大阪大学とクッキング?どこで結びつくのかと思いきや、これがなんと好相性。同大と大阪ガスが開催する「アカデミクッキング」は、教員による講義と料理教室を組み合わせた人気講座だ。阪大は敷居が高いという人、料理教室は初めての人双方にとって、知的でおいしい世界が広がっている。
「アカデミクッキング」当日は、大阪ガスクッキングスクールが阪大の“講義室”だ。発足から4年半、毎回高倍率の抽選に通った参加者たちが、エプロン姿で受講する。
取材時のテーマは「台所から世界を変える/食べる/考える 大英帝国プディングとローストビーフ」。なんだか大そうな“大英帝国プディング”とは一体何?!と思いつつ、イギリス文化好きの私としては気になる一品。しかし、今回の講義を担当する橋本順光(はしもと・よりみつ)先生(同大学大学院文学研究科准教授)が取り出したのは、真っ黒なカップケーキだった…!
本場のプディング。現在はクリスマスプディングと呼ばれる
「クリスマスの定番なんですよ」と橋本先生。試食してみると日本にはない相当な甘さのフルーツケーキで、お土産ならおいしいかな…という味。しかしこの小さなお菓子、かつては国の一大プロジェクトを担っていたらしい。おかげで血糖値があがった参加者たちは、前のめりで先生のお話に聞き入った。
「食卓にこそ政治の極致がある」。
『エリゼ宮の食卓』のなかで、毎日新聞客員編集委員・西川恵が述べた言葉だ。橋本先生はこの言葉を取り上げ、食卓は政治と深く結びついていることを紹介。プディングもその一例なのだという。
というのも、レシピを考案したのはお役所「帝国通商局」。1926年のことだ。大英帝国の外から来た食材を買わせず、自国の経済圏(植民地含む)で物を調達しようと考え出されたのがこのレシピだった。南アフリカ産の干しぶどうにオレンジピール、カナダ産のリンゴ、ジャマイカからはラム酒といった具合に、すべて植民地から食材を集め、関税のかからない“国産”プディングを完成させた。
通商局は節約しようとしただけではない。この試みには帝国主義のプロパガンダが含まれていた。クリスマスに一族が集まるように、遠い植民地との絆を再確認し、英国のもとで共存共栄していこうという宣伝も兼ねていたという。
「これは形を変えてしぶとく残っている」と先生は指摘する。「一人ひとりの写真を組み合わせると、1つの絵になる作品がありますよね。アメリカのさまざまな土地から採れた石で建てたワシントン記念塔もそう。帝国主義ではありませんが、性質は同じ」。互いのつながりを意識し、一体感を高めようとする行動は、確かに今でもなじみがある。
ほぉぉ~と参加者の目からウロコが落ちたところで、調理タイムがスタート!大英帝国プディングとは反対に、イギリス本国の食材だけで生まれたとされるローストビーフが今回のメイン料理だ。プディングは日本人向けに(かなり?)アレンジされたレシピが配られた。
この時間は大阪ガスクッキングスクールの先生たちがサポート
いいにおい!
今回が初参加という女性は「こんなお話が聞けるとは思っていなかった!」と満足げ。「テーマが料理なので、講義だけでは物足りず、料理だけだとあっけなかったかも。2倍楽しめる」と話してくれた。「阪大は第二の母校」と言うほど公開講座に足を運ぶ男性は「座学と違い参加者との交流もあっていいですね!」と笑顔を見せた。
“大英帝国プディング”には、“大英帝国”と冠する相応のワケがあった。英国の知恵と現在とのつながりを思いながら、最後にみんなで食卓を囲む。
おなかもアタマも知的に満たしてくれるぜいたくな時間こそが、アカデミクッキングの何よりの魅力だ。
実際に作ったローストビーフ
そしてプディング。ふわふわのおいしいフルーツケーキができた