も書評も学生のクォリティが想像以上で、かなり盛り上がってきました。ベストセラーではない隠れた良書を掘り起こす、という意味でも期待しています」と言うのは、阪大生協・朴寿美さん。阪大生だけのものにしておくのはもったいないコレクション、読書の秋への入口に一度、おすすめされてみませんか。
【完成した対決予告動画はこちら!】