仏教の開祖「釈尊」、鎌倉時代に浄土宗を開いた「法然上人」、この二人の教えを建学の理念としている佛教大学には、仏教にまつわるあれこれを紐解く展覧会を随時開催する宗教文化ミュージアムがあります。今回は、2022年12月10日(土)まで開催している特別展「ほとけのドレスコード」を訪れました。
※館内は撮影禁止ですが、今回は取材のため特別に撮影許可をいただきました。
ほとけの「衣」を現代の言葉で説明すると…を随所に感じる特別展示
筆者は、日本文化、国内旅行が好きで、全国の神社仏閣に好んで足を運んできたのですが、仏像や仏画については「お顔がきれい」だとか「穏やかなたたずまい」だとか造形への感想しか出てこない、にわか仏像ファンにも届かないレベル。
本展の展示品や内容をどこまで理解、楽しめるものだろうかと不安を抱えつつ、仏像にも少し詳しくなれたら…という好奇心、展示会のタイトル「ほとけのドレスコード」という不可思議な言葉に惹かれ、行ってきました。
宗教文化ミュージアムは、佛教大学の広沢キャンパス(京都市右京区)にあります
実際に展示を一覧すると、「ドレスコード」という言葉が象徴しているように、展示品の解説では、インナー、アウターなどのファッション用語も混ぜながら紹介されており、初心者にも理解しやすく、学びや発見がたくさんありました。
本展を企画した学芸員の方にお話を伺うと、「衣服の名称などの説明にはどうしても専門的な言葉も多い中で、どう書けばよりわかりやすいか、より興味を持ってもらえるか?」を考えて解説を書かれたそうです。
展示室は「衣を着せる仏像」「なに着る?どう着る?」「如来の定番コーデ」など、雑誌のような見出しが付けられ、展示品の見方を導いてくれます
また、「訪れた方が、今後、仏像や仏画を見るときにひとつでも注目するポイントが増え、視野を広げてもらうきっかけになれば」という想いを伺いました。そこでこのレポートでは、本展の展示内容に触れながら、筆者のような初心者が、知っておくと仏像を見るのがより面白くなると思われる、3つの基本ポイントから「ドレスコード」をご紹介します。
ポイント①:仏像の衣装は「長方形の布」で構成されている
本展に訪れてあらためて気づかされたことですが、私たちが目にする仏像の多くは、長方形の布を体に巻き付けるように身につけています。
衣のドレープ(ひだのある布)にもさまざまな表現がある
これは、僧侶、修行僧が彼らは誰も使わなくなったぼろ布や端切れを縫い合わせ、染め直して身につけていたことに由来します。その理由は、執着が苦の原因であると看破したブッダ(釈尊)の考えから、着るものへの執着が起きないよう、彼らは必要最低限の衣鉢のほかは私物を所有することを禁じられたからだそうです。
なお仏像には、如来(にょらい)、菩薩(ぼさつ)など、いくつか種類があります。造形的には「如来」は、出家し、悟りを開いた釈迦がモデルなので、服装も布をまとっただけのシンプルな姿、「菩薩」は、釈尊が出家する前の王族だった頃の姿で表現されているため、華やかな衣装を着ていたり装飾品を付けていたりと造形に違いがあります。しかし、共通する衣も。というのも、菩薩は袈裟をつけていないため、如来と菩薩はボトムスの裾が共通しているのです。
ポイント②:衣装の基本は、アウター、インナー、ボトムス
現在、私たちが仏像や仏画の着こなしを見る場合、目に見える表面的な部分からしか判断ができないので、実際にどんな風に着ているのかわかりにくいのですが、本展では、内側に着ているもの(インナー)も含めて、展示品ごとにどのように衣をまとっているかが紹介されています。
展示室の入り口には、基本となる衣の名前や着方を紹介する図解パネルがありました(下写真)。衣の名前を知って、仏像、仏画の衣装を見ると、とてもわかりやすくなるのでここにもご紹介します。
ほとけの衣を、現代のファッション用語で表現した展示も。袈裟(けさ)はアウター、僧祇支(ぞうぎし)はインナー、裙(くん)はボトムス
この図解は、近世の僧服マニュアルであり、仏像・仏画制作のための衣の説明書でもある書物(『画像須知』中西誠応著/1848年)の抜粋部分なのですが、これを見ると僧侶、ひいては仏像が、「長方形の布と紐」を使って衣にしていることがわかります。
ポイント③:衣装は、立場や美しさ、キャラクターを表現する
ポイント③はまさに本展の見どころです。仏像や仏画などの展示品を通して、如来や菩薩の定番のコーディネートだけでなく、描かれた場面の思想的表現、人物の関係性などを、ひとつひとつ丁寧に解説されています。
制作に込められた背景は、描かれた衣装から読み取れることもあり、すでに仏像や仏画に精通した方も興味深い発見があるかもしれません。
布にできるひだと、デザイン的な木彫の衣文(えもん)。美術用語では絵画や彫刻で表現された衣装類のひだを衣文といいます。こうした表現は時代的な特徴もあるようです
筆者が面白く感じたのは、仏像の衣のひだのある表現や衣がめくれていたりする動きのある表現があること。こうしたデザイン的特徴に対して、みっちりと解説が書かれていることに、大学のミュージアムらしさを感じました。
本展では、当時の仏師や絵師が意図したであろう表現にも焦点を当てていて、筆者も「他の仏像はどんな風になっているのだろう?」と次から新しい見方ができそうでワクワクしました。
ちなみに、本展で展示されている仏像や仏画は、奈良時代末から平安時代のもの、さらには現代のものまで、制作された時代はさまざまで、10以上の寺院の協力を得て一堂に集結しています。そのため、お寺巡りではできない体験、学びがありました。
今後も本ミュージアムでは、仏像・仏画関連の企画を考えているとのことなので、仏像について興味のある方、視野を広げたい方は、時々チェックしてみてくださいね。